住民税の基本知識
これまで勤めていた会社を退職し、日々の束縛された生活からの脱却を実現し、さぁ、これから少々貯めていた資金を大切に使いながら自由を謳歌するぞとお考えの方には要注意です。
これまで、総務部の事務員の方にまかせっきりであった保険や税金、年金の支払いは、退職後は全て自分で管理、支払いをしていかなくてはいけません。
この項目では、そんな退職後の税金、特に住民税にフォーカスして、退職後の住民税の支払いや免除になる条件、徴収の種類、支払い方法などを紹介していきます。
直近では退職の予定が無い方でも、知っておいて損になることはありません。退職後、知っておくべき大切な点をピックアップして、ご紹介して行きます。
住民税の支払いは原則「後払い」
先ず、住民税というものがどのように課税されるのかをご説明します。住民税は、原則として累進課税の性質を持ちます。つまり、所得税などと同じように退職前の給料によって税額が決められ、高給な人程、多くの税金を支払うシステムになっています。
また、詳しくは後述しますが、住民税の税額は年間の金額です。退職前の給与明細には毎月、決まった額が給料から天引きされていたと思いますが、原則は後払いです。つまり、退職しても直後から毎月請求が来る訳ではなく、後々のタイミングで、年間の住民税が一括で請求されるのです。
課税対象になる場合
次に、課税対象になる場合をご紹介します。住民税と名付けられるくらいですので、日本国の住民のみんなが原則課税対象となっているのですが、その日本国の住民であるという事はどの様に定義されているのでしょうか。
住所を証明する書類としては住民票がありますが、これが住民税が徴収される根拠となります。この年の1月1日時点で、住民票が日本国内であれば、その1年間の住民税が発生する仕組みとなります。
毎年年末年始には、経済的に余裕があるテレビタレントがこぞってハワイへ渡航しているのを、住民税から逃れるためだという噂が立ったりしますが、住民票を移す事無くバカンスに渡航するだけならしっかりと住民税は徴収されてしまうという事なのです。住民票を国外へ移さないと免除は受けられません。
住民税の支払い方法・退職する時期が関係
それでは、実際退職後はどの様にして住民税を支払うのでしょうか。ここからは住民税の支払いの方法や、徴収の種類などをご紹介して行きます。
前提として、退職後は住民税の支払いのために市役所へ赴き、手続きをする必要はありません。普通は退職する前に会社から手続きがされているはずです。
特別徴収で住民税が発生するのは退職前
特別徴収とは、勤務している間に勤務先の毎月のお給料から、住民税が天引きされている状態の事と言います。政府からすると、この天引きしている状態が特別であるという事になります。
住民税の徴収には、普通徴収(一括徴収)と特別徴収の2種類が存在します。特別徴収は上記の通りですが、普通徴収(一括徴収)とは、給料からの天引きでは無い状態、つまり年間一括で徴収される状態の事を言います。
この普通徴収(一括徴収)と特別徴収の線引きは一体どこから来ているのでしょうか?これは、会社を退職した時期と密接に関係しています。続いてはこの2種類を深堀りして行きます。
1月~5月の間に退職した場合・普通徴収(一括徴収)
先ず、普通徴収(一括徴収)の場合ですが、普通徴収(一括徴収)は退職時期が1月~5月の間に退職手続きをした場合になります。
退職すると、退職者の情報を聞きつけた市区町村の地方自治体から納付書が送られてきます。この納付書をコンビニや銀行などの金融機関に持込み、支払うという流れになります。この流れは電気、ガス、水道などの公共料金と同じなので、手続き自体はシンプルです。
