アブラソコムツの生態について徹底調査!
アブラソコムツという名の魚をご存知でしょうか。一般的には馴染みのない魚かもしれません。アブラソコムツは一体どんな魚でどのような生態なのか、生息域や呼び名、食べることができるのかなど、様々な視点から紹介をしていきます。
アブラソコムツとはどんな魚?
アブラソコムツはスズキ目サバ亜目クロタチカマス科、アブラソコムツ属に属する海水魚です。魚体は黒灰色をしており、深海魚特有の大きな目を持っています。尾ひれにギザギザの隆起線があります。歯は非常に鋭く、遊泳力が力強いためスポーツフィッシングの対象魚にもなっています。
水深数百メートルに生息する深海魚
アブラソコムツは海水魚であり深海魚です。海の深い層に生息をしており、水深約400m~1000mを住処としています。アブラソコムツは夜になると、エサを求めて水深100m付近まで浮上してきます。サバやイカなどを好んで捕食します。全長は2.0m近くまで成長し、重量は約50kgにもなります。
浮袋
アブラソコムツには魚特有の浮袋がありません。浮袋は浮くための機能の他に、肺の機能、聴覚の補助、発音機能があります。
アブラソコムツは水圧が高い深海にいます。過酷な環境下において、急激な水圧変化や深度変化に対応するため浮袋がないのです。
アブラソコムツが浮力を得るために利用しているのが、脂肪や油脂になります。脂肪や油脂は水より軽いため、浮力を得ることができるからです。深海での水温は1000mで2℃から4℃の低温になります。脂肪や油脂は断熱効果があるので、アブラソコムツに油脂が豊富な理由がここにあります。
目
深海魚であるアブラソコムツの特徴の一つが目です。アブラソコムツがいる深海約1000mは太陽の光がかろうじて届く中深層にあたります。深海魚は体の大きさに対して大きな目を持っています。
色彩能力がある魚は水深10m以降になると、青以外の色は識別できず、明るさのみ区別ができます。アブラソコムツはエサをすぐに探せるように、わずかな光をたくさん取り込むため目が大きく進化しました。
耳石
アブラソコムツには耳石という石が体内にあります。この耳石は魚の種類によって大きさが異なり、魚が平衡感覚を保つのに役立っています。
アブラソコムツは深海魚でありながら浮袋がありません。しかしこの耳石があるため平衡感覚をコントロールすることができ、エサを捕食する際にも魚体をうまく使うことが出来るのです。
スポーツフィッシング
アブラソコムツは全長2m近くまで成長し、重量は50kgにもなります。遊泳力も非常に高いためスポーツフィッシングの対象魚になっています。
スポーツフィッシングとは道具と技術を駆使し、魚と格闘し見事釣りあげることを目的としています。アブラソコムツは引きが強く大物がいるため、本気で魚と戦いたい釣り師にとって魅力的な魚となっています。
釣り道具
アブラソコムツを釣るためにはメタルジグというルアーを使用するのが一般的です。重さは300gから600gのものを使用します。サンマやサバの切り身を付け、ルアーとエサを一緒に用いる独特な仕掛けとなります。
ブリやハマチ用の天秤仕掛けでも釣ることができます。オモリは100号から150号を選択します。これはアブラソコムツが夜間にエサを捕食するために浅い層へ移動するところを狙う場合です。
ハリスは50号程度で、フックは30号から40号がいいでしょう。針に夜光タコベイトをつけるとアブラソコムツを刺激し活性を上げることができます。深海にちかいので青色の夜光タコベイトがおすすめです。
釣り方
アブラソコムツを釣るためには、ます狙った水深まで仕掛けを沈めていきます。そのあとゆっくりと竿を上下させて誘います。アブラソコムツはアタリが小さいほど大物であることが多く、見逃しやすいので注意しましょう。
アタリが大きくなったら強く合わせを行い、全身を使い釣りあげます。釣り上げたアブラソコムツはそのまま海へリリースすることが基本です。
アブラソコムツには鋭い歯があります。素手では絶対に触らないでください。必ずプライヤーを使用して針外しをおこないましょう。大型用のスプリットリングプライヤーがおすすめです。
アブラソコムツの生息地域
アブラソコムツはどのような場所を生息域としているのでしょうか。具体的な生息地域と、どのような環境下を住処にしているのか、地域によって呼び名がどのように変化するのかなど説明をしていきます。
相模湾から土佐湾の太平洋沿岸の深海
アブラソコムツは世界中の温帯、熱帯域に生息しています。日本においては相模湾から土佐湾の太平洋沿岸の深海を住処としており、地形が複雑で深い海を好みます。月の光によって泳層が変化し、明るいほど浅い層へ移動します。理由はエサとなる対象が月齢によって遊泳層が変わるためです。
地域ごとに呼び名も変化
アブラソコムツは地域によって呼び名が変わります。沖縄諸島の東部にある大東諸島では、インガンダルマ、ダルマと呼ばれています。静岡県ではサットウと呼ばれ、地域によって全く違う名で扱われていることがわかります。英名はEscolarとなりエスカラーと読みます。
台湾では油魚を意味するヨウユーと呼ばれ、市場で販売されています。油魚子はアブラソコムツなどの魚卵を加工したカラスミで、台湾の名産品となっています。
アブラソコムツは食べると大変!
