寺と神社の違いとは
普段は寺や神社に行くことがないという人でも、初詣に行く人は多いでしょう。ちょっと足を延ばして遠くの有名な寺や神社に行く人もいれば、最寄りの寺や神社に行く人もいますが、寺も神社も同じようなものだと思っている人も少なくありません。寺と神社の違いがよくわからないという人もいるでしょう。
寺と神社にはどのような違いがあるのか、寺と神社の大きな違いをいくつかご紹介しましょう。
宗教・崇拝の対象が違う
寺と神社の違いの一つ目は、宗教や崇拝の対象が違うということです。初詣で寺や神社に参拝することがありますが、その時に参拝する対象は寺なのか神社なのかによって違います。意外に知られていませんが、寺には寺の宗教と崇拝対象があり、神社には神社の宗教と崇拝対象があります。
両親などの家族が何か宗教に入っているという家庭であれば、その宗教関係の寺や神社に参拝しますが、そういう家庭ばかりではありません。むしろ無宗教だという家庭の方が多く、そういう家庭で育った人は決まった寺や神社に参拝しない方が多いです。
寺と神社の大きな違いはまず、信じる宗教や崇拝の対象の違いだということを覚えておくと良いでしょう。
鳥居の有無
寺と神社の違いの二つ目は、鳥居の有無です。街を回ってみると鳥居を見かけることもありますが、鳥居だけしかないという場合もあるため、鳥居は寺にあるものなのか神社にあるものなのかがわからないということも多いです。そのような鳥居もあるため、鳥居は寺にあるのか神社にあるのかがわからない人もいます。
寺と神社のどちらに鳥居があるのかは後でまたご紹介しますが、鳥居があるかないかというのも寺と神社の大きな違いだということです。
墓地の有無
寺と神社の違いの三つ目は、墓地の有無です。墓地があるかないかというのも、寺と神社の大きな違いのひとつと言えますが、墓地はどちらにあるのかはすぐにわかるという人が多いでしょう。ですが、歴史のある街などでは墓地だけが取り残されているという光景もたまに見られます。
こういった墓地を見ると、墓地があるのが寺なのか神社なのかわからなくなる人も少なくないでしょう。墓地は基本的に寺にあるものですが、寺がつぶれて取り壊され、墓地だけが街中に残っているというケースもあります。
墓地は寺にしかないものなので、墓地があるかないかというのも寺と神社の大きな違いだと言えます。
仏像の有無
寺と神社の違いの四つ目は、仏像の有無です。先にご紹介したように、寺と神社とでは宗教や崇拝対象が違います。仏像は仏教における崇拝対象なので、仏像があるのは仏教を宗教としている所だけです。寺には寺の宗教や崇拝対象があり、神社には神社の宗教や崇拝対象がありますが、仏像は仏教のシンボルです。
なので仏像が置かれていて崇拝されているのは、仏教を宗教とする所だけだと言えます。仏像に関してもまたこの後、寺と神社の崇拝対象の違いの所で詳しくご紹介します。
名前の付け方が違う
寺と神社との大きな違いはまだあります。それは名前の付け方です。寺の場合は「金閣寺」「銀閣寺」「唐招提寺」などのように末尾に「寺」の文字が入っています。神社の場合は「厳島神社」「春日大社」などのように「社」の文字が末尾に入っていますが、これは神社の意味が「神の社(やしろ)」という所から来ています。
また、末尾に寺の文字が入っていない寺もあります。「知恩院」「平等院」などのように末尾に「院」の文字が入っているのも寺の名前です。
神社の中にも、「社」が末尾に入っていない名前がついている神社があります。「日光東照宮」や「伊勢神宮」など、末尾に「宮」という文字が入っている神社も多く、これらも神社の名前の大きな特徴と言えます。
寺と神社の崇拝対象の違い
寺と神社の大きな違いとして、崇拝対象の違いが挙げられます。初詣などに行く人の多くは宗教関係などには無頓着であることが多いので寺にお参りするのも神社にお参りするのも自由ですが、実は寺と神社では宗教が全く違うため、お参りして拝む相手が違うということになります。
近くの寺の檀家なのでその寺にお参りするという人の場合は、宗教などを重視することもありますが、そういう人でも普段から仏壇に向かって毎日お経をあげているという人は少ないでしょう。
寺と神社の崇拝対象にはどのような違いがあるのか、寺と神社の崇拝対象の違いについてご紹介しましょう。
寺は仏教を崇拝し仏像がある
