確定拠出年金は2種類ある
確定拠出年金には、勤め先の企業が掛金を拠出する企業型(企業型DC)と、個人が拠出や運用を行う個人型(iDeCo)の2種類があります。このふたつの確定拠出年金にはどのような違いがあるのでしょうか。この記事では最初にそれぞれの特徴をご紹介し、退職金との違いや退職後に選べる選択肢について詳しくお伝えします。
企業型確定拠出年金の特徴
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が決まったルールに基いてお金を出す(拠出する)年金制度です。
基本的には企業が掛け金を負担して、会社の損金として処理します。ただしマッチング拠出といって、従業員が一部掛け金を負担する場合もあります。どちらの場合でも拠出された資金の運用は個人が行います。
企業の退職金制度に組み込まれているのが企業型確定拠出年金なので、企業を退職したり別の企業に移ったりすると、加入資格を失います。つまり、企業を退職する時には企業型DCを解約して一時金として受け取るのか、移換して運用を継続するのかなどをきちんと考えておく必要があるのです。
退職するなら企業型確定拠出年金は移換するべき
企業型確定拠出年金(企業型DC)の加入者は、退職後に適切な手続きをせず放置している人の割合が多く、その数は約30万人(資産にして約1400億円)にもなると言われています。解約などの適切な手続きを行わないまま企業型DCを放置しておくと、拠出や運用ができないだけでなく余分な手数料が必要になる可能性が高いので注意が必要です。
個人型確定拠出年金の特徴
個人型確定拠出年金(iDeCo)は個人が自分で掛金の金額を決めて自分でお金を拠出する(出す)年金制度です。2017年から加入対象枠が広げられ、自営業者や公務員、主婦に至るまで誰もが加入できる制度になりました。掛金の全額が所得控除の対象となるので、確定申告と年末調整によって税金の還付が受けられることが大きなメリットです。
確定拠出年金の解約条件
確定拠出年金の解約とは、何をすることなのでしょうか。また、どのような条件のもとで手続きを行うことができるのでしょうか。「どうしてもまとまったお金が必要になった」など解約したい場合、あるいは加入しているものの転職の予定がある人のために確定拠出年金の解約または転職時の手続き方法を解説します。
脱退一時金を受け取ることは可能
確定拠出年金は公的年金制度を補完する制度として設計されているため、原則60歳までは途中の引出しや脱退などの実質的な解約はできません。ただし企業型DCでもiDeCoでも、脱退要件を全て満たす場合に限り「脱退」して「一時金」を受け取ることが可能です。脱退=解約ということになります。
解約の条件一覧
確定拠出年金には、勤め先の企業が掛金を拠出する企業型(企業型DC)と、個人が拠出や運用を行う個人型(iDeCo)の2種類があるとご紹介しました。それぞれ目的が異なる制度ですので、脱退(解約)のために必要な条件は異なり、個人型確定拠出年金のほうが脱退に必要な条件が厳しく設定されています。
企業型確定拠出年金(企業型DC)脱退のための要件
企業型確定拠出年金(企業型DC)から脱退して一時金の支給を受けとるためには、下記3件の要件すべてを満たす必要があります。
満たすべき要件は、企業型DCの加入者・運用指図者またはiDeCoの加入者・運用指図者でないこと、個人の管理資産額が1万5,000円以下であること、企業型DCの資格喪失日の属する月の翌月から起算して6ヵ月を経過していないことの3件です。
個人型確定拠出年金(iDeCo)脱退のための要件
個人型確定拠出年金(iDeCo)iDeCo(イデコ)から脱退して一時金の支給を受けるには、下記5件の要件すべてを満たす必要があります。
満たすべき要件は、国民年金の保険料免除者であること、障害給付金の受給者でないこと、通算拠出期間が1ヵ月以上3年以下または個人別管理資産が25万円以下であること、企業型DCまたはiDeCoの資格喪失日の属する月の翌月から起算して2年を経過していないこと、企業型DCから脱退一時金の支給を受けていないことの5件となっています。
脱退要件を満たした場合の請求先は
脱退一時金の請求先ですが、加入状況や要件によって異なり「国民年金基金連合会(特定運営管理機関)」の場合と「企業型記録関連運営管理機関」の場合があります。まずは、自分が脱退要件を満たしているかどうか、そして請求先はどこになるのかを確認しましょう。
60歳になる前に退職・転職、または役員昇格等で2017年1月1日以降に企業型確定拠出年金の加入者資格を喪失した人が対象です。
