「恐縮です」の意味とは?
「恐縮です」の「恐縮」は「恐(きょう)=おそろしい、おそれ入る」という漢字と「縮(しゅく)=ちじむ」を組み合わせた熟語なので「恐ろしくて身がちじむ(すくむ)状態」という意味になります。
しかし日常会話やビジネス文書などでは、単独で「恐縮」を使うことはなく「恐縮です」または「恐縮ですが」のような使い方をします。しかも本来の「恐縮」とは少し違う意味合いで使われます。
「恐縮です」の場合は、相手から厚意を受けた時に感謝を表す意味、または「おそれ入ります」という意味で使います。例えば「先日は過分なるおもてなしを頂き、誠に恐縮です」「私のようなものがこの賞を頂けるとは、思いもよらず恐縮です」の例文のように表現します。
また「恐縮ですが」の場合は、意味や使い方が少し変わり「失礼を承知の上ですが」「身分をわきまえずに」のようなニュアンスになり、前置きの言葉として使われます。
例文では「誠に恐縮ですが、ご回答を明日までに頂けますでしょうか」「誠に恐縮ですが、この提案に何卒ご理解とご協力を頂ければ幸いです」のような使い方をします。
つまりつまり「恐縮です」は、本来の「相手におそれ入って、身がちじむ思い」という意味を、相手へのお礼や感謝の気持ちを表現する意味合いで使う言葉です。
「恐縮ですが」は、本来の「身がちじむ思い」に近い意味合いで、失礼を承知の上で身がちじむ思いですが、と相手に許しを乞う意味合いで前置きとして使います。多くの場合「恐縮です」は文章の最後に、「恐縮ですが」は文章の前に使います。
「恐縮ですが」の対義語・類語
対義語とは、反対の意味や使い方をする言葉で反対語とも呼ばれます。いっぽう類語とは、似た意味を持ち同じような使い方をして言い換え表現になる言葉のことで、類義語または同義語と言います。
「恐縮ですが」は「失礼を承知の上で身がちじむ思いで」という意味で、相手に対してへりくだりながら丁寧に許しを乞う表現なので、対義語は反対に謙遜しないで大胆という意味を含んだ言葉になります。それでは「恐縮ですが」の対義語と類語を紹介します。
対義語
「恐縮ですが」の対義語とは反対の意味を持つ言葉で「大胆」「不敵」「横柄」「横暴」「横行」「大胆不敵」「堂々と」「抜け抜けと」「無敵」「勇ましく」「毅然と」などたくさんあり数え切れません。
どの言葉も「相手に対して恐れを少しも感じない態度」を表現したり、そのニュアンスに近い意味を持ち「恐縮ですが」の反対を表現するので対義語と呼ばれます。数ある対義語の中から主なものを3つほど選んで、意味や使い方を紹介します。
「大胆不敵」の意味
大胆不敵(だいたんふてき)の「大胆」とは、肝(きも)が大きいと書き良い意味では「度胸がすわっている」「思い切りよくやってのける」ですが、悪い意味では「図々しい、図太い」ことを表現します。
「不敵」とは「敵を敵とも思わない」「乱暴で無法なこと」という意味で、この2つの言葉を組み合わせた「大胆不敵」は意味が強調され、良い意味では「敵を敵とも思わないほど度胸がすわっている」ことを表現し、悪い意味では「図々しく乱暴で無法な振る舞いをする」になります。
「恐縮ですが」は控えめな敬意を表す言葉なので、対義語になるのは後者の悪い意味「図々しく乱暴で無法な振る舞いをする」になります。
しかし「恐縮ですが」には度胸を持ってというニュアンスは含まれていないので、前者の「敵を敵とも思わないほど度胸がすわっている」の意味も「恐縮ですが」に相反するところがあるので、対義語になり得る部分があります。
例文で検証するとよくわかります。「彼は商談の席で、大胆不敵な発言をして得意先を怒らせてしまった」の場合は悪い意味の方で、相手を思いやらず乱暴な発言という意味の「大胆不敵」です。
「彼女は今回の提案に対して、大胆不敵にも反対意見を出し、結果的にはリスクを回避することができた」の例文では、図々しい発言ではあるけれど度胸のすわった彼女に救われた、と良い意味と悪い意味の両方がある表現です。
簡単に言い換えると「大胆不敵」は、良い意味では「堂々として度胸があること」、悪い意味では「図々しくふてぶてしい」の両方の意味を持っている言葉です。
「横柄」の意味
横柄(おうへい)は「押柄」「大柄」とも書き「威張って人を無視した態度をとること」「無遠慮で無礼なさま」という意味があります。「恐縮ですが」とは明らかに違うので対義語に数えられています。
では横柄なとはどんな態度のことでしょう。例えば会社で上司にミスを指摘された時に「そんなミスを犯すリスクがあることは最初に説明してください」のように責任を転化する言動は横柄な態度の典型です。