寺と神社の崇拝対象の違いの一つ目は、寺の崇拝対象です。寺では仏教を崇拝し、その教えを守った修業をしています。そのためほぼ必ずと言っていいほどあがめるための本尊とする仏像があります。これは大きな寺でも小さな寺でも違いはなく、ほぼすべての寺に仏像があります。
ですが同じ仏教の中でも宗派が違えば仏像の種類も違います。また、宗派によっては仏像を置かず曼荼羅などを本尊としてあがめている寺もあります。
阿弥陀如来や大日如来など様々な種類の仏像がありますが、それらの仏像はその寺の宗派によって異なりますので、色々な寺に行ってみて比較対照してみると良いでしょう。思わぬところに思わぬ仏像があることもありますので、仏像めぐりもおすすめです。
寺によって宗教が違う
ほとんどの寺に仏像があり、仏像をあがめることを修業にしていますが、実は寺によって宗教は違います。仏教には十三宗派と呼ばれる13の宗派がありますが、それぞれ修行の仕方やあがめる対象が異なります。「南無阿弥陀仏」や「南無妙法蓮華経」といった経文が有名ですが、これらは違う宗派の経文になります。
また、十三宗派は大きく分けると六つの系統に分かれます。六つの系統に分けた十三宗派の開祖や本尊、修行の特徴などについてご紹介します。
奈良仏教系
寺の宗教の一つ目は、奈良仏教系です。奈良仏教系というのは法相宗と律宗と華厳宗(けごんしゅう)の三つの宗教のことを指します。この三つの宗教はそれぞれ考え方や修行の仕方、本尊としてあがめる仏様が違いますが、奈良仏教系というひとつの系列としてくくられています。
また、同じ法相宗の中でも本尊としてあがめる仏様が違う場合もあり、法相宗だからといって全く同じ本尊をあがめているというわけではないという特徴があります。
密教系
寺の宗教の二つ目は、密教系です。密教系の寺は真言宗で、開祖は空海で、空海の別名は弘法大師です。本尊は大日如来で、修行を続けていって最終的には大日如来のレベルになることを目的とした密教です。密教は他の仏教のお経とは少し異なる経文を唱えることで知られています。天台宗も密教ですが、真言宗とは異なります。
真言宗の密教のことは「東密(とうみつ)」と呼びますが、天台宗では密教のことを「台密(たいみつ)」と呼びます。
密教と法華系
寺の宗教の三つ目は、密教と法華系の混ざった天台宗です。天台宗の開祖は最澄で、最澄の別名は伝教大師といいます。密教と法華系が混ざっていることによって、他のどの宗派ともあまり大きな違いがないというのが天台宗の特徴です。特にあがめる本尊はなく、朝夕で唱える経文が違うが違うというのも大きな特徴です。
天台宗では朝は法華経の経文を中心に唱え、夕には阿弥陀経の経文を中心に唱えておすすめします。
法華系
寺の宗教の四つ目は、法華系です。法華系の宗教は日蓮宗だけで、日蓮宗の開祖は日蓮で別名は立正大師です。有名な「南無妙法蓮華経」という経文はこの日蓮宗の経文で、この七文字に法華経の功徳のすべてが込められていると言われています。本尊としてあがめられているのはお釈迦様や日蓮聖人など、寺によって違います。
「南無妙法蓮華経」と唱えるだけで、様々な善行や修行などをしたのと同じ価値があると考えられているというのが、日蓮宗の特徴です。
浄土系
寺の宗教の五つ目は、浄土系です。浄土系の宗教は、浄土宗と浄土真宗、融通念仏宗と時宗の四つから構成されていますが、それぞれ開祖は違います。浄土宗の開祖は源空で別名は円光大師、浄土真宗の開祖は親鸞で見真大師、融通念仏教の開祖は良忍で別名は聖應大師、時宗の開祖は智真で別名は証誠大師となっています。
浄土宗と浄土真宗の本尊は阿弥陀様で、融通念仏宗の本尊は十一尊天得如来、時宗の本尊は阿弥陀様です。これら浄土系の宗派では、いずれも阿弥陀様の教えを守りあがめています。
禅系
寺の宗教の六つ目は、禅系です。禅系には臨済宗と曹洞宗と黄檗宗(おうばくしゅう)の三つがあり、臨済宗の開祖は栄西で別名は千光大師、曹洞宗の開祖は道元で別名は鉦承陽大師、黄檗宗の開祖は隠元で別名は真空大師です。禅の字が示す通り、座禅による修業をメインにした宗教で、本尊はお釈迦様です。
経典や教えに依存しないという特徴を持っていて、座禅を組んで修行することを主な修行としている、他の宗派とは少し違った宗派です。
神社は八百万の神を崇拝しご神体がある
寺は仏教を崇拝し、仏像があるという所がほとんどですが、神社の場合は「神道(しんとう)」という宗教を崇拝しています。神社は八百万(やおよろず)の神を崇拝し、ご神体と呼ばれるものがあるというのが大きな特徴ですが、八百万の神というものが指す対象はとても多く、そのご神体は様々です。
