「わや」の方言の意味
「わや」という方言は、比較的日本の広い範囲で使われている言葉です。ですが、もちろん使用していない地域が多く存在することも確かです。
今回はこの「わや」という方言について意味や由来、地域別の違いなど、より詳しくご説明していきます。この方言を日常的に使っている方も、知らない方も、意外な発見があるでしょう。同じ日本の中でも使われたが異なる方言はとても興味深いものです。
まず始めに「わや」という方言の意味からご説明していきます。自分が考えている意味と異なっている方もいるでしょう。正しい意味をしっかり理解しましょう!
道理に合わないこと
「わや」という方言は「道理に合わないこと」を意味します。他にも「無茶苦茶」、「滅茶苦茶」、「台無し」、「弱い」、「乱暴なこと」、「駄目」など、使われ方は様々あります。共通していることは全て「否定的な意味」であることでしょう。
ただし、地域によっては「すごい」や「とても」との様な「肯定的な意味」を持つ方言の場合もあります。各地域ごとの違いについては後程ご説明します。
自分の気持ちや現在の状況・状態を表現する方言として用いられ、多くの場面でよく使用される方言の一つです。方言を使う人にとってはとても慣れ親しんだものなため、思わず使ってしまっている、ということも良くあるでしょう。
「わや」は幅広い意味を持った方言で、かつ単語としても短いフレーズなので、話しやすく使われやすい言葉と言えます。
「わや」の方言の由来
「わや」の意味が理解できたところで、ではこの方言はどういった経緯で生まれたのか、その由来についてお話ししていきます。幅広い地域で用いられている「わや」という方言ですが、どこの地域で使われ始めたのか、由来についても知っていきましょう。
言葉の由来は擬音語や擬態語が派生したり、元となった語源が訛って音変化することにより、成り立つことが一般的です。「わや」という方言にはどのような由来があるのか確認していきます。
古語の「おうあく」が変化した言葉
「わや」の由来は「おうあく」という古語が語源とされています。さらに「おうあく」が変化していった「わやく」という言葉も元とされています。
「おうあく」とは道義に反する言動やその様を表す表現で、「わやく」は無理を言ったりしたりすることや子供が聞き分けの無いことという意味があります。この「おうあく」が「わやく」、同じ意味を持つ「わわく」と言った言葉に変化していき、「わや」という言葉になったとされています。
これで「わや」という方言の由来は、古語を語源としていることがわかりました。昔の人は口伝えすることが多く、聞き取り方によってはちょっとした拍子に音変化してしまうのでしょう。
加えて、語源が古語に由来することから、広範囲で用いられるきっかけになったと考えられます。また、発祥は関西地方や北海道であるという説がありますが、実は未だに明確な文献等は見つかっておらず、はっきりとしたことはわかっていません。
「わや」の地域別の方言の違いと使い方
ここまで「わや」という方言の由来についてお話ししてきました。次は実施に「わや」が方言として使われているところを地域別にご紹介します。同じ「わや」という方言ではありますが、その意味や使い方、イントネーションに違いはあるのか、地域ごとの違いについても触れていきます。
十数県の地域を紹介していくので、皆さんが思っているよりも多くの都道府県で「わや」という方は使われていることがわかるでしょう。
岡山
岡山県では「わや」という方言を、前述でご紹介したような「滅茶苦茶」や「無茶苦茶」、「駄目」だというような「否定的」な使われ方をします。
一方で、岡山では「わや」を「すごい」や「とても」、「めっちゃ」のような意味としても用いることがあります。具体的な例文として、「あなたが作ったこの作品わやだな。(あなたが作ったこの作品すごいね。)」と言ったニュアンスになります。
岡山での「わや」という方言は、一般的に使われるネガティブな意味として用いる他に、ポジティブな印象がある使い方をする珍しい違いがあります。
大阪
