社会保険とは?
会社に勤め始めると、社会保険が給与から控除されていることに気付きます。毎月勝手に給与から引かれていて、何のために支払っているのか?と疑問に思っている方もいらっしゃるでしょう。
「社会保険」と一括りに言っていますが、そもそも「社会保険」という保険はありません。では「社会保険」とは何なのかというと、労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金の4つを合わせた総称として使われている言葉です。
ただ、4つの保険が全て揃っていないと「社会保険」と呼ばないという訳ではありません。一般的には、健康保険と厚生年金のことを「社会保険」と呼ぶことが多いです。
仕事をする上で大事な保険
それぞれの保険は、加入の条件が異なっています。雇用条件によっては、加入する・しないが分かれることになります。しかし、どの保険も、働く上では大事な保険となります。
毎月勝手に給与から引かれていて、社会保険の名前は知っているけどどんな内容の保険なのか知らない、という方もいらっしゃるでしょう。そこでここからは、社会保険の種類や加入の条件などを詳しく解説していきます。
社会保険の種類と加入義務条件とは?
「社会保険」と言われている保険は、労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金の4つの種類に分けられます。このそれぞれ4つの保険は、制度の内容も違い、加入義務が発生する対象の範囲も違いがあります。
そこでここからは、それぞれ4つの保険についてどのような保険なのか、それぞれの保険の種類について説明します。また、それぞれの保険の加入義務の条件についても解説していきます。
①労災保険
労災保険とは、仕事中や通勤中に事故などで怪我をした時の保険となります。この保険が適用されるのは、「仕事中」という条件で発生した事故などであることです。お昼休憩などは、仕事中とみなされない場合もあります。
労災保険は、労働者のための保険です。労災保険が適用される事故などが、会社の過失でなくても、保険金は支給されることになっています。
全ての労働者に加入義務がある
そして、この労災保険は雇用条件に関わらず、全ての労働者に加入義務があります。会社側は、全従業員を加入させなければなりません。他の保険と違い、保険証などが発行されないので、自分が加入していることを知らない方もいらっしゃるかもしれません。
ただし、代表取締役や監査役などの労働者ではない役職の人は、労災保険の対象外となっています。労災保険は、会社で働く人を守るための保険となっています。
②雇用保険
雇用保険とは、働いていた人が職を失った時に失業手当を貰ったり、生活の安定を図りながら、再就職を支援するための保険です。
それに加え、育児のために会社を休んでいる際に受けられる、育児休業給付金や、介護休業給付金、教育訓練給付金など、労働者の生活を支えるための保険が、雇用保険となります。
パートでも条件次第で加入義務が発生
雇用保険は、企業に雇用される人全てに加入義務があります。正規雇用者だけのもの、と考えがちですが、条件によってはパートやアルバイトの人も雇用保険の加入義務があります。
雇用保険の加入義務条件は、1週間の所定労働時間が20時間を超えることと、31日以上雇用の見込みがあること、となっています。1日4時間以上で週5日以上働いていて、働く期限が定められていない人は、雇用保険に加入する義務があります。
③健康保険
日本では国民皆保険と言って、国民は全員公的医療保険への加入義務があります。病院にかかった時、費用が3割で済むのは、健康保険に加入しているからです。この公的医療保険は、会社員が加入する健康保険と、自営業者などが加入する国民健康保険があります。
会社員が加入する健康保険、つまり社会保険としての健康保険は、企業に勤務する従業員に加入義務があります。
条件に該当すれば加入義務がある
社会保険としての健康保険の加入義務条件は、会社に常時雇用するかどうかとなります。正規社員はもちろんですが、パートやアルバイトでも条件によっては加入義務があります。