ここで注意が必要な事は、この普通徴収(一括徴収)での支払いは、6月以降の住民税の納付の場合です。例えば3月に退職の手続きを取れば、その時期の4、5月の住民税は給料から天引きされてしまいます。ですので、5月の末に退職しない限りは、退職月の給料から大きく天引きされてしまうと言う事実を忘れてはいけません。
5月~6月の間に退職した場合・特別徴収が継続可能
上記の普通徴収(一括徴収)以外の場合は、特別徴収となります。ですので、会社員として働いている時期は、住民税は毎月の給与から天引きになっていますが、この徴収方法は特別徴収となるのです。
次に、6月以降に退職した場合は特別徴収、つまり月割りでの納付が可能です。ただし、月割りと言っても四半期ごと、つまり3月ごとでしか区切られていないので、毎月少しづつ支払うという事はできません。さらに原則として、退職後は普通徴収(一括徴収)に切り替えて納付するのが、一般的となっています。
この場合も、同じく市区町村から納付書が送られてきますが、普通徴収(一括徴収)で納付する場合と、特別徴収で納付する場合で納付書が2種類同封されています。この支払いはどちらをとっても金額に差は無いので、どちらで納付するかは個人の自由になります。
以上が具体的な住民税の納付方法になります。未だ退職の手続きをしていない方は、在職しているうち給与明細を確認しておき、ご自身が今住民税として幾らが引かれているのかを把握しておきましょう。また、住民税額の決定は前年度の収入からの計算になる事も、合わせて注意しておく必要があります。
退職後の事情による住民税について
続いては、退職後の事情による住民税の変化をご紹介して行きます。これまで会社員として勤務していた方にとっては、退職という変化はただ住民税の支払い方法が変わるだけではありません。退職に伴う引っ越しをされる方も多いでしょうし、退職後はパートナーの不要に入るという方もいるでしょう。
ここからは、そのような状況の変化によって、住民税がどの様に変化していくのかを、ご紹介して行きます。
退職後に引っ越した場合の住民税
先ず、退職後に引っ越しを行った場合ですが、前述の通り、住民税が発生する場所は、1月1日時点での住民票に記載のある住所です。そして、住民税の課税時期は6月から翌年の5月までとなっています。
上記を前提としているため、退職後に引っ越しをしたとしても、翌年の6月に住民票に載せていた市区町村から納付書が届くという仕組みとなるのです。
退職後に扶養に入った場合の住民税
続いて、退職後にご両親や、パートナーの扶養に入った場合の住民税の変化をご紹介します。ここで、住民税が課税されてしまう条件がポイントになるのですが、前述の1月1日時点で住民票が日本にある以外にも、もう一つポイントがあります。前者が場所の条件と表現するなら、後者は収入の条件になると言えます。
そのもうひとつのポイントとは、前年度に収入があったかどうかです。つまり、退職後に扶養に入ったからと言っても、前年度に収入があった時点で、その年の住民税は減額も免除もされません。
ここが退職後に盲点となる方が多く、退職後に経済的に苦しい状態であっても、上記の条件に従って、その時期が到来するとしっかりと住民税の納付書が送られてきますので、注意が必要となります。
退職後に免除はある?
ここまで聞くと、あまりにも残酷な話に聞こえますが、減税や免除の可能性が全くない、という訳では実はありません。では、具体的にどういう状況が、住民税の減額や免除の対象になるのかご紹介して行きます。
一つに、結婚して扶養に入る場合があります。籍を入れ一人が扶養に入ると、パートナーの方の住民税が、ある程度控除される仕組みがあります。残念ながら免除にはなりませんが、ご夫婦で少しでも負担額を減らす事は可能です。
また、退職後に著しく収入が落ちてしまった場合の救済措置として、減額の制度は存在します。これは各地方自治体によって制度がまちまちなので、一度該当する地方自治体に相談する事が必要です。
転職後の住民税はいくら?
