「辟易」「辟易する」の意味とは?
「辟易」や「辟易する」は、日常会話ではあまり使わないかもしれません。そのため、「辟易」や「辟易する」という言葉に出会った時に、戸惑うことがあるでしょう。
「辟易」や「辟易する」は、日常会話よりもドラマや映画の台詞や、小説などの文章に現れることが多いかもしれません。例えば、夏目漱石や芥川龍之介の小説などの文学作品で使用されています。
そこで、「辟易」や「辟易する」という言葉に出会った時に、戸惑わないように、その意味から説明いたします。
「辟易」「辟易する」の意味
「辟易」は、「へきえき」と読みます。そして、一般的には、「辟易」の後に「する」を付けて「辟易する」という言葉で使用されることが多いです。「辟易」の「易」のように、「易」を「えき」と読む他の例としては、「貿易(ぼうえき)」や「交易(こうえき)」があります。
「辟易」の第一の意味は、「うんざりすること」や「嫌気がさすこと」という意味です。一般的には、この第一の意味で使用される場合が多いのではないでしょうか。
そして、「辟易」の第二の意味は、「相手の勢いに押されて尻込みすること」や「たじろぐこと」という意味です。
「辟易」「辟易する」の類義語
「辟易」には、上述のように、第一の意味と第二の意味があり、それぞれに対応する類義語(以下、類語という)が存在します。第一の意味に対応する類語は、「閉口」です。また、第二の意味に対応する類語は、「尻込み」です。
「辟易」の第一の意味に対応する類語の「閉口」は、「へいこう」と読み、「手に負えなくて困ること」や「どうしようもなくて困ること」という意味があります。
「辟易」の第二の意味に対応する類語の「尻込み」は、「しりごみ」と読み、「怖気づいて、あとじさりすること」や「ぐずぐずとためらうこと」という意味があります。
「辟易」「辟易する」の使い方・例文
以上のように、「辟易」「辟易する」の読み方、意味及び類語について説明してまいりましたが、お分かりいただけましたでしょうか。
次は、「辟易」「辟易する」の使い方・例文について、具体的に見て行きましょう。具体的な「辟易」「辟易する」の使い方・例文を見ることによって、よりいっそう理解が進むことでしょう。
例文①
「辟易」「辟易する」の使い方・例文①としては、芥川龍之介の「疑惑」という作品の冒頭近くにある次の文章を挙げることができます。
「元来地方有志なるものの難有(ありがた)迷惑な厚遇に辟易していた私は、私を請待(せいだい)してくれたある教育家の団体へ予(あらかじ)め断りの手紙を出して、送迎とか宴会とかあるいはまた名所の案内とか、そのほかいろいろ講演に附随する一切の無用な暇つぶしを拒絶したい旨希望して置いた」
ここにおける「辟易」は、第一の意味である「うんざりすること」や「嫌気がさすこと」という意味と考えられます。
例文②
「辟易」「辟易する」の使い方・例文②としては、夏目漱石の「硝子戸の中」という作品の「六」にある次の文章を挙げることができます。
「女は私の書いたものをたいてい読んでいるらしかった。それで話は多くそちらの方面へばかり延びて行った。しかし自分の著作について初見(しょけん)の人から賛辞(さんじ)ばかり受けているのは、ありがたいようではなはだこそばゆいものである。実をいうと私は辟易した」
ここにおける「辟易」は、第一の意味である「うんざりすること」や「嫌気がさすこと」という意味と考えられます。
例文③
「辟易」「辟易する」の使い方・例文③としては、夏目漱石の「二百十日」という作品の「二」の中にある次の台詞の文章を挙げることができます。
「そうして、ともかくも饂飩(うどん)を食うんだろう。僕の意志の薄弱なのにも困るかも知れないが、君の意志の強固なのにも辟易するよ。うちを出てから、僕の云う事は一つも通らないんだからな。全く唯々諾々(いいだくだく)として命令に服しているんだ。豆腐屋主義はきびしいもんだね」
ここにおける「辟易」は、第一の意味である「うんざりすること」や「嫌気がさすこと」という意味と考えられます。
例文④
「辟易」「辟易する」の使い方・例文④としては、夏目漱石の「草枕」という作品の「四」の中にある次の文章を挙げることができます。
「茶と聞いて少し辟易した。世間に茶人ほどもったいぶった風流人はない。広い詩界をわざとらしく窮屈に縄張をして、極めて自尊的に、極めてことさらに、極めてせせこましく、必要もないのに鞠躬如(きくきゅうじょ)として、あぶくを飲んで結構がるものはいわゆる茶人である」