退職後の企業型確定拠出年金のデメリット
企業に在籍中に加入していた確定拠出年金については、退職後も自分の口座と掛金が残ります。一度作った確定拠出年金の口座は、退職しても老後の給付が終わるまで残るのが原則です。ただし、脱退一時金を受け取った場合には口座がなくなり、将来給付を受け取る権利もなくなります。
企業の規定によって異なりますが、企業型DCへの加入期間が3年未満で退職した場合には注意が必要です。受け取った掛け金の全額もしくは一部を返さなければならない場合があるためです。
6か月以内に移換しないと自動移換になる
60歳を迎える前に企業型確定拠出年金のある企業から退職した場合、加入者資格を喪失した翌月から起算して6カ月以内に手続きを済ませないと、年金資金が「国民年金基金連合会(特定運営管理機関)」に自動的に移換されます。
ちなみに「移換」とは、転職や離職の際も個人の年金資産を持ち運べることをいいます。ただし、他の企業型または個人型確定拠出年金の口座が存在し、本人確認情報(基礎年金番号・性別・生年月日・カナ氏名)が一致する場合には、その口座に移換される場合があります。
いずれにしても、60歳を迎える前に企業型確定拠出年金のある企業から退職した場合、加入者資格を喪失した翌月から起算して6カ月以内に手続きを済ませるのが鉄則です。
自動移換のデメリット
自動移換のデメリットは何でしょうか。自動移換の際には、口座内の商品はすべて現金化されてしまうため、特に保険商品の場合には原本割れの可能性も高くなります。運用の指図ができないため、新しく商品を購入することもできません。
また、自動移換中は年金の資金に利息がつきません。自動移換の際に4,269円の手数料がかかるほか、自動移換4カ月目以降からは毎月51円(年間612円)の管理手数料がかかります。管理手数料は現金化した資産から支払うので、実質的に資産が目減りしていきます。
さらに、自動移換中は老齢給付金の給付を受ける際に基準となる「加入者期間」とはみなされないため、受給開始の時期が遅れる可能性さえあります。60歳以降の給付金の受け取りに際しても、必ず一度個人型拠出年金への移換が必要になるので3,857円の手数料が必要です。このように、自動移換にはメリットがないので早めに移換手続きを行いましょう。
勤続年数が3年未満の場合
企業型確定拠出年金の加入資格を喪失した(退職した)時、勤続年数が3年未満の場合には掛金を事業主に返すよう求められる場合があります。企業の規約により異なりますので事前に確認しておきましょう。企業型確定拠出年金の場合は掛け金を支払うのが企業であるため、このような規約を設けている場合があります。
企業型確定拠出年金の移換手続き
企業型の確定拠出年金制度を持つ企業の従業員は基本的にその企業の年金に加入することになりますが、退職すれば加入資格が失われます。その際の年金資産の移換先は、次にどのような働き方をするのかによって変わります。自分が選べる選択肢に何があるのか、あらかじめ確認しておきましょう。
年金資産を移換
自営業者や公務員、専業主婦(夫)になる場合には個人型の確定拠出年金に移すことができます。このように、年金資金を移動することを移換といいます。退職後に別の会社に就職する際には、その企業の年金制度をよく確認しましょう。企業に企業型確定拠出年金があれば該当の企業型DCに、企業型確定拠出年金がなければ個人型(iDeCo)への移換が可能です。
再就職先の企業に確定給付企業年金(企業が掛け金を拠出し運用も行う年金)制度があり、規約により企業型確定拠出年金の年金資産を受け入れが可能な場合には、自分の資産を移換することができます。そうでない場合は個人型に移換するなどの手続きが必要になります。
先ほどの項目でもご説明しましたが、企業型確定拠出年金の加入資格を喪失した(退職した)時、勤続年数が3年未満の場合には掛金を事業主に返すよう求められる場合があります。企業の規約により異なりますので事前によく確認しておきましょう。
運営管理機関の選択
運営管理機関とは確定拠出年金制度の運営管理を行う専門機関で、確定拠出年金法に基づいて厚生労働省と金融庁の承認を受けた金融機関です。年金資産の移換のためには、まず利用を希望する運営管理機関を決める必要があります。書類を請求して運営管理機関(受付金融機関)への加入申請を行う手続きが必要です。
運営管理機関の業務は「運用関連業務」と「記録関連業務」にわかれています。運用関連業務とは「専門的知見に基づく運用商品の選定、加入者への提示」および「個別の運用商品等に係る情報提供」の2つです。
