「何卒」の意味
「何卒」という言葉は、特にビジネスメールや手紙を書く際の結びの文章に使われることが多い言葉です。メールや手紙の最後に「以上」と書くより、「以上、何卒よろしくお願い致します」や「何卒ご自愛ください」などと書いた方が、より丁寧で、相手に失礼のない結びの文章になります。
しかしながら一方で、「何卒」という表現は比較的堅苦しい表現でもあるので、メールや手紙を書く相手によっては使わない方が良いケースがあるので、注意しましょう。
つぎに、普段メールや手紙で何気なく使っている「何卒」の本来の意味や正しい読み方、そして語源について説明します。
「何卒」という言葉の由来
元々「何卒」という言葉は「何とか」という形で用いられていました。「何」は助動詞で、 そこに強調を表す為に助動詞である「ぞ」がつけ加えられて「何とかぞ」が使われ始めました。そして 「何とかぞ」が時代が経つにつれ変化し、今現在用いられている「なにとぞ」という使い方になりました。これが「何卒」という言葉の由来です。
また、「何卒」の「何」は当て字。「卒」には「とぞ」の読みがないうえ当て字です。従って「なにとぞ」と稀に平仮名で表記されることもありますが、一般的には漢字で「何卒」と表記されます。
「何卒」という漢字の由来と読み方
「何卒」という漢字の由来は1つは「何」という「物を荷う」という意味の漢字から来ています。「物を荷う」の読み方は、「ものをになう」です。しかし、時が経つにつれて、その意味ではほぼ使われなくなり、疑問を表すの発音と似ていたので、疑問全般を表す意味なったという由来があります。
「何卒」の「卒」は「俄かに」という意味と「下級の兵士」という意味があります。「俄かに」の読み方は、「にわかに」です。そして時代を経て「にわかに」が「急に」という意味になり、それが「強い」という意味から、強調を表す意味になったと言われています。
二つを合わせると、「急で何」という意味になり、その後「急なお願い」という意味にさらに変化し、結果的に現在の意味である「強いお願い」を表すようになったと云われています。
①どうか
「何卒」の意味の一つに「どうか」と同じ意味を持つ言葉です。つまり、「相手に対して強く願う気持ちを強調する表す言葉」ということになります。例えば「何卒宜しくお願い申し上げます」という文章は、書き替えると「どうか宜しくお願い申し上げます。」と書き換えることができます。
しかし、一般的にビジネスメールで使用する場合「どうか」という表現は少し砕けた表現になってしまい、ビジネスメールで使用するには適していないと考えられるため、「何卒」という言葉が多く使われています。
また現代に於いて「何卒」という言葉を単体で使うケースは非常に稀で、多くの場合「何卒宜しくお願い致します。」のような使い方をします。
②どうぞ
「何卒」という言葉の意味には「どうぞ」という意味もあります。「どうぞ」という言葉には2つの意味があり、1つは一つ目は誰かに何かを薦める時や、譲るの表現方法で、もう1つは心から願ったりする気持ちを表す表現方法です。「どうか」と同様に、「何卒」は「どうぞ」のあらたまった言い方です。
「どうか」という言葉と同様に、「何卒宜しくお願い致します。」という文章は「どうぞ宜しく願い致します」と書き換えることもできますが、やはり「どうぞ」も「どうか」と同じように砕けた表現になってしまい、ビジネスメールなどには適さないと言えるでしょう。
「何卒」の読み方
つぎに「何卒」の読み方の説明をします。「何卒」の本当の読み方を勘違いされやすいのは、「何卒」という言葉は会話の中ではあまり使われずに、主に、ビジネスメールや手紙などの「書き言葉」として使われることが多いという所以から、「何卒」の読み方が間違われやすいと言えるでしょう。
読み方・なにとぞ
「何卒」の正しい読み方は「なにとぞ」であり「なにそつ」ではありません。この勘違いはやはり「何卒」が主に「書き言葉」で頻繁に使われていることが原因であると言えるでしょう。従って注意点として、特ににビジネスシーンに於いて間違った読み方である「なにそつ」を使ってしまうと、相手に大変失礼な印象を持たれてしまうので注意しましょう。
「何卒」の類義語
つぎに「何卒」の類義語をいくつか紹介します。「どうか」と「どうぞ」は意味は同じですが、使い方が異なる為、類義として扱われます。「何卒」の類義語として考えられる表現は「是非」や「絶対」また「なんとか」のような言葉が考えられます。しかし、意味は似ていますが、ニュアンスは違うので、同義語ではなく類義語として扱われます。
