「肝いり」の意味とは?
「肝いりの企画」「友人の肝いり」など、「肝いり」という言葉は、日常でもよく耳にする言葉です。学生や社会人を問わず、幅広い年代で使われています。この言葉の正しい意味は、どれくらいの方が知っているのでしょうか。
「肝いり」の意味は「あれこれと心を砕いて両者を仲介したり、世話を焼いたりすること」です。双方の関係を良好にするため、あれこれ世話を焼いて互いの仲を取り持ちますが、これは個人同士の関係だけでなく、個人と集団、集団同士など、さまざまな状況を取り持つことも指します。
「肝いり」の言葉の由来
では「肝いり」という言葉の由来はどうなのでしょうか。この「肝いり」の語源は、江戸時代、幕府の職名から来ているとも言われています。当時、幕府の役職に「高家肝煎(こうけきもいり)」というものがあり、あの吉良上野介もこの役職に就いていたそうです。
この役職は「高家の同職の中でも、頭だって職務を取り扱う者」という意味であり、吉良上野介は、高家の中で別格の存在であったとされています。元々この「肝いり」には、上に立つ者の主導的な役割という意味があり、この「肝煎」という役職が語源となっているようです。
また、町の代表者を指す言葉としても「肝煎」という言葉が使われていたという話もあります。町を代表して世話をする人のことを意味するため、世話を焼く人のことを指すのも、この役職が語源となっているようです。
「肝いり」の特徴
普段の生活でも使われている「肝いり」という言葉ですが、その使い方にも特徴があります。「肝いり」という言葉は、「権力や地位のある人」と「仲介や世話を焼く行為」に使われることが多いため、その特徴について紹介します。
①権力や地位のある人に使われる言葉
「肝いり」の語源が「肝煎」という役職であったように、権力や地位のある人が、いろいろと画策して目的を達成するという時によく使われている印象があります。トップダウンで命令して、主導権を握って動かす場合に使われると、普通の辞書に載っている解釈とは若干異なってきます。
②仲介や世話を焼く行為に使われる言葉
また、友人や弁護士など、仲裁役となるような立場の人が、間に立って仲介したり、世話を焼いたりする場合に良く使われています。現代の一般的な辞書の解釈は、この「仲介や世話役」の意味になっています。
「肝いり」の漢字
「肝いり」の正しい漢字表記はどうなのでしょうか。語源となった「肝煎り」もよく見かけますし、「肝入り」という漢字で書いた文章もあります。ここでは「肝いり」の漢字表記について、「肝煎り」と「肝入り」のどちらの漢字が正しいのか、詳しく説明していきます。
「肝いり」は「肝煎り」が本来の表記
「肝いり」は、本来は「肝煎り」と漢字で表記します。肝(心)を火であぶって焦がす、つまり、肝を煎るくらい大変な思いをして人の世話をするという理由から、「肝煎り」と表記するというようになったようです。
「暮らしのことば 語源辞典」(講談社)には、この「肝煎り」の意味については、「本来は、肝を煎るように心をいら立たせて、やきもきする」と記載されています。
「首相の肝煎り」という言葉には、間に入って世話をするというような印象よりも、なるべく早く「トップダウンで物事を決定しなければならない」というような、首相の「いら立ち」が伝わってくるようです。
「肝入り」を使っている場合も
「肝煎り」が本来の表記であるのは間違いありませんが、そうなると「肝入り」と漢字表記するのは間違いなのでしょうか。その答えはNOです。現在販売している辞書に、「肝煎り」と「肝入り」の2つの表記をしているものもあるからです。
ただし、「肝いり」の語源が「肝煎」であることを考えると、「肝入り」は不適切といえるでしょう。しかしながら、2010年の常用漢字改定で、それまでになかった「煎」の字が入ったことで、「肝煎り」と統一させたいところです。
「角川必携国語辞典」には、「肝入りは誤り」という注記が入っています。この辞典の筆者は、世の中にある「肝入り」という言葉を見つけるたびに、きっと心をいら立たせて、やきもきしていることでしょう。
「肝煎り」も「肝入り」も間違いではない理由
「肝煎り」も「肝入り」も間違いではない理由は、漢字を勘違いして書く人があまりにも増えすぎてしまったからです。「肝入り」と表記しても、言葉が表現するイメージからかけ離れてはいないため、これほど間違える人が多いのであればそのままにしようということになったようです。