パートやアルバイトなどの、短時間の勤務の人だとしても、労働時間が正社員の4分の3以上働いていれば加入義務があります。ただし、労働時間が4分の3未満でも、加入義務がある場合もあります。
働いている会社が、健康保険に加入している従業員数501人以上(500人以下の場合は労使合意が取れてること)で、1週間の労働時間が20時間以上で、1ヶ月の給与が88,000円以上、労働期間が1年以上見込まれていて、学生ではない場合は加入義務が発生します。
④厚生年金
国の年金の制度は、国民年金、厚生年金、共済組合の3つがあります。国民年金は、自営業者などが加入しているもので、厚生年金は会社員が加入しているものとなります。共済組合は、公務員などが加入している年金の制度です。
会社員が加入している厚生年金は、保険料を会社が半分負担しています。そのため、将来受給できる年金の金額は、国民年金を納めているよりも多くなります。
パートも条件に該当すれば加入義務が発生
厚生年金は、条件によってはパートやアルバイトの人も加入義務が発生する場合があります。厚生年金の加入義務条件は、社会保険としての健康保険と同様です。
勤務時間や勤務日数が、正社員の4分の3以上、もしくは労働時間が週20時間以上で月の給与が88,000円以上などの条件を満たしている場合は、厚生年金への加入義務が発生します。
個人の年収次第で社会保険加入義務が発生
社会保険と言われる保険は、4つの種類に分けられると紹介しました。労災保険は、働いている人であれば加入の義務が発生します。雇用保険・健康保険・厚生年金は、正社員のみではなく、パートやアルバイトの人でも、条件によっては加入義務が発生します。
その中でも、社会保険としての健康保険と厚生年金は、配偶者や家族の扶養内で働いている人は保険料を払う義務が発生しません。しかし、一定の年収を超えると保険料を払う義務が発生してしまいます。
パートやバイトの社会保険加入義務は年収「130万円」
パートやアルバイトの方は、年収が130万円を超えると、社会保険(健康保険と年金保険)に加入する義務があります。この年収の中には、残業代や交通費などの手当ての金額も含みます。
前述したとおり、会社の健康保険、厚生年金に加入する義務があるのは、労働時間・日数が正社員の4分の3以上ある人です。その場合は、保険料の半分を会社が負担してくれることになります。
しかし、上記に該当しない方で年収が130万円を超えている方は、個人で国民健康保険と国民年金に加入しなければなりません。会社の健康保険と厚生年金は、費用負担が会社と折半のため、個人の負担は半分で済みます。
しかし国民健康保険と国民年金は個人で加入するため、保険料は全額が個人負担となります。労働時間が4分の3に満たない場合は、年収の金額を調整した方が良い場合があります。
大企業では年収106万円を超えた時
ただし、年収が130万円に満たない方でも、年収が106万円を超えている場合は社会保険に加入する義務がある場合があります。社会保険に加入義務が発生する条件は、保険料を支払っている従業員が501人以上いる会社で働いているかどうかとなります。
その条件を満たし、なおかつ1年以上の雇用期間が見込めることと、週の労働時間が20時間以上あること、学生ではないことも条件となります。ちなみに、この場合の年収の中には、残業代などの手当ては含みません。
社会保険加入のメリットとは?
社会保険に加入義務が発生する条件について、それぞれの保険の違いも含めて紹介しました。ご家族の扶養範囲内でパートやアルバイトで働いている方も、年収次第では社会保険に加入する義務が発生します。
パートやアルバイトだから、社会保険に加入しなくていい、と考えている方も少なからずいらっしゃるでしょう。しかし、社会保険へ加入した方がメリットがある場合があります。ここからは、社会保険加入のメリットについて紹介します。
①労災保険加入メリット
労災保険は、働く人すべてに加入する義務があります。雇用形態に関わらず、労働者はこの保険に加入していることになります。
労災保険は、労働者が仕事中や通勤中に発生した事故や病気に適用される保険となっています。明らかに事故が起こりそうな職場ではない、と思っていても何が起こるかわかりませんので、加入しておけば安心です。
ケガや病気の補償が受けれる