続いて、退職後も免除されることがない住民税の決め方、住民税決定の計算式などをご紹介して行きます。
退職された方は転職を機に、という方が多くおられます。では、転職後の住民税の変化はどの様になるのでしょうか。ご紹介して行きます。
前述の様に、住民税額の決定は、前年度の収入額によって決められます。そして、納付期間は6月~翌年の5月までです。
つまり、5月までに転職を行った場合は、直ちに特別徴収に切り替わるわけではなく、この5月までの住民税が普通徴収(一括徴収)での納付が必要となります。
住民税額の決め方
では、そもそも住民税の金額とはどの様に決定されるのでしょうか?ここからは、住民税の決定プロセスや計算式などをご紹介して行きます。
少しややこしい話ですが、住民税は二種類あり、前年度の収入によって累進課税される所得割額と、収入額に関係なく課税される均等割額とがあり、住民税はこの2つの合計で算出されます。
住民税の計算式
では、具体的な住民税の計算式を見ていきます。上記の所得割額をシンプルにみると、所得額から所得割税率を掛けたものに、税額控除額を引いたものになります。シンプルですが、専門用語が多く出てしまいましたので、順番にひも解いて行きます。
先ず初めに所得額ですが、これは賞与、給与などを含めた総収入額から、所得控除額を引いたものです。ではこの所得控除額というのは何かと言いますと、いわゆる経費です。
自営業の方なら経費を計上して税の控除を受けられますが、会社員の方にはこの仕組みは無いので、労働する上で必要になる革靴、かばん、スーツなどの仕事上での必需品を購入する費用を経費として、ここで控除する仕組みとなっています。
ここから所得割税率を掛けるのですが、これは地方自治体によって税率は変わります。大体4~10%程で、ほどんどの自治体は10%を適用しています。
そして、最後に税額控除や、住宅ローン控除、配当控除、寄付金控除等が引かれる仕組みとなります。これは個人それぞれの状況によって変わってきますが、うまく組み合わせるとある程度住民税は抑えられそうな仕組みとなっています。
住民税は安くできるか
住民税額は、普通徴収、特別徴収に関係なく、上記の計算式によって算出されますが、何とか所得税を安くする方法は果たして存在するのでしょうか。
住民税を安くできる方法があるとすれば、上記の計算式からの控除項目を出来る限り掛け合わせる以外に方法はありません。
退職後すぐに転職しない場合は、年度末に確定申告をする必要がありますが、この確定申告書が税務署から各地方自治体伝えられ、住民税額が決定されます。したがって、確定申告で扶養を入れ忘れたり、保険の控除を付け忘れたりすると、控除が受けられなくなります。注意しましょう。
忘れがちな控除項目
それでは、ここで良く忘れられやすい控除の代表的なものをご紹介します。例えば、扶養者の親や子供が障がい者の場合や、離婚や死別しているケース、医療費控除の申請を忘れてしまっているケースがあります。
上記の様な場合、確定申告の際に申告していると、全て住民税が控除される項目となります。これらは意外と知られていないところなので、時間があるときなどに調べておく事をおすすめします。ここで注意すべき点は、上記の場合でも、あくまでも控除です。免除され0円になる事はありません。
退職後の住民税における注意点
非常に恐ろしい話ですが、退職する前の時期は自動的に天引きされていた関係で、この住民税の負担の大きさというのは、実際退職して実感しない方が非常に多いです。これは税制上仕方のないことなのですが、誰かがわざわざ警告してくれるようなことはまずないので、ご自身で管理される事が大切になります。
上記が最も注意すべき点ではありますが、実はもう一つ注意すべき点があります。それは滞納してしまった場合です。
退職に伴う引っ越しなどをしてしまうと、納付書を受け取ることが出来なかったり、退職後の各種手続きで時期的にバタバタしているとうっかり忘れてしまうものです。では、滞納してしまった場合、住民税には一体どれくらいの効力があるのでしょうか。次項で見ていきます。
住民税を滞納すると差し押さえ
納付書が送られてきていても、うっかり忘れていたりすると、先ず納付期限を過ぎてから20日程で郵便で督促状が送付されます。もちろん、納付期限を過ぎていますので、延滞金も発生します。
延滞金は、初めの1ヵ月は2%程ですが、それ以降も滞納してしまうと10%近くまで跳ね上がってしまい、雪だるま式に請求額は増えていってしまいます。
ここまでくると、何とかして払わずに済ませられないかと考え、支払いをせずに過ごしてしまいがちですが、再三の督促を無視し続けていると、財産調査が開始されます。これにより、滞納者の勤め先や、所有する口座の金融機関を調べ上げられ、資産があると差し押さえが強制的に執行されてしまいます。残念ながら免除されることはありません。
退職後は住民税の支払い方法に気を付けよう
退職後の住民税の変化に関する説明は以上になります。退職を決意し、実際に退職に至るまでの時期は慌ただしくしている場合が多いので、なかなか税金の問題まで手が回らないと思いますが、うっかり忘れて督促状が来てしまうと、ただでさえ一括で請求され大きな負担となってしまっている住民税が、より大きな額になってしまう事態となります。
大変ではありますが、退職をされた際は、大変な時期ではありますが免除を期待して放っておくのではなく、納税を滞りなく出来るようにしていく事が何よりも大切となります。