養育費とは?
子供がいる夫婦が離婚する場合、慰謝料や養育費、財産分与といった問題が生じます。とりわけ、養育費は当面の生活はもちろん、子供の将来にも大きく影響することですから、安易な取り決めをしていると、後々、大きな失敗を招きかねません。そうならないためにも、養育費とは何かを改めて理解しておくことが大切です。
子供を育てる為に必要な費用
養育費とは、離婚後の子供を育てる為に必要な費用のことであり、子供を養育しない親が支払うものとされています。したがって、食費は当然として、学費や住居、光熱費など、子供にかかる全ての費用が該当すると考えるのが妥当です。なお、養育費は、あくまでも離婚後の子供にかかる費用であって、親権者にかかる費用は除かれます。
そこで、疑問となるのが、住居や光熱費など、親権者と子供で区別がつかない費用の算出方法です。結論からすれば、明確に区別する必要はありません。養育費の詳細な算出方法については後述しますが、各家庭の生活水準に基づいて包括的に算出するのが基本です。
養育費の法的根拠とは
養育費は、慣例的に定められたものではなく、法律で定められた費用です。法的根拠としては、民法760条「婚姻費用分担」、民法752条「夫婦間の扶助義務」、民法755条1項「子の監護費用」の三つが該当します。したがって、子供を養育しない親は、子供が成人して自立できる年齢まで養育費を支払うことが、法的にも定められていることになります。
離婚した際の養育費は払う義務がある?
離婚の原因は様々ですが、その内容によっては、養育費を支払いたくないといった人も少なくありません。また、離婚後の自分の生活が苦しいので養育費を支払えないといったケースも考えられます。こういった場合、養育費の支払いを拒否できるのでしょうか。そこで、離婚した際の養育費は支払う義務があるのかを解説します。
離婚をしても親には子供を扶養する義務がある
そもそも養育費の考え方は、子供の生活水準を離婚後も、自分と同じ水準に保持するといった、生活保持義務に基づいています。つまり、離婚をしても親には子供を扶養する義務があるのです。したがって、離婚の原因や自分の生活が苦しいといった理由で、養育費の支払いを拒否することはできないのです。
また、子供が生活できる、最低水準の養育費を支払っただけでは、義務を果たしたことにはなりません。もちろん、生活水準は、家庭の所得によって大きな幅がありますから、どういった生活水準を離婚後も保持するかは個々の収入状況によって異なります。
基本的に20歳までは支払う義務がある
養育費を協議する際に、トラブルになりがちなのが、支給期間の問題です。養育費は、離婚後子供が自立するまで支払われる費用とされていますが、具体的な年齢までは定められていません。そこで、日本国内においては、日本国憲法で定められている、成人とみなされる年齢である20歳まで養育費が支払うことが多いのが実情です。
ただし、子供が高校卒業後、就職して経済的に独立できれば、離婚後、18歳までを支給期間とする場合もあります。反対に、大学に通っている場合、離婚後、卒業するまでは親の義務として22歳まで支払うケースも少なくありません。
したがって、支給期間については、子供の将来的な進路を考慮して、当事者間で協議されますが、それでは解決できな場合は、家庭裁判所に判断を委ねることになります。
離婚後の養育費の平均相場を知っておこう!
