要望とは
「お客様の要望に応えるなど」ビジネスシーンでよく使われる要望とはどんな意味なのでしょうか。どんな場面での使い方が適切なのでしょうか。また要望の類語として要請や希望といった言葉がありますが、それらとの意味の違いも考えながら、この記事では要望とは何かについて説明していきます。
要望の意味
「要望」という言葉は「要る」と「望む」という意味も明快で日常生活でもよく使う2つの漢字から成り立っていますので、「要望」をついつい感覚的に使ってしまうことがあります。
しかし、要望の使い方によっては本来の使い方と少し違いが生じ、場合によっては恥をかく可能性もないわけではありません。要望とは何か、基本的な意味をまず考えましょう。
物事の実現を強く望むこと
「要望」とは、「まだ実現していない物事が、本当にそうなってほしいと強く望むこと」です。ポイントとなるのは、自分にとって必要と感じている事柄が現実のものになるよう相手に圧力をかけることに力点があるのではなく、実現してほしいという願いの強さの方に重きが置かれていることです。その点をこれから語源と類語、例文を参考に考えていきます。
要望の語源
ここでは要望の語源をそれぞれ「要」と「望」に分けて探っていきます。語源を知ることで要望の意味に関してイメージを膨らませることができます。言葉の由来を探ることは、その言葉の成り立ちにまつわる古代人独特の発想や考え方に触れることにもなり、時には思わぬ発見につながることもあります。
要の語源
「要」は小学校4年生で習う漢字です。もともとは「人体の中央部に両手をあてた」象形文字でした。それで基本的に「要」は人間の体の「腰」を表しています。まさに「腰」は人体の肝心な肝心な部分で、「要」が大切な事柄を意味する理由が分かります。
「要」は訓読みで「かなめ」とも読みます。日本語の「かなめ」はもともと扇の末端にある骨を留めるための金具のことで、そのかなめ(金目)がないと扇がバラバラになるため、次第に物事の中心を意味するようになり、「かなめ」に「要」の文字が割り当てられたと考えられています。
望の語源
「望」は最初は「背伸びした人の上に大きな目のある」象形文字でした。それでこの文字は「遠くをのぞむ」を意味するようになったと考えられています。背伸びして目を見開いて何かを待っている様子をイメージしてみてください。
冒頭で要望の基本的な意味を考えましたが、こうして「要」と「望」の2つの漢字の成り立ちをさぐると、まさに要望とは「自分にとって大切な何かを強い気持ちで願う」というイメージがさらに鮮明になります。
要望とは【類語と意味】
ここからは要望の類語をいくつか取り上げていきます。類語を大きく分けて2つに分類して考えます。最初に要望の「期待する意味」に分類される類語を1つずつ見てみます。次に要望の「言葉による依頼の意味」に分類される類語を考慮します。それぞれの微妙な意味の違いにも注目してください。
期待する意味
最初は要望のおもに心の中で強く期待する意味合いに関連する類語を3つ取り上げます。その3つの類語とは「願望」「念願」「志望」になります。よく知っている言葉ではありますが、それぞれはどんな場面での使い方が適切なのでしょうか、各々のもつ微妙な意味合いの違いにも注目していきましょう。
願望
要望の類語である「願望」はまさに「願い望むこと」ですが、こうした辞書的な定義よりもむしろこの言葉がどんな言葉と一緒に使われているかで判断したほうがイメージがわくのではないでしょうか。すぐに思いつくのは「結婚願望」「痩身願望」という表現です。
まさにのぞみが実現した未来の自分をうきうきわくわくしながら脳裏に鮮明に描く様子感じ取れる表現ですが、「浮気願望」や「自殺願望」など負のイメージをもつ言葉と一緒に使われることもあります。
以上のことから「願望」とは、実現する可能性がやや低い事柄や実現してはならない事柄に関しても用いられ、強い願いはあっても実際のぞみがかなうかどうかは別問題です。
念願
次の類語「念願」は望み願う点で「願望」と同じですが、その願いを「ひらすら」「常に心にかけて」持ち続ける意味合いに重きが置かれた言葉です。ずっとほしかった何かを手に入れたときには「ずっとほしかった念願のミラーレスカメラをついに手に入れた」という表現からもイメージがわきます。