アブラソコムツは食べること自体は可能です。肉厚で非常に美味しいことで有名です。例えるならばマグロの大トロのように柔らかく濃厚な味わいです。しかしある重大な問題をはらんでいます。食べてしまうと一体どのような問題があるのか説明をしていきます。
アブラソコムツの脂「ワックスエステル」は消化不可
アブラソコムツの身にはワックスエステルという脂が含まれています。このワックスエステルには人間の体内で消化できない成分があり、食べることはできても脂を消化できないという問題が生じてしまうのです。
成分
ワックスエステルはアブラソコムツのような深海魚の身に含まれています。浮力の調整やエネルギーの貯蔵を兼ねています。脂を構成している脂肪酸はオレイン酸で、セチルアルコールとオレイルアルコールが含まれています。
植物界で唯一ワックスエステルを含むのが、ホホバの植物の種子から抽出できるホホバオイルです。お肌の保湿に効果があり女性化粧品などに活用されています。
アブラソコムツの料理
アブラソコムツは一度食べるとやみ付きになるくらい美味しい魚です。しかしながら体内で消化できない成分をもっているため、大量に摂取することはできません。食べる際は量に気を付けることと、しっかりとリスクを承知した上で調理しなくてはなりません。
刺身
なんといっても外せないのが刺身です。身は白く口の中に入れるとマグロの大トロのようなトロリと濃厚な味わいが広がります。わさびも良いですが、ネギとポン酢、七味唐辛子をかけて食べるとさっぱりといただくことができます。
但し、気を付けなくてはいけないのが食べる量です。漁師さんもアブラソコムツの刺身は美味しくて食べ過ぎてしまうため、あえて別料理にするほどです。
それくらい美味しいのがアブラソコムツの刺身です。しかし体内で脂は消化できません。摂取する目安としては、1切れか2切れくらいにしておくのが無難です。
ムニエル
アブラソコムツのムニエルも美味しい調理方法のひとつです。料理する際はフライパンに油をひかなくてよいです。なぜならアブラソコムツの身から十二分過ぎるほど脂が出るためです。
そのため余分な脂はキッチンペーパーなどで取りながら焼いてください。こちらの料理も食べる量には十分気を付けましょう。
煮つけ
アブラソコムツの煮つけも美味しい料理方法のひとつです。一度ソテーするか、茹でてから煮込むと油抜きをすることができます。
味は銀タラやブリの煮つけのように濃厚で非常に美味しい一品です。しかしながら他の料理と同様に、摂取する量には十分に気を付けてください。
アブラソコムツは販売も禁止
アブラソコムツは市場において販売が禁止されています。食品衛生法第1章第6条2項に該当していることから厚生労働省が指定しています。販売禁止の理由はアブラソコムツの身に含まれる脂に、ワックスエステルという人間が消化することができない成分が含まれているためです。
食べ過ぎると下痢・腹痛を引き起こす
アブラソコムツは食べることができます。しかし食べ過ぎてしまうと下痢や腹痛を起こす可能性があります。
なぜならアブラソコムツには人間が消化できないワックスエステルという脂が含まれているからです。販売が禁止されていない海外の一部では、170g以上の切り身は摂取しないことが推奨されています。
1981年に販売禁止から市場に流通しない
アブラソコムツは厚生労働省が指定している、自然毒のリスクプロファイルにある魚類の異常脂質に該当しています。そのため1981年に販売が禁止され市場への流通がストップされました。そのおかげでアブラソコムツによる食中毒は1990年以降報告があがっていません。
アブラソコムツ事件
昭和58年1月18日、甲府市卸売市場の冷凍庫内に流通販売が禁止されているアブラソコムツ5.5トンが保管されていることが発覚しました。発見したのは甲府保健所の食品監視員で、保管していた水産物荷受業者が摘発された事件になります。
クエとして切り身業者に販売をする目的であったことが判明しました。その後、クエと表示された味噌漬けを購入した消費者から、腹痛を伴う激しい下痢で苦しんだという届け出がありました。
