傷病手当金とは
傷病手当金は、健康保険に加入している被保険者(労働者)の生活を一定範囲で保証するための制度です。労働者が、業務外の病気や怪我によって会社を休業する場合、又は退職後に、一定の条件を満たす場合に受給ができます。ここでは、その申請手続きや受給条件全般についてご紹介します。
入院等で仕事が出来ない期間の所得補償
傷病手当金は、業務外の理由による病気やケガで仕事ができなくなり収入が無くなった時に、収入の一定割合を手当金として支給するものです。なお、仕事が出来なくて収入がなければ、入院をしていることは必須条件ではありませんので、場合によっては自宅療養でも傷病手当金の手続きは可能です。
しかしながら、傷病手当金を受け取るためには、以下の通り所定の条件を満たした上で、正しく手続きを行う必要があります。
では、具体的に傷病手当金の支給条件を見ていきたいと思います。一つ目は、業務外の事由による病気や怪我であることです。傷病手当金は、仕事(業務)以外での病気や怪我による療養によって、仕事が続けられなくなった時に受け取ることが出来ます。
なお、その病気や怪我の治療に健康保険を使ったかどうかは問われません。従って自費治療も対象になります。いわゆる労災保険が適用される業務上の病気や怪我は対象になりません。「療養」とは、病気や怪我のために仕事が出来ない状態のことで、入院だけではなく、条件を満たした場合には自宅療養も対象になります。
二つ目は、病気や怪我による療養のために仕事が出来ないことです。病気や怪我の療養のために仕事が出来ないことが、傷病手当金の支給条件となっています。「仕事が出来ない」かどうかの判定は、傷病手当金の支給者である健康保険組合等が、その手続きの中で、医師の意見なども考慮しながら、受給申請者の仕事内容等を鑑みて毎回継続して行われます。
三つ目は、連続する3日間を含めて4日以上仕事が出来なかったことです。病気や怪我の療養のために仕事が出来なくなったら、すぐに傷病手当金が支給されるわけではありません。傷病手当金支給の対象になるのは、3日間連続して休み(これを待期期間3日間と呼びます)、その待期期間が成立した後の4日目以降からとなっています。
その待機期間3日間は、有給休暇、公休、欠勤のいずれでも認められます。留意点は、連続した3日間でなければならないことです。間に1日でも出勤した日があると待期期間のカウントには該当しません。
四つ目は、病気や怪我で仕事が出来ない期間に給与が支払われないことです。傷病手当金は、業務外の病気や怪我による療養が必要になり仕事が出来ない時、その療養期間の経済的負担を軽減するという生活保障の意味合いを持つ制度です。
会社によっては、その就業規則において、業務外の病気や怪我による療養によって出勤が出来ない場合でも、一定期間、定められた給与の支払いが行わることがあります。その場合には、傷病手当金は原則として支給されません。ただし、その支払われている給与額が、受け取るべき傷病手当金の金額よりも少ない場合には、その差額分が支給されます。
さて、傷病手当金が支給される期間はどれくらいなのでしょうか?傷病手当金の支給期間は、支給開始日を起算日として最長1年6ヶ月です。その起算日から1年6ヶ月間、療養をしている病気や怪我により仕事が出来ない日数分だけ支給されることになります。
仮に、その1年6ヶ月の間に、一時的にその病気や怪我の症状が改善して仕事が出来た場合には、その日数分の傷病手当金は支給されません。そして、1年6ヶ月を過ぎて仕事に復帰出来なかったとしても、傷病手当金の支給は終了することとなります。
最後に、支給される傷病手当金の算定方法についてです。傷病手当金の1日当たりの支給額は、支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額の平均額を出して、それを30日で割った金額の2/3と定められています。なお、標準報酬月額とは社会保険料を算出する時に使用するものです。
具体的な傷病手当金の計算式です。(支給開始前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額の平均額)÷ 30日×2/3=1日当たりの傷病手当金となります。なお、在職期間が1年に満たない場合には、別に算出方法が用意されています。
傷病手当金は退職後にも支給される?