養育費は、両親の所得などから、現在の生活水準を維持するために必要な費用が割り出され決定されるものです。したがって、一律的に定められたものはなく、最終的には当事者間の協議によって決定します。しかしながら、仲違いをして離婚するのですから、相場観がなければ協議は平行線のままになります。そこで、養育費の平均相場について解説します。
子供の人数や妻の年収で変わる
養育費は、離婚後も子供には、自分と同じ生活水準を維持させるために支払うものであり、生活費や教育費として必要なものです。つまり、養育費の算出には「自分と同じ生活水準」をどう金額に反映させるかがポイントとなります。そこで、養育費に大きく関わってくるのが、両親の年収や子供の年齢・人数となります。
両親の年収と養育費の相場の関係とは
離婚する前は、両親の年収で子供を養育していたわけですから、離婚前の生活水準を維持するには、それぞれの親の年収が養育費に大きく関係します。具体的には、養育費を支払う側の親の年収が、親権を持つ親よりも高額であれば、養育費の金額も高くなり、反対に、親権を持つ親の方が高額であれば、養育費の金額は低くなる傾向にあります。
子供の年齢・人数と養育費の相場の関係とは
子供の年齢が高くなるほど、生活費や教育費も高額になりますから、養育費も高くなる傾向にあります。大まかな目安としては、子供が幼い0歳~14歳より、高校受験や大学受験を控える15歳~19歳の方が養育費は高くなります。もちろん、子供の人数が増えれば、その年齢に応じて養育費は高くなります。
養育費の相場や計算方法を把握しておこう
離婚した際の養育費は、両親の年収や子供の人数・年齢によって異なりますから、一律に計算できるものではありません。また、養育費は当事者間で協議の上、決定されるものですから、相場を把握しておかないと、後から後悔することもあります。
そこで、参考となるのが、裁判所が作成した「養育費算定表」です。子供の年齢、人数毎に算定表が作成されており、縦軸に義務者(養育費を払う人)の年収、横軸に親権者(養育費を受け取る人)の年収が示され、その両方が合致した地点が養育費の相場となります。裁判所が作成したものなので、納得性も高く、養育費の相場を把握するにはとても便利です。
①子供が1人の場合の養育費の平均相場
子供の人数が1人の場合の養育費を「養育費算定表」を用いて、子供の年齢、両親の年収の別に、平均相場を割り出しました。一般的に子供の人数が1人の場合、養育費の相場は5万円前後だと言われてます。しかし、子供の年齢や両親の年収によっては、相場を超えたり、反対に下回る場合もあります。
平均5万円前後
子供が0歳~14歳で、夫の年収500万円、妻(親権者)の年収が0万円の場合、養育費の相場は5万円前後です。しかし、妻(親権者)の年収が200万円に増えると、養育費の相場は3万円前後に減少します。
子供が15歳~19歳で、夫の年収500万円、妻(親権者)の年収が0万円の場合、養育費の相場は7万円前後です。しかし、妻(親権者)の年収が200万円だと、養育費の相場は5万円前後となり、さらに、年収が500万円に増えると、養育費の相場は3万円前後に減少します。
子供の人数が1人でも幼ければ、妻(親権者)は働くのが難しくなりますから、年収は減収傾向となり、養育費の相場は5万円前後です。子供が成長すると、養育費も大きくなりますが、妻(親権者)が働きに出ることが多く、年収も増収傾向となり、結局、養育費の平均相場は5万円前後となります。
②子供が2人の場合の養育費の平均相場
子供の人数が2人になれば、養育費の金額も大きくなりますが、単純に2倍にはなりません。そこで、子供の人数が1人の場合と同様に「養育費算定表」を用いて、いくつかのパターンで平均相場を割り出しました。一般的に子供の人数が2人だと、養育費の相場は9万円とされていますが、1人の場合と同様に相場を超えたり、反対に下回る場合もあります。
平均9万円前後
子供が2人とも0歳~14歳で、夫の年収500万円、妻(親権者)の年収が0万円の場合、養育費の相場は9万円前後です。しかし、妻(親権者)の年収が100万円に増えると、養育費の相場は7万円前後に減少します。
子供が2人とも15歳~19歳で、夫の年収500万円、妻(親権者)の年収が100万円の場合、養育費の相場は9万円前後です。しかし、妻(親権者)の年収が200万円だと、養育費の相場は7万円前後、さらに、妻(親権者)の年収が400万円に増えると、養育費の相場は5万円前後に減少します。
子供が2人とも幼ければ、1人の場合と同様に妻(親権者)の年収は減収しますから、養育費の相場は9万円前後です。子供が成長すると、養育費も大きくなりますが、妻(親権者)の年収も増収傾向ですから、結局、養育費の平均相場は9万円前後となります。
③子供が3人の場合の養育費の平均相場
子供の人数が3人になれば、養育費も大きくなりますが、生活費など一部の費用は3人で共有しますので単純に3倍にはなりません。さらに、子供達の年齢幅が大きくなれば計算は複雑になります。そこで、これまでと同様に「養育費算定表」を用いて、いくつかのパターンで平均相場を割り出しました。
一般的に子供の人数が3人だと、養育費の平均相場は9万円とされていますが、1、2人の場合と同様に平均相場を超えたり、反対に下回る場合もあります。
平均9万円前後
子供が3人とも0歳~14歳で、夫の年収500万円、妻(親権者)の年収が0万円の場合、養育費の相場は9万円前後です。しかし、妻(親権者)の年収が150万円に増えると、養育費の相場は7万円前後に減少します。
子供が3人とも15歳~19歳で、夫の年収500万円、妻(親権者)の年収が0万円の場合、養育費の相場は11万円前後です。しかし、妻(親権者)の年収が100万円だと、養育費の相場は9万円前後、さらに300万円に増えると、養育費の相場は7万円前後に減少します。
子供が3人とも幼ければ、妻(親権者)の年収は、子供の人数が1、2人の場合よりも働くことが難しいため、年収は減収しますから、養育費の相場は9万円前後です。子供が成長すると、養育費も増加しますが、妻(親権者)は学費や生活費のため働きに出ることが多くなり、年収が増えますから、結局、養育費の平均相場は9万円前後になります。
離婚後に養育費を高額で請求する方法は?
