皮肉の意味とは
普段は何気なく使っている「皮肉」という言葉ですが、その意味を理解し正しい言葉の使い方をしている人は多くありません。あまりにも頻繁に使われる言葉なので、知らず知らずのうちに解釈が間違っているのです。
「皮肉」には大きく分けて2つの意味を持ちますが、文脈の中ではさまざまな意味で使われます。そのため語源を忘れてしまい、誤った言葉の使い方をしてしまうのです。そこで「皮肉」を正しい意味について解説します。
意味①欠点を遠回しに言って非難すること
「皮肉」とは「相手の欠点を遠まわしに言って非難すること」を意味します。この中でポイントとなるのが「遠回し」の部分です。直接的に非難されたのであれば、その場で言い返すこともできます。
しかし「遠回し」に非難されると、その場では気がつかないことも少なくありません。したがって、後になってボディブローのようにじわじわと効いてくるのが「皮肉」なのです。また、後味の悪さが残るのも「皮肉」の特徴だといえます。
意味②期待と違う結果になってしまうこと
「皮肉」には「期待と違う結果になってしまうこと」の意味でも用いられます。ここでポイントとなるのが「期待と違う」の部分です。物事を進めていく上で、誰もが期待すべき結果を事前に予測をしています。
しかし、期待とは異なる「裏腹な結果」が出ると、落胆の意も込めて「皮肉にも〜」といった使い方をするのです。「裏腹な結果」とは必ずしも悪いことばかりではありませんが、「手放しでは喜べない」といった想いが「皮肉にも~」には込められています。
皮肉の語源
「皮肉」の語源を調べてみると、その言葉の真の意味を理解しやすくなります。「皮肉」とは単に「人を批判すること」や「裏腹な結果を表す」だけの言葉ではありません。そこには不快な気持ちや後味の悪さを感じさせる「嫌味」といったニュアンスが込められています。
しかし、「皮肉」の語源となる「皮」「肉」だけでは、なぜ「嫌味」といった意味が込められているのかわかりません。そこで「皮肉」の意味を正しく理解するために、その語源について解説します。
中国禅僧の達磨大師の仏教用語
「皮肉」の語源は中国禅僧の達磨大師の仏教用語にあります。達磨大使は4人の弟子たちに禅の神髄について質問します。すると4人の弟子たちは「我が皮を得たり」「我が肉を得たり」「我が骨を得たり」「我が髄を得たり」と答えました。
すると達磨大師はこれらの回答は優劣付け難いとして、全てを正解とし「皮肉骨髄(ひにくこつずい)」という言葉が生まれたのです。つまり「皮肉」の語源は「皮肉骨髄」にあると言えます。
「皮肉」の語源は「皮肉骨髄」
本来「皮肉骨髄」という言葉が広く浸透するはずでした。しかし、いつの間にか、「皮肉」の部分だけを取り出して「皮と肉は物事の本質を見極められない。」「相手が本質を理解できていない。」といった意味で使われるようになりました。
語源からすると、骨や髄は物事の要点や本質への理解を表す言葉です。一方の皮や肉は物事の表面上の理解を表す言葉だといえます。つまり、本来の語源からすると言葉自体は短くなりましたが、「皮肉」は十分に的を得た解釈がなされた言葉です。
また、皮肉にはその語源から、単なる「非難」ではなく「的を得た非難・批判」といったニュアンスがあることを覚えておきましょう。
皮肉の類語
「皮肉」には人を遠回しに批判したり、思惑とは異なる裏腹な結果を意味する「皮肉骨髄」を語源とする言葉です。そこには「嫌味」といった意味が含まれており「皮肉」を理解する上で大きなポイントになります。
さらに「皮肉」の意味を深く追求するには、類語との相違点を見つけることが非常に大切です。そこで「皮肉」の類語や例文、具体的な使い方について紹介します。
当て付け
「皮肉」の類語である「当て付け」は、相手に対する腹立たしさや不満をストレートに伝えず、「これ見よがしの行動を取ること」を意味します。相手に対して「ストレートに伝えない」といった意味では「皮肉」の類語であるといえるのです。
「当て付け」は相手に対する「仕返し」にも取れますが、「皮肉」には「仕返し」の意味は含まれません。また、「皮肉」には含まれる「裏腹な結果」といった意味は、類語でありながら「当て付け」には含まれなのが相違点となります。
「当て付け」の例文
