私情の意味とは?
私情という言葉があります。「しじょう」と読みますが、私情には「私情に振り回される」「私情で判断する」「私情を挟む」などの言い方でビジネスシーンなどに用いられる言葉です。私情という言葉にはいくつかの意味があります。
ひとつは「個人的な感情」を意味している私情です。ビジネスにおいてビジネス上のルールに基づいた判断を求められるのにもかかわらず、私情(個人的な感情)を判断基準にしてしまう、というような場面での表現手法として「私情を挟む」のような使い方をされます。
もう一つは「個人的な欲望」を意味している私情です。「私情で行動する」というように、ビジネス的な検知ではなく個人の利益や欲望を優先した場合の表現の使い方として「私情」を使う場合です。いずれにしてもあまり良いイメージの言葉とは言えません。
私情の対義語・類義語
私情は個人的な感情や欲望を意味している言葉という事ですが、ほかにもそうした意味をもった言葉や、全く違う意味をもった言葉というのはどういった言葉があるのでしょうか?そのように言葉の方向性や意味によって、「対義語」や「類語」として区分される場合があります。
唯一無二として、他に類似性や対応性の一切ない言葉も有るにはありますが、対象となる言葉にはどこかしらの性格上で、そうした方向性がはっきりと区分できる言葉があるものです。「対義語」とは何か、「類語」とはどのような方向性の言葉といえるのでしょうか。
対義語
対象となる言葉と、まったく異なる意味を持つ言葉や、方向性が真反対でかぎりなく性格が真逆に位置する言葉として設定されている語句を「対義語」と言います。
「私情」という言葉がもつ方向性に対して、意味が全く別の方向性や深さをもっている言葉として「対義語」として定義されている言葉には、一体どのような言葉があるのでしょうか。
そしてどのような使い方があるのか、例文や英語表現なども含めて、ビジネスシーンにおける役割なども知ることで私情の意味についても掘り下げていきましょう。
世情
私情の対義語である「世情(せじょう)」です。私情が「わたし」という個に対して掛けられている言葉であるのに対して、「世情」は「世」つまり世の中に対して掛かっている言葉となります。
個人的な感情を意味する私情とは違い、世情は世の中の平均的な感情を意味している言葉です。英語で表現する場合は「worldly affairs」や「current situation」のように表現します。直訳した場合は「世事・現状」になりますが、英語表現の場合はこうした訳が一般的です。
使い方の例文として「最近の世情を考えれば」のように、ビジネスにおけるトレンドや社会的な感情を表すときの言葉として用いられます。
世論
私情の対義語である「世論(よろん)」です。こちらも自分自身の個人的な心情である「私情」とは違い、世の中の多くの人のなかでも全体を通して多いと思われる常識としての意味をもった言葉です。
英語で表現する場合は、「public opinion」として表現します。世論には英語でしっかりと対応した言葉として確立していますので、この表現以外の言葉は言い換えのような言葉しかありません。
使い方の例文としては「世論に訴えかける」や「世論はこのように考えている」というように公的な意思としてビジネスリソースの一つに数えられる場合に用いられています。
一般論
続いての私情の対義語として「一般論(いぱんろん)」が挙げられます。意味は、「特定個人の考え方ではなく、ひろく世間に浸透していると考えられる意見」などの事をさす言葉です。特定個人を指す「私情」ではなく、特定個人を指さない、という点が対義語として成立しています。
英語で表現知り場合は、「general theory」や「prevailing view」「common opinion」などとして表現されます。「通説」などの言い方に近い考え方として英語表現されている言葉となっています。
使い方の例文としては「それは一般論とは言い難い」「一般論としての話だ」のように、「常識的な考え方」といった使い方でビジネスシーンにもしばしば登場しています。
類語
類語とは、対象となる言葉に対して、非常に意味が似通っている、もしくは限りなく同じ意味を持っている言葉の事を類語として区分しています。私情によく似ている言葉や、方向性や深さが同じか、似ている言葉を類語としていくつかご紹介します。
