観察力とは
観察力とは一体どのようなスキルのことなのでしょう。観察力というスキルの解釈の仕方は人により大きく2つのタイプに分かれます。
1つ目のタイプは、物事の状態、たとえば動物や植物の生態を細やかに研究者や学者のように観察することと解釈する人。
2つ目のタイプは、人の性格や人間性をこと細かく探偵のように観察することと解釈する人、この2つに分かれます。
どちらも観察力の解釈としては正しいのですが、どちらも間違いとも言えます。では観察力とは、前述の両方の観察の仕方を兼ね備えることと解釈すれば良いのかというと、それも少し違います。
このような説明をすると余計に混乱を招いて疑問がふえる方が多いと思いますが、もう一度頭の中の考えをリセットして、観察力とは何か、どのようなスキルなのかを検証してみましょう。
物事の状態・変化を注意深く見ること
観察力とは「物事の状態や変化を注意深く見ること」とよく言われます。しかしこれは「よく観察する」ことであって「観察力」ではありません。ここでよく誤解してしまうのです。
観察力を「注意深く見ること」と解釈してしまうと、ただ注意深く見れば良いと安易に考えて、観察力という本来のスキルを見失ってしまいます。
「物事を注意深く見る」とは、ただ単に行動の仕方を説明しているに過ぎません。観察力というスキルは「物事を注意深く見て判断する能力、注意深く見ることを持続できる能力」のことで単に「注意深く見ること」ではないのです。
前に紹介した2つのタイプの解釈が正しくもあり間違いでもあると解説したのは、スキルという言葉の解釈が「行動の仕方」と「能力」とを混同していたからです。
言い替えると「物事を注意深く見ること」とは行動の仕方であり、観察力というスキルは「物事を注意深く見ることが出来る能力」のことです。
観察力のある人の性格や特徴
観察力のある人は、どのような性格や特徴を持っているのでしょうか。この性格や特徴を知ることは、観察力とはどのようなスキルなのかを理解する上で非常に助けになります。
また性格や特徴を知ることで、どうしたら観察力を身に付けることができるのか鍛え方や磨く方法が見えてきます。それでは観察力がある人の性格や特徴を紹介します。
人の気持ちが分かり気配りできる
観察力のある人の性格に「人の気持ちが分かり気配りができる」という特徴があります。観察力がある人は、人の表情や仕草(しぐさ)、声のトーンや発する言葉などを注意深く見ることで相手を理解する洞察力の持ち主です。
実際には注意深く観察する性格だけでは観察力があるとは言えません。観察力には、相手の気持ちや相手が置かれている状況をよく観察して、その状況が相手にどんな影響を与えているのかを理解する洞察力が必要です。
その結果として相手に気配りができるのです。相手の気持ちをよく理解しないでアドバイスや助言をすることは気配りとは言いません。逆に相手を苦しめることになります。
このように「人の気持ちが分かり気配りができる」という性格を表面的に捉えると誤解してしまいます。その言葉の奥にある性格や特徴を読み取るようにしましょう。
昔の偉人の話に「聖徳太子は一度に10人の意見を聞き分けて、それぞれの人に的確な助言を与えた」という伝説があります。しかし実際に10人の意見を同時に聞くことは不可能です。そのくらい聞く能力と洞察力に秀でた人ということです。
また10人一人一人の状況や気持ちを理解し、優しい心を持って接しなければ「的確な助言」をすることができません。聖徳太子が時代を超えて尊敬されるのは、飛び抜けて優れた観察力と洞察力を持っていたからと言えます。
つまり「観察力のある人」とは、物事を注意深く見る能力だけでなく「人の気持ちが分かり気配りができる」という優しい性格を同時に持ち合わせている人のことです。
冷静でミスが少ない
観察力のある人は、客観的に物事を見る性格の持ち主です。主観的に物事を見ると感情に惑わされて正しい判断ができません。
たとえば何かのトラブルが発生した時に、主観的に見る性格の人は「どうしよう」という感情が先に立ってミスをしてしまいます。また思い込みや先入観に捕われやすいので判断を誤りさらにミスを重ねやすくなります。
観察力のある人は、先入観にまどわされず、まずどのような状況なのかを把握しようとします。客観的な視点で冷静にトラブルを見ないと正しい判断ができないからです。その結果ミスを最小限に抑えることができます。
「客観的な視点で物事を見る」という性格は、観察力のある人だけの特徴ではありません。コミュニケーション力やマネージメント力、リーダーシップ能力を持っている人に共通の特徴です。
