クサフグは素人が扱うには危険な魚!
たいていの人はフグと聞くと毒を持つ魚、また、美味しい高級魚というイメージを持っているのではないでしょうか?
砂に潜る習性があることから、別名スナフグ(砂河豚)とも呼ばれるクサフグ。名前のとおり、クサフグはフグの仲間であり、毒性があります。
しかし、一般的に食用として知られるトラフグなどと比べると毒が含まれる部位が異なり、素人が調理するには本当に危険な魚です。
クサフグが持つ毒性について、また、人間が体内に毒を摂り込んでしまった場合どのような症状を引き起こすのかなどについて詳しく説明したいと思います。
クサフグの毒はどれくらい強力?
通常、トラフグなどの食用のフグというのは、内臓や皮を取り除き、血をしっかり洗い流しさえすれば身は安心して食べる事ができます。
しかし、クサフグは違います。クサフグの場合、内臓に毒を有しており特に肝臓、腸、卵巣の部位は毒性が強いのですが、皮にも多くの毒があるのが特徴です。微弱ながら筋肉にも含まれています。
いくら内臓を取り除いたとしても皮と身の部分にも毒が含まれている以上安易にさばいて食べることなどできません。命の危険が伴うため、素人が自己判断で調理をしてはいけないということを覚えておきましょう。
なぜ毒を持っているのか?
フグは毒を持つ生態というのは昔から知られています。小さいフグほど猛毒だとも言われます。ではなぜフグは体内に危険な毒を持つのでしょうか?
毒を持つ生物は地球上に多く存在し、その中には捕食のために毒を持つ生態と外敵から身を守るために毒を持つ生態がいます。
フグについては自己防衛のために毒を持つと考えられていますが、自ら体内で毒を作り出しているわけではありません。生まれたばかりのフグは毒は持っていないことが発見されています。
餌としてテトロドトキシンを多く含んだヒトデや貝などの海洋生物をフグが食べる事によって体内に毒が蓄積されていくのです。興味深い生態です。
毒名はテトロドトキシン
フグの猛毒と呼ばれる「テトロドトキシン」。クサフグにも含まれている大変危険な毒です。人間が口から摂取した場合の致死量は1~2mgで、これは青酸カリのなんと850倍ほどの毒性となります。
しかも、このテトロドトキシンの特徴として、熱に非常に強く300 ℃以上に加熱しても分解されない点がこわいところです。熱を加えたからと言って毒性が消えるわけではないので注意が必要です。
このような猛毒を皮や筋肉にも含んでいるクサフグ。非常に危険なため、本来は食べるべきではなないのですが、高級で美味しいと言われるフグの一種ですから魅了される方がいても不思議ではありません。
クサフグの毒からくる症状
テトロドトキシンは、人間にとって重要な神経伝達機能を阻害してしまうという特徴があります。そのため、脳からの指令が届かなくなり、麻痺や呼吸困難といった症状を引き起こします。
解毒剤や特効薬なども存在しません。フグ毒は症状の進行が早いため、もしこの猛毒を口にしてしまった場合は直ちに病院で処置を受けることが重要です。
フグ毒による中毒症状は、早ければ食後30分ほどで発症しますが、通常は数時間で症状が現れます。この中毒症状は、臨床的に4段階に分けられますので詳しく見ていきましょう。
中毒症状は大きく分けて4段階
第1段階は、吐き気や嘔吐をもよおします。また、口や指先の痺れが起こり歩行が困難となります。頭痛や腹痛を伴う場合もあります。
第2段階は、痺れから体を動かすことが困難となり、ろれつが回らなくなります。酩酊状態と間違われることがあるので判断に注意が必要です。
第3段階は、麻痺が全身に及び、言葉を発することが困難な状態になります。また、著しく血圧が低下し、呼吸することが困難となります。
第4段階は、徐々に意識がなくなり呼吸ができなくなります。呼吸が停止した後、しばらくは動いていた心臓がやがて停止し死亡に至ります。
クサフグの生態や特徴
猛毒を抱えながら生きるクサフグ。そんなクサフグの生態を詳しく見ていきましょう。また、どのような特徴があるのかも気になるところですので紹介します。
見た目だけからすると”小さくてかわいらしい”という印象を持つクサフグ。体長は10~25cmほどで手のひらに乗るくらいのサイズです。よく見ると全体に小さな棘のようなものがついています。