傷病手当金は健康保険により支給される手当金ですが、退職後に被保険者でなくなっても、一定の条件を満たした場合には、退職後も受け取ることができます。退職後も傷病手当金を受け取れるケースは2つあります。
1つは、在職中に傷病手当金の支給が始まり、退職後も引き続き支給が継続するケースです。もう1つは、退職後に初回の支給申請手続きをして、退職後から傷病手当金の受給を開始するケースです。
傷病手当金は退職後も継続的に受給可能
つまり、傷病手当金は、在職中に業務外で病気になったり怪我をして、退職後もその病気や怪我によって継続して療養を必要とするために仕事が出来ない場合には、退職後も支給されるということになります。しかしながら、退職後も傷病手当金を受け取るためには、退職日まで継続して1年以上の健康保険の被保険者期間が必要です。
また、退職後の場合には、一日でも仕事が可能となり仕事をしてしまった場合は、その段階で傷病手当金の支給は打ち切りとなります。
傷病手当金・退職後に受給する条件
定年や予め期限を定めた労働契約等により退職が予定されていた被保険者が、退職前に業務外で病気や怪我により仕事が出来なくなってそのまま退職をする場合や、当初は退職の意思は持っていなかった被保険者(労働者)が当該病気又は怪我から回復が出来ずやむなく退職する場合など、退職をする理由は色々です。
以下に述べるように、所定の条件を満たした場合には、退職後も継続して傷病手当金を受給することが出来ます。
①健康保険加入期間が退職日まで1年以上
退職日まで継続して1年以上の健康保険の被保険者期間が必要です。期限を定めた労働契約に基づいて就労していた場合などには、別の健康保険組合に加入していた期間があるかもしれませんが、複数の健康保険組合を組み合わせて継続して合計1年以上の加入期間があれば大丈夫です。ただし、任意継続被保険者期間はカウント出来ませんのでご注意ください。
②傷病による休業が連続3日以上
在職期間中に業務外の理由で病気や怪我になり、退職日前に、連続して3日以上仕事が出来ないという理由で休んでいる待期期間があり、退職日までその病気や怪我が継続している必要があります。なお、待期期間が成立していても、退職日に半日でも出勤をしてしまうと支給要件が成立しなくなりますので注意してください。
③退職日に傷病手当金を受給している・受給できる状態である
この条件は理解をするのがやや難しいのできちんと理解してください。傷病手当金は、退職後も受け取ることができますが、その支給要件となる業務外の病気や怪我は、あくまでも在職中のものである必要があります。具体的には以下のような条件に該当することが必要です。
一つ目は、在職中に傷病手当金の初回の手続きをして、退職日に傷病手当金を受給している場合です。すなわち、退職日にも仕事が出来ない状態であることをいいます。ですから、退職日に半日でも出勤をしてしまうと、退職後に継続して傷病手当金が受給出来なくなってしまいます。
二つ目は、在職中に傷病手当金の支給条件は満たしていたけれども、何らかの理由で、在職中に初回の申請手続きをしていなかった場合です。すなわち、退職日まで給与等が会社から支給されていた、又は有給休暇を使っていた、あるいは、他の給付金が支給されていたことが想定されます。
他の支給されている給付金として考えられるのは、出産手当金です。これは女性に限りますが、何かしらの理由で退職日に出産手当金を受給していることが考えられます。
女性の方は、出産直前の体調状態が悪かったり、出産に伴い病気に罹ったりして、本来は復職するつもりが結果的に退職をすることになってしまったという方がいると思われます。そのような場合には、健康保険組合から既に出産手当金が支給されているケースがあります。
2つのケースに共通しますが、当然ですが、傷病手当金の支給期間が残っていることが必要です。退職日時点で1年6ヶ月が経過していない場合に、退職後も継続して傷病手当金の支給を受けられます。
傷病手当金・退職後の申請手続き方法
会社に在職をしている時は、大抵の会社には人事・労務を管掌している部署があり、その部署で初回及び2回目以降の傷病手当金の支給手続きをやってもらえるはずです。しかしながら、退職後は、その手続きはすべて自分で行わなければなりません。その場合の手続きですが、2つのケースが考えられます。
一つ目は、会社に在職中に初回の支給手続きは完了しており、退職後も継続して傷病手当金を受け取る場合で、二つ目は、会社に在職中に初回の手続きをしていなかったため、退職後に傷病手当金の初回の手続きをしなければならない場合です。
最初のケースでは、既に初回の手続きを終えているため、一通りの手続きを本人も経験しており比較的スムーズに退職後の支給手続きが出来ると思われます。