記録関連業務は「氏名、住所、個人別管理資産額その他の加入者等に関する事項の記録、保存及び通知」「加入者等が行った運用の指図の取りまとめ及びその内容の資産管理機関又は連合会への通知」「給付を受ける権利の裁定」の3つです。
運営管理機関に加入申請
年金資産を移換するためには、まず「運営管理機関(受付金融機関)」を決める必要があります。通常の個人型確定拠出年金(iDeCo)への移換を希望する方は、各運営管理機関(受付金融機関)の個人型プランをチェックするとよいでしょう。
以前の勤務先で加入していた企業型確定拠出年金について運営管理機関を確認したい場合は、旧勤務先で加入していた企業型確定拠出年金の運営管理機関をチェックする必要があります。
個人型確定拠出年金の加入か運用指図者か選択
個人型確定拠出年金への加入を希望する場合には、「加入者」として申請するか「運用指図者」となるかを選択する必要があります。「加入者」は掛け金を拠出している人、「運用指図者」は掛金の追加拠出はせずに保有している商品の運用指図を行っている人を意味します。
たとえば60歳以降に会社を定年退職した場合や、失業などの理由で掛金を拠出し続けられない場合には資格喪失届を提出して掛金の拠出を止め、運用のみ継続することになります。これが運用指図者の状態です。改めて手続きをすれば、加入者に戻ることも可能です。
確定拠出年金の個人型確定を退職した場合
個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入されていた方が働き方を変えた場合、次の資金移換先にはどのような選択肢があるのでしょうか。
まずは就職(転職)先の企業型確定拠出年金が候補に挙げられます。ただし、就業先の企業の確定拠出年金規約でiDeCoへの同時加入が認められている場合には、引き続きiDeCoに加入することもできます。
新しい就業先で企業型確定拠出年金に加入されない方の場合、2つの選択肢があります。iDeCoに引き続き加入することも可能ですし、もし就業先に確定給付年金制度がある場合にはそちらに資金を移換することもできます。共済組合員の方など通常とは取扱いが異なる場合があるので、運営管理機関にご確認ください。
加入対象者
個人型確定拠出年金の加入対象者は、日本に住む20歳以上60歳未満の人です。自営業者や学生、フリーランス、会社員、公務員、会社員および公務員の配偶者などあらゆる人が含まれます。
ただし、農業者年金の被保険者や国民年金の保険料免除者、企業型に加入していて規約で個人型への同時加入が認められていない場合には個人型確定拠出年金には加入できません。
会社勤め以外でも対象
会社員だった人は、退職しても個人型に加入できるので確定拠出年金に加入できなくなることはありません。自営業者やフリーランス、専業主婦(夫)などに立場が変わる場合でも個人型の加入資格を喪失することはないからです。
退職後に別の企業に転職する場合は、就業先企業での年金制度規約をよく確認しましょう。就業先の企業の確定拠出年金規約でiDeCoへの同時加入が認められている場合には、引き続きiDeCoに加入することができます。また、確定給付年金制度があればそちらへの移換も可能ですし、就業先企業の年金制度を利用せず個人型のみを利用できる可能性もあります。
個人型確定拠出年金から企業型確定拠出年金への移換も可能
確定拠出年金は企業型から個人型への移換が可能なことはお伝えしました。逆に個人型から企業型への移換もできることはご存知でしょうか。企業に再就職する場合、再就職先に企業型があればそこに年金資金を移換できます。個人型との同時加入が認められる場合もありますし、企業型があっても加入が義務付けられていない企業もあります。
他年金制度から退職する場合
確定拠出年金ではない年金制度、たとえば厚生年金基金や確定給付企業年金、企業年金連合会からiDeCoに年金資金を移換することもできます。ちなみに厚生年金とは、国民年金に上乗せされる年金のことです。自営業者や専業主婦等は加入できませんが、会社員や公務員は基本的に全員が加入しています。
確定拠出年金への移換は可能
個人型確定拠出年金の加入者が、厚生年金基金又は確定給付企業年金の脱退後1年以内に移換元の厚生年金基金又は確定給付企業年金に移換を申し出た場合、移換が可能となります。加入の申し込みと資産の移換手続きが必要ですので、働き方が変わった際にはできるだけ早めに手続きを行いましょう。
企業年金連合会からの移換も可能
