「請書」の意味とは?
「請書」とはいったい何を指すのでしょうか。「書」とついているので何かの文書であることはわかるでしょうが、読み方や使われている漢字からはどういう書類か想像つきません。「請書」はビジネスシーンでは比較的よく使用される書類となりますので、意味を確認しておきましょう。
承ったことを相手に伝える文書
「請書」は、「承った旨を記して相手に差し出す文書」を意味します。「承る」とは「受ける」ということです。つまり「請書」は「承諾書」に当たります。
契約が成立するためには、発注者と受注者の意思表示が必要ですが、「請書」は受注者の意思表示を表したものとなります。
ちなみに発注者の意思表示を記した文書には「申込書」や「発注書」「注文書」といった呼び方がされます。
「請書」の由来
「請書」の由来ですが、江戸時代では「請状」といって、請け人が仕事を引き受けた旨を記して発行した文書がありました。要するに「仕事をきちんと行います」という誓約書です。
それが今では「請書」と呼ばれるものとなりました。「請書」自体はそれほど日常生活で頻繁に使用される言葉ではありませんが、ビジネスや官公署の契約では「請書」が必要となる場面が多々生じます。
「請書」の特徴
このように「請書」は、受注者が「仕事を引き受けること」を発注者に対して宣言するためのものですが、ビジネスシーンでなぜこういった文書が使用されるのでしょうか。「請書」の特徴について見てみましょう。
誓約書として使用
契約が成立するためには、上述したとおり、発注者の「申込」と受注者の「承諾」が要件となっています。請書は「承諾」を表す書面ですので、「請書」は一方的に提出することができる書類です。
したがって「請書」が提出されているからといって契約が成立したことにはなりません。つまり、請書は契約書としての役割を果たすものではないということです。
しかし、契約の成立を証明するものでなくても、仕事を引き受ける旨の宣言はされていますので、実際に契約が成立したといえるのであれば、「請書」は受注者が「仕事をきちんとこなしますよ」という誓約書として機能するものとなります。
強制力がない
上述したとおり、「請書」は一般的には契約書としての役割を果たすものではありません。受注者の意思表示は確認できますが、発注者の意思は確認できないからです。
契約書としての役割を果たさないということは、「請書」を根拠に発注者(受注者も)は仕事を強制することができないということになります。
もし、書面を根拠に約束事項を強制させたいと考えるのであれば、「請書」ではなく契約書を作成すべきです。契約書では、発注者と受注者の署名(記名)・押印により意思表示が確認できます。それに対し、「請書」では受注者の署名(記名)・押印しかされないという違いがあります。
軽微な契約で使われることが多い
ビジネスシーンにおいては、すべての取引で契約書が作成されるわけではありません。世の中には口頭の契約というものも数多く存在しています。
すべての契約を強制力を持たせて締結するのは煩雑です。簡単に履行できてしまう契約で書面を交わすのは手間なので省略したいところです。しかし、きちんと契約の履行を確保したいという事情が発注者側に働くことがあるでしょう。
そのような事情から、「請書」は基本的には発注者側の都合で受注者に作らせることが多いといえます。金額が大きく、重要な取引の場合には契約書が作成されるでしょうが、そうでない比較的軽微な契約の場合は「請書」で済ますことも多いようです。
請書が必要とされるケースの例
では、実際に「請書」が必要とされているのはどういったケースなのでしょうか。国や地方自治体などの官公署を相手に行う契約では書面主義ですから、「請書」が必要とされるケースがあります。
官公署(国)の契約事務取扱規則では、「契約担当官等は、契約書の作成を省略する場合においても、特に軽微な契約を除き、契約の適正な履行を確保するため請書その他これに準ずる書面を徴するものとする」とされています。
なお、会計法施行令では、金額が150万円以下であれば契約書の作成を省略することができることとなっています。しかし、その場合でも「請書」またはこれに準じる承諾書の作成が原則として必要というわけです。
請書の読み方