二つ目のケースでは、初回の手続きを被保険者であった自分自身で行わなければならないため、総務人事などの業務に慣れていない人は少し面倒に感じるかもしれません。その場合には、初回の手続きをする健康保険組合の担当者に、詳しく手続きについて教えてもらうことが出来ますので、きちんと問い合わせをすることをお勧めします。
①在職中に傷病手当金を受給している場合
申請書は、在職中に使っていたものと同じ「健康保険傷病手当金支給申請書」を使います。大規模な健康保険組合であればホームページからダウンロードして入手ができます。被保険者記号・番号は在職中と同じものを記入することになっています。在職中は会社に記載をお願いしていた勤務状況や、賃金内訳等の部分は必要ありません。
併せて、在職中は添付を要求されていた事業主が用意する各種証明も必要ありません。ただし、その申請書の申請期間が退職日をまたぐ場合には(つまり在職中を含む場合)、退職日までの部分については、在職中と同様に事業主の記載と証明が必要になります。
②退職後初回で傷病手当金を申請する場合
退職後に初回の傷病手当金の支給手続きをすることになりますが、使う書類は2回目以降と同様で、「健康保険傷病手当金支給申請書」を使用することになります。申請書は、在職していた会社が加入している健康保険組合に提出をして、審査を受けることになります。この場合には、初回の手続きに限って事業主記入欄を会社に記入してもらう必要があります。
具体的な記載の仕方を説明します。まずは、傷病手当金申請書の「被保険者記入欄」に本人が必要事項を記入します。そして、「療養担当者記入欄」は治療を受けている医師に記入を依頼します。また、「事業主記入欄」は退職をした会社に記入を依頼します。この場合、必要な添付書類がありますので、健康保険組合に何が必要か確認をして貰ってください。
申請書の記入が完成したら、健康保険組合に書類を提出します。提出は本人でも会社でも構いません。申請書が届くと、健康保険組合は傷病手当金支給の可否について審査を行います。承認の場合は「支給決定通知書」が、不承認の場合は「不支給決定通知書」が本人に届きます。承認された場合には、初回の傷病手当金が本人の銀行口座に振込みされます。
2回目以降の申請には事業主記入欄は必要ありません。本人が必要事項を記載し、医師に記入をお願いする「療養担当者記入欄」の記入をして、健康保険組合に提出をすることになります。
傷病手当金・社会保険料の支払いは必要?
退職後に傷病手当金を貰っている間は、仕事が出来ない状態です。傷病手当金は、働いていた時の給与よりも金額が少ないですし、病気や怪我での通院加療のために、何かとお金がかかる状態が続いているはずです。さて、傷病手当金を貰っている期間は、各種保険料、すなわち国民年金保険料や国民健康保険料又は任意継続健康保険料は免除されるのでしょうか?
受給中も支払いの必要あり
残念ながら、傷病手当金を貰っているということを根拠にして、国民年金保険料や国民健康保険料などの保険料等が免除されるということはありません。
つまり、年金については国民年金に加入をして、健康保険は、国民健康保険に加入するか、以前の職場で加入をしていた健康保険組合の任意継続被保険者になるかの選択をすることになります。
しかしながら、国民年金については、経済状態が厳しい場合には、その保険料の減免制度があります。病気から回復をして、その減免制度を受けた期間の保険料を遡って支払うことも出来るので、保険料の支払いが出来ない時には、市役所などの担当者に相談をすることをお勧めします。
傷病手当金は労働者にとって大切なセーフティネット
人生100年の時代と言われています。長い人生の中で、病気や怪我をしてしまったことで人生の歯車が狂ってしまう人がたくさんいます。社会保障制度には、生活保護や障碍者年金などいくつかのセーフティネットがありますが、傷病手当金は、健康保険料を収めている労働者がいざという時に使える心強い制度です。
日頃は、高い保険料に不満を感じている人も多いと思いますが、万が一の場合、民間保険の医療保険に加入をして別に保険料を払っていなくても、業務外の病気や怪我の療養中にこのような手当金を受け取ることが出来るわけです。
しかしながら、この傷病手当金の存在を知らない人が多いのが現実です。いざという時のために、自分自身と家族の生活を守るためにも、この傷病手当金のことは正しく理解しておくことをお勧めします。
傷病手当金は退職後にも受給可能なので必ず申請しよう
傷病手当金は、退職前に業務外で病気や怪我になってその療養が退職後も継続する場合、支給要件を満たしていれば、その受給を希望する本人が手続きをすることが出来ます。しかしながら、その支給要件が若干複雑であり、退職日に出勤をしてしまっただけで受給できなくなるなど留意点が必要です。ぜひ、この記事で傷病手当金の概要を理解してください。