また「お客様からクレームに対して、それは自己責任と言わんばっかりの担当者の横柄な態度に腹が立ちました」の場合は、相手の意見を無視して平然としている横柄な態度です。
つまり「横柄」は相手の言葉を無視して恐縮する態度がないという意味で対義語になっています。横柄は好ましい態度ではありませんが、日常生活の中で無意識に行っていることが多いのです。
例えば喫茶店などで店員に「砂糖が足りないからもう一つ持ってきてくれ」「このコーヒーぬる過ぎるだろ、直ぐ取り替えろよ」などと上から目線でよく言います。
店員と自分との人間関係では上下はありませんが、客というだけで上から目線で横柄になってしまいます。このように「横柄」とは人間としてはマイナスイメージの態度ですが、無意識のうちに「横柄」になっていることが多々あるので注意しましょう。
「堂々と」の意味
「堂々と」が何故対義語になるのか疑問に思う方が多いのではないでしょうか。確かに「堂々と発言する」「堂々と行動する」のようにポジティブな表現が多く見られます。
しかし「恐縮ですが発言します」の意味は、自分の力はまだまだですが、あえて失礼を承知の上で発言しますと自分の評価を下に見ています。「堂々と」の場合には、自分がこれから発言する内容には自信があるという意味を含んでいます。
つまり「堂々と」には「恐縮ですが」のへりくだった表現と相反する積極的な一面があるから対義語になるのですが、もう一つ根本的な違いがあります。
「恐縮ですが」には相手の心情を思いやる気持ちが込められています。「堂々と」にはその心情は全くありません。だから対義語に数えられると言えるのではないでしょうか。
しかし「恐縮ですが」は、相手に対して敬意を持ってへりくだっはいますが「あえて申し上げます」のように積極的に「堂々と」と同じ意味合いも持っています。
つまり「恐縮ですが」と「堂々と」とは、対義語でありながら類語にもなる可能性がある言葉です。反対の意味があるからと言って、そのまま鵜呑みにしておろそかには出来ないという実証例です。
類語
「恐縮ですが」の対義語がたくさんあるのですから、当然類語もたくさんになります。類語は同じような意味を持っていて「恐縮ですが」の言い換え表現になる言葉です。
しかしその意味や使い方には「恐縮ですが」とは微妙な違いがあります。それでは「恐縮ですが」の類語の中から主なものを選んで、意味や使い方、違いなどを言い換えた例文などで紹介します。
「僭越ながら」の意味
類語の「僭越ながら」の「僭」という字は「身分不相応におごる」という意味を持っています。その「僭」を越えるのですから「僭越ながら」は「身分や立場を越えた出過ぎた行為ですが」という意味になります。
「僭越ながら」は大勢の人の前で発言する場合や、スピーチや挨拶などで「僭越ながら申し上げますが」のように前置き表現としてよく使われます。「身の程をわきまえずに申し上げますが」という意味です。
「恐縮ですが〜」も同じように前置き表現として「失礼は承知の上で〜」と使う言葉で「僭越ながら〜」と非常によく似ていて言い換えとしても使えるので類語になっています。しかし微妙な違いがあります。
例文で検証してみましょう。「僭越ながら、意見を言わせていただきます」を「恐縮ですが、意見を言わせていただきます」に言い換えるとどことなくニュアンスが違います。
また宴席などで「僭越ながら、乾杯の音頭をとらさせていただきます」はよく使われる言い回しです。これを言い換えた「恐縮ですが、乾杯の音頭をとらさせていただきます」はあまり使いません。
これは「恐縮ですが」は文語的な表現なので、話し言葉やスピーチに使うと威圧的で堅苦しいイメージになり違和感が出てしまいます。
つまり「恐縮ですが」は文章などで多く使う文語表現で、「僭越ですが」はスピーチなどの話し言葉で多く使われる口語表現のところに違いがあります。このように違いを見つける場合は場面に合わせて言い換えてみるとよくわかります。
「お手数ですが」の意味
類語の「お手数ですが」は「手間をかけさせて申し訳ありませんが」という意味です。ビジネスで「恐縮ですが、来週までに参加の有無をご回答いただければ幸いです」はよく使われる文面です。
この例文を「お手数ですが、来週までに参加の有無をご回答いただければ幸いです」に言い換えても違和感がありません。言い換え表現ができるので類語になります。
しかし「恐縮ですが」は自分をへりくだることで相手に敬意を表す敬語です。「お手数ですが」は相手に手間をかけることを気遣って敬意を表す丁寧語です。