ここまで「請書」について記載してきましたが、口頭でのやり取りでは「請書」の読み方が問題となることがあります。「請書」の読み方は「うけしょ」です。「せいしょ」という読み方は間違いです。読み方を間違えると恥ずかしいので注意しましょう。
一方読み方を覚えた人がパソコンなどで「うけしょ」と入力してうっかり「受書」と変換して文書を送ったりする人もいます。きちんと「請書」と変換するようにしましょう。
なお「請書」にはその役割に応じて「注文請書」「業務請書」「請負請書」の種類がありますので確認しておきましょう。
「注文請書」の意味と読み方
「注文請書」は、発注者や注文主が送ってきた「注文書」に対して、その注文内容を承ったことを伝えるために提出する「請書」となります。読み方は「ちゅうもんうけしょ」となります。「注文請書」は「注文書」と一体となって、「注文書」の下部に記載する形で使われることもあります。
「業務請書」の意味と読み方
「業務請書」は主に委託契約など相手に一定の業務をしてもらう契約において、発注者が依頼する業務内容に対し、その業務を行うことを伝えるために提出する「請書」となります。読み方は「ぎょうむうけしょ」となります。
「請負請書」の意味と読み方
「請負請書」は主に請負契約などについて、注文主が依頼する請負業務の内容に対して承ったことを伝えるために提出する「請書」です。読み方は「うけおいうけしょ」です。
なお、委託と請負は実務上違いを意識して使われる言葉ではありませんので、「業務請書」も「請負請書」も明確に使い方が分かれているわけではありません。
請書の日付
「請書」に記載する日付はいつになるのでしょうか。上述したとおり、「請書」は承諾した旨の意思表示なので、承諾をした日付(通常、書類作成日)を記載するのが通常です。
ただし、発注者の都合で「請書」の提出が求められるケースがあります。その場合は、発注者から日付が指定される場合もあり、承諾した日付が書類作成日と同じになるわけではありません。例えば、将来の日付が指定されたり、過去の日付が指定されることもありますので注意が必要です。
請書の収入印紙
「請書」には収入印紙が必要でしょうか。契約書ではないのだから「請書」には収入印紙は要らないのではないかという意見もあります。実際のところ、「請書」の収入印紙の取り扱いはどうなっているのでしょうか。
収入印紙とは何か
そもそも収入印紙とは何なのでしょうか。収入印紙とは、課税文書に対して課される税金を納めるため、文書(課税文書)に対して貼付される切手のような印紙を指します。課税文書には様々な種類のものがありますが、契約書や保険証券、手形などがその代表例です。
請書に収入印紙は必要か
「請書」に収入印紙は必要であるかどうかについては、印紙税法の基本通達で、名前を問わず、実質的に契約の成立を証明する書面に該当するものには収入印紙を貼る必要があると規定されています。
具体的には、「注文書」とともに「請書」が存在しており、「請書」が「実質的に契約の成立を証明する書面」であると考えられる場合には、「請書」は印紙税法上の課税文書として、収入印紙を省略することはできないとされています。
収入印紙の金額
「請書」に貼る収入印紙は、記載された契約金額が基準となります。例えば、記載された契約金額が100万円の場合は印紙税額が200円となり、150万円の場合は印紙税額は400円です。なお、記載された契約金額が1万円以下の場合は、0円(非課税)となります。
請書の省略
「請書」は上述のとおり、一方的に受注者が提出することができる書類ですが、実質的には発注者からの「注文書」への返事として提出されるものです。
したがって、「請書」を省略することができるかどうかといえば、一般論としては可能です。全く返事をしなければ注文を受けないという黙示の意思表示にもなりますし、口頭で仕事を引き受ける旨の返事をすることもあるからです。
その場合でも有効に契約が成立したことになります。ただし、発注者から書面で「請書」の提出を依頼されることもありますので、その場合は「請書」を省略できないということになります。
国の契約の場合
先に紹介した国の契約事務取扱規則の規定をもう一度見てもらいたいのですが、契約担当官等は「特に軽微な契約を除き」請書その他これに準ずる書面を徴するものとされています。