次は大阪府での「わや」という方言の使われ方です。大阪ではかなりの頻度で「わや」が用いられます。また、「わや」の意味自体は前述と変わりません。
しかし、「わや」を単体ではなく「お前ほんまにわやくちゃやな」といったように、「くちゃ」がプラスされる独特の言い方をすることが多いです。発音や聞こえ方は「無茶苦茶」や「滅茶苦茶」の言い方に似ています。
大阪での方言「わや」は、「くちゃ」が付くことや関西弁のイントネーションによって、ニュアンスが少しきつい言い方に聞こえたり、強調されて聞こえるという違いを感じる方もいるでしょう。
山口
山口県での「わや」という方言は、前述した意味とほぼ変わらない用い方をします。つまり、否定的な意味として用いることになります。
また、イントネーションは「立つ」や「カツ」と同じように一音目にアクセントが来ます。使い方の例としては「わやじゃないか(滅茶苦茶じゃないか)」、「そねえわや許せん(そんな理不尽なこと許せない)」のような使い方です。
岡山のようにポジティブな意味の方言としては使わないようです。同じ中国地方の近い県同士ですが、使い方は全く異なることがわかります。
三重
三重県における方言「わや」も「滅茶苦茶になる」や「大変なことになる」、「駄目になる」といった否定的な意味として用いられることが多いです。三重県は「伊勢弁」という名古屋弁に関西弁が混在しているような言葉を使います。
地理的にも近畿地方ではあるものの、関西ではない、かつ横には都市としても大きい愛知県があるため、あらゆる言葉が混ざり合った方言なのでしょう。
例えば、標準語でいう「~だから」という言葉を名古屋で「~だもんで」、岐阜では「~そやで」や「~そやから」というところを三重では「~せやもんで」と明らかに混ざり合った方言である典型的な形と言えるでしょう。
青森
青森県での「わや」という方言は岡山県と似ています。「駄目」や「滅茶苦茶」のような否定的な意味で使用するのではなく、「とても」という意味で使用されます。
例えば、「このりんごわやうまいね(このりんごとてもおいしいね)」といった風です。その後に続く言葉を強調するために用いられ、ニュアンスは「How cute!(とてもかわいいわ!)」などで使われる、英語の「How」に近いイメージでしょう。
ネガティブな意味で用いる地域が多い中、青森も岡山と同様にポジティブな方言として使われる地域の一つです。
京都
京都府でも「わや」という言葉は用いられてはいますが、どちらかと70歳以上の年配の方が多いです。若者はあまり使用しない方言のようです。そのため、そこまで認知度は高くなく、何となく知っているかな、程度にでしょう。
意味は他地域と同様に「滅茶苦茶」や「駄目」といったものになります。「わやになってしもた(駄目になってしまった)」といった感じです。
北海道
方言の「わや」は北の雪国北海道でも使われています。意味も「滅茶苦茶」や「無茶苦茶」となります。「師走はやることが多すぎてわやだ(師走はやることが多すぎててんやわんやだ)」、「アイツのだらしなさはわやだ(アイツのだらしなさは手がつけられない)」と言った使われ方をします。
また、後述しますが北海道での「わや」のイントネーションは他県と異なります。それは由来でもお話ししたように、「わや」という方言のルーツが複数あるという説から来ています。
愛媛
愛媛県でも「わや」が方言として使われます。意味も大部分の地域と同様に「滅茶苦茶」という意味になります。「もう頭ん中がわやじゃ!(もう頭の中が滅茶苦茶だよ!)」のような使われ方です。北海道や本州だけでなく、四国でも「わや」という方言は使われていることがわかりました。
ただしその他の3県で、この方言は使われていないようです。土佐弁など地域独自の方言がある場所では定着しなかったことが伺えます。
広島
広島における方言「わや」も「滅茶苦茶」、「無茶苦茶」という意味で使われます。特に「大変な状況」を表現する場面での用いられ方が一般的です。
また、「わや」をさらに強めた言い方として「わやくそ」と言うこともあります。使い方としては、「あんたのやり方はわやくそで納得いかん(あんたのやり方は滅茶苦茶で納得できない)」のような感じです。語尾に「くそ」を付けるだけで、かなり納得できないことが伝わってきます。