ここにおける「辟易」は、第一の意味である「うんざりすること」や「嫌気がさすこと」という意味と考えられます。
例文⑤
「辟易」「辟易する」の使い方・例文⑤としては、中島敦の「光と風と夢」という作品の「三」の中にある次の文章を挙げることができます。
「後になって、彼も其の誤算に気付き、時として心服しかねる妻の批評(というより干渉といっていい位、強いもの)に辟易せねばならなかった。「鋼鉄の如く真剣に、刃の如く剛直な妻」と、或る戯詩の中で、彼はファニイの前に兜を脱いだ」
ここにおける「辟易」は、第一の意味である「うんざりすること」や「嫌気がさすこと」という意味と考えられます。
例文⑥
「辟易」「辟易する」の使い方・例文⑥としては、芥川龍之介の「奉教人の死」という作品の「一」の中にある次の文章を挙げることができます。
「これは矢玉の下もくぐつたげな、逞しい大丈夫でござれば、ありやうを見るより早く、勇んで焔の中へ向うたが、あまりの火勢に辟易致いたのでござらう。二三度煙をくぐつたと見る間に、背(そびら)をめぐらして、一散に逃げ出いた。」
ここにおける「辟易」は、第二の意味である「相手の勢いに押されて尻込みすること」や「たじろぐこと」という意味と考えられます。この第二の意味を知らないと、上記文章は充分に理解できないかもしれません。
「辟易」「辟易する」の語源
「辟易」は、漢語であり、語源があります。「辟易」の語源を知ることによって、より一層「辟易」についての理解が深まるのではないでしょうか。
「辟易」の語源を説明する前に、「辟易」における「辟」及び「易」の漢字の意味について説明いたします。
「辟易」における「辟」の意味
「辟易」における「辟」という漢字は、音読みでは「ヘキ」や「ヒ」と読み、訓読みでは「さける」などと読みます。
「辟」という漢字には実は沢山の意味があり、その一つとして、「さける」や「しりごみする」という意味があります。「辟」の他の意味としては、「罪」や「刑罰」という意味もあり、「大辟(たいへき)」という言葉が知られています。
「辟易」における「易」の意味
「辟易」における「易」という漢字は、音読みでは「エキ」や「イ」と読み、訓読みでは「やさしい」や「かえる」や「かわる」などと読みます。「易」を「エキ」と読む漢字の言葉としては、「貿易」や「交易」があります。
「易」という漢字にもいくつかの意味があり、その一つとして、「かえる」や「かわる」や「とりかえる」という意味があります。「易」という漢字の一般的な意味としては、「やさしい」や「やすい」という意味もあり、「容易」や「簡易」という言葉が知られています。
「辟易」「辟易する」の語源とは
「辟易」という漢字を構成する、「辟」という漢字の意味「さける」と「易」という漢字の意味「かえる」から理解されるように、「辟易」は、元々、「道を避けて場所を変える」という意味でした。このことは、司馬遷が書いた中国の歴史書である「史記」の記載に基づくといわれています。
「辟易」「辟易する」の英語表記
「辟易」や「辟易する」に対応する言葉は、英語にも存在します。次は「辟易」や「辟易する」の英語表記について説明いたします。
「辟易」の第一の意味の「うんざりすること」に対応する英語表記としては、例えば「be fed up with」があります。英語の例文としては、「I'm fed up with her long chatter.」(私は彼女の長いおしゃべりにうんざりする。)を挙げることができます。
また、「辟易」の第二の意味の「尻込みすること」に対応する英語表記としては、例えば「flinch from」があります。英語の例文としては、「He did not flinch from his danger.」(彼は危険から尻込みするようなことはしなかった。)を挙げることができます。
「辟易」は「うんざりすること」や「嫌気がさすこと」という意味
以上、「辟易」「辟易する」の意味、類語、使い方の例文、語源や英語表現を紹介してまいりました。「辟易」や「辟易する」は、主として「うんざりすること」や「嫌気がさすこと」という意味で使用されます。「辟易」「辟易する」という言葉を見聞きしても戸惑わないように注意しましょう。