湖をご神体としている神社もあれば、海をご神体としている神社もあります。このように雄大な自然を畏れあがめ奉ることもあれば、男根をご神体としている神社もあり、実にバラエティに富んでいます。
偉人の霊が祀られている神社もある
神社の多くは湖などをご神体としてあがめ奉っていますが、歴史上の偉人の霊が祀られているという神社も中にはあります。神社には様々なご神体がありますが、神社が崇拝する八百万の神というのはとても範囲が広く、その対象は何でも良いと言えます。そのため、歴史上の偉人などもご神体としてあがめられることがあります。
昔の天皇なども神社でご神体としてあがめられていることもあり、良いと思うものなら何でもご神体として取り入れるというのも神社の特徴であると言えます。
寺と神社の参拝方法の違い
次に、寺と神社の参拝方法の違いについてご紹介します。寺での参拝も神社での参拝も同じようにしているという人が多いですが、実は寺での参拝方法と神社での参拝方法とでは違います。それぞれ崇拝対象が違うように、参拝方法も異なります。寺と神社とでは違った参拝の作法があります。
それぞれの参拝の作法を知っておくと、正しい参拝ができるようになります。それでは、寺における参拝方法と神社における参拝方法をそれぞれご紹介しましょう。
神社は二礼二拍手一礼
まず、神社では「二礼二拍手一礼」という参拝の作法があります。二回礼をしてから二回拍手をし、最後に一回礼をするという参拝の仕方で、これは寺とは全く違う参拝の方法です。神社に着いたらまずは鳥居の前で一礼しますが、鳥居は神様の通り道と言われていますので、鳥居の真ん中に立ってはいけません。
鳥居の真ん中を避けて鳥居の右か左に立ってまず一礼したら、鳥居をくぐって拝殿に向かいましょう。手水舎の水で手や口を清めてから拝殿の前に立ち、賽銭箱に賽銭を入れて鈴を鳴らします。
その後、先にご紹介した二礼二拍手一礼をして参拝しますが、二礼二拍手一礼をする時には背筋を伸ばして姿勢をただし、頭だけではなく腰を曲げて礼をしましょう。
寺は手をたたくのはNG
次に寺の参拝の作法をご紹介します。神社では拍手をしましたが、寺では手を叩くのはNGとなりますので注意が必要です。寺での参拝は手と手を合わせる「合掌」が基本ですので、手を叩いてはいけません。寺を参拝する時にはまず、山門の前で一礼します。神社では真ん中を歩いてはいけませんが、寺では真ん中でも問題ありません。
手水舎の水で手や口を清めた後、常香炉があればその煙で身を清めてお線香をお供えします。その後本堂のご本尊の前に行き、賽銭箱に賽銭を入れて合掌します。鈴があれば鈴を鳴らしても構いません。
合掌して頭を下げてご利益の祈願をしたら、一礼して後ろに下がります。神社では拍手をするけれど寺では拍手はしてはいけないということを覚えておきましょう。
寺と神社の建物の違い
寺と神社の参拝方法の違いをご紹介しましたので、次は寺と神社の建物の違いについてご紹介します。実は寺も神社も建物自体はそう大きく違わない場合もあります。時代時代によって建て方は違いますが、寺も神社も宮大工が建てますので、神社のような見た目の寺もあれば寺のような見た目の神社もあります。
建物自体だけを見ると寺と神社の区別はつきにくいですが、一つだけとても大きな違いがありますので、その大きな違いをご紹介しましょう。
神社には鳥居がある
寺と神社の建物の違いの一つ目は、神社には鳥居があるということです。神社のご神体は色々ですので、湖の中や海の中に鳥居があることもあります。ですが神社の大きなポイントはこの「鳥居がある」ということです。神社自体が引っ越しをしてなくなってしまっても、鳥居だけが残っているというケースもあります。
鳥居だけがぽつんと立っていて他に何もないという場合、昔その近くに神社があったという証拠にもなります。それほどに鳥居というものは、神社のシンボルとも言える大切なものであると言えます。
神社にあって寺にないものはもうひとつあります。それは狛犬です。狛犬は神社にはありますが寺にはありません。狛犬は神様を守る神使として、入り口の両脇に座っています。
寺には山門がある
寺と神社の建物の違いの二つ目は、寺には山門があるということです。「門前の小僧習わぬ経を読む」という言葉の「門前」は寺の山門のことを表していますが、そのように昔から寺には山門がつきものでした。昔の寺は山の中に建てられていたため、山門という言葉が使われるようになったと言われています。