仕事中の怪我や病気などに適用される保険ですので、仕事中に万が一怪我をしてしまった場合など、保険金が給付されることになります。
直接的に仕事が原因でなくとも(会社側の責任ではなくても)、労災保険が適用できる条件内であれば保険金は支払われます。基本的には就業中、会社へ通勤中、会社から自宅へ帰宅中に起こった怪我や病気に適用される保険です。
なお、お昼休憩中や、寄り道して帰宅した場合などは、適用範囲外となる場合もありますので注意してください。
②雇用保険加入メリット
雇用保険は、パートやアルバイトの方でも、週に20時間以上の労働時間で、31日以上勤める見込みであれば加入する義務があります。雇用保険は、従業員の生活を保障するために適用される保険となっています。
雇用形態に関わらず、働いている方の多くは、生活を支えるために働いていますので、万が一働けなくなった場合はとても困ってしまいます。
育児で仕事を休んでいる時には「育児休業給付金」が受給できます。家族の介護で仕事を休んでいる時には「介護休業給付金」が受給できます。
このように、何かの理由で仕事を休まなければならず、その間の給与がもらえない場合の生活の保障となるため、加入しておくとメリットがあります。
失業や転職の補償が充実
そして雇用保険のメリットとして、失業した際に「失業手当」が受給できる点もあげられます。失業してしまえば、もちろん給与は発生しなくなるため収入がなくなります。
すぐに次の仕事が決まっている場合は良いのですが、転職先が決まっておらず、無職の期間がある場合は生活が厳しくなってしまいます。
そこで、次の仕事が決まるまでの間に受給できるのが「失業手当」となります。生活に困窮することなく次の仕事が探せるように、生活の支援のための保険となっています。
また、失業手当を受給している人が、再就職が決まった際にも「再就職手当」が支払われる場合があります。さらに、再就職するために職業訓練を受ける場合にも「教育訓練給付」を受給することができます。
雇用保険への加入は、仕事をしている間に休まなければいけなくなった時の支援だけでなく、失業して再就職をする際にも支援が受けられるため、大変メリットがあると言えます。
③健康保険加入メリット
健康保険は、日本の国民は全員加入する義務があります。社会保険としての健康保険と国民健康保険では受けられない手当てがあります。
それは、怪我や病気で会社を休んでしまった時「傷病手当」が受給できることです。また、国民健康保険には「扶養」というものがありません。家族が増えれば、その分保険料も増える仕組みになっています。
しかし、社会保険としての健康保険は「扶養」という制度があります。家族の扶養に入っている人は、個人で健康保険料を支払う義務が発生しません。ただし、前述のとおり年収によっては、保険料を支払わなければいけないケースもありますので注意してください。
病院での自己負担額が減る
そして、社会保険としての健康保険も、国民健康保険も加入していれば病院での自己負担額が減ります。健康保険に加入していれば、自己負担は3割で済みますので加入するメリットはかなりあると言えます。
そして、社会保険としての健康保険の保険料は、会社側が半分負担してくれるので、個人の負担が半分で済みます。国民健康保険は、個人での加入となりますので、全額個人が負担となります。
④厚生年金加入メリット
そして、厚生年金も社会保険としての健康保険と同様に、会社側が保険料を半分負担してくれるため、個人の負担が軽くなるメリットがあります。
国民年金は保険料が決まっている代わりに、将来もらえる年金の額が少なくなってしまいますので、保険料を支払うなら厚生年金の方がメリットがあります。
将来の年金の準備が出来る
年金を支払うことは国民の義務となっています。支払い義務があるのであれば、厚生年金を支払っていた方が将来もらえる年金の金額は多くなります。
将来のことを考えるのであれば、国民年金ではなく厚生年金に加入していた方が、金額から考えても安心できるでしょう。厚生年金の加入条件に満たないパートやアルバイトの方は、労働時間などを見直すなど、できるだけ厚生年金に加入した方がいいかもしれません。
社会保険加入のデメリットは?