別な業者はサワラと表示して卸していたことが分かり、スーパーなどに出荷されたものは回収され、この事件で5人の逮捕者が出て事件は解決となりました。
没収1.1トン
平成3年4月4日に甲野品川物流サービスセンター内で保管していた、アブラソコムツを販売しようとした事件がありました。
保管されていたアブラソコムツは1.1トンもの量となっており、味噌漬けしたアブラソコムツをムツミソという名の加工品として販売しようとしていたことが発覚。商品を下見に来ていた水産物の売買業者から指摘を受けて卸売りの中止がされました。
アブラソコムツと同じ成分を持つ深海魚
アブラソコムツの身にはワックスエステルという脂が含まれています。このワックスエステルの成分を持つ深海魚がアブラソコムツの他にも存在しています。どのような種類がいるのか紹介をしていきます。
バラムツ
バラムツはアブラソコムツと同じワックスエクセルを含む深海魚です。深海500mから1000m付近に生息しており、エサを求めて水深100mの浅い層へあがってきます。
体長は2mになる大物も存在します。尾柄部分に隆起線がなければバラムツで、ギザギザがあればアブラソコムツです。非常に似ているので見分けるときはこの部分で区別をします。アブラソコムツと同じく引きが強いため、スポーツフィッシングの対象魚にもなっています。
英名はoilfishと表記されオイルフィッシュと読みます。アブラソコムツと同じように浮袋がありません。深海から浅い層への移動し、水面下にきても姿勢を保つことができます。
バラムツは日本において、1970年に食品衛生法第1章第6条2項に該当することから厚生労働省により流通販売が禁止されています。
料理方法
バラムツを食べる場合の料理方法はいくつかあります。ワックスエステルを含んでいるので、人間は体内で消化することができません。リスクを承知の上で調理をする必要があります。
調理方法によっては食べやすくなり、多く摂取してしまう可能性もあるので、あらかじめグラム数を量って調理することをお勧めします。
刺身
バラムツの刺身は魚の脂を全部たべることになりますので、食べる量には気を付けてください。1切れから2切れくらいが良いでしょう。海外では白マグロと呼ばれており、身は呼び名の通り白く、そしてマグロの大トロのような濃厚な味わいがします。
天ぷら
加熱することにより脂は抜けますが、天ぷらなので油と脂の組み合わせになります。サクッと噛んだ瞬間にジューシーな味わいが口の中に広がります。この調理方法もとても美味しいため、食べ過ぎには十分に気を付けてください。
西京焼き
西京焼きは銀タラやサワラの調理方法で知られていますが、脂の乗ったバラムツにも合う料理です。フライパンには油をひくことは不要です。なぜならバラムツの身からしみ出す脂で十分だからです。余分な脂はキッチンペーパーで取りながら焼き上げてください。
焼き上げる際に脂を取ったとしても多くのワックス成分が残っています。消化できない脂ですので、こちらの料理も食べる量には十分に気を付けてください。
オオメマトウダイ
オオメマトウダイもアブラソコムツと同じワックス成分を含んだ脂をもっているため、人間の身体では消化できません。体長は約30㎝ほどで、北海道から茨城県の太平洋沿岸部で獲れます。
アブラソコムツと違うところは、加工用としてならば販売が許可されていることです。理由はワックスの含有量が少ないことと、1匹の大きさが小さいためです。主に練製品の原料に使われていたり、干物や塩漬けにされています。
クジラ
哺乳類であるクジラにもアブラソコムツと同じワックスエステルの成分を持つ種類が存在しています。クジラは形態と生態の違いから、ハクジラとヒゲクジラに大別されています。
ヒゲクジラから採れるナガス油は過去に食用として、マーガリンやショートニングに用いられていました。
ハクジラから採取されるマッコウ油が、人間には消化できないワックスエステルを含んでいます。マッコウ油は機械の潤滑油や、ロウソクの原料などに使用されていました。現在は、商業用捕鯨の制限により工業用の原料としては用いられておりません。
ハダカイワシ
ハダカイワシという名前の魚がいます。この魚にもアブラソコムツと同じワックスエステルを成分とする脂を持っています。