①是非
「何卒」の類義語の中でも、最も「何卒」とニュアンスが近いと言えるのは「是非」という言葉だと言えるでしょう。「是非」という「何卒」の類義語には主に2つの意味があり、1つは「ものごとの良し悪し」を表現する際に使われ、もう1つは「どうあっても」または「心を込めて」という意味があります。
「何卒」の類義語として使われる「是非」は、後述の「どうあっても」や「心を込めて」の意味の方になります。使い方としては何かをお願いするときに「是非お願い致します。」や、心を込めて親切さを強調する為の使い方として「お近くにいらっしゃる際には、是非お立ち寄りください。」のような使い方ができます。
②絶対
「何卒」の類義語として「絶対」という言葉も考えられます。但しメールの文末に「絶対、宜しくお願い申し上げます」と記すと、明らかにおかしな日本語の表現になってしまうので、あくまで類義語として扱われます。「絶対」という言葉は言葉の後に「に」を伴い副詞的に使われるケースもあり、意味は「どうしても。」や「なにがなんでも。」です。
「何卒」という表現は、「何らかの事柄を、なんとかして達成する。」と自分自身の強い気持ちが込められたを表現なので、「絶対」という言葉の意味が持つ「どうしても。」や「なにがなんでも。」に近いものがあるので「絶対」は「何卒」の類義語と言えるでしょう。
また、注意点として「何卒」の類義語は、あくまで「絶対」であり「絶体」とは異なるので注意しましょう。先述したように、「絶対」は基本的に、「どうしても」、「なにがなんでも」という意味であり、対して「絶体」は「絶体絶命」という四字熟語でしか使用されず、単独で「絶体」という表現が使われることはありません。
③なんとか
「何卒」の類義語として「なんとか」という表現があります。「なんとか」の意味は「いろいろな工夫や努力をする様子」を表す副詞です。例として「そこをなんとかお願いします」あるいは「頑張って二人でとかしよう」のような使い方をします。「そこをなんとかお願いします」という表現は、予め無理そうなことをお願いする際に使われます。
もう少し詳しく説明すると、「そこをなんとかお願いします」という表現は、自分でも実現するのが困難であることが、ある程度分かっている状態で、相手にイチかバチかで何らかの相談をする時に使われる表現です。また注意点として「なんとか」という言葉は、砕けた表現であり、丁寧語とは言えないので、目上の人に使うのは避けるようにしましょう。
その他にも「何卒」の類義語として、「如何しても」または、「理が非でも」のような言葉があります。「如何しても」の読み方は「どうしても」と読み「如何なる手段を用いてでも、そうしたいという強い願望や決意を表す言葉です。
「理が非でも」の読み方は「りがひでも」と読み、「何が何でも」や「是が非でも」と同様の意味があります。
「何卒」の使い方
つぎに、「何卒」の正しい使い方について説明します。一般的に「何卒」という言葉は手紙やメールの書き言葉として、文章の締めの部分に使われることが多いと先述しましたが、その他にも相手の許しを事前に請う場合や、相手の理解を求める場面でもしばしば用いられることがあります。
①手紙・メールの書き言葉として使用
手紙やメールの書き言葉として、「何卒宜しくお願い申し上げます。」のように使う例が最も多い「何卒」の使い方だと言えるでしょう。このような丁寧な文章を書くことにより、読み手に好印象を与えることができます。但し、注意点として「どうか何卒宜しくお願い致します。」のような、類義語との併用はしないように注意しましょう。
比較的親しい仕事上の関係が既に築けている場合は、「何卒」の代わりに「どうぞ」を使い、「どうぞ、宜しくお願い致します。」のように使うこともできます。
②メールの結びの挨拶
また、主にビジネスメールで「何卒」を使用する場合、メールの内容の締めとして、「以上、御検討の程、何卒宜しく申し上げます」のような使い方もできます。上記の例と同じように、このような丁寧なめーつの結びの挨拶を使うことにより、読み手に好印象を与えることができると言えるでしょう。
③許しを請う場合