社会保険に加入するメリットを紹介してきました。一方、社会保険に加入するとデメリットがある場合もあります。それは、毎月の給与から社会保険料が引かれるため、手取り額が減ってしまうという点です。
今まで専業主婦であったり、家族の扶養に入っていてその範囲内で仕事をしていた方は、社会保険に加入することにより、個人が保険料を負担することになります。給与の金額と保険料によっては、加入する方が損をする場合もあります。
デメリットを考えて、年収の金額を抑えたりと、社会保険に加入する義務を回避する方もいらっしゃいます。毎月の手取りの金額は減ってしまうことになるため、デメリットとも言えますが、将来的なメリットも考えて検討した方が良いでしょう。
社会保険に加入しているのか確認する方法
社会保険について、社会保険の種類や加入義務の条件、メリットやデメリットについて紹介してきました。社会保険の加入義務がある場合は、保険料の支払いが発生しますが、様々な手当てを受けられるので加入しておくと安心できます。
そもそも社会保険に加入しているのかわからない、という方も少なからずいるでしょう。また、給与から保険料を引かれているから加入している、と安心していても、企業が社会保険に加入しておらず、社員から保険料を取っていたという悪徳な企業の例もあります。
自分が社会保険に加入しているかを個人で確認するにはどうしたら良いでしょうか。社会保険への加入を個人で確認する方法を紹介します。
①労災保険は労働保険適用担当
労災保険に加入しているかを確認するには、労働基準監督署の労働保険適用担当者に確認をする必要があります。
または、厚生労働省のホームページ上で、勤めている企業の事業主が労働保険(労災保険と雇用保険)に加入しているかが確認できます。都道府県と事業主の名前、または勤務先の所在地で検索できます。
②雇用保険はハローワーク
雇用保険に加入しているかを確認するには、ハローワークで確認する必要があります。お近くのハローワークで「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」を提出する必要があります。
雇用保険被保険者資格取得出確認照会票は、ハローワークで配布されていますが、インターネット上でも印刷して取得することができます。提出する際は、身分証明書が必要となりますので合わせて用意しておきましょう。
③健康保険は保険証の有無
健康保険の確認は、お手元に「健康保険証」があれば加入していることになりますので安心してください。
社会保険としての健康保険と、国民健康保険の違いは、社会保険としての健康保険の保険証は会社から配布されますが、国民健康保険は個人で役所で手続きをして役所から配布されます。
社会保険としての健康保険かどうかは、保険証が個人で手続きしたものなのか会社から配布されたものなのかで判断できます。
④厚生年金は年金事務所
厚生年金に加入しているかどうかの確認は、年金事務所へ確認する必要があります。お住まいの地域の管轄事務所へ、年金手帳か年金加入者証、年金証書を持参して確認します。
もしくは、日本年金機構から届く「ねんきん定期便」という書類上でも確認することができます。今まで納めてきた年金が、厚生年金なのか国民年金なのかが記載されていますので、確認してみてください。
社会保険に未加入だった場合には?
社会保険の種類別に、加入しているかどうかの確認方法を紹介しました。万が一の際に、保険金を受給しようと申請したけれど、社会保険に加入していなかったことが判明した!という場合は、どのように対処すれば良いのでしょうか?ここからは、未加入だった場合の対処の方法について紹介します。
条件を満たしていれば加入可能!
社会保険の加入には、保険の種類によって加入義務の条件が違ってきます。いずれの保険も、条件さえ満たしていれば加入する義務が発生します。
加入する義務があるのに、会社側が加入させるのを怠っている場合には、その保険を管轄する機関へ相談し、会社側に改善を促してもらう必要があるでしょう。会社側が労働者の保険料を不当に搾取している場合などは、損害賠償請求などができるかもしれません。
過去の未払いも支払い可能?
また、社会保険への加入義務の条件を満たしている方で、いずれかの給付金を申請した際に、社会保険への未加入がわかった場合、今まで未払いだった分の保険料を支払えば、すでに社会保険に加入していたとみなされる場合もあります。それにより、申請した給付金を受給できるようになります。
義務が発生していたら社会保険に加入しよう!
いかがでしたでしょうか。社会保険について、保険の種類や加入義務の条件などを詳しく解説しました。また、社会保険に加入するメリットやデメリットについても紹介しました。
個人の年収や勤務時間、勤めている会社の規模などによっては、社会保険に加入する義務が発生します。保険料を支払わなければいけないため、手取りの給与が少なくなってしまう可能性が出てきます。
しかし、社会保険に加入していれば受けられる手当てがあります。個人に万が一のことがあった場合や、あらゆる理由で会社を休まなければいけない場合、または失業した場合など保険金を受給することができます。
将来のお金を心配するのであれば、社会保険への加入は様々なメリットがあるため、加入義務の条件を満たしている場合は加入した方が良いでしょう。