子供の養育費には、養育費算定表に基づく相場はあるものの、それだけでは法的な根拠になりません。もちろん、最終的には調停、審判及び裁判に委ねられますから、養育費算定表は重要な要素です。しかし、子供の将来を考えれば、様々な要素を考慮して、少しでも高額になるよう協議で決定するのが理想です。そこで、養育費を高額請求する方法を紹介します。
①子供の学習計画を主張する
子供の養育費において、最も変動要素が大きいのが教育費です。離婚の時点で、幼稚園や小学校低学年だと、なかなか実感は湧かないものですが、必ず中学、高校、大学受験は訪れます。子供が成長すれば自我も目覚めますし、私学や医科大学を目指したいと考えるようになるかもしれません。そうなると、学習塾や夏期講座など高額な教育費が必要になります。
したがって、安易に相場だけを参考にして養育費を決めてしまうと、後々、後悔することにもなりかねません。そこで大切なのが、離婚後の詳細な学習計画を立てて、教育費に余裕を持たせた養育費を主張することです。
子供がどの様に成長していくかを明確に!
教育費に余裕を持たせた養育費を認めさせるには、子供の成長が明確にイメージできる、具体的な学習計画を策定し、相手に理解させることです。そのためには、学習塾に通わせる時期や費用、中学、高校、大学受験に必要な費用や入学後の学費は、具体的にリサーチしておくことが大切です。また、相手にわかりやすいよう、一覧表にするなどの工夫も有効です。
②相手の収入を把握
養育費の算定において、大切な要素には子供の年齢や人数とともに、両親の収入があげられます。つまり、相手の収入が多いほど、養育費の相場は高額になります。しかしながら、離婚ともなれば、相手もできる限り養育費を抑えようと、正しい年収を申告しない可能性もあります。
したがって、いかに相手の収入を正確に把握するかが、養育費を高額請求する際のポイントとなります。いざという時のためにも、日頃から相手の給与明細は、しっかりと確認しておくことが大切です。
相手の収入によって貰える金額が変わる
相手の年収によって、養育費の金額は変動します。例えば、年収0万円の親権者が、3歳の子供を養育する場合、離婚後の養育費を払う親の年収が500万円だと5万円が相場です。しかし、年収が600万円になれば7万円になります。
つまり、年収がわずか100万円アップするだけで養育費は2万円もアップします。20歳まで養育費を貰うとして、月2万円アップすれば、18年間で432万円も貰える金額が多くなります。このことからも、いかに相手の収入を適切に把握することの重要性がわかります。
離婚後に養育費を平均相場から増額請求できる?
子供は日々成長しますし、取り巻く環境も変化しますから、離婚後にかかる養育費も年々、その金額が大きくなることが予想されます。さらに、離婚した時点では予想もしない出来事により、大幅に養育費が増加することも考えられます。そこで、離婚後に養育費を増額請求する方法について解説します。
子供が成人するまでの間は可能!
離婚する際に双方で同意した養育費は、変更できないと思われがちですが、離婚後も子供を取り巻く環境は常に変化し続けます。例えば、子供が私学や医科大学など、より高額な学費を必要とする進路を希望することは、離婚の時点では想定しきれませんし、両親の都合でその道を閉ざすことにはなりません。
また、離婚後に子供が、不慮の事故により大怪我を負ってしまったり、病気を患うことも考えられます。したがって、子供が成人するまでの間は、養育費を変更することは十分に可能なのです。
子供の状況の変化で交渉する
離婚後に養育費の増額を交渉する際には、あくまでも子供の状況の変化が理由であることが条件です。例えば、離婚後に親権者が理由もなく仕事を辞めたからといって、増額請求できるものではありません。
一般的には、受験や入学後の学費が想定を大きく上回ったケースがあげられます。その他には、子供が重い病気や怪我に遭ってしまったことにより、医療費が高額になった場合や、看病のため親権者の収入減になった場合も増額請求の理由に該当します。
離婚後に養育費の増額を請求する方法
離婚後に養育費の増額を請求する際には、まず、相手方にその理由を申し伝え、承諾を得る必要があります。その際には、詳細な根拠・理由が必要となり、養育費の平均相場を知っておくことも重要なポイントです。
具体的な手続きとしては、協議、調停といった流れで進めていきます。協議や調停で双方合意に至れば、その時点で養育費の変更が認められます。しかし、合意に至らなければ裁判所に申立を行い、審判に委ねられることになります。
離婚後に養育費が支払われなくなった場合
厚生労働省によると、離婚する際に養育費を取り決めている母子世帯は、全体の4割程度にしか過ぎません。また、離婚後、実際に養育費を受け取っているのは、その内の2割程度でしかないのです。つまり、養育費については、しっかりと支払われる方が少ないことになります。そこで、離婚後に養育費が支払われなくなった場合の対処法を説明します。
裁判所等に相談をしよう!
