矜持の意味とは?
矜持を漢字レベルで分解してみると、「矜」はもともと矛、という意味になり、江戸時代には武士が戦の武器として日常的に使っていました。
武士にとって矛は選ばれた侍以外には使うことが許されない特別な武器であり、矛を使うことそのものがひとつの誇りという意味があったと言われています。
また、持つという言葉は手にして保つ、という意味があり、このことから矜持は、「誇りをつねに保って生きている様子」を意味する言葉として使われるようになりました。
仕事に矜持を持つ、生き方に矜持を持つ、などのように、矜持はポジティブな意味を持ち、また、そのような生き方をしている人そのものを表す意味としても使われています。
矜持の由来
前述のように、矜持は江戸時代に語源を持つ言葉です。矜持のもともとの意味は、「武士にとって誇りである矛を後生大切にして生きる」ことであり、現代ではプライドと同じ意味で使われています。
矜持はほとんどの場合、持つ、抱く、といった動詞をともなって使われることが多く、「矜持を持っていきたい」、「矜持を持って生きたほうがいい」などの使い方が主流になっています。
一般的に「矜持がある人」といえば、自分の中に確固とした信念があり、つねにぶれない人、という意味が含まれています。
矜持の類語と意味
矜持は、ビジネスやかしこまったシーンでは比較的よく使われますが、日常会話としては意外と意味や使い方がわかりにくいかもしれません。
ここでは、類語の意味と使い方、例文を通して、矜持の意味や使い方についてより詳しく掘り下げていきましょう。
類語①プライド
矜持を英語で言い換えるなら、プライドが最もふさわしい表現になります。「プライドを持つ」と「矜持を持つ」は表現としてはほぼ同じ意味になりますが、日本語と英語ではニュアンスが異なります。
プライドを持つ、といえば日常会話ではややフランクな意味になり、信念や理念などのほか、単に得意な領域や分野、という意味にもなります。
一方、矜持を持つ、のほうは意味的にもかしこまった面があり、表現としては「人生において最も大切な部分」というニュアンスが込められています。
このあたりの意味的な違いを理解していなければ、海外の方と会話をする際に思わぬすれ違いが起きてしまいますので、正確な意味にも注意が必要です。
類語②誇り
矜持と同じ意味の表現を日本語で探すのであれば、誇りが挙げられます。したがって、「仕事に矜持を持つ」を「仕事に誇りを持つ」という表現に置き換えてもほぼ同じ意味になります。
また、矜持も誇りも名詞として使うことができますので、たとえば「これが私の矜持です」などという使い方も可能です。
矜持では意味やニュアンスとして多少堅苦しく伝わりにくいかな、と感じる場面では誇りのほうを使うとやわらかい印象になるでしょう。
類語③自信
矜持という表現には誇り、プライド以外に、自信という意味も含まれており、「自信を持って生きる」などの使い方ができます。
自信を持って生きることはつまり、誇りを大切にして生きることです。本当の意味で自信を持って生きるためには人間としての誇りが不可欠であり、すなわちそれが矜持のある人生につながります。
ただ、この場合の自信は根拠のない自信では不充分であり、経験や実績にしっかりと裏打ちされてこそ、真の意味で矜持を持って生きることになるのです。
類語④信念
人生経験が長くなるほど、ライフサイクルの中でさまざまなイベントが起き、その都度、異なった選択を迫られます。
人生のターニングポイントに立たされた時、本当の意味で支えになるのは信念です。自分自身の中で確固たる信念を育んでいれば、予期せぬ分岐点の際にも迷うことなく、後悔のない道を選び取ることができます。
反対に、自分の中に信念がなければ分岐点の度に惑わされることになり、進むべき道を見失いかねません。「矜持を持って生きる」とは、「信念を大切にして生きなさい」という意味なのかもしれません。
ことわざにも同じ意味がある?