お腹は白く、背中は深い緑色で白い斑点模様をしているのが特徴です。背色が草と似た色をしていることからクサフグと呼ばれています。威嚇するとぷくっと膨らみ丸っこくなる特徴があります。
泳ぎ方は他のフグ科の魚と同様に、胸びれ、背びれ、尾びれをパタパタと羽ばたかせるようにして泳ぎます。
クサフグは観賞魚にもなる
クサフグの生態として毒を持つ危険な魚ではありますが、見た目の愛らしさから観賞魚として飼われる方もいます。
まん丸い目をして口をパクパク動かすしぐさがかわいらしく、パタパタ泳ぐ姿は見ていて飽きません。口から毒を吐き出すなどということはありませんので鑑賞魚として自宅で飼ってみるのもよいかもしれません。
釣り人の間では嫌われ者
フグは海にいるイメージが強いかもしれませんが、クサフグは海水魚でありながら淡水にも生息する生態です。
生息範囲が広く淡水にも現れることから、釣り人がクサフグを釣り上げる光景は珍しくありません。季節を問わず釣れるのですが、特にクサフグの産卵時期である5月~8月にかかることが多いようです。
しかし、クサフグを釣ることを目的としている釣り人はほとんどおらず、むしろクサフグは釣り人にとっては邪魔な存在として敬遠されています。
すぐにエサに食いつき、ルアーや釣り糸などの釣り道具まで食いちぎってしまうのです。しかも、毒性が強いため釣っても調理して食料にすることもできないのですから、釣れて嬉しいはずがありません。
日本各地で見ることができる
クサフグの生態として生息範囲が広いと述べましたが、日本では北は北海道から南は沖縄まで全国各地に生息しています。その他、朝鮮半島南部、中国大陸南部などにもいます。
日本各地では主に浅い岩礁や砂地に多く生息しています。また、クサフグは他のフグと同じくそれほど素早く泳くことができないのですが、流れの速い河川にものぼっていきます。
命がけでわざわざ淡水に向かう理由については謎が多いのですが、皮膚についた寄生虫や細菌を真水で洗い落とすためと考えられています。
クサフグの命がけの産卵
先に述べたようにクサフグの産卵時期は5月~8月です。その産卵行動は、他の魚と比べると変わった特徴があります。
新月や満月のときに、大群で波打ち際に押し寄せて産卵するのです。産卵前に何匹かのクサフグが産卵場所が安全かどうかを確かめたうえで、一斉に産卵が始まります。
メスが卵を産み落とし、そこにオスが一斉に放精し受精が行われるのです。波打ち際に集まった無数のクサフグが、陸際に上がり激しく体を動かしながらバシャバシャ水しぶきを上げて卵を産む姿はとても過酷です。
8~9日ほどで孵化しますが、そのほとんどは他の魚に食べられて死んでしまいます。ちなみに、サケのように産卵後に命尽きてクサフグが死ぬわけではありません。
クサフグを調理して食べることはできる?
フグといえば冬が旬なので、寒い季節にフグ料理なんて最高です。ただ気軽に手が出ない高級料理でもあります。やはり「ふぐ刺し」は見た目も美しく贅沢な一品という感じではないでしょうか。
そんなフグの仲間であるクサフグ。同じ毒を持つクサフグを調理して食べることは可能なのでしょうか?
毒性が強く、お店で出てくるフグとは異なり、皮にも毒があるため絶対に食べてはいけない魚だと思うかもしれませんが、正しく毒の処理をすることで食べることができます。
クサフグの身は淡泊でクセがなくとても美味しいため、実は様々な方法で調理することができるのです。
食べる場合は専門の人に頼もう!
さて、クサフグが美味しいと分かったところで決して調理しようなんて思ってはいけません。自分でさばいて調理する釣り人もいると聞きますが、安易に調理するのは非常に危険なのでやめましょう。
クサフグは体が小さく食べられる身の部分も少ないので、なおさら知識のない素人がさばくのは困難であり、大変危険なのです。
クサフグをはじめフグを調理できるのは、各都道府県が定めた「ふぐ調理師免許」を持っている専門家だけです。専門家の方であればさばき方や調理方法を熟知しているので、安全に調理してもらえます。
なお、筋肉に微量に毒が含まれていると先述しましたが、食べる分には影響はありません。ただ、食べ過ぎには十分注意が必要です。
参考までにクサフグがどのような工程でさばかられるのか、動画を載せてみました。実際に動画の中でさばいている方はふぐ調理師の免許を持っている方です。無免許の方は絶対に真似してはいけませんので要注意!