志望
次の類語「志望」も文脈での使い方を見れば、自ずとその意味するところを理解できます。「動物が好きなので、獣医を志望しています」とか「御社に応募した志望動機は」から感じ取れるのはどんなことでしょうか。
「志望」の「志」という漢字の由来は「心が目標を目指して進み行く様子」を表しているそうで、まさに強い願いとともに着実に実現目指して努力する積極的な意味合いを感じます。「願望」がやや成り行きや状況に左右される印象との違いを感じます。
言葉による依頼の意味
これまで考えた3つの類語はいずれも「心の中で強い願いがある」点は一緒でも、そのひたむきさや実際に実現に向けて努力しているかどうかなど微妙な意味の違いも感じ取れました。これから考える2つの類語は願いが実現するよう口頭もしくは文書で具体的に言葉で願いを表すことと関係します。
申出
「申出る」は基本的に意見や希望などを自分から言って出るという意味です。ところで「お客様からの申出があった」などというふうに用いる「申出」ですが、考えてみると「申す」は「家内はこのように申しおりました」というように本来謙譲語で、お客に対して使う言葉ではありません。
「申出る」と「申す」は同じ「申」が使われていても別物と考える必要があります。「申す」は相手を立てるために使う謙譲語で、「申出る」は自分から希望を言うこととシンプルに考えます。
申請
「申請」は「国や何らかの公共の機関に許可や認可を求めること、あるいは一定の行為をもとめること」で、非常に固くて、フォーマルな意味合いがあります。「ビザを申請した」「医療費控除を申請した」などという表現から、これまで出てきた「要望」の類語との違いも感じられます。
要望とは【使い方と例文】
ここまで「要望」の語源や「要望」に関するいくつかの類語を考えることで、微妙な意味合いの違いを感じ取ると同時にこの語に対するイメージが湧いてきたのではないでしょうか。これからはビジネスシーンやメールなどで使える具体的な例文とともに「要望」の使い方について考えていきます。
例文:ビジネスシーン
お客様が強くそうなってほしいと思っているときには「ご要望」という表現を使います。たとえば「お客様のご要望に可能なかぎりこたえていきたいと思います」相手が目上の人に対しては「ご要望」を使います。
自分の希望がそうなってほしいと思っていることを他の人に述べるときには「要望」を使います。たとえば会社内の体制や業務について自分の希望がこうなってほしいと思うことがある場合、たとえば「フレックスタイム制を導入するよう要望を出した」というふうに表現できます。
例文:メールの場合
直接口頭では伝えにくいことも、メールだと伝えやすいことがあります。たとえば目上の人にたいして「以下の要望がありますので、ご検討いただければ嬉しく思います」とメールで伝えることができます。さらに自分が要望を受ける側であれば「○○に関してご要望がある方は、△△までご連絡お願い致します」と送信します。
例文:要望を募る場合
自社のサービスをより向上させるためにユーザーや顧客に対してアンケートなどをお願いする場合があります。メールや文書の形で行うことがほとんどですが、その文面として「弊社のサービス向上のために、お客様からのご意見やご要望をお待ちしております」と表現できます。
要望と希望の違い
これまでも「要望」と他の類語との類似点や違いを考えました。「結婚願望」を「結婚要望」にすると不自然になります。「わたしは獣医を志望します」を「わたしは獣医を要望します」にすると意味が変わってきます。「要望」の類語は必ずしも交換可能ではありません。
これからは「要望」と場合によっては交換可能に思える3つの類語に関して考えて「要望」の理解をさらに深めていきます。その3つとは「希望」「要求」「要請」です。では最初に「希望」を考えましょう。
希望の意味
「フレックスタイム制導入を要望する」とも「フレックスタイム制導入を希望する」ともいえます。「要望」も「希望」も実現を強く願う点は一緒ですが、「希望」の方は願う物事が確実にそうなるかどうかにかぎらず願う点で「要望」と違います。どちらかというと「希望」には「個人的な願い」の意味合いがあります。