また、何かの事柄に対して許しを請う場合にも「何卒」という表現は使われます。この場合、メールや手紙の書き言葉以外にも、会話に「何卒」を入れるケースもあります。例えば誰かに迷惑を掛けてしまった場合など「何卒ご容赦ください」あるいは「何卒お許しください」のような使い方をすることにより、相手に丁寧な印象を与えることができます。
④理解を求める場合
また、何かしらの状況に対し理解を求める際にも「何卒」という表現を使うことができます。例えば「◯◯について、何卒ご理解下さい」または「◯◯によって、ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、何卒ご理解の程宜しく申し上げます。」のような使い方ができると考えられます。
「何卒ご理解下さい」という言い回しは、理解を求める場合によく使われますが、同時に特にビジネスシーンに於いて何かに対して謝罪する際にも、頻繁に用いられます。例文として「お客様には大変ご迷惑をお掛けしましたが、何卒ご理解賜りますようお願いいたします」のような例文が考えられ、この場合の「何卒ご理解下さい」は謝罪を意味しています。
また、よく「予めご了承下さい。」のように半強制的に理解を求めてくるような表現がありますが、これを「何卒ご理解の上ご協力くださいますようお願い致します。」のように言い換えることによって少し柔らかい言い方にすることができます。
「何卒」の例文
ここで「何卒」を使った例文をいくつか紹介します。先述したように「何卒」という表現は主に書き言葉として使われることが多いので、主にビジネスメールや手紙などで使われるケースが多いと言っていいでしょう。また、「何卒」を使う際の注意点なども説明しますので、是非参考にしてみて下さい。
①メールの締めの挨拶
「何卒」も例文として、メールの締めの挨拶で、「今後とも何卒宜しくお願い致します。」や「今回のお見積もりについて何卒ご検討の程、宜しく申し上げます。」のように頻繁に使われているケースが多いと言えるでしょう。このような形で「何卒」という言葉をメールの締めの挨拶に使うことにより、相手に丁寧な印象を与えることができます。
但し、注意点としてメールや手紙の中で何度も頻繁に「何卒」という言葉を使うと相手にしつこい印象を与えてしまう可能性があるので、注意しましょう。
②これから始まる物事の許しを請う
また、「これから始まる物事の許しを請う」為の表現方法として「何卒」という言葉はしばしば用いられます。例として「来週から隣のビルの解体工事を行う為、多少の騒音が発生すると思いますが、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。」のような例文が考えられます。この様なケースでは「何卒ご容赦ください。」というフレーズが良く使われます。
また別の例文として、「身勝手なお願いであることは重々承知しておりますが、何卒ご容赦のほどお願い申し上げます。」のような例文も、「これから始まる物事の許しを請う」の意味を含めた使い方としての1つと考えられます。
「何卒」の注意点
「何卒」という言葉を使う上で、いくつか注意点があります。先述しましたが、同じメールや手紙の中で何度も「何卒」という言葉を使うのは、相手にしつこいと思われてしますので避けるようにしましょう。また、「何卒」をメールで使用する場合「どうか」や「なんとか」といった類義語を併用するのもくどい文章になってしまうので注意しましょう。
①同僚・身内には使わない
まず、最初の注意点として、「何卒」という言葉は自らをへりくだり、かなり丁寧な会話や文章の際に使われる言葉なので、同僚・身内に使うとかなり不自然な表現だと捉えられてしまうので、注意しましょう。但し、身内と言っても会社の中で自分よりかなり役職の高い人や、目上の人の人に対して使う分には特に問題ないと言えるでしょう。
②省略はNG
もう一つの注意点として、あくまで「何卒」という言葉は文法上尊敬語ではなく、丁寧語として使われることを良く認識しなければならないという点です。従って、「何卒」を使う場合に「何卒お願いします」という使い方は相手にとって失礼にあたります。「何卒」という言葉はその後に続く文章を丁寧に表現する為に使われます。
従って、「何卒」を使う際には必ずその後の文章も出来る限り丁寧な表現にすることを心掛けましょう。一般的な正しい使い方として「何卒宜しく申し上げます。」のような使い方が正しい使い方です。
「何卒」を英語で表現するには?