したがって、特に軽微な契約の場合は「請書」の省略が可能ということになります。なお、「特に軽微な契約」の取り扱いは、発注する省庁によって異なるようですが、100万円以下としている例が多いようです。
請書の書き方
「請書」の書き方がわからない、どういったことを記載すればよいだろうかという声がよく聞かれます。誰からのどういった仕事を引き受けるかが記載されていないことには仕事が特定されないので「請書」の意味をなさないということは一見すればわかるでしょう。
「請書」の書き方がわからないという人のために、ここでは「請書」に記載すべき事項について紹介します。
請書の記載事項
「請書」には「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」「書類作成者の氏名又は名称」「取引年月日」「取引内容(品名、数量、納期等)」「取引金額、支払方法、支払期限」「署名(記名)・押印」を記載しましょう。
契約書の記載と変わらない内容が規定されており、これらが過不足なく記載されていれば契約書としての役割を果たすといえるでしょう。わからない場合は、契約書の書き方を参考にするのもよいでしょう。
書き方:書類の交付を受ける事業者の氏名・名称
「書類の交付を受ける事業者」とは「請書」の提出先ですから、発注者になります。「発注者」と頭書きし、「甲株式会社 代表取締役 乙野太郎 様」とか「丙株式会社 経理課 御中」のように記載します。
文書の受領者名を記載したものですから、「書類の交付を受ける事業者の氏名・名称」は省略することはできません。
書き方:書類作成者の氏名・名称
「書類作成者」は「請書」の作成者ですから、受注者になります。「受注者」と頭書きし、「甲株式会社 経理課長 乙野三郎」のように受注権限のある人の氏名を記載します。
こちらは文書の発信者名を記載したものですから、「書類の交付を受ける事業者の氏名・名称」も省略することはできません。
書き方:取引年月日
「取引年月日」は解釈の余地が多い表現ですが、通常は承諾の日付を記載します。注文(申し込み)がすでになされていて、承諾により契約が成立しますので、承諾の日付が原則として契約日ということになります。
実際には文書を作成した日付を記載すれば問題はありませんが、発注者からの指定の日付があればそれに従います。日付が間違っているとのちのちトラブルとなることがありますので注意しましょう。
書き方:取引内容
「取引内容」は承諾した仕事の内容です。「〇〇株式会社製の○○製品5台の納品」とか「パンフレット1000部の作成」のように記載します。どの仕事を受けたのかを明確にしておかないと後日トラブルが生じることもあります。
「依頼のあった業務」のような漠然とした記載ではなく、取引の内容を明確に記載しておくことが必要です。
書き方:納品期限・納品場所
「納品期限」は、いつまでに仕事を行えばよいかということです。これが決まっていないと発注者としてはいつまでも催促することができません。
「納品場所」はどこに仕事を納めるかということです。商品で簡単に持ち運びできないようなものになると、せっかく納品したはよいがあとで別の場所に移動させる手間が生じますので、事前に確認しておく必要があります。
なお、継続的に取引を行っている場合には、「納品期限・納品場所」は記載を省略することもあります。
書き方:取引金額・支払方法・支払期限
取引金額や支払い方法、支払期限はお金に関することであるので重要であり、トラブル防止の観点から事前に記載しておくことが必要です。
とりわけ、取引金額はいくらで受注(発注)するかということであり、契約を締結するか否かを左右する重要な事項です。
請書の注意点
上述したとおり、「請書」は一般的に少額の取引で発行されることが多い書類です。しかし、契約の成立を証明する書類となりうるものです。
契約書の作成は煩雑でもあり、これを省略して「請書」で済まそうという要請が働くのは確かです。必要な事項が記載された請書を発行することにより、トラブルの防止を未然に図ることができます。
請書は承ったことを伝える文書という意味
「請書」について紹介しました。日々、ビジネスシーンでは契約が頻繁に成立しています。トラブルの防止には書類で記録を残すことが大切です。円滑に契約が進むよう、「請書」の書き方や使い方をマスターしましょう。