若輩者の意味
「若輩者」という単語をご存知でしょうか。読み方は「じゃくはいもの」、若輩の人を指します。若輩の意味は、「経験が浅いこと」「年齢が若いこと」です。なかなか古めかしい言葉ですが、実生活で聞くこと使うこともある単語です。
しかし同時に誤った使い方や悪印象を与えてしまう使い方をする方も多い単語です。言葉一つで信頼を損なうことがないように、しっかり意味を理解して、類義語・対義語も含めて使い方をマスターしましょう。
①経験が浅いこと
経験が浅い人のことを若輩者といいます。新人、ルーキーといった言葉に近い意味ではありますが、新人などと比べて、フレッシュさよりも、あなどりや言い訳くささを感じさせる表現です。他人に使う場合、自分に使う場合、どちらにしても細心の注意が求められる単語、と認識しておく必要があります。
②年齢が若いこと
漢字の字面とその意味からして当然ですが、若輩者は年齢が若い人のことも指します。若い輩の人です。「輩(やから、ともがら)」は仲間の意味です。同じ流派の弟子や、同門の弟弟子を、他流試合や勉強会に連れていくときの定番の紹介文句といえるでしょう。現代でいえば、年若い同僚を取引先に紹介するようなときに使えます。
若輩者の読み方
若輩者の読み方は「じゃくはいもの」です。「若」は訓読みが「わか」で音読みは「じゃく」、「輩」は訓読みが「やから」「ともがら」で音読みが「はい」、「者」は訓読みが「もの」で音読みは「しゃ」となります。
「若輩」は音読みで「じゃくはい」、「者」は訓読みで「もの」です。よって若輩者の読み方は「じゃくはいもの」になります。
読み方・じゃくはいもの
多くの熟語は、すべて音読みか、すべて訓読み、など統一の読み方にします。そうでない読み方をさせる熟語は、音読み+訓読みなら「重箱(じゅうばこ)読み」、訓読み+音読みなら「湯桶(ゆとう)読み」といいます。
「若輩者」は「若輩(じゃくはい)」と「者(もの)」で構成され、若輩は音読み、者は訓読みの読み方の「重箱読み」です。
「若輩者」と同様の構成の読み方の言葉には「無礼者(ぶれいもの)」「薄情者(はくじょうもの)」「新参者(しんざんもの)」「洒落者(しゃれもの)」などがあります。
若輩者の正しい使い方は「謙遜」
若輩者の正しい使い方は、謙遜です。自分のことでも、他人のことでも、謙遜するときに用います。自分や、自分に属する弟子や部下を、そのほかの他人に紹介するときに使います。
自分あるいは親しい他人、つまり身内と呼べる人間を、ほかの人間に対して謙虚に紹介することで、相手への敬意、あるいはその身内との親しい関係性を表します。なぜ「若輩者」が謙遜となるのか、それぞれの漢字の意味、そして謙遜の意味を改めて考えておきましょう。
「若」「輩」「者」それぞれの漢字
漢字学者の藤堂明保氏は、読み方が同じ漢字は似た意味を持つ、という単語家族説を主張しました。「若」は「ごとし」とも読みます。古代中国で「若」は、「如」「似」「弱」と同じ読み方をしたからです。よって「若」には「○○のようだ」という意味もあります。
先述の通り、「若」と「弱」は読み方が同じだったため、意味も使い方も近く、「若輩」は「弱輩」とも書きます。ただし「じゃくはいもの」という場合は、「若」を使うほうが一般的です。
このように、漢字には3200年以上の歴史に応じた、深い意味があります。日本に漢字が輸入されてから約2000年が経過しているため、日本独自の意味や使い方もあります。「若輩者」の漢字について、1字ずつ確認していきましょう。
「若」とは
「若」は、年齢が少ないこと、幼いこと、新しいこと、若くして、弱弱しい、身分の高い男子をいいます。「若大将(わかだいしょう)」「若年寄(わかどしより)」など、ポジティブなイメージが強い漢字です。
日本に入ってきた時期が早いため、「若」には音読みだけでも複数の読み方があります。中国は長い歴史と王朝交代があるので、時代ごとに漢字の音読みが異なります。
最初に日本に伝来した読み方は、仏教用語「般若心経」「老若男女」での「にゃく」「にゃ」です。この古い読み方は、呉音(ごおん)と呼ばれます。若輩者の「じゃく」は、仏教伝来後に遣唐使が持ち帰った漢音(かんおん)です。
「輩」とは
「輩(やから、ともがら)」は仲間、友達、共通項を持つ集団といった意味です。現代の日本語では、「やから」と訓読みする場合は「不逞(ふてい)の輩」のように、悪いイメージを持ちます。