「武士は食わねど高楊枝」とは、武士たるもの実利よりも信念や意地、プライドを持って生きるべきだ、という意味の表現です。
武士である以上、どんなに貧しくて日々の食べ物に困っていたとしても、人前ではしっかりと食事をすませているかのようにゆとりある仕草で食後の爪楊枝を使って見せなさい。
つまりはそれこそが武士としての本分であると、このことわざは教えているのです。世代によっては、学校でも国語の授業などで習っているかもしれません。
なお、高楊枝の意味を「高級な楊枝」と覚えている方もいるようですが、それは意味の誤用であり、間違った使い方ですので注意しておきましょう。高楊枝は高いびき、高笑いと同じ意味になります。
矜持の対義語と意味
矜持の対義語表現としては、どのような言葉が挙げられるのでしょうか。類語表現と合わせて対義語の意味と使い方をしっかりおさえておくことでしっかりおさえておくことで、日常で使いこなせるようにしておきましょう。
対義語①付和雷同
付和雷同とは、「信念がなく、周囲の意見に流されやすい様子」という意味のある表現で、「彼の意見はつねに付和雷同で一貫性がない」という使い方になります。
基本的にはネガティブな意味になりますが、政治家や難しい折衝など、上京によってはあえて付和雷同のような態度を見せることによって意見を通りやすくする、という意味合いもあります。
対義語②風見鶏
慣用表現としての風見鶏は、風向きに合わせてコロコロ意見や態度を変えてしまう人、という意味のある言葉です。亡くなった中曽根康弘氏が現役の頃、政治信条が見えにくかったことから風見鶏と揶揄されていました。
なお、本来の風見鶏は刻々と変わる風向や風量を正確に計測するためのものであり、重要な意味と役割があるのにネガティブな意味で使われるのは、ちょっと可哀想な気もします。
対義語③唯々諾々
唯々諾々とは要するに「言いなり」という意味で、どの人のどんな意見にも深く考えずに同意し、考えを受け入れてしまうという意味の言葉です。ややネガティブな使い方になります。
言いなり、というといかにもマイナスのイメージがあるかもしれませんが、必ずしも責められることではなく、シチュエーションによってはいったん相手の意見を無条件に受け入れ、その場をおさめることが得策につながる場合もあります。
矜持の使い方
類語や対義語を機械的に暗記しただけでは、矜持を言葉として使いこなすことはできません。ボキャブラリーを定着させるにはトレーニングが必要です。矜持を使った例文から意味と使い方について詳しく掘り下げていきましょう。
例文①
「長い人生で最後に自分を支えてくれるのは、若い頃から培った矜持なのだよ」。矜持は決して、自分自身を縛りつける枷になってはいけません。
矜持とはむしろ、ターニングポイントにおいて思い悩んだ時の道しるべになるべきものであり、若い頃からの経験や失敗が確固たる矜持となり、自分自身を支えてくれます。
例文②
「多少厳しくとも、自分が信じたものを子どもに矜持として教え込むことが父親の務めだ」。父親は時として、子どもにとって大きな壁であり、敵として立ちふさがります。
しかし、それこそが父親の務めであり、父から受けた教えがやがて、子どもにとって揺るぎない矜持として育っていくのです。
例文③
「君を裏切らないことが自分にとって唯一の矜持であったと、亡くなった親友は遺書の中で書き遺した」。これこそが自分の矜持だとはっきり言える人がどれだけいるでしょうか。
本当の意味の矜持とはわかりやすいものではなく、亡くなった後に周囲の人たちにじんわりと伝わっていくものなのかもしれません。
例文④
「これだと思う矜持をあえて持たないことこそが僕の矜持、なんて、ちょっとキザすぎるかな」。言葉遊びのような例文です。矜持とは本来無理してつくるものでも、他人から押しつけられるものでもありません。
矜持とは、ふと気づいた時に内面に芽生えているものであり、ことさらに言い募っては価値が薄れてしまうことを、この例文は教えてくれています。
矜持とは「誇り・プライド」という意味
矜持とは江戸時代に語源のある言葉で、誇り、自信、プライドという意味があります。矜持を持つ、矜持を抱く、などの使い方があり、フォーマルな場面で使われる言葉として知られています。
ビジネスでもよく使う言葉ですので、あらかじめ例文と正しい意味、使い方を把握し、日常語としてしっかりと使いこなせるようにしましょう。
表面的な意味だけでなく、類語や対義語も合わせておさえておくことでよりいっそう使い方が広がり、ボキャブラリーが増えていきます。