つまり言い換えはできても立ち位置が違います。「恐縮ですが」は自分を下に置くことで敬意を表し、「お手数ですが」は相手を上に置くことで敬意を表しているところに微妙な違いがあります。
「申し訳ありませんが」の意味
類語の「申し訳ありませんが」は相手に対してすまないという気持ちを含んだ言い回しです。また前述と同じ例文を使って「申し訳ありませんが、来週までに参加の有無をご回答いただければ幸いです」と言い換えても違和感がなく問題ないので類語になります。
しかし「恐縮ですが」にも相手に対してすまないというニュアンスがありますが、「申し訳ありませんが」ほどその気持ちを前面に出して表現していないところに微妙な違いがあります。
また「申し訳ありませんが」は相手に対して何かを依頼するときに多く使われる言葉ですが、「恐縮ですが」は依頼する場合にも使いますが「感謝の意」を表すときにも使用します。つまり使い方の用途に多少違いがあります。
「痛み入ります」の意味
「痛み入ります」は、相手の親切や厚意に対して感謝を表現する言葉で「お心遣い痛み入ります」のように文章の後につけて使います。「恐縮ですが」の類語というより「恐縮です」の類語になります。
「お心遣い痛み入ります」を「お心遣い恐縮です」に言い換えても意味は同じで違和感がありません。しかし「お心遣い恐縮ですが」とは使いません。「お心遣い恐縮至極です」または「お心遣い恐縮の至りです」のように「ですが」をとって使います。
このように言い換え表現として類語には、使い方やケースによってしっくりくる場合と微妙な違和感が出る場合があります。これらを参考にして「恐縮ですが」の意味を確かめてください。
「恐縮です」「恐縮ですが」の使い方・例文
「恐縮です」と「恐縮ですが」では使い方が少し違います。「恐縮です」は、文章の最後に使い、厚意などに対する感謝の意味合いで使う場合が多い表現です。
また「恐縮ですが」の使い方は、お願いや依頼をする場合に前置き表現として使う場合が多い表現です。それではそれぞれの使い方を例文で紹介します。
例文①「恐縮です」
「恐縮です」は厚意などに感謝の意を表す場合に使う表現なので、例文では「先日はわざわざ自宅までお送り頂いて恐縮です。おかげで寒い中を歩かずに済んで助かりました」
「会議で私のようなものにまで、発言の機会をくださり恐縮です」のような使い方をします。これらはして頂いた行為や行動に対する感謝やお礼の意です。
「先日の送別会ではたくさんの花束を頂戴して恐縮です。今も花瓶に飾って思い出に浸っております」「私が英語を勉強したいとお話ししたら、早速参考書を送っていただき恐縮です」この例文は物やプレゼントを頂いた時に感謝を表す使い方です。
このように「恐縮です」は感謝やお礼を表現しますが「これから発言をしたいと思っていますが、恐縮です」のようにこれから起こることや未来に対しては使うことができません。すべて過去に起きたことに対する感謝やお礼を表現します。
例文②「恐縮ですが」
「恐縮ですが」の場合は、過去に起きたことには使いません。これから起きることや行動しようとすることに対して使う表現なので、文章の前に置いて使います。
「が」が付くと付かないとで、これほど意味や使い方が変わる言葉も珍しいです。例文では「恐縮ですが、先方に着いた時点で電話を私まで頂けますか?」「恐縮ですが本メールにて返信をいただければ助かります」
「誠に恐縮ですが、本日の時点でまだお返事を頂いておりません。万が一案内文が届いていないようでしたらご連絡ください。再送いたします」などの例文のように、相手に何かを依頼する場合に「恐縮ですが」を使います。
また「この度はパーティーにお誘いくださりありがとうございます。スケジュールの都合がつかず、誠に恐縮ですが欠席させて頂きます」
「せっかくご提案をいただきましたが、誠に恐縮ですが、検討の結果今回は却下させていただきます」の例文のように断る場合に「申し訳ありませんが」と言う意味合いで使います。
このように「恐縮ですが」は、現在進行形の事柄や今後の未来において何らかのお願いや依頼をする場合や、お断りする表現として「恐縮ですが」を使います。
「恐縮ですが」と「恐れ入りますが」の違い
「恐れ入りますが」という言葉は「恐縮ですが」の言い換え表現にもなる類語の一つで「恐れ入りますが、提案を一つさせて頂きます」のように使うことができ違いがないように見えます。
しかし言葉が違う以上、「恐縮ですが」との違いがあるはずですが、どこにあるのでしょう。「恐れ入りますが」の意味と例文や使い方で検証してみましょう。
「恐れ入りますが」は「かしこまる」という意味