しかしながら、「肝いり」の本来の表記は「肝煎り」です。「肝いり」という言葉の語源を知ることができれば、「肝煎り」と書いた方が、日本語に対する理解が深い、という印象を持たれることになるでしょう。
「肝いり」の使い方
「肝いり」という言葉は、案外使いやすい言葉です。使う機会も多いため、正しい使い方をしたいところです。ここでは「肝いり」を使った例文をいくつか紹介します。この例文を参考にして、「肝いり」の正しい使い方ができるようにしてみましょう。
例文①
例文「社長の肝煎りで入社したというから、どんな軟弱ものかと心配していたら、真面目で素直な物覚えが良い好青年だった。身構えていたのが馬鹿らしく思えるほど素晴らしい青年で、今後の活躍が期待できる人物だ」
この例文の「肝煎り」は、普段からよく耳にする使い方です。社長が仲介したというよりも、社長という地位も権力もある立場の人が、トップダウンで命令してねじ込んだ、いわゆる「コネ」で入ったという意味で使われています。
「コネ」という言葉は、普段からあまりいい印象で使われないことが多いようにみえます。しかし、コネを使う人物が、役に立つ、仕事ができるといった好印象の者ばかりであれば、「コネ」も「肝煎り」も、もしかすると良いイメージだけで使われていたかもしれません。
例文②
例文「弁護士の肝煎りのおかげで、当事者双方、納得のいく話し合いとなった」この例文での「肝煎り」は、弁護士が奔走して、あれこれと心を砕いて仲介してくれたという意味で使っています。弁護士が世話をして、努力したたおかげで納得のできる結果になったことがわかります。
例文③
例文「ずいぶん前に離婚した元夫と10年ぶりに会うこととなった。初めは全く乗り気ではなかったが、一人息子の肝煎りとあって、無下にすることができなかった」
この例文での「肝煎り」も、仲介してくれた、取り持ってくれたという意味の使い方をしていることがわかります。元夫婦がそれぞれ会う機会が全くなかったのに、息子が一生懸命に二人の間を取り持ったという光景が、目に浮かぶようです。
例文④
例文「有名企業の社長とは、今回が初めての対談でとても緊張したが、肝煎りがよくしてくれたおかげで、終始和やかに進めることができた」この場合の「肝煎り」は、仲介してくれた人や組織という使い方がぴったりきます。
初対面の相手との対談を無事に進めるために、この例文の話し手と、相手方の社長の双方を取り持ってくれた人、あるいは、組織が介在していることを伝える言葉だということが、一目でわかります。
「肝いり」の言葉を使う時の注意点
「肝いり」という言葉は、心を入れて熱心に世話をする、手をかけるという意味です。真剣さや一生懸命な気持ちが伝わってくるので、どちらかと言えばプラスのイメージをもつ言葉といえます。
ただ、この「肝いり」という言葉に、政界や企業のトップといった、地位や権力のある人物を意味する言葉が加わると、何となくマイナスのイメージがつきまとうことがあります。しかし、「肝いり」は、権力者や組織がいろいろと画策して目的を達成する場面でも使われる言葉です。
仲介や仲裁といった、縁の下の力持ち的な使い方が多くなれば、マイナスのニュアンスが減るかもしれません。「肝いり」という言葉の持つ意味をしっかり理解すれば、その裏側にある意図もわかるので、きっと正しく使うことができるようになるでしょう。
大切な人とケンカをした時、友人などが「肝いり」となってくれれば良いですが、できるなら穏便に済ませたいものです。そのような時には、以下の記事を参考にして、早めに仲直りしてください。
「肝いり」は「仲介・世話を焼く」という意味
今回紹介したように、「肝いり」は、主として「双方の間に立って仲介したり、配慮をしながら世話を焼いて間を取り持つ」という意味で使われる言葉です。年代に関係なく、普段から使う言葉だからこそ、時には使い方が間違っていないか、見直してみることはとても大切なことです。
普段何気なく使っている言葉には、先人たちの思いや心意気などが宿っているものもたくさんあります。言葉に込められた思いや心意気を発見しながら、日本語の美しさを守って、後世に伝えられるようにしましょう。