また客観的にものを見るとは、俯瞰(ふかん)的に少し引いて全体を見るのと同じです。たとえば高い山に登り頂上から見下ろせば、麓(ふもと)にいた時には見えなかった多くの景色が目に入るはずです。
これと同じで、客観的・俯瞰的に物事をみる「観察力のある人」には、起きている現象だけでなく、そこにまつわる人の感情など多くのものを見ることができるのです。
好奇心旺盛
「好奇心旺盛」という性格は、研究熱心な人や学者タイプの人に多くみられる特徴です。研究者がいろいろな実験や観察をよくするのは「好奇心」が原動力になっているからです。
普通の人が気にも留めないような事柄、たとえば「蝶蝶(ちょうちょ)はどうして空を飛べるんだろう?」「どうして空は青いんだろう?」「どうして人はものを食べた時に美味しいと感じるのだろう?」
こんなことは、当たり前のこととして普通の人は済ませてしまいます。当たり前のことに「好奇心旺盛」な人は「どうして?」と疑問をもって興味を示します。歴史的な大発見や素晴らしい発明は、この好奇心から生まれます。
ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て重力を発見しました。リンゴが木から落ちるのは当たり前のことです。しかし好奇心旺盛なニュートンはそこに疑問を抱いたから万有引力(重力)を発見できたのです。
このように「好奇心旺盛」という性格は、観察力がある人にとって必須のアイテムです。逆をいえば「好奇心旺盛」だからこそ、物事を注意深く見るようになり観察力を磨くことにつながります。
ここで注意したいのは、「好奇心旺盛」と疑り深い「興味津々(きょうみしんしん)」を混同しないことです。
観察力のある人が、人の行動や言動に好奇心を持って観察するのは、邪念を持たない子供のような素直な気持ちで知りたいと思うからです。探偵のように疑り深い邪念で人の心を観察するのではありません。
たとえば「彼女の心が知りたいので行動を細かく観察する」という好奇心は、観察力のある人の好奇心とは全く違います。これは疑り深い人が持つ邪念のある興味本意の好奇心です。好奇心の解釈には注意しましょう。
観察力を鍛えることのメリット
観察力は好奇心旺盛に物事を見ることだから、鍛え方は「何でも疑ってみること」と解釈すると、大きな間違いを起こします。「疑問をもつ」と「疑いをもつ」は言葉は似ていますがまったく違う意味を持っています。
「疑問をもつ」ことは観察力の鍛え方につながりますが、「疑いをもつ」ことは観察力を鍛えることにはなりません。むしろ邪心(卑しい心)の鍛え方といったほうがあたっているかも知れません。
「疑問」は前に紹介したように観察力のある人が、子供のような純粋な気持ちで抱く「好奇心」から生まれるものです。「疑う」は興味本位の大人の邪念から生まれることなので全く違います。
正しい観察力は、正しい「好奇心」による「疑問」から生まれることが理解できたのではないでしょうか。それでは正しい観察力を鍛えて観察力を磨くことのメリットを紹介します。
コミュニケーション戦略を立てられる
人ひとりでやれることは限られています。他の人と協力し合えばやれる事は倍増します。そのためにはコミュニケーションが非常に大切です。コミュニケーションがとれなければ他の人と協力することはできません。
ノーベル化学賞や物理学賞を取った人たちも、ひとりで偉業を成し遂げたわけではありません。周りの研究者やスタッフとコミュニケーションを取りながら切磋琢磨し協力し合ってはじめて成果があがりノーベル賞につながります。
会社の人間関係でもプロジェクトでも、チームや仲間とコミュニケーションを取り合いながら仕事を進めています。観察力を鍛えることはそんな中で、コミュニケーションスキルを磨き、次の戦略を立てる力がつきます。
観察力を磨くことで、チームのメンバーの一人一人がどんな性格をしていて、どんな仕事が得意なのかをいち早く見分けることができるようになります。
つまり観察力を磨くことは仕事の戦略が立てやすくなり、コミュニケーション力と合せてマネージメント力も磨くことになります。周りからの信頼も集まればプロジェクトのリーダーも任されるようになります。
ノーベル賞を受賞した人たちも、観察力を磨くだけでなく、コミュニケーション力やマネージメント力をつねに磨き、周りの人たちの信頼を得られたからリーダーとして表彰されたのです。
相手の言葉にしない本心が分かる