名前にイワシとありますがイワシの仲間ではありません。イワシはニシン目に属していますが、ハダカイワシはハダカイワシ目という部類に属しています。日中は深海にいる深海魚で、夜になると浅い層へあがってきてプランクトンを捕食します。
お腹に斑点があり、わずかに降り注ぐ太陽光を利用し光らせています。これは捕食者から身を守るための防御で、カウンターイルミネーションと呼ばれています。
アブラソコムツを食べる時の注意点
アブラソコムツは食べることができます。しかし食べる際に注意しなくてはならない点があります。それはアブラソコムツには人間が体内で消化できないワックスエステルという脂成分が含まれているためです。
食べ過ぎは厳禁
アブラソコムツには消化できないワックスエステルという成分が含まれています。アブラソコムツを食べる際には量に気をつける必要があります。大量に摂取してしまうと身体に異変が起こる可能性があります。具体的にどのようなことが起こる可能性があるのか説明をしていきます。
皮脂漏症が発症することも
アブラソコムツに含まれるワックスエステルを大量に摂取すると、皮脂漏症を発症してしまう可能性があります。皮脂漏症とは油が皮膚からしみ出してしまう病気で、初めは口やお腹が油でベタ付くようになります。
発症後は日数が進むにつれ全身に及んでしまい、腹痛や下痢も伴ってしまいます。大量に食べた方が昏睡状態になった事例もあり、食べる場合は大量に摂取しないようにしてください。
お尻から勝手に漏れる
人間が体内で消化できない脂のワックスエステルを多く摂取してしまうと、お尻から脂が漏れ出してしまう可能性があります。
しかもこの成分は食べた本人の意思に関係なく漏れ出してしまうのです。通常大きい方をする場合便意が生じますが、その予兆を感じることなく気づいたときには漏れ出してしまうのです。それでもあの美味しさが忘れられず、オムツをしてまでも食べる方がいらっしゃいます。
海外のお寿司屋に注意
海外では多くの日本食を食べることができる店があります。その中でも海外の方たちが独自路線で考えたお寿司屋さんが存在しています。
そのようなお寿司屋さんで、アブラソコムツをマグロと偽り提供している場合があります。知らないで食べてしまって大変なことになった事例がありますので、海外でお寿司を食べる際は、事前のリサーチをしっかりしてから来店するようにしましょう。
海外の缶詰に注意
海外の缶詰でホワイトツナという商品名で売られている缶詰があります。ホワイトツナにはびんちょう鮪やスズキを使用しているのがほとんどですが、中にはアブラソコムツやバラムツを使用している場合があり注意が必要です。
知らないで食べてしまうと下痢になってしまったり、知らないうちに脂が漏れ出してしまう可能性があります。
びんちょう鮪やスズキが使用してある証拠や根拠が得られないのであれば、購入や食べることは控えた方が良いでしょう。
自己責任が伴います
アブラソコムツは厚生労働省によって流通販売が禁止されている魚です。そのため手に入れるには自分で釣り上げるか、一緒に釣りに行った方に分けてもらう方法があります。
味は大トロのような口どけで非常に美味しいとなれば、食べてみたくなるのも分かります。しかし、食べることによって引き起こされる身体への影響と、その可能性があるリスクをしっかり認識する必要があります。そのうえで摂取することはあくまで自己責任でおこなってください。
アブラソコムツは食べると美味しいけど注意が必要!
アブラソコムツは深海魚でありながら、非常に美味しい魚で食べることができます。しかしアブラソコムツの身にはワックスエステルという人間の体内では消化できない脂が存在しています。
アブラソコムツは流通販売が禁止されているため、手に入れるには自分で釣り上げるか、分けてもらうしかありません。
もし大量に大量に摂取してしまうと皮脂漏症などの病気になる可能性があります。自分の意志に関係なく脂がお尻から排出されてしまう場合もあります。
そのため食べる際には摂取量に十分気を付けることと、身体に起こる可能性があるリスクをしっかり理解することです。それでも食べる場合は自己責任が伴うことを忘れないようにしましょう。