「折衝」の意味とは?
「折衝」の読み方は「せっしょう」です。「折衝」という言葉は日常で使うことはあまりありませんが、外交や政治の世界ではよく使われる言葉です。なので、私達がこの言葉を耳にするのはテレビやラジオのニュースがほとんどではないでしょうか。
「折衝」の意味は「外交など公の場での交渉における相手との談判、かけひき」です。ここにあるように、使われることが多いのは公の場であって、個人での交渉には使われません。
ただ、ビジネスシーンでは「折衝」という言葉は時々使うことはあるため、「折衝」の意味や使い方についての正しい知識を持っていないと、使い方を間違えて相手に不快感を持たれたりするなどのトラブルになることがあるので注意が必要です。
「折衝」の由来
「折衝」は中国から来た言葉です。言葉の由来はただ単に知識を得るというだけでなく、意味を理解する上で、また、正しい使い方を知る上で必要です。
「折衝」のそれぞれの文字ごとの意味と、その組み合わせの「折衝」の意味は何でしょうか。まず、「衝」には「突く」という意味があり、孔子の「相手が衝いてきた矛先を折る」からきた言葉とされています。
言葉の由来のように、相手が攻めて来る状況から、「折衝」にはお互いが対等な立場ではなく、衝突するような関係においての交渉の意味を含まれています。
「折衝」の特徴
「折衝」の意味には「折」という字がついている通り、「折り合いがつかず」という意味を含んでいます。つまり、お互いの意見が合わない場合に、折り合いをつけることを目的に話し合いをすることを意味します。そんな「折衝」の特徴について紹介します。
「折衝」はお互いの妥協点を見つける意味
「折衝」の意味には折り合いがつかない双方の妥協点を見つけ、折り合いをつける意味があると紹介しましたが、これはお互いの立場が違うために起こる状況です。
身近なところでは、春闘における経営者と組合との交渉です。賃金における交渉では、経営者はできるだけ低い引き上げ率を望んでいて、一方で組合は少しでも高い引き上げ率を望んでいて、そこには立場による隔たりがあります。
このように立場の異なる両者が業績や世の中の動向を加味した上で折り合いをつけて決着するための交渉、これがいわゆる「折衝」の本来の意味です。
「折衝」も「交渉」も英語では"negotiation"
「折衝」を英語にすると、"negotiation"ですが、「交渉」もまた英語では"negotiation"となっています。ではこの2つに当てはまる英語の"negotiation "はどのように区別して日本語に置き換えるのでしょうか。
同じ英語の"negotiation"でも、日本語にする場合は、文章における前後の意味によって区別します。"negotiation"=「折衝」あるいは"negotiation"=「交渉」のように理解していると、状況に合わないおかしな日本語に翻訳されます。
「折衝」の類語とその意味
「折衝」は英語では「交渉」とも同じ"negotiation"でしたが、この「折衝」の類語には「折衝」の意味の説明のところでも出てきた「交渉」をはじめ、「協議」や「談判」などが挙げられます。
これらの類語はすべて「相手と話し合って、共通の結論を出す」という意味では同じですが、その使い方には状況により異なります。
使い方の違いは、話し合いを始める時点での「立場」や「考え方」の違いの有無です。お互いの立場や考え方が違う場合に使うものや、立場や考え方が同じ両者における話し合いを意味するものなど、それぞれに使い分けられます。
ここではそれぞれの類語の意味を説明し、どのような場合に使われるのかの区別について説明します。ぜひ、これらの言葉の違いを知識として覚えてください。
「折衝」の類語~「交渉」との意味の違い
「折衝」の類語でまず挙げられるのは「交渉」です。「交渉」は折衝の意味の説明でも使われ、さらには折衝の代わりに使われることもあります。
「交渉」の意味は「話し合いによりお互いが合意して取り決めを行うこと」です。「折衝」との一番の違いは、「折衝」はお互いが折り合いをつけるのに対して、「交渉」はお互いの意見が一致して取り決めを行う点にあります。
「折衝」の場合でもあえて「交渉」という言葉を使うことがありと言いましたが、例えば先に挙げた春闘の例でも、春闘の記事等を見ると「団体交渉」などと、「折衝」という言葉はあまり使われておらず、「交渉」が使われています。
これは「折衝」という言葉が対立しているという印象を経営者に与えかねないために「交渉」を使っているというのは両方の言葉の意味り、その上で知識として知っておくのも大切です。
「折衝」の類語~「協議」との意味の違い
もうひとつ、「折衝」の類語として挙がるのが「協議」です。「協議」は「折衝」や「交渉」とはまた異なった意味合いを持っています。
「折衝」や「交渉」は利害関係が一致しない相手との話し合いを行うという意味に対して、「協議」に含まれる意味は、そのような条件はなく話し合いによって合意を得ることを意味します。英語では"discussion"で、まさに「話し合う」ことを意味しています。