九州地方
北海道、本州、四国の幅広い地域で「わや」という方言が用いられているとお分かりいただけたでしょう。最後に九州での「わや」についてです。四国と同様に「わや」を使う県とそうでない県があります。その内容に触れながらご紹介していきます。
大分県
九州の特に大分県では「わや」が方言として用いられています。意味は「滅茶苦茶」や「大変」といった意味も持っています。例としては、「最近はほんとわやあっちいな(最近は本当に滅茶苦茶暑いな)」という使われ方です。
福岡県・佐賀県
福岡県や佐賀県でも方言が使われていた名残は残っているようですが、残念ながら現在ではあまりメジャーな方言ではないようです。特に福岡県ではほとんど知られていないような状態です。
佐賀県でも使われているのはごく一部の地域のみで、県全体でみると知らない、使わない人の方が多いです。使われる地域としては佐賀県北部の唐津市です。「大変」の様な意味で使われる場合があります。例えば、「仕事が忙しくてわやだわ(仕事が忙しくて大変だわ)」と言った使われ方です。
ただし、使わない、知らない人も多いため万人が使う方言とは言い難く、やはりメジャーな方言ではないでしょう。
名古屋での「わや」の方言は違う?
これまで地域別に「わや」という方言の使い方の違いについてお話ししてきました。ここでもうひと県、「愛知県(名古屋)」における方言の使われ方についてご紹介します。
愛知県は中部地方に属する日本の中心地に位置する県です。古くから東から西、西から東へと様々な地域独特の文化を持つ多くの人々が行き来してきました。そういった土地柄の影響もあり、少し違いのある方言の使い方をするのです。
ポジティブな意味で使用する
名古屋での方言「わや」は「部屋がわやだでかんわ(部屋が滅茶苦茶でだめだわ)」というように、もちろん否定的な方言としても用いられます。
一方で、「今日の歓迎会わやだったね(今日の歓迎会めちゃくちゃだったね(楽しかったね))」のような、間接的に「楽しかった」ことを表す「滅茶苦茶」や「はちゃめちゃ」の意味として使用することもあります。岡山県や青森県でもポジティブな「とても」や「すごい」といった直接的な形容詞として用いていました。
しかし、名古屋での「わや」という言葉を時々の状況に合わせて、同じ訳し方をする方言をポジティブにもネガティブにも使い分けられる一面は、名古屋独特の違いと言えます。
ここまで、各地域の「わや」という方言についてお話ししてきました。比較的「無茶苦茶」や「駄目」の様なネガティブな意味が多い一方で、「すごい」や「とても」と言ったポジティブな意味で用いる地域もあります。地域によって意味が異なるのは大変興味深いと言えます。
「わや」の方言のイントネーション
次は「わや」のイントネーションの違いについてです。「わや」の「わ」と「や」のどちらにアクセントを置いて発音するのが正しいのか、ご説明していきます。普段から「わや」を用いる方は、自分がどちらで話しているかを思い返しながら見てみましょう。
イントネーションで発祥が分かる
実際のところ「わや」の発音はどちらにアクセントをつける場合も存在します。そのため、厳密な正解はないのです。
ただし、アクセントの付ける場所によって、どこ発祥の「わや」なのかというのがわかります。「わ」にアクセントを置く、「立つ」や「カツ」と同じ発音の仕方の場合、この「わや」は中部~関西地方発祥だと判断できます。
また、「や」の方にアクセントを置く、「花」や「下」のような場合、北海道発祥の「わや」だとわかります。意味に関しては前述した通りです。
「わや」の方言は道理に合わないことを意味する
いかがでしたでしょうか。今回は「わや」という方言について、意味や由来、地域別に見た違いなど、「わや」という方言について掘り下げてきました。耳慣れない方も会話も中で使われた場合にしっかり意味を捉えることが出来るようになったでしょう。
皆さんもその地方の方と話す機会があった際には「わや」を使ってみてください!会話の幅もきっと広がります。