「若輩者」では、「輩」は「はい」と音読みします。「先輩」「後輩」などの使い方がメジャーなので、音読みでは良くも悪くない、フラットなイメージの漢字です。
「者」とは
「者」は、特定の人を指し示す言葉です。「役者」や「勇者」など前の言葉を人の属性に変化させます。「者」は音読みでは「そのような性質の人間」くらいのフラットであいまいな意味しかありません。しかし、訓読みではマイナスイメージが付いてしまいます。
「者」を「もの」と訓読みした場合は、他人に使うのは少し失礼な言葉になります。「新参者」「切れ者」「曲者」「無礼者」など、「○○者」という言葉はたくさんあります。必ずしも悪口とは限りませんが、敬意を払った表現ではありません。
謙遜とは
謙遜とは、へりくだる表現の言葉や、控えめで慎ましい態度、奥ゆかしい立ち居振る舞いを指します。読み方は「けんそん」です。謙遜は美徳とされますが、使い方を誤ると、相手に不快感を与えることもあります。
その道の第一人者が「いやいや私も日々勉強させていただいております」と口にするのは、美しい態度ですが、新人が同じトーンで同じように言えば「何を当たり前のことを」と思われるでしょう。
実力の伴わない謙遜はむしろ不遜な印象を与える、という事実を弁えておく必要があります。また、自分を無用に卑下する言葉は、「めんどくさい人だな」という印象を与えます。
自分を過少に評価する言葉や態度が行き過ぎると、過ぎた謙遜となり、他者への嫌味や当てこすりと誤解される危険もあります。
敬語には、尊敬語・謙譲語・丁寧語の3種類があります。尊敬語は他者を持ち上げる言葉、謙譲語は自分や身内を下げて相対的に相手を持ち上げる言葉、丁寧語は単に丁寧なだけの対等な言葉です。謙遜は謙譲語と組み合わせて使いますが、やりすぎは禁物です。
「老」と「若」のイメージに注意!
「若く見える」というのは、日本では基本的に誉め言葉ですが、日本人以外の漢字文化圏の人に対しては、場合によっては使い方に注意が必要です。「若輩者」に近いニュアンスで受け止められる可能性があります。若々しくて素敵、ときちんと伝わることもあれば、威厳を感じない、未熟にみえる、尊敬に値しない、といった失礼になることもあります。
若輩者の類義語
若輩者の類義語は、「未熟者(みじゅくもの)」「浅学非才(せんがくひさい)」「青二才(あおにさい)」「不束者(ふつつかもの)」などです。
若輩者の使い方も難しいですが、若輩者の類義語の中には、若輩者よりもネガティブな印象の言葉も少なくありません。
①未熟者
読み方の法則は若輩者と同じです。「未熟」は音読みで「みじゅく」、「者」は訓読みで「もの」です。若輩者の類義語の中でも、若輩者にかなり近い意味を持ちます。どちらも経験不足の人材を指す言葉ですが、使い方は異なります。
若さよりも、スキル不足に重点が置かれています。若いことをいうときも単純に年齢が少ない場合ではなく、人生経験の不足として若さを問題視する場合にしばしば用いられます。
他者を「未熟者」というのは、多くは指導する立場の人間です。親や師匠や上司が子どもや弟子や部下を叱りつける場合に用いられます。
また、事実として若輩者、年齢が少なく経験が浅い場合、自己紹介では未熟者と言うべきです。若輩者、は謙遜の言葉であるため、実際に未熟な人が、若輩者と言う使い方はむしろ不遜な印象を与えかねないと認識しておきましょう。
②浅学非才(せんがくひさい)
若輩者の類義語である浅学非才は、謙遜するときの定型文といえます。「浅学非才の身ですが、精いっぱい努めさせていただきます。」といった使い方をします。他人に対して用いる使い方は誤りです。必ず、自分に対して使いましょう。
浅学非才はフォーマルな場面での使い方が可能な言葉で、若輩者とは違い、年齢も関係ないので便利です。しかし「能ある鷹は爪を隠す」ということわざがあります。浅学非才は若輩者と同じく、本当に才能や能力がない人が使うのは誤用という意見もあります。
③青二才(あおにさい)
若輩者の類義語で意味は似ていますが、青二才は悪口です。時代劇か、職人気質なキャラクターの登場するフィクション作品で稀に耳にする言葉です。「青二才が生意気なことを言うな!」のようなセリフが想定されます。使い方が難しい、というよりは、現代ではおおよそ使う場面が存在しない言葉です。
④不束者(ふつつかもの)
「不束者ですが、末永く、いく久しく」「不束な娘ですがよろしくお願いします」など、「不束者」は本人や親族の用いる結婚や婚約の挨拶の定番文句の一つです。