企業年金連合会から確定拠出年金への移換も可能です。企業年金連合会とは退職や転職、制度の終了などにり厚生年金基金や確定給付企業年金から離れた人の年金資産の管理を担う機関です。預かった資産をもとに年金の支給機能を担うほか、別の年金へ移換する機能を持っています。確定拠出年金も移換先の1つです。
確定拠出年金で規定の年齢前に退職金が出る場合
確定拠出年金の給付金受け取り方法としては「老齢給付金」「障害給付金」「死亡一時金」の3種類があり、例外的に「脱退一時金」としての受け取りも可能となっています。規定の年齢前に給付金や一時金が支給される可能性があるのは、障害給付金、死亡一時金、そして脱退一時金のいずれかです。
退職金①退職時の脱退一時金
脱退一時金として給付金を受け取れる条件は、この記事の中ですでに解説したとおりですが、もう一度確認しましょう。ひとつ目の例は「年金資産額が1万5000円以下で、ほかの企業型および個人型の加入者、運用指図者でなく、加入資格喪失日の翌月から6ヵ月以内」の場合です。
運用指図者とは、掛け金の拠出を行わずに保有商品の運用のみ続けている人を指します。主に60歳を迎えて資金の拠出可能年齢を超えたり、経済的理由から掛け金を拠出できない人たちです。
2つ目の例は「国民年金保険料の免除者」の場合です。これに加えて確定拠出年金の障害給付金の受給権がなく、通算の掛金拠出期間が3年以下あるいは年金資産額が25万円以下で、かつ加入資格を喪失してら2年以内で企業型から脱退一時金を受給していないという要件にあてはまる人たちとなります。
退職金②障害給付金
障害給付金は、70歳到達前の加入者や加入者だった人が一定以上の障害状態と認められて、さらに一定期間を経過した場合に請求できる給付金です。加入者とは、掛け金を拠出している人を指します。怪我や病気により高度障害の要件にあてはまる状態になった人が年金あるいは一時金として受け取れます。
退職金③死亡一時金
死亡一時金は、加入者や加入者だった人が亡くなった時に遺族に支給されるもので、故人の資産残高と同じ金額となります。加入者とは、掛け金を拠出していた人を指します。死亡者に年齢の制限はないので、受給する権利のある遺族は一時金として残った資産を受け取れる仕組みになっています。
確定拠出年金と退職金の違い
確定拠出年金は、退職後の生活を保障するという部分で退職金と共通する性格のものです。退職を迎えた人の老後の生活保障のために支払われるのが退職金です。退職金を年金化したのが企業年金であり、確定拠出年金はその企業年金制度の一部として設計されています。個人型も老後生活の保障を目的とする点は同じです。
支給される条件の違い
退職金の場合、企業の就業規則などに規定があり、企業年金制度の加入者が受給要件を満たしていれば支払われます。確定拠出年金の場合にも加入者が一定の要件を満たした時に給付金が支給されますが、基本的には60歳以降の支給開始です。どちらも老後の生活を保障するための仕組みとなっていますが、受給できる年齢には違いがあります。
中途退職した際の確定拠出年金
確定拠出年金の場合、60歳を迎える前に導入企業から脱退一時金を受け取るには、企業型DCの加入者・運用指図者でないこと、個人別管理資産額が1万5,000円以下であること、企業型DCの資格喪失日の属する月の翌月から起算して6ヵ月を経過していないことなどの条件を満たさなくてはなりません。基本的には60歳を迎える前の給付は受けられないのです。
中途退職した際の退職金
しかし退職金の場合には、定年まで勤務した人より金額は目減りするものの、各企業が設けた一定の要件を満たせば退職金が支給されます。年齢が60歳未満であっても企業内の規定に合致すれば退職金を受け取ることができるので、この点は確定拠出年金との大きな違いです。
確定拠出年金は退職後に自分にあった種類に移換するべき
この記事では、企業型確定拠出年金のある企業を退職後に自動移換ではなく個人型確定拠出年金などに移換手続きをする必要性を解説してきました。
企業を退職してから6カ月以上放置すると、年金資金が国民年金基金連合会に「自動移換」されてしまいます。いったん自動移換されてしまうと年金加入期間として認められないだけでなく、60歳になっても受給ができない可能性があります。
個人型確定拠出年金に移換すれば掛金の拠出を続けることも、拠出はせずに運用のみ行うことも、拠出と運用の両方を続けることも可能です。他の企業型確定拠出年金や確定給付年金などの選択肢のある場合も含め、自分の資産を有効に活用するために移換手続きを忘れないようにしましょう。適切に手続きを行い、制度を活用して資産を着実に増やしましょう。