魚に痛覚があるのかないのか議論勃発!
魚は海の生き物ですが、私たちに身近な存在です。あなたは、魚は痛覚を持ち合わせ、痛みを感じると思いますか。それとも、痛覚は持ち合わせず、痛みは感じないと思いますか。近年、魚に痛覚があるのかどうかの議論が、再燃してきたようです。
例えば、私たち人間は痛覚を持ち、痛みを感じます。もし仮に私たち人間が痛覚を持たず痛みを感じることが出来ないとしたら、どうなるでしょう。
けがや病気になっても気づくことが出来ず、死んでしまう危険性が高くなります。痛覚を持ち、痛みを感じるということは、生物が生きていくうえでは大切なことなのです。
魚には、痛覚が存在するのでしょうか。存在するとしたら、魚は身体の中のどの場所に痛覚を持ち、痛みを感じるのでしょうか。最新の研究内容とともに、見ていきましょう。
魚の痛覚の結論はまだ出ていない
私たちには痛覚があるため、痛みを感じるとすぐに「痛い!」と反射的に声が出て、場合によっては叫びます。一方で、魚は痛みを感じても声を出しません。魚は痛そうな表情もしません。
もしかしたら、魚は痛そうな表情をしているのかもしれませんが、私たち人間にはそういった表情をしているとは感じ取れません。
そして、魚に針を刺しても声を出しません。そのため、魚は痛みを感じないと言われてきました。しかし反対に、魚が抵抗する姿を見て痛覚がないわけがないだろうと言う人も少なからずいます。
例えば、低い海水温の中で泳いでいる魚は、人間の手のひらに乗せただけでもやけどしてしまいます。もし痛覚があるなら真冬の日本海を泳げないのではないかと言う人もいるのです。魚の身体の中でどの場所に痛覚があるのかについては、今もなお慎重に研究が行われています。
痛覚を持つ動物は痛みを感じる
「頭の痛み」「歯の痛み」「指を針で刺した痛み」「お腹の痛み」「腰の痛み」など、痛みには色々な種類があります。痛みは耐えがたいものです。
痛覚を持つ動物は痛みを感じます。私たち人間も同様に痛みを感じます。人は誰しも、出来れば痛みとは無縁の生活を送りたいと思うでしょう。痛覚なんてなければ良いのに、と思う人も少なからずいるはず。
痛覚とは、なんでしょうか。痛覚とは、いわば痛みの感覚です。皮膚の痛点や臓器組織の圧迫・障害などの刺激によって起こります。
痛覚は、他の皮膚感覚が身体の内外に起こった出来事を感じさせるという機能をもつのに対し、加えられたダメージの原因から身体を防御するという機能を持っています。痛み刺激を侵害刺激、それによっておこる痛覚は侵害受容感覚と言います。
痛覚を持つことの大切さ
痛覚は、神経系を持つ動物が持ち合わせています。もしも痛覚がなかったら、動物は命の危険に気づけず、生きていくことが困難になります。
私たち人間の身体の機能には、とても大事な障害受容器と言うものがあります。人間の神経系にて、身体へ与えるダメージの最初の反応が痛みの反応です。
痛覚を持つことは大切なことです。私たち人間に痛覚がなければ、痛みを感じないで済みます。しかし、痛覚を持たずに痛みを感じることが出来ないとしたら、どうなるでしょうか。
大きな病気やケガをしたとしても、痛む場所を特定することが難しく、悪化する可能性が高まり、最悪死に至ります。痛覚がなければ生き続けることも難しいのです。
痛みを感じたときに取る行動
例えば、神経や肌が痛みを感じた場合、痛いという信号は神経を通り、脊髄まで届きます。すると運動ニューロンと呼ばれる行動により、私たち人間は痛みの原因である対象から離れる行動を取るようになります。このことが障害受容と言います。
あるタイミングで障害受容器の範囲外に達し、「いたい!」という反応が出る痛みに変わります。痛みに耐えるのは難しいことです。現代の日本人は痛みを感じた際に、痛み止めを飲むなどの対処法を行います。
歴史を見てみると、古代エジプト人はアヘンを吸うという対処法を用いたり、同様にネイティブアメリカンはシラカバの樹皮・ヤナギを噛むという対処法を用いて、痛みを緩和しようとしてきました。
魚類・甲殻類に痛みがあるかははっきりしていない
魚類・甲殻類については、裏付ける証拠がまだ出てきていません。魚には大脳新皮質がほとんどない又は少ないために、魚は痛みを感じないという説もあります。
魚や甲殻類に関する様々な研究内容や仮説が出てきていますが、魚や甲殻類が身体のどの場所で、どれくらいの痛みを感じるのかを知ることは、とても難しいことなのです。
魚には痛覚がないと言われていたが!