それぞれの類語の意味と私情とのニュアンスの違いや、例文を用いた使い方の違いについて、英語での表現方法についてもご紹介します。ビジネスシーンにおいてどのようにして使われているのがも含めてご覧ください。
私意
私情の類語の「私意(しい)」です。意味は「自分の考え」「身勝手な考え」「自分だけの利益を考えるこころ」といった意味をもった類語です。私情との違いとして、私情は「感情」を含んだ言葉であるのに対して、「私意」はあくまでも考えに終始している点です。
英語での表現では「personal opinion」や「personal will」「selfishness」などとして表現されます。私意そのものに「考え」としての意味と「我欲」としての意味があるので、対応する英語訳もいくつかのシチュエーションによって使い分けがされます。
ビジネスシーンなどでも使い方の例文として「私意で予定を組み立てるのはやめたまえ」「こちらの意見に私意はございません」のような使い方をします。
私心
私情の類語である「私心(ししん)」です。意味は「自分ひとりだけの考え」「自らの利益のみを考える心」といった意味のある類語です。私情の持っている意味との違いは、私情が「感情」としての意味を持つのに対して、私心はあくまでも「心」を意味する類語である点です。
私情が「感情からくる考え・思考」であるとするならば、私心は「心」だけで思考や計画性がない原点的な意味を持っている類語と言えます。なので英語訳する場合も「private mind」のように精神を意味した表現となります。
ビジネスシーンなどでは人物評価に使われる場合があり、使い方の例文として「彼には私心が見え隠れしている」や「私心のない人物にこのビジネスを任せたい」というように使います。
我欲
私情の類語である「我欲(がよく)」です。意味は「おのれだけの利益をほっする心、その欲望」といった意味をもった類語です。私情が類するニュアンスとしては、「個人的な欲望」という意味では非常に似た意味をもった言葉と言えます。
しかし「考え」という意味ももつ私情とは違い、純粋に利益しかみていない欲望を意味している言葉のため、使い方をより限定した表現と言えます。英語では「selfishness」として表現されます。
「我欲にまみれた人物」「我欲に溺れて身を持ち崩した」のように非常にネガティブなイメージを表現するさいに用いられている言葉です。
私欲
私情の類語である「私欲(しよく)」です。意味は「自分の利益だけをむさぼろうとする欲望・もしくはその心」を意味した類語です。我欲に似た言葉ですが、「心」を表す言葉だという違いがあります。
私情の二面性のある意味の違いや、私情の意味に含まれる「欲望」とは違い「心」としての表現に留まっていることも違いと言えます。しかし、英語での表現では「selfishness」として我欲や自分勝手のような表現で言い表されることもあります。
比較的有名な使い方として「私利私欲」という例文や、ビジネスなどにおいても失敗してしまう例として「私欲に走った結果」などの使い方が見られます。
私見
私情の類語である「私見」です。意味は「ごく個人的な見解」や「自分ひとりとしての意見」等の意味を持っています。こちらは私情という言葉の欲望面の意味を省いた側面をもった言葉で、あくまでも私情に含まれる「個人の考え」のみに焦点を充てた言葉と言えます。
英語での表現としては「personal view」や「personal observation」のような表現となり、私情のような悪感情やネガティブなイメージがあまり含まれない言葉として用いられます。
使い方としても、「私見では、このビジネスは比較的真っ当な部類といえるのではと思います」のように使います。
私情の使い方・例文
私情を使った例文をいくつか紹介します。私情は基本的に大きく分けて二つの意味をもった言葉ですが、それぞれがどちらの意味で使われている言葉なのかを即座に読み解くのは難しいものです。
そこで、以下の例文がはたして「その人個人が勝手に考えていること」を意味している例文なのか、はたまた「個人的な利益などを考える欲望」を意味している例文なのかを考えながらご覧ください。
例文①
「それこそが私情を挟んでいるというんだ。そんなことではちゃんとした仕事として認められるような事はいつまでたっても来ないぞ?会社のルールは君もそうだが私たちも、そしてお客様も守ってくれるものなんだ」