同じ目的・目標を達成するための方法などを決定する話し合いが「協議」にあたります。そこには特に利害関係は発生しないのが普通です。
「折衝」の類語~その他の類語と「折衝」の意味の違い
「折衝」のその他の類語には「談判」、「渉外」などがあります。これらの類語と「折衝」との意味の違いや使い方について、少し紹介します。ちなみに「談判」は英語で"controversy"ですが、"negotiation"の使い方もあります。また「渉外」は英語で"public relations"です。
まず「談判」の意味ですが、これも話し合いをして結論を出すという意味では大きく変わりませんが、話し合いのきっかけが、「事件やもめ事」である場合に使われます。
また、話し合いの結果「結論を出す」と言いましたが、もっと的確な表現をすれば、「決着をつける」と言った方が良いかもしれません。
もうひとつの類語、「渉外」の意味は「連絡・交渉すること」ですが、他と違うのは交渉する相手が「外部(外国)」であることです。ビジネスにおいても使われることがありますが、本来の「外部」という意味から会社外、つまり営業職を意味することが一般的です。
「折衝」の使い方
「折衝」の意味や由来、特徴についてこれまで説明してきましたが、実際にどのような使われ方をしているのでしょうか。
ここでは例文を挙げて、「折衝」の使い方を紹介します。どのような場合に使われるのかという知識を持ち、実際の例文を見ることによってイメージが湧いていただければ幸いです。
例文①
ビジネスシーンでもっともポピュラーな使い方がされているのは、主に他社(顧客や取引先など)とのやり取りをする営業職です。
「営業職に就いた彼は、日々取引先との折衝に奔走している」のように、顧客や取引先などを対象に交渉することを指しています。
例文②
「彼は他の社員より高い折衝力を持っている」のように実際に折衝する人のスキルを示すのに「折衝力」が使われます。取引先と自社の双方の思いをうまく取り入れて、交渉後にわだかまりが発生しないようにできる、「高い折衝力」は社員の評価をする上でよく使われます。
例文③
「折衝」は「駆け引き」の意味でも使われます。お互いの到達点が異なる状況においての「折衝」には「駆け引き」が必要になる場合があります。
このことを示す言葉として、「対人折衝」があります。この「対人折衝」にはお互いが折り合いをつけるというよりも、物事が自分にとって少しでも有利になるように「駆け引き」をすることを示しています。
例文としては「彼は対人折衝力が高いので、他の社員よりも高い利益を得ている」のように、同じ折衝でも駆け引きの上手い人に向けて使う意味の言葉です。
例文④
「折衝」という言葉がよく使われるのはやはり国と国との交渉、すなわち外交のシーンです。外交においてもビジネスと同様、妥協点は自国に出来るだけ有利になるようなところにしたいものです。
「何度も折衝を重ねた結果、我が国の要求は概ね相手国に認めてもらえた」という例文のように、国と国の間で実施される話し合いに使われるのが一般的です。
「折衝」の注意点
「折衝」という言葉は日常的にはあまり使われないと説明しましたが、ビジネスの上では稀に使われることもあるので、使う際には十分な知識を持っていないと失敗することがあるため、注意を要します。
「折衝」の類語のところで「交渉」や「協議」について説明したように、それらの意味と「折衝」との意味の違いから注意すべき点があることを以下に紹介します。
「折衝」は利害関係が前提
「折衝」の意味はあくまで利害関係があって、どこに妥協点を求めるか(折り合いをつけるか)を話し合いによって求めることです。
しかし、相手との折り合いをつけなければならない場面で「折衝」というと、相手から「自分とは違う考えを持っている」と思われ、警戒されるもとになることもあります。
なので、折衝の場では「折衝」という言葉は使わずに、「交渉」を使う方がベターだという知識を持っておくことも大切です。
「折衝」は「双方が納得する」という意味
「折衝」について意味や特徴、使い方を紹介してきましたが、「交流」や「協議」などの類語との違いを理解して、状況に応じて使い分けられるような知識が得られれば幸いです。
政治や外交の場で使われるのは直接自分たちに関係しませんが、様々なビジネスシーンでは使うことのある言葉でもあります。ビジネスの上ではお互いが利害関係があって、双方の折り合いをつけることが必要になるケースが多々あります。
そのような「折衝」において、うまくまとめることができる人は、いわゆる「折衝力」がある人と言えるでしょう。折衝力がある人がうまくまとめることによって、お互いの妥協点を見つけ、納得のいく結論が導き出せます。
つまり、「折衝」とは「折衝力のある人によって、双方が折り合い、納得させること」という意味と言えるでしょう。