優美さや繊細さには欠けるところがあるけれど、行き届かないところもあるけれど、という謙遜の意味があります。語源的には「丈夫である」という意味なのでそこまで悪い意味ではないのもポイントです。
いささか遠慮のない要望や質問、自分の至らない点や行き届かない点を、マイルドに相手に伝える「不調法(ぶちょうほう)で申し訳ない」「わたしったら気が利かなくて」「不躾(ぶしつけ)なお願いなのですが」などと同じく、奥ゆかしい心遣いを示す言葉です。
謙遜の場合もありますが、完璧な対応が常にできる人はいません。しかし当たり前のように雑な対応をされるとむっとしてしまうのも人情です。謝意の言葉の有無で印象はずいぶんと異なるものです。そのため末永く良好な関係を築いていきたい相手に使います。
若輩者の対義語
若輩者は若い人や経験不足の人、という意味であると述べました。したがって若輩者の対義語には、年配の人や経験豊富な人、という意味の言葉が該当します。老輩、老練、老骨、ベテランなどが対義語の代表的です。若輩者の対義語4つについて、それぞれの読み方と意味と使い方をご説明します。
老輩(ろうはい)
若輩者のストレートな対義語は「老輩」です。中国など、東アジアの儒教文化圏では、年長者を敬う伝統があります。年上に見られることは、威厳がある、尊敬に値するということなので、「老」という漢字は本来たいへんポジティブなイメージを持ちます。
しかし日本では、若く見られたいと思う人が多いので、一般的には、年配者が自分のことをへりくだって使う言葉です。「私のごとき老輩の出る幕はなさそうですね」というと、謙虚で品と学識のある老紳士を演出できます。
対義語である若輩者と同じく、使い方によっては嫌味や皮肉となるため声のトーンや表情に注意しましょう。自分以外に使う場合は、接頭語をつけた「御老輩(ごろうはい)」は敬語ですが、不快にさせる可能性もあります。できれば「年配の方」などに言い換えましょう。
老練(ろうれん)
「老練」も若輩者の対義語です。類義語の「老輩」には高齢であるという意味しかありませんが、「老練」は経験豊富な高齢者、という意味なので、「若輩者」の対義語としてはこちらのほうが、より適切です。
老練の「練」は「手練手管(てれんてくだ)」や「練達(れんたつ)」の練で、努力して習熟した、という意味の漢字です。老練の類義語には「熟練(じゅくれん)」があり、こちらも若輩者の対義語となるケースがあります。その道数十年の職人や達人に使います。
老骨(ろうこつ)
若輩者の対義語の一つである「老骨」は、高齢者という意味です。「老骨に鞭打って誠心誠意つとめる所存です」のような使い方をします。
年老いた馬を懸命に走らせる様子に、高齢の自身を見立てた慣用句です。高齢だが自身を奮起して懸命に努力するという意味です。「鞭打つ」とセットで使うため、他人に使用するのは非常に失礼です。ベテランや年配と言いましょう。
老骨の類義語に「老体(ろうたい)」があります。接頭語をつけた「ご老体」は、対象がいない状況で、対象を心配している場合なら、使用することもあります。「ご老人」ならば呼びかけにも使えます。
しかしそう言われて不快感を覚える年配の方もいらっしゃるため、若い女性に対する「ねえちゃん」と同じくらいには控えるべきでしょう。
ベテラン
若輩者の対義語には、「ベテラン」もあります。ベテランはポジティブな意味で使い勝手が良いですが、砕けた印象を与えてしまうこともあります。「長年の経験に裏打ちされた実力者」という意味なので、自分自身を示すときには、あまり使いません。
カタカナ語「ベテラン」の由来となった「veteran」は退役軍人を意味する英単語です。転じて、和製英語として外来語「ベテラン」は、熟練した人、という意味になりました。
外国人労働者や英語に堪能な人材も増えている昨今、「○○さんはベテランだから頼りになるよ」といった場合、その方が元自衛官なのか、その職場の古参なのか、相手が判断に困る可能性があります。
若輩者の使い方
若輩者の、具体的な使い方について解説します。先に説明した類義語、対義語と比較しながら見ていきましょう。若輩者という言葉は、自分を謙遜するとき、目下の相手を紹介するとき、結婚式の挨拶、などの場面で主に用いられます。それぞれの場面での例文と注意点を押さえておきましょう。
①謙遜するときに使う