寺の山門は単なる門ではなく、立派な屋根がついたとても大きな門が多く、山門の両脇に仁王像が立っているという寺もあります。山門の両脇に立つ仁王像はとても迫力があり、寺を守る守護者にふさわしいと言えます。
寺と神社の結婚式の違い
次に、寺と神社の結婚式の違いについてご紹介します。昨今では結婚式と言えばキリスト教の教会や、ホテルについている教会などで行われることの方が多いですが、実は寺でも神社でも結婚式を挙げることができます。それを知らないため、ホテルの教会などで結婚式をする人も多いです。
寺での結婚式や神社での結婚式はどのような違いがあるのか、寺と神社の結婚式の違いについてご紹介しましょう。
寺での結婚式は珍しい
寺と神社の結婚式の違いの一つ目は、寺での結婚式は珍しいということです。昔は寺で仏前結婚をする人も少なくありませんでしたが、昨今では寺で結婚式をする人は少なくなってしまいました。ですが平安時代などでは寺での説法会は、若い男女の出会いの場として婚活に利用されていました。
その流れで寺での結婚式も行われていましたが、現在では寺で結婚式を挙げる人はすっかり少なくなってしまいました。西洋の文化が日本に流入し、ウェディングドレスへの憧れなどから教会での結婚式が増えたためです。
神社の結婚式はよくある
寺と神社の結婚式の違いの二つ目は、神社の結婚式はよくあるということです。神社仏閣の多い京都などでは平安神宮などの神社が結婚式によく使われます。平安調の衣装に憧れて、神社での神前結婚を決めるという人も少なくありません。寺での結婚式が減り神社での結婚式が増えたのは、神前で結婚式が出来るのも理由の一つです。
寺で結婚式をすると仏前結婚でお坊さんがお経をあげたりしますので、それがあまり好きではないという人もいます。和風ではやりたいけれど寺での結婚式はしたくないという人が、神社で結婚式を挙げるというケースも多いと言えます。
寺と神社の葬儀の違い
寺と神社の結婚式の違いをご紹介しましたので、次は寺と神社の葬儀の違いについてご紹介します。葬儀と言えば寺というイメージがあり、確かにそれは一般的なイメージとして間違いではありません。寺と言えば葬儀、葬儀と言えば寺というイメージがあるのは、寺が多い日本ならではとも言えます。
葬儀は寺でしか行われないのか、神社では行われないのか、寺と神社の葬儀の違いについてご紹介しましょう。
寺は葬儀が多い
寺と神社の葬儀の違いの一つ目は、寺は葬儀が多いということです。ここまでにご紹介してきた中に、「墓地があるかないかが寺と神社の違い」だというものがありましたが、その通りで神社には墓地はありません。墓地は寺にしかありませんので、そのため必然的に寺の方が圧倒的に葬儀が多くなっています。
寺で葬儀をすればお坊さんがお経をあげてくれますので、いかにも日本の葬儀という雰囲気で、そういった日本人のイメージもあって寺での葬儀の方が多くなると言えます。
寺で葬儀をする場合には仏教の教えで故人を送りますので、故人は仏様の御許(みもと)に行くと考えられています。故人に思い残させることなく成仏してもらうというのが、寺での葬儀になります。
神社の葬儀は珍しい
寺と神社の葬儀の違いの二つ目は、神社の葬儀は珍しいということです。寺で葬儀をする場合、故人は仏様になるという仏教の教えにのっとった送り方をしますが、神社の葬儀は全く異なります。神社には神様がいて、死というものは「穢れ(けがれ)」にあたるため、神社では葬儀は行われないのが通常です。
神道という宗教で神道式の葬儀を行うことがありますが、この場合も神社ではまず葬儀を行いません。そして神道では故人に家の守護神になってもらい、いつまでも家に残ってもらうという考え方ですので仏教とは全く違います。
仏教では仏様の御許である涅槃に故人を送りますが、神道では故人に家にいてもらうという真逆の考え方で、こういった考え方も寺と神社の違いのひとつと言えます。
寺と神社は宗教や役割に違いがある
寺と神社の違いについて、様々な面から比較対照してご紹介してきましたが、如何だったでしょうか。寺と神社は宗教や崇拝対象やその役割、参拝の方法などすべてが異なるということがお分かりいただけたでしょう。寺と神社は宗教や役割に違いがあるのだということを覚えておいて、正しい方法で参拝しましょう。