レギュレーションと個人的な感情の間に挟まれてうまく仕事が出来ない相手に苦言を呈しているという例文です。どうしても個人の感情として受け入れられないことはままありますが、そうやって仕事人は成長します。
例文②
「まてまて、それは本当に会社の利益に繋がるのか?まさか…君の私情ではないだろうな。ちょっともう一度検証させてもらうが構わないよね?会社としてきちんと利益と採算がとれるならまだしも、君の私情ならそのときは…」
こちらの例文は、個人的な欲望を例文とした使い方となります。比較的わかりやすい形で例文となっていますので、使い分けの例として参考にしてください。
例文③
「私情、私情とはいうが、いったいどこをどう切り取って私情として断じているのか私には全く分からんよ。君もそうは思わんかね?私には崇高なる目的があり、これは人類の明るい未来を約束してくれる素晴らしい目的なんだ。それを私情などと断じるなど馬鹿げている」
彼本人はまっとうな考え方で崇高、そして正しいと信じている未来を思い描いているようですが、他人からみれば明らかに「個人的な欲望」のために行動しているようにしか見えない、という例文です。
例文④
「その考え方は正しいとも言えるし、間違っているともいえる。それは君にとっては正しいけれども、僕にとっては間違いだからだ。なぜかというと僕には僕の私情があり、君には君の私情があるからさ」
どちらともとれてしまう例文ですが、口調からいえばやや「個人の感情」よりの例文と言えます。あまり負の要素を感じさせていない所が、見極めのポイントと言えるでしょう。
私情と私事の違い
私情に非常によく似た言葉に「私事(わたくしごと・しじ)」という言葉があります。とても似ている言葉ではありますが、私情と私事には明確な違いがあり、似たような使い方ではありますが厳密には意味が違ってしまいます。
では、私情と私事にはどのような意味の違いがあるのでしょうか。「仕事に私事を含めてしまいまして誠にもうしわけございません」というように、ビジネスシーンにおいても似たような使い方をしていますが、これが私情出会った場合と、私事である場合の違いには以下のような違いがあります。
私事は個人的な事という意味
わたくしのことで私事と書くように、自分自身に発生した事柄やとてもプライベートな内容のことを「私事」として表現するので、欲望や希望、考えなどとは全く違った意味になってしまいます。
しかも、他人の評価に対して使用する言葉ではないので、「あいつは私事に振り回されている」というような使い方はできません。あくまでも自分の事に対して使う言葉なので、他人に対して使用する事はありません。
また、自分自身の事情を理解してほしい、という意味も含まれている言葉なので、「私事によりまして、本日は早退させていただきたく」のように明確な理由を避けたい場合などにも使われる言葉となっている点にも、私情との大きな違いと言えます。
私情を使う際の注意点
私情、という言葉は個人の都合や感情を優先指せるというようなあまり良い印象で使われる言葉ではありません。そのため、使う上で注意しておきたい事として、私情が「ネガティブなイメージをあたえる言葉」であることを忘れてはいけません。
また、注意したい事として私情というのは感情からくる思考という括りになります。計画性をあらわすようなことや、緻密な行動とは無縁の意味をもった言葉なので、そうした意味でのネガティブさとは違った印象をもった言葉です。
かといって、完全に悪いという意味で使われる言葉というわけではないのですが、ビジネスなどでは総じて「余計な」行動などとして扱われます。
良い意味では使えない
そのため、私情は相手に良い評価を与えるために使える言葉ではありません。「彼は仕事に私情を活用している」というような表現はおかしいのです。
ですから、人情的な意味合いとして言い換えるなら「地域密着型」というような考え方や評価であれば、「地元感情を活用している」という言い換えもできます。
私情はあくまでも個人的な事情や感情、そして個人的な欲望を意味する言葉です。「私情に忠実な奴だ」というネガポジな言い方もありますが、ごくまれな表現として考えておくべきでしょう。
私情の由来・歴史
私情はいつ頃から我が国の言葉として歴史の世界に登場し、どういった意味の偏移を迎えてきたのでしょうか。私情がどのような国で生まれ、どういった意味で用いられていた形から、日本に伝来して使われるようになってどう変化してきたのでしょうか。