若輩者は、謙遜するときに使います。若輩者と自分で言うときには「若輩者ですが」「若輩者ではございますが」のように使います。中堅といえる程度の年齢で、ある程度優秀であったり、実績があったりする人の、自己紹介や決意表明の定型文です。
「そこの人たちと良好な関係を築きたいと思っている」ことを伝え、謙虚な態度を示すための言葉といえるでしょう。
②目下の人を紹介するときに使う
目下の人間を外部の人間に紹介するときに使います。ルーキー自慢としての使い方をすると、角が立ちにくいといえます。「こいつは若輩者ですが、なかなか見どころのある奴です。」といった使い方をします。気安い間柄の部下や可愛がっている後輩などを、取引先に紹介するときに最適です。
③結婚式の挨拶などで使う
「若輩者」は結婚式の挨拶などで聞くことの多い言葉といえます。若い人が大勢の人の前で大役を担いスピーチする、という状況が発生しやすいためです。
「若輩者ですが、必ず○○さんと幸せな家庭を築きます。」と新郎が誓うこともあれば、司会進行役が「このたびは新婦たっての希望により、若輩者ながら、弟の私が司会を務めさせていただきます。」などと前置きすることもあります。
若輩者を使う時の注意点
若輩者を使う時の注意点を挙げていきます。目上の人には使わないこと、シチュエーションによっては不適切であること、相手を不安にさせる場合や言い訳がましく聞こえる場合もあること、若さ自慢だと誤解されるかもしれないこと、の4点です。これらを念頭に置いて「若輩者」という言葉を使いましょう。
目上の人には使わない
字面からして当然ですが、目上の人には使いません。役職的には下であっても年長者を指してもいいません。そもそも「者」を訓読みした「もの」の単語を他人に使うのはいささか無礼な印象を与えます。若輩者の場合も、年下の友達や、気安い間柄の部下や後輩にしか使うべきではない言葉です。
別の言葉がふさわしいこともある
若輩者ではなく、別の言葉がふさわしいことも多いでしょう。ビジネスシーンにふさわしい努力の前置きは他にもいろいろあります。
「まだまだ未熟で」「駆け出しではありますが」「至らぬ点もあるかと存じます」「生意気だと思われるかもしれませんが」「おこがましいですが」「力不足ですが」「至りませんが」などです。特に、新人が自己紹介で「若輩者」を用いるのは不適切といえます。
「若輩者ではありますが精一杯頑張ります」などと言えば、当たり前だろう、まだ何の実績もないのに何を言っているのか、という呆れを感じさせかねません。前置きをしたくなる気持ちはわかりますが、若輩者の類義語も同様になるべく控えたほうがよいでしょう。
相手を不安にさせることもある
「若輩者ですが、がんばります!」といった台詞は、若さや経験不足を、失敗の言い訳にするつもりか?という疑念を相手に与える可能性があります。特に顧客や取引先など外部の人に対して使えば、相手をいたずらに不安にさせるだけです。
また、謙遜の美徳は、文化によっては通じないので、このグローバル社会においては、場面や使い方に注意しなければなりません。安請け合いは無責任ですが、控えめさの美徳も「私でお役に立てるのでしたら」程度にとどめておきましょう。
若輩者は皮肉になることもある
若輩者は皮肉になることもあります。現代の日本では「(特に女性の)若さ」に一定の価値が存在するのが現状です。万が一にも若さでマウントをとっている、と誤解されない言葉選びの配慮をしましょう。
特に同性に対しては、類義語の未熟者と言い換えると好印象です。「あなたには到底及ばないスキルの私ですが」という謙虚な心持ちがきちんと伝わるでしょう。
若輩者は自分を謙遜するときに使う言葉
若輩者は自分を謙遜するときに使う言葉です。若輩者の読み方は「じゃくはいもの」と重箱読みします。類義語は未熟者、浅学非才、青二才、不束者、対義語は老輩、老練、老骨、ベテランなどです。
謙遜とは、実力や実績のある人、きちんと根拠のある自信がある人が、謙虚な態度を示し、相手を立てるために丁重に振る舞うことです。自信のない人が自分を下げる物言いをすることは卑下、実績や実力のない人が一人前に振る舞うことは虚勢や厚顔といいます。
若輩者のもっとも正しい使い方は身内自慢の謙遜です。若輩者と他人に対して使うときには、可愛がっている年若い部下や後輩を他人に自慢したい、そんなときに使いましょう。
「若輩者」は、自分自身や、指し示すその人に対しての、愛情や信頼があってはじめて使える言葉、それを覚えておいてください。