観察力を鍛え磨くことにより、相手が口に出して言葉にしない本音や本心が分かるようになります。人は言葉にしなくても顔の表情やしぐさに、心の中にある本心が見え隠れするものです。
観察力を鍛え磨くことにより、次第に言葉に表さない人の微妙な変化や感情に気づく能力がついてきます。しかし心の変化に気づいただけでは何の進展もありません。
観察力を磨くことで身に付いたコミュニケーション力とマネージメント力を活かし、そこに相手を思いやる気持ちでリードすることで、はじめてメリットが生きてきます。
つまり観察力を磨くことで得たスキルは、そのままでは宝の持ち腐れになってしまいます。コミュニケーションと思いやりの気持ちで、上手くマネージメントすることでメリットが活かされるのです。
相手の状況が分かる
観察力を磨くメリットに「相手の状況が分かるようになる」があります。これは「言葉にしない本心が分かる」とほとんど同じメリットです。
観察力を磨くことにより、相手の本心が分かれば相手の状況も推察できます。口には出さないけれど、相手が今喜んでいるのか、悲しんでいるのか、悩んでいるのかを表情や声のトーンで感じ取れるようになれます。
ここでも前のところと同じで、感じ取っただけではダメです。相手の状況に適した対応をしなければ意味がありません。それには、思いやる気持ちを込めたコミュニケーションが必要です。
観察力を磨くメリットには「コミュニケーション戦略を立てられる」「相手の言葉にしない本心が分かる」「相手の状況がわかる」があります。
しかしそのメリットをそのままにしないで、「思いやる優しい気持ち」と「コミュニケーション」で適切な対応をマネージメントすることで、はじめて観察力を磨く意義があります。
またここで注意する点は、観察力を磨くために「顔の表情や視線を読む」「体の動きや仕草を見る」「声のトーンやリズム、テンポ、大きさを感じる」などは、観察するためのノウハウであって観察力を磨く本質ではありません。
ノウハウ本を読んでも効果が出ないのは本質を見落としているからです。観察力を磨く本質は、上記の洞察力で注意深く観察することにより「相手を思いやる精神」や「コミュニケーション力」を磨くことです。
観察力の鍛え方
観察力を高めたいと思うのは誰でも願う希望です。では観察力を磨く鍛え方にはどのような方法があるのでしょう。日本人はノウハウ本を好んで読みますが、その割に効果を実践している人は少ないのではないでしょうか。
それは前述の記事で紹介したように、ノウハウの中に書かれている本質を見落としているケースが多いからです。これから紹介する観察力の鍛え方も1種のノウハウです。本質を見落とさないように注意して参考にしてください。
フォーカスする
鍛え方のポイントの第1ステップは「フォーカスする」ことです。「フォーカス」とは、本来はカメラの焦点、ピントという意味です。その意味が転じて「フォーカスする」とは「鮮明でハッキリしたイメージを見せる」の意味になっています。
観察力の鍛え方で「フォーカスする」とは、物事の一つ一つに焦点(ピント)を合わせ、ハッキリとしたイメージをとらえるという意味で、言葉をかえれば注意深く観察するという意味です。
つまり観察力の鍛え方は物事を「フォーカスする=注意深くみる」ことからはじめ「ひとつずつクリアにしていく」ことです。「フォーカスする」という鍛え方から始めないといけないと言っているのです。
この「フォーカスする」ことを繰り返すうちに焦点(ピント)の合せ方の精度が上がり、観察力や洞察力が鍛えられていきます。鍛え方の第1ステップは「フォーカスする」力をつけることから始めるのが大切です。
類推する
フォーカスする精度が上がってきたら、次のステップの鍛え方は「類推(るいすい)する」ことです。フォーカスしてはっきりと見えてきたものが、周りに対してどのような影響を与えているのかを推理することです。
これには想像力とクリエイティブ力が必要になります。逆をいえば「類推する」ことは想像力とクリエイティブ力の鍛え方にもなるということです。人間関係でコミュニケーションする場合には「類推する」ことが必要不可欠な条件です。
類推(推理)した結果をもとにすれば、次にどのような行動をとれば良いかの判断ができます。つまり「フォーカス」⇒「類推」と順を追ったステップの鍛え方をすることで、次第に観察力が本物に近づいていきます。
フィードバックする
観察力の鍛え方の最終ステップは「フィードバックする」ことです。フィードバックとは、一度行ったことをもう一度振り返り確認することです。つまり「フォーカス」して「類推」したことが本当に正しいかどうかをもう一度確認することです。