「恐れ入りますが」は本来は「畏(おそ)れ入りますが」と書き「敬い、かしこまる」という意味を持っています。しかし「畏れ」は常用漢字ではないため意味が近い「恐れ」の漢字が一般的に使われるようになったと考えられます。
「恐れ入りますが、あえて申し上げるとすれば」の例文の場合、本来の「畏れ入る」の意味を考えると、相手を敬いかしこまって申し上げますがというニュアンスになります。「かしこまる」は「恐縮する」と非常に意味が似ています。
しかし「恐縮ですが」の場合は自分をへりくだることにより敬意を表現する言葉なのでここに相違があります。「恐れ入りますが」だけでは解明できなかった違いが、本来の元になる漢字を探ることで見えてきました。
つまり「恐れ入りますが」=「かしこまる」は、相手を敬ってかしこまり敬意を表す言葉です。「恐縮ですが」は自分を蔑む(さげすむ)ことで相手に敬意を表すところに違いがあります。
「恐縮ですが」を使う際の注意点
「恐縮ですが」という言葉は、もともと文語的な表現です。文書やメールで使う場合は、上司や目上の人、得意先など誰に対しても失礼にならない敬語表現です。
しかし電話や会話で使う場合には、注意する必要がある場面がいくつかあります。「恐縮ですが」は文章で使う場合には問題ないのですが、会話で使う場合には少し文語的で固苦しく相手によっては威圧的になる場合があります。
フランクな会話では使えない
初対面の人や上司に使う場合は、会話で使っても問題はありませんが、ある程度なんども商談をして信頼関係のある取引先の担当者などに「恐縮ですが〜」と切り出せば「おいおい今更何かしこまっているんだ」「そんなに関係が未だに信頼できないのか」と逆に不信に取られてしまいます。
とはいえ相手は取引先で失礼な言葉は使えません。そんな場合には「失礼ですが」や「恐れ入りますが」と口語的な柔らかい表現をします。あくまで丁寧さを忘れずに固苦しくならないことが大切です。
「恐縮ですが」の英語表記
「恐縮ですが」を英語で表現する場合は「I am sorry but〜(すみませんが〜)」などが一般的によく使われます。英語には日本語のように会話と文章との使い分けが明確ではありません。会話で使える言い回しは文章で使えると解釈して構いません。
「恐縮ですが」を表現する英語は「I am sorry but」の他にもいろいろあります。その一部を例文で紹介しますのでビジネスや英語学習に役立ててください。
「I'm afraid, I'm pleased if you can contact us.(恐縮ですが、どうかご連絡をいただけると助かります)」のように「afraid」を使います。
「afraid」は「怖い」という意味ですがこの場合は「恐れながらcontact(連絡)をお願いします」という意味で「恐縮ですが」を表現しています。
「I am truly indebted to you for having done your work.」の「indebted」は恩を受けてという意味なので直訳すると「あなたの仕事で私は本当に恩恵を受けました」という意味で、翻訳すると「ご足労頂いた仕事に恐縮しています」になります。
少し変わった英語表現では「The word excuse comes from a humble attitude.」の「humble attitude」は「謙遜した控えめな意見や態度」という意味で「excuse」は「許す、容赦する」という意味があります。
直訳すると「控えめな態度から出る言葉は許される」という意味で日本語に翻訳すると「恐縮という言葉はへりくだった控えめな態度から生まれます」になります。
「恐縮ですが」を英語表記するのに、このように様々な単語が使われる理由は、英語には「恐縮ですが」を一言で表現する単語がないからです。これは「恐縮ですが」だけでなく他の言葉でも同じです。
日本語は漢字というビジュアル的に意味を伝える文字がありますが、英語にはアルファベットという記号しかありません。ですから英語は一つの意味を表現するためにざまざまな単語や言い回しをするのです。この表現方法の違いを理解することが英語を習得するための基本です。
「恐縮ですが」は「恐れながら」という意味
「恐縮ですが」は上司や目上の人に対して、お願いをするときに「恐れながら、申し訳ありませんが」と敬意を表しながら依頼や許可を得るための前置き表現です。
ここまで「恐縮ですが」の意味や類語、言い換え表現、使い方の例文、英語表記などを紹介しました。この記事を参考にして「恐縮ですが」の正しい使い方をビジネス等に生かしてください。