魚は、私たちに身近な存在です。いつも美味しく食べているという方も多いのではないでしょうか。古くから日本人は、イカやエビ、シラウオなどの魚を踊り食いしてきました。
しかし、海外からは「生きている魚を食べるのは残酷だ」という声も聞かれるほど、生きている魚を食べると言う行為は世界的にはとても珍しいようです。
活きたまま魚を食べる踊り食いという日本の食文化は、魚には痛覚がないから問題ないとして根付いてきました。ところが、最近になって魚の痛覚に関する新しい研究結果が判明してきました。
ニジマスを使った研究結果
魚の痛覚に関する研究で、実際に魚を使ったある研究結果があります。研究に使われた魚はニジマスです。その実験は、スコットランドにあるエディンバラ大学、ロスリン研究所の研究チームによって行われた研究で、ニジマスを用いて行われました。
魚のニジマスの頭にマーカーを付けて、熱的な刺激を送ってみたり、科学的な刺激を与えたりして、反応する神経活動を記録、観察するというものでした。
その結果、組織にダメージを与える刺激に条件反射とは異なる反応をし、遠ざかる行動や生理的変化を見せたと言います。この反応は、高等哺乳動物と同等であると見られています。これらのことから、魚は痛覚を持ち、痛みや苦しみを感じる能力が備わっていると結論付けたと言います。
痛みを感じる場所は頭部周辺に最低58ヶ所
研究チームを率いたリン・スネドン博士によると、ニジマスを用いた実験では、痛覚の場所である痛点が、ニジマスの頭部や顔周辺に58か所以上あることが判明しました。
内22か所は、侵害受容体(ダメージや損傷を検知する部位)を持っていることが確認され、これが人間で言うところの痛みの感覚にとても近いものだという結果となりました。
また、酸を注入された魚のマスがとった行動である、くちびるを砂利や水槽にこすり付ける反応、つまり反射ではない反応は魚にとって痛みに相当するものとみなしています。
魚以外の甲殻類には痛覚がある可能性が高い?
魚の痛覚について見てきましたが、魚以外の甲殻類はどうでしょう。魚以外の甲殻類は、痛覚を持ち痛みを感じるのでしょうか。
魚類と同じ海の仲間である甲殻類ですが、生きたまま熱湯に入れても特に逃げ出すような様子も見られなかったため、甲殻類の身体の場所には痛覚がないとされてきました。ところが、最近の研究では甲殻類には痛覚がある可能性が高いということが分かってきたのです。
ヤドカリを使った研究結果
ヤドカリは魚以外の甲殻類の中で、代表的な海の生き物です。ヤドカリは痛覚を持つのでしょうか。ヤドカリによって行われた実験では、ヤドカリをはじめとするイセエビ・カニなどの甲殻類に痛覚がある可能性が高いという結論に至りました。
2009年発表の研究論文に書かれていた実験内容は、ヤドカリの殻に電気を流すとどうなるかというものでした。
実際にヤドカリに電気ショックを与えてみると、電気ショックを受けていないヤドカリは、自分の殻の中から動かなかったのに対し、電気ショックを与えられたヤドカリは、すぐに自分の殻から逃げ出したという結果となりました。
また、先ほどより弱い電気ショックを与え、新しい殻を用意してみると、その新しい殻に移るヤドカリが多かったと記載されています。
人間で言うとつまり痛みを感じている
このことは、私たち人間で言うところの「スープなどの熱い料理がお皿の中に入っていれば持ち続ける一方で、空であれば手を離して落とすことが多い」という行動に当たるため、単なる反射ではない、痛覚を持ち痛みを感じているという見解となっています。
痛覚を確認したロブスターの扱いとは
同じ甲殻類のロブスターは痛覚を持つのでしょうか。生きたまま熱湯に入れられたロブスターは、逃げ出そうと四肢を動かすなどの行動をとります。こうした反応を受け、ロブスターの神経系は複雑であると判明し、ロブスターには痛覚があることが確認されました。
スイスでは、生きたままのロブスターを熱湯に入れる従来の調理法は禁じられ、前もって気絶させてから調理を行うことが義務付けられており、動物福祉の進んでいるオーストラリアにあるサウスウェールズ州では、人道的な殺し方についてまとめたガイドラインが作られています。
魚の痛覚次第で今後に影響する可能性も!
現在は、日本においてはロブスター等の調理法が法律で定められてはいません。しかし、スイスでは既に法律が制定されているように、今後さらに魚類や甲殻類の痛覚の研究が進んでいくと、将来日本でも魚類や甲殻類の調理法がガイドラインとして作られる可能性もあります。
魚の痛覚が存在するという確かな証拠が出てきた際は、日本でも影響を受けることが考えられます。命をいただいているということに改めて感謝し、今後の動向を見守っていくことが大切になりそうです。