希望を使った例文
「希望」の使い方を例文とともに示します。前述のように「希望」は個人的な、ある場合実現しない願い、「要望」は相手に対する願いという違いを意識します。その違いを意識すると適切な使い方ができます。
たとえばホテルに宿泊する際に「1人部屋を希望します」といえば、場合によっては2人部屋でもかまわないのだとフロントは受け取るかもしれません。どうしても1人部屋に泊まりたければ「こちらの要望は1人部屋です」と伝えます。
要望とは【要求との違い】
先ほどの例文の「自分の要望は1人部屋」を「自分の要求は1人部屋」にするとフロントの担当者によっては宿泊を断られてしまうでしょう。
ここでは強い言葉「要求」について考えます。ホテルの例は「要望」と「要求」を交換すると相手に不快感を与えることが分かります。しかし「払い戻しを要望」を「払い戻しを要求」に言い換えることもできます。ではどんな意味があるのでしょうか。
要求の意味
「要望」も相手に対する願いですが、「要求」はこれまでの例でみてきましたように「要望」よりも強い意味合いがあります。「要求」とは「自分とって必要かつ当然得る権利があると感じる物事を相手に対して強く求めること」です。
「要求」の「求」は小学校4年生で習いますが、もともとこれは「裂いた毛皮」を表す象形文字でした。古代において毛皮には霊力があると信じられており、その毛皮を使って儀式を行い何かをもとめたとする説があり、後に「求める」の意味になったと考えられています。
要求を使った例文
「要求」には「自分にはもつ当然の権利がある」というニュアンスがありますので、欠陥商品が送られてきたら「返金を要求します」と相手に伝えます。さらに働きに見合った賃金が支払われていないと感じる場合は「賃上げを要求する」という使い方ができます。相手の非を責めて、少し感情的に改善を強く求める感覚です。
要望とは【要請との違い】
これまで「希望」「要求」を考えましたが、普段あまりその使い分けを意識してきませんでしたが、自分と相手との関係や願う物事の内容によって使い方に違いがあることが分かりました。では「要請」「要請する」はどんな使い方が適切なのでしょうか。まず意味を考えましょう。
要請の意味
「要請」はかんたんに述べると「必要なこととして願い求めること」です。これだけだと「要望」とあまり変わりませんが、「要請」は「必要なことの実現を願い求めること」「何かを得る前提としてどうしても必要な物事の実現を願い求めること」です。
したがって、自分の願いが実現する可能性は「要請」の方が「要望」よりも高いといえます。実現の可能性が高い物事に対して使うのが適切です。
要請を使った例文
先ほど考えた「何かを得る前提としてどうしても必要な物事の実現を願い求めること」が「要請」ですから、たとえば災害時には警察、消防隊、救急隊員の応援を得るには、まずその応援を「要請する」ことがどうしても必要です。緊急に助けや応援を求めるときに使われることが多いことが分かります。
要望とは物事の実現を強く望む気持ち
ここまで「要望」をいくつかの類語と比較して考えてきました。「要望」に対するイメージがもっと湧いてきたでしょうか。「要望」とは「物事の実現を強く望む気持ち」のことです。その気持ちの強さは「要」と「望」のもともとの意味を考えることで分かりました。
「要望」とは「自分にとって肝心かなめな物事を背伸びして、そして目を見開いて待っている様子」という意味合いを考えれば、それはどうでもいい願いのことではありません。
しかし望みが実現する可能性としては、「要求」>「要請」>「要望」>「希望」という順番になります。
「要望」は自分の「要望」に関しても、相手の「ご要望」に関しても使える便利な表現で、それほど心理的に圧迫する意味合いはありません。「実現を強く願う」誠実さは伝わりますが「相手に対して過度の圧力」をかけているわけではありません。
まさに「要望」とは人間関係を円滑にする上で上手に用いていきたい言葉で、ビジネスシーンその他で参考にしていただければ幸いです。