その歴史は非常に古く、日本そのもので使われている文書として残されているのは西暦900年ごろの書物となります。さらに伝来前に使われていたのは中国で、西暦267年ごろに晋の李密という人物が残している訴えに私情の文字が使われていた、と記録されています。
由来
親に孝行をつくす気持ちを表す言葉に「烏鳥私情(うちょうのしじょう)」という四文字熟語があります。母鳥に産んでもらい、育ててもらった恩義が由来となって生まれた言葉です。中国で使われていたこの私情が日本に伝来し、使われるようになったと言われています。
歴史
日本での私情という言葉の歴史は古く、もっとも古い文献で残されているのは。西暦900年ごろに書かれた「菅家文草」にある「金吾相公、抂賜二遣懐一、答謝之後、偶有二御製一、〈略〉某不レ勝レ助レ喜、兼叙二私情一、有レ如二白日一」という記述が残されています。
この時点ではすでに烏鳥私情という言葉がもつ「良い」意味での私情という使われ方はされていません。あくまでも個人的な思惑や欲望を意味しているところが見て取れます。
私情の英語表記
私情を英語で表現する場合には、私情の言葉がもつさまざまなシチュエーションで変化するニュアンスの違いを表現する必要があります。そのため一概に正式な英語訳という言葉は存在せず、あくまでも言い換えるとするならば、という表現に留まります。
例えば「personal feelings」は個人的な感情としての直訳となり、これも私情と表現することができます。また、「sentiment」は単純に「感情」を表す言葉ですが、使い方によっては私情として表現されます。
さらに、「private mind」は秘匿された心を表す言葉として「私心」でも使われている言葉です。そして「selfishness」はワガママ、自分勝手、我欲などを意味する言葉ですが、私情として表現されることもあります。
personal feelings
「Sonya was not less agitated than her friend by the latter's fear and grief and by her own personal feelings which she shared with no one.(ソーニャは友人の恐怖と悲しみ、そして誰とも共有しなかった彼女自身の私情に動揺していた。)」
sentiment
「He remained, however, loyal in sentiment to the house of Savoy, and, after the restoration of the king of Sardinia in 1814, he continued in the public service.(しかし彼はサヴォイ家への私情に忠実であり続け、1814年にサルディーニャ王を復活させた後も公務を続けた)」
private mind
「Don’t suffer yourself to be swayed by private mind!(私情にふりまわされないで)」「A private mind is a private mind.(私情は私情だろう)」「The desert heat couldn't reach her private mind.(砂漠の暑さは彼女の私情に届かなかった)」
selfishness
「Such analysis had been already attempted by Hobbes, and the result he came to was that man naturally is adapted only for a life of selfishness, - his end is the procuring of pleasure and the avoidance of pain.」
(そのような分析はすでにホッブズによって試みられており、その結果、人間は自然と私情的な生活にしか適応しないということになった。彼の目的は喜びを得ることと苦痛を避けることである。)
私情は個人的な感情という意味
私情という言葉は、遥か昔には純粋な意味での「感情」として用いられていた言葉でしたが、時代の流れとともに個人へと感情の在り方が引っ張られ、結果として欲望や方向性を意味する言葉となりました。
そのため、良い意味では使われることのない言葉なので、そういった形で指摘を受けた場合や指摘する場合には、誤解のないように注意しておきましょう。