次に「何卒」を英語で表現する場合、どのような英語を使うのが正しいのかを説明します。まず初めに考えられる英語は「Please」という表現でしょう。その他に「Kindly」という副詞や「By all means」という表現方法があります。「Please」の意味は「お願いします」という意味があるとこはよく知られていますが、他の2つは使い方に少し工夫が必要です。
「Kindly」という英語は「Kind」という英語は主に「Kind of ◯◯」のように「◯◯のような種類」という意味で使われますが、その他に「親切な・丁寧な」という意味もあります。そして「Kind」の副詞である「Kindly」は「どうぞ◯◯して下さい」という意味があります。
「By all means」という言い回しは、許可・承諾・同意を表す「よろしいですか?」または「是非」という意味があります。
英語での例文
それではこの3つの「何卒」を表現する英語を使った例文を紹介します。出来るだけ日本語の「何卒」に近いニュアンスにする為に、英語を使って「何卒」を表現する場合、文章の組み立て方に少し工夫が必要になります。例えば、何か物事をお願いする際に「Can you ◯◯」を「Could you」や「Would you」を使い丁寧語に変化させるといった例があります。
「Please」を使った英語の例文
まず「Please」を使った例文ですが、例えばビジネスシーンに於いて「Would you please take the contract which we offered last week into consideration?」のように「是非我々が先週手案した契約を御検討下さい。」のような例文が考えられます。ここでは「Can」を「Would」に変換し、ビジネスシーンに見合った丁寧な表現を表しています。
「Kindly」を使った英語の例文
つぎに「Kindly」ですが、これも「何卒」の意味に近づける為に「Could you please kindly think about more funding?」(是非更なる資金提供のご検討をお願い致します。)のような使い方があります。またシンプルに「Thank you kindly.」(誠にありがとうございます。)のような使い方も出来ます。
「By all means」を使った英語の例文
「By all means」は、主に文章の冒頭に使用し、何かすることを強調する意味で使われます。例えば「By all means, please employ more employee otherwise, the work doesn't turn.」(このままでは仕事が回らない為、是非従業員の採用を御検討下さい。)のように使います。
また、シンプルな例文として「Yes, by all means.」(ええ、ぜひどうぞ)または「By all means, Come and see us」(是非私たちに会いに来てください。)のような使い方も出来る、非常に便利な英語の言い回しだと言えるでしょう。
英語のメールや手紙の締めの言葉
日本語でのメールや手紙の締めの文章として、「以上、何卒宜しくお願い致します。」というような使い方があると先述しましたが、英語の場合はどうでしょう。英語には「何卒宜しくお願い致します。」のような形で文章を締めくくること少ないですが代わりに、「Best Regards.」または「Kind Regards.」という日本語の「敬具」にあたる英語があります。
これは親しい友人などとのメールでのやり取りでは使うことはありませんが、ビジネスメールの場合、ほぼ100%といって良いほど文末に付け加えられます。注意点として「Best Regards.」や「Kind Regards.」の「Regards」は必ず大文字で始まり、尚且つ「Regard」は「Regards」と複数形にして記すという決まり事があります。
また、「Kind Regards.」のように最後に終止符を打つのも忘れないようにしましょう。英語でビジネスメールを使う機会があれば、文末に「Best Regards.」や「Kind Regards.」などを用いることによって、相手に好印象を与えることができます。
「何卒」は相手に何かを強くお願いする表現
ここまで「何卒」の読み方や意味、言葉の由来、また「何卒」を使う上での注意点や例文などを説明してきましたが、如何でしたでしょうか。「何卒」という表現は相手に対し、何かを強くお願いする表現で使われますが、先述した注意点のように、一つの文章に何度も使ったり、類義語と併用した使い方はしないように注意しましょう。
「何卒」は便利な言葉と言えますが、使い方を間違えてしまうと、こちら側は丁寧な表現をしているつもりでも、相手には不快に思わせてしまう可能性がありますので、使い方に注意しながら効果的に使うよう心がけましょう。