離婚後に養育費が未払いとなった場合、まず、相手方に支払いを再開するよう申し入れることが必要です。ここで、支払いが再開されれば問題ありませんが、支払いに応じない場合は裁判所や弁護士に相談することとなります。
その際、特に重要になるのが公正証書の有無です。養育費の公正証書があるかないかによって、手続きにかかる時間や労力が大きく異なるのです。とりわけ、相手がこちらからの申し入れに対して、全く無視するようであれば、法的手段によって給与や財産の差し押さえることも考えなければなりません。
公正証書があれば有利に?
公正証書とは、法務大臣に任命された公証人が、公証人法に基づき作成する公文書です。調停離婚や協議離婚では、養育費にかかる金銭債務を公正証書で明確にしておくことができます。したがって、公正証書があれば、養育費の支払いが滞ったり、支払いを拒否した際には、裁判所に強制執行を申し立てて、相手の給料などを差し押さえることができます。
公正証書がなくとも、養育費を請求することはできますが、手続きが煩雑になります。したがって、調停離婚の場合はもちろん、協議離婚であっても、将来のリスクを考えて公正証書を作成しておくことが重要です。
公正証書がなくても申し立てできる?
協議離婚などで公正証書がない場合、改めて養育費調停を裁判所に申立を行います。例え相手が養育費調停に応じず、家庭裁判所に出頭しない場合でも、家庭裁判所において審判が行われ、審判書が発行されます。
審判書が発行されれば、これが債権の代わりとなりますから、さらに裁判所に申し立てることによって、相手方の給料や財産の差し押さえが可能となります。したがって、公正証書がなくとも、養育費を受け取ることはできますが、相当な時間と労力を要しますから、協議離婚であっても公正証書を残しておく方が賢明です。
子供の養育費が免除・減額される場合とは
基本的に離婚した際には、親権者に対して子供の養育費を支払わなければなりません。しかし、離婚後の事情によっては支払わなくてもよいケースがあります。一般的には、子供が成人した場合が考えられますが、それ以外にもレアケースが存在します。そこで、子供の養育費が免除・減額される場合について解説します。
収入が一切ない場合
養育費の基本的な考え方は、「子供に自分と同じ生活レベルを維持する義務」に基づいています。このことは、自分の生活レベルを落としてでも果たすべき義務です。しかし、無収入の場合だと、自分の生活ができなくなったり、借金をすることにもなりかねませんから、こういった場合には、養育費の支払いを拒否することができます。
子供が養子縁組した場合
親権者が再婚し、子供が再婚相手と養子縁組した場合、養育費の免除もしくは減額されることがあります。その理由は、養子縁組をすることで、子供と再婚相手には法的な親子関係が認められ、再婚相手が第一次的な養育義務者になるからです。
ただし、実親の扶養義務が消滅するわけではありませんから、全額が免除されるとは限りません。また、再婚相手と子供が養子縁組しない場合は、当然、養育費の免除・減額の対象にはなりません。
離婚後の養育費の平均相場を把握しておく事が大切!
離婚する際には、養育費の取り決めをしなければなりませんが、現実には取り決められていなかったり、取り決めをしても支払われないケースも少なくありません。しかし、養育費は子供の将来を左右するものですから、しっかりと決めておくことが重要です。
養育費を決定する際に大切なのが、平均相場を把握しておく事です。平均相場の把握には、裁判所が作成した養育費算定表が基本となります。もちろん、子供の将来を考えて、増額請求もできますから、しっかりと学習計画を立てて交渉することが必要です。
また、万一、養育費が支払われなかった際の対応策として、離婚の際には養育費にかかるは公正証書を作成しておくことが賢明な措置です。子供の将来のためにも、養育費の取り決めは明確にしておきましょう。