「当て付け」の例文としては、「彼女は浮気性の彼に宛て付けるように、他の男性と食事に行った。」「彼はライバルの企画書に対して、別の企画書を当て付けのように提出してきた。」「当て付けをしてしまうと惨めな気持ちになってしまう。」などです。
この例文のように、恋愛、仕事などさまざまな場面で「当て付け」は使用されます。いずれの場面でも「これ見よがしの行動」をとることから、少なからず相手に対する「嫉妬心」が感じられる場面で使うと良いでしょう。
当て擦り
「皮肉」の類語である「当て擦り」は角が立たないよう「婉曲的に相手の欠点や誤りを指摘する」を意味します。したがって、相手を「婉曲的に非難する」といった意味では「皮肉」の類語だといえるのです。
例文としては「彼女は発言は当て擦りだと感じた」「彼は以前から傍若無人な振る舞いをする彼女に当て擦りな発言で対抗した。」「当て擦りが過ぎるようだと、彼女との交際を考えなくてはならない。」となります。
ただし、「当て擦り」は相手に対して角が立たないよう非難することを意味しますが、「不快感をもたらす」といった意味は含まれていません。一方、「皮肉」は相手に対して「不快感を抱かせる言動」といった意味が含まれています。
「当て擦り」の例文
「当て擦り」の例文としては「彼女は発言は当て擦りだと感じた」「彼は以前から傍若無人な振る舞いをする彼女に当て擦りな発言で対抗した。」「あれは彼女の当て擦りであったことが、後から理解できた。」となります。
この例文のように「当て擦り」は、普段不満に思っていても、なかなか言い出せないことを相手に伝える場面で使われます。もちろん、その内容は相手に対する非難や批判となりますが、「皮肉」と異なり相手に不快感を与えるものではありません。
皮肉の使い方と例文
「皮肉」はさまざまな場面で使われる言葉ですが、ニュアンスが異なった使い方がなされていることも少なくありません。これは、「皮肉」の表面的な意味しか理解できていないことが原因だといえます。
「皮肉」の使い方を正しくマスターするには、多くの使い方や例文に触れて慣れることが大切です。そこで「皮肉」のさまざまな使い方や例文を紹介します。
皮肉を言う
「皮肉」の使い方の中で頻繁に出てくるのが「皮肉を言う」です。ここでの「皮肉」は「相手の弱点を遠回しに指摘することで不快感を与える」といった使い方になります。言い換えれば「嫌味」の類語としての使い方です。
類語である「当て付け」との相違点は、「皮肉」はあくまでも言葉による非難です。これに対して「当て付け」は態度で示されることが大半となります。しかし「皮肉」は的を射ているという面では「当て付け」とは異なります。
「皮肉を言う」の例文
「皮肉を言う」を例文にすると「彼はいつも皮肉を言うので周りから敬遠されるんだ」「皮肉ばかり言っているといつか嫌われるよ」「彼の皮肉は的を得ているから反論できないんだ」となります。
この例文での「皮肉」は決して相手に歓迎されるものではありません。とりわけ「皮肉」は「的を得ている」「実態に即した」内容であり単なる非難や批評ではありません。それだけに「皮肉」を言われた側は、「痛いところを突かれた」状態になってしまうのです。
皮肉が効く
「皮肉」の使い方の中で「皮肉が効く」もよく出てくる表現です。この表現は相手からの「皮肉」に対して不快感を感じたり、傷ついた感情を表す場合の使い方になります。つまり、類語でいえば「嫌味」に近い意味をもつ使い方なのです。
つまり「皮肉が効く」と表現するのは、自分から仕掛ける行動ではなく、相手の言動によって受けた感情を表します。なお、この場合、言葉を発した側に悪意があるか否かは関係ありません。あくまでも受け手が「皮肉」だと感じるか否かがポイントです。
「皮肉が効く」の例文
「皮肉が効く」の例文としては「彼は一言はいつも皮肉が効いているね」「彼の言動が皮肉が効きすぎていて気が滅入るよ」「的を得ている皮肉だけに効いてきたよ」などとなります。
例文のように「皮肉が効く」という表現には、「的を得ているから辛い」といった意味が含まれるのです。つまり語源にもあるように、「皮肉」とは単なる非難や批評ではなく、事実に基づいた正しい内容であることが前提になります。
皮肉にも〜
「皮肉」の使い方の中で「皮肉にも〜」もよく使われます。この言い回しでは、「思惑通りの結果が得られなかったこと」を表します。つまり、「皮肉」の類語である「嫌味」とは全く異なる「使い方です。