クサフグの美味しい食べ方
クサフグには猛毒があり、市場にも出回っていないため、食用としての認識が薄く普段食べる機会がほとんどありません。
ただ、プロの手にかかればクサフグも安全に食べられると分かれば、どうしてもクサフグの調理方法や美味しい食べ方が気になるところです。
クサフグの身はトラフグと同様に身がプリッとしまっていてクセがなく淡泊でおいしいので、実は様々な調理に適しているのです。
一般的にフグ料理と聞いて一番に思い浮かぶのがふぐ刺しでしょうか。フグ料理はその他にも色々美味しい食べ方があるのです。
みなさん興味があるところだと思いますので、クサフグにどんな調理方法や食べ方があるのかさっそく紹介していきたいと思います。
鍋
クサフグと言ってもフグの一種なので普通のフグと変わらない料理を楽しむことができます。それではクサフグの美味しい食べ方について具体的に紹介していきます。
まずは、冬の定番鍋です。クサフグは汁ものにしても大変美味しいです。クサフグの身は変にクセがない魚なので、鍋に入れる野菜との相性もばっちりです。
トラフグや普通の白身魚と同じ感覚でお好みの具材を鍋に入れて楽しみましょう。雑炊もおすすめです。
刺身
クサフグ料理として続いておすすめするのはお刺身です。フグ料理といえばふぐ刺しと言っても過言ではないほど誰もが知っているフグ料理です。
ただ、なかなか値が張る高級料理でもあります。そんな高級料理が簡単に釣れるクサフグで食べることができるのです。
クサフグは小ぶりで食べられる部分も少ないので、1匹で刺身にできる量は多くありません。それでもうすく切ってお皿に並べるとフグ刺し同様美しく贅沢な一品の料理になります。
もちろん味も美味しいです。プリプリした食感で食べ応えがあります。日本酒と一杯なんて素敵ではないでしょうか。
揚げ物
定番人気の唐揚げ。クサフグでも美味しく作れます。しつこいですが、クサフグは熱を通したからと言って毒が弱まるわけではないので唐揚げといえどさばくのは免許資格者の手にゆだねましょう。
作り方はかんたんです。普通に鶏の鳥唐揚げを作る要領でクサフグに醤油や生姜で下味をつけ、片栗粉をまぶし油でこんがり揚げます。レモンを絞ったりポン酢で食べると美味しいです。
味に特徴はないですが、クサフグの身はやわらかい割に歯ごたえがあり、噛むとジューシーでとても味わい深いので食べる機会があればぜひ召し上がっていただきたいです。
やってはいけない料理
ここまでくればみなさんにもお分かりいただけたかと思いますが、クサフグには毒があり食べるにしても取り扱い注意の魚です。
クサフグの美味しい食べ方を紹介してきましたが、絶対やってはいけない調理がありますのでこちらも紹介します。
まずは「ひれ酒」。これは炙ったひれを熱燗に入れたものです。クサフグの皮・ひれには毒がありますからこれは絶対にやってはいけません。
また、最高級のフグ料理とも言われるフグの白子焼き。トラフグの白子は毒とは無縁ですが、クサフグは毒がありますので絶対食べてはいけません。
専門家によってさばいてもらえば何も心配はないのですが、通常のフグとは異なり調理してはいけないものがあることを覚えておくとよいでしょう。
クサフグは危険なため素人の扱いは避けよう!
フグの一種であるトラフグについて、生態や特徴、美味しい食べ方などを紹介してきましたが、少しは理解していただけたでしょうか?
ひれをパタパタさせ泳ぐ姿が愛らしいクサフグですが、体内には猛毒を潜んでいることをお分かりいただけたことでしょう。
簡単に釣れてしまうなじみの深い魚だからといって、安易に自宅に持ち帰って素人調理するなんてことをしてしまいそうですが、危険なので絶対にやめましょう。
過去には釣り人が自分でさばいて食べた挙句に中毒を起こし命を落としているケースも多くあるのです。
クサフグは、ふぐ調理師の資格を持ったプロの方がさばくからこそ食べられる魚であるため、それを踏まえたうえで興味がある方は食してみるとよいでしょう。