この「フィードバックする」ことを怠ると、大切なことを見落としていることに気づかずに行動してしまい、失敗やミスにつながることがあります。
つまり観察力の鍛え方は「フォーカスをする」「類推する」「フィードバックする」の3つのステップを、本質を見落とさずに何度もくり返すことにより精度の高い観察力が身についていきます。
観察力と洞察力の違い
洞察力(どうさつりょく)という言葉は、この記事のなかでも何度か登場している観察力と非常によく似た意味を持つ類語です。しかし「観察力」と「洞察力」に違いがあるようには見えないのですが、どこに違いがあるのでしょう。
試しに例文で検証してみます。「植物学者のA教授は、百合の花の観察力では日本で右に出るものがいないと言われています」と言う文章の中の「観察力」のところに「洞察力」を入れ換えてみると、何故か違和感があり意味がしっくりきません。
どこかに違いがあるから違和感が出るのでしょう。確かに「花を観察する」とは言いますが「花を洞察する」とは言いません。それでは「洞察力」という言葉の意味を詳しく調べてみましょう。
洞察力の意味とは
洞察力の意味を辞書で調べてみると「物事を深く鋭く観察する能力」「物事の性質や原因を見極めたり推察したりするスキル」と出てきて「観察力」と意味の上ではさほどの違いはないようです。
しかし、前述の例文で検証したように、動植物の生態などの現象に対しては「洞察する」または「洞察力がある」とは言いません。
それに対し「心理や感情を洞察する」「人の心を読む洞察力に関して彼はずば抜けている」のように精神的なことには違和感なく使われます。つまり「観察力」と「洞察力」では観察する対象が違うのです。
目に見えない部分を見抜く力
「観察力」と「洞察力」の違いは、「洞察力」は心理や感情など「目に見えないものを見抜く能力」のことで、「観察力」は動植物の生態など「目に見える現象」と「目に見えない心理的なもの」の両方を見抜く能力のことです。
つまり「観察力」「洞察力」どちらも物事を見抜く能力なのですが、見抜く対象が「洞察力」の場合は、目に見えないものに限定されるところに違いがあります。
観察力を活かせる仕事
これまでの記事で紹介したように、観察力のある人は研究者や学者に向いています。向いているという表現より、研究者や学者には必要な能力と言えます。
社会には「観察力のある人」は大勢います。研究者や学者の他に観察力を活かせる職業にはどのようなものがあるのでしょう。「観察力のある人」が向いている仕事とはいったい何なのでしょう。
教育職
教育職とは、いわゆる学校や塾などで学生や生徒に教える先生や講師のことです。学者は研究をする人で、教育職(先生)は教える立場の人のことです。
人を教育するためには、知識だけでなく生徒一人一人の能力や性格を把握しなければ良い指導者とは言えません。それには観察力が必要になります。つまり教育者という仕事は観察力を活かせる職業です。
デスクワーク
事務や経理などのデスクワークは、会社の商品や金銭を管理し直接取引に携わる仕事です。会社全体の信用にも関わる神経を使う仕事です。
デスクワークは商品の管理、金銭の管理、収益など全体を総合的に見る目が必要となります。観察力のある人は客観的に物事を判断する力があるのでデスクワークでも良い仕事ができます。
また会社内では他の人と協力しながら仕事を進めるのでコミュニケーションも必要になります。観察力のある人はコミュニケーション能力が高いのでここでも力が発揮できます。
医療従事者
医師や看護師などの医療従事者は研究者と同じくらい観察力が必要な仕事です。人命に関わることもあるので医療現場でのミスは絶対に避けなければならないことです。
ミスを避けるためには細心の注意、つまり観察力が必要不可欠の作業現場です。また患者との円滑なコミュニケーションも治療には必要です。患者の気持ちや感情を汲み取ることができなければ治療をスムーズに進めることができません。
つまり医療従事者には観察力が不可欠のスキルです。逆をいえば観察力のある人の最も適した職業と言えます。
観察力は磨くことで役に立つスキル!
観察力は持っているだけでは何の役にも立ちません。観察力を磨いて実践することではじめて役に立つスキルです。ここまで観察力の意味や観察力のある人の特徴、鍛え方や磨き方を紹介してきました。
また観察力のノウハウにこだわると本質を見失ってしまうことなども紹介しました。これらの記事を参考にして正しい観察力を身につけて仕事に活かしてください。