例文としては「皮肉にも彼の失敗が災いを防いだのです」「皮肉にも失恋したことで彼女に騙されることがありませんでした」となります。
この場面の「皮肉」は思惑通りにいかなかったけれども、結果として悪くなかった状態を表すものです。また、使い方の特徴として「素直に喜べない」「釈然としない」といったニュアンスが含まれていることがあげられます。
「皮肉にも~」の例文
「皮肉にも」の例文としては「皮肉にも彼の失敗が災いを防いだのです。」「皮肉にも失恋したことで彼女に騙されることがありませんでした。」「外出できなかったので皮肉にも交通事故に遭わずに済みました。」などです。
例文のように「皮肉にも~」は、思った通りの結果が得られなかったことが良い結果に結びついた場合に使います。本人としては「本位ではない」といった部分があることから「釈然としない」といった思いを「皮肉にも~」と表現しているのです。
皮肉を込める
「皮肉」を用いた表現において「皮肉を込める」も正しい使い方です。この場合、「相手を少し見下した目線で非難・批評すること」を表します。つまり、褒め言葉であっても、ちょっとした非難や批判が含まれているのです。
なお、「皮肉を込める」を使う場合、基本的には「上司・部下」「先輩・後輩」など、上下のポジションが明確な間柄で使用されることが一般的です。
「皮肉を込める」の例文
「皮肉を込める」の例文としては「彼女は皮肉を込めて、私に別れを告げに来たんだ。」「お別れの挨拶には随所に皮肉が込められていた。」などです。
例文のように「皮肉を込める」には、相手に対する悪意が感じられます。ただし、ストレートに感情をぶつけるのではなく、「皮肉」というフィルターを通して遠回しに伝えているのが特徴です。
皮肉と嫌味の違い
「皮肉」の類義語としてよく使われるのが「嫌味」という言葉です。中には全く同じ意味をもつ言葉だと勘違いしている人もいます。しかし、あくまでも「皮肉」の類義語であり、「嫌味」は語源が異なるだけでなく、別の意味をもつ言葉です。
つまり、「皮肉」と「嫌味」の使い分けができなければ、両方の言葉をマスターしたことになりません。そこで、「嫌味」の意味や「皮肉」との違いについて解説します。
嫌みの意味とは
「嫌味」とは「相手を不快に感じさせる言葉や態度」のことを意味する言葉です。この時「嫌味」を言う側の方が立場が強いのが通例であり、いわゆる「上から目線」で発する言葉だと言えるでしょう。
「嫌味」は相手が自分の意にそぐわない言動や失敗があった際、苦言を呈す意味での使い方になります。しかし、注意・指導とは異なり相手を「育てよう」「正しい方向に導こう」といった想いは含まれません。
あくまでも、相手を不快な思いにさせるための言動となります。つまり「嫌がらせ」の類義語だと考えると良いでしょう。
聞いていて楽しくないこと
「嫌味」は言われた者は当然として、その周りにいる人も不快にします。そのため「聞いていて楽しくないこと」を「嫌味」の意味だとする考え方もあるのです。
例文にすると「また課長が部下に嫌味を言っていたけど、聞いている私も不快になりました。」「嫌味ばかり言っている人の気持ちがわからないな。嫌味を考えるだけで不快にはならないのかな」といった具合になります。
いずれにしても「嫌味」は当人同士ばかりではなく、周囲も不快な気持ちにさせてしまう言動を表す言葉であることを理解しておきましょう。
嫌味の例文
「嫌味」の例文としては「反抗期だった私は母に嫌味ばかり言っていました。」「あまりの無頓着ぶりに嫌味の一つでも言わなければ気が済みません。」「嫌味ばかり言っていると嫌われてしまうぞ」などです。
いずれの例文でも「嫌味」を言っている人には「悪意」があることがわかります。また、「嫌味」は遠回しな表現ではなく、「直接的」な表現であることが大きな違いです。
「嫌味」と「皮肉」の使い分け
「嫌味」と「皮肉」はとても似通った言葉であり、共通する意味もたくさんあります。そのため、区別がつかないまま使っている人も少なくありません。しかし、突き詰めていけば「嫌味」と「皮肉」には大きな違いがあります。
「嫌味」は相手に対する非難や不満を「直接」伝えることです。これに対して「皮肉」は「直接」ではなく「遠回し」に伝える点が大きな相違点だといえます。
さらに「皮肉」は単なる非難や批判ではありません。相手が一番触れてほしくない核心部分を突くのが「皮肉」になります。それだけに「非難が効く」という表現が生まれるのです。
皮肉としてよく使われる英語フレーズ
日本において「皮肉」はあまり良い意味での使い方はされません。一般的には不快感や嫌味を込めた使い方になります。。英語では「irony」が「皮肉」に相当する単語ですが、直訳ではなく類義語だと考えると良いでしょう。
アメリカ英語やイギリス英語では「皮肉」を「ユーモア」や「知性」といった意味の使い方もしています。これは日本ではあまり見られない、英語特有の表現だといえるでしょう。
また英語では「irony」だけでなくさまざまなフレーズをもって「皮肉」を表現しています。そこで、日本語と英語における「皮肉」の意味の違いを明確にするため、よく使われる英語のフレーズを紹介します。
ありがとう
英語では「皮肉」を「Thank you」(ありがとう)というフレーズで表すことがあります。何か大きな失敗をした相手に対して、わざと「Thank you」(ありがとう)と使うのです。
また、すぐに首を突っ込みたがり相手に対して「Thank you for your kind」(親切にしてくれてありがとう)、「thank you for your help」(助けてくれてありがとう)と返すのも「皮肉」を表す英語フレーズです。
さらに「thanks a lot!」も一見すると非常に感謝しているように感じられますが、英語では最上級の「皮肉」にもなりますので注意しましょう。
面白いね
「funny」は「面白い」を意味する英語ですが、使い方によっては「皮肉」を意味します。例えば、相手がつまらないことを言った場合に「That’s very funny」(とても面白い!)と苦笑しながら表現するのは「皮肉」にあたる英語フレーズです。
英語と日本語の大きな違いは、英語は言葉だけでなく顔の表情や身振り手振りで、その意味を表現することです。つまり「That’s very funny」(とても面白い!)も表情が伴わなければ「皮肉」であることが伝わりません。
一方日本人は一般的に表情が堅いとされています。したがって、本当に面白いと思って「That’s very funny」と言っても「皮肉」だと勘違いされることもありますから注意しましょう。
素晴らしいね
「greate」は「素晴らしい」を意味する英語ですが、「funny」と同様に使い方によっては「皮肉」を意味します。例えば、相手のつまらない言動に対して、オーバーアクションで「That’s great!!!!!」(素晴らしい‼︎)とすると立派な皮肉です。
ここでも重要なのは顔の表情であったり、身振り手振りになります。したがって、「皮肉」を表現したつもりが相手から感謝され「皮肉な結果」になることもありますから注意しましょう。
「greate」(素晴らしい)「funny」(面白い)ともに、言葉の意味だけからは類義語とはなりません。しかし表情を交えて使うことで、英語フレーズとなるのが英語の面白いところです。
知ってると思うけど
外国人が口癖のように使うのが「you know」(えっと…)という英語フレーズです。直訳すると「知ってると思うけど」となります。
この「you know」を相手が無知であることを知った上で使うと、立派な「皮肉」となるのです。とりわけ、その事項を知らない相手に対して「as you know」(ご存知だと思いますが)と使うと、「皮肉」どころか「侮辱」にあたる場合もあります。
外国の人が気軽に使うフレーズであっても、真の意味を理解しておかないと「皮肉」では済まないことがあるのです。英語に限らず言葉やフレーズのチョイスには注意を払いましょう。
皮肉は遠回しに非難すること
「皮肉」とは遠回しに人を非難することを意味する言葉であり、日常生活の中では頻繁に使われます。また、期待とは異なる結果に対して「皮肉にも~」といった使い方もするので覚えておきましょう。
「皮肉」の語源は中国禅僧の達磨大師の仏教用語である「皮肉骨髄」です。また、類義語としては「当て付け」「当て擦り」などがありますが、最も近い意味で使われる類義語は「嫌味」になります。
なお、「嫌味」と「皮肉」の決定的な違いは、同じ非難でも「皮肉は遠回し」、「嫌味は直接的」に伝える部分です。いずれにしても「皮肉」は人を不快にする意味をもつ言葉なので、正しく使いましょう。