敷引き・償却金とは
私たちが賃貸借契約をする際には、家賃以外に「敷金・礼金」などの初期費用を支払う必要があります。またこれ以外にも、「敷引き・償却金」といった費用がかかる場合があります。敷金や保証金は、退去時に必要額を除いて原則返金されるのに対し、敷引き・償却金は、退去時に1円も返金されないので、注意が必要です。
敷引き・償却金は同じ意味
賃貸借契約の初期費用の一つである、敷引きと償却金は同じ意味合いで使われますが、これらは主に、関西や九州などの西日本地区で長く続いている商慣習なので、西日本以外では耳慣れない言葉でしょう。最近では、この敷引き・償却金をめぐるトラブルが多数生じ、違法性が問われて問題にもなっています。
入居時に支払うお金のうち返ってこないお金
賃貸借契約の初期費用の一つである、敷引き・償却金は、「賃貸借契約時に預けた敷金の一部を返金しない特約」のことを言います。敷金は、退去時に必要な額を除いた残りの金額は返金されるということになっていますが、この敷引き・償却金は、退去時には1円も返金されないので、礼金と同じ扱いをされるものだと言えます。
敷引き・償却金は礼金と敷金と違う?
賃貸物件の契約時に、家賃と一緒に支払う敷金や礼金などの初期費用とは一体どのようなものでしょうか?またこれらの費用の相場がどれくらいなのかについても見てみましょう。そして、これらの費用と西日本特有と言われる敷引き・償却金との違いが何かについても見てみましょう。
①敷金とは
敷金とは、退去時に、賃料の未払い分や、賃貸物件を故意で汚したり傷つけたりした場合の原状回復費用に充てられることを目的とした費用であり、借主が貸主に支払うお金のことを言います。支払う敷金の相場は、家賃の約1ヵ月分が目安とされていますが、残ったお金は借主に返金されることになっています。
②礼金とは
礼金とは、賃貸物件の所有者に対して、お礼の気持ちを込めて支払う費用のことを言います。住宅が不足していた時代に住宅を貸してくれたり、大学生の息子を預かってくれた下宿の大家へのお礼として習慣化したようです。よって、お礼の意味合いを持つ礼金は退去時には戻ってきません。支払う敷金の相場は、家賃の約1ヵ月分が目安とされています。
敷引き・償却金は、敷金として支払った費用のうち、返金されない費用のことをいいます。退去時に、賃料の未払い分や原状回復などに充てる費用として差し引かれます。そして、金額に余りがあれば、敷金の返金分として戻ります。敷引き・償却金は敷金の一部であるが、退去時に礼金と同様に戻ってくることはありません。
敷引き・西日本の賃貸借契約は今も続いている
敷引きの習慣のない東日本では、契約時に敷金と礼金を合わせた金額を一括で支払い、退去時に、家賃の未払い分や原状回復費用と礼金相当額のみが差し引かれることになります。これは、借主がある程度予想できる必要額なので、最終的に戻ってきた敷金の額にも納得がいき、トラブルも少なくなります。
それに対して、西日本では、契約時に敷金もしくは保証金を支払います。保証金は敷金と同様の意味を持つ初期費用で、主に西日本で見られるものです。
そして退去時には、家賃の未払い分や原状回復費用として、敷引き・償却金が保証金から差し引かれることになります。契約時に敷引き・償却金の記載がなくても、退去時に差し引かれることがあるので注意が必要です。
敷引き・償却金の慣習が少なくなったとはいえ、まだまだ西日本では退去時に敷引き・償却金を支払う慣習が残っています。関西への転勤や転居がある場合は、契約時に契約書で敷引き・償却金の記載があるか確認をすることが必要です。
保証金・敷引きの相場
西日本の賃貸借契約の初期費用である保証金や敷引きの相場はどのくらいでしょうか?保証金は敷金と礼金を合わせたようなものであり、相場は家賃の3~6ヶ月分の金額だと言われています。他方、敷引きの相場は、家賃の1~2ヶ月分くらいだと言われています。
敷引きの金額が大きいと、退去時に戻ってくる保証金の返金額が下がってしまうことになり、借主と貸主の間でトラブルになることがあります。
最高裁判所でも何度かこの敷引き・償却金の妥当性について争われており、敷引き・償却金は、「家賃の2~3.5ヶ月分の金額であれば有効」という判決も出ています。
敷引き・勘定科目
事務所や店舗の賃貸借契約の場合、敷引き・償却金は、会計上どのような勘定科目で計上されることになるでしょうか?事務所や店舗を借りる際には、業務上の理由からリフォームをしてから使用することが多いので、貸主は、原状回復の履行を確実にするために、敷金を多めに設定することが多くなります。
もちろん、敷金なので、未払いの賃料や原状回復費用などの必要費以外は返金されることになりますが、敷引き・償却金などがあらかじめ設定されている場合は、その金額が差し引かれて返金されることになります。
ここでは、敷引き・償却金の会計処理を行う際に、20万円未満の場合にはどのような勘定科目で、また20万円以上ならどどのような勘定科目で経費計上すればいいのか、それぞれを説明しましょう。
①敷引き20万円未満
賃貸契約の際に、契約書に敷引き・償却金の記載があり、敷金の一部が返還されないことが分かっている場合、敷引き・償却金が20万円未満の場合は「地代家賃」の勘定科目で計上することになります。この場合は、支払い時に、敷引き分の全額費用を同じ勘定科目で会計処理することが可能になります。
②敷引き20万円以上
敷引き・償却金が20万円以上の場合は、「繰延資産」の勘定科目で計上します。この場合、税法上、繰延資産として長期前払費用等の資産に計上し、毎年一定額ずつ償却して、費用を同じ勘定科目で処理していきます。償却期間は、契約期間が5年以上の場合は5年間で処理し、契約期間が5年未満の場合は、契約期間で月割計算で処理することになります。
敷引きがある契約で気を付けることとは?
賃貸借契約のトラブルで一番多いトラブルは、退去時の敷金の返金をめぐるトラブルです。まずは契約時に初期費用として、敷金や礼金、保証金などを支払う必要があること、またそれぞれがどのような性格のものであるのかを、きちんと理解しておくことが必要です。
礼金は貸主へのお礼の気持ちを表すものなので返金されないこと、敷金は原則として、家賃の未払い分や原状回復費用などの必要額を差し引いた金額が返金されるということを覚えておきましょう。
敷引き・償却金などがある場合は、それらは退去時に敷金から差し引かれて返金がないことを知っておくことが必要です。これらの費用は法的根拠のない商慣習のため、トラブルにならないように、契約時に契約書をしっかりと確認し、納得の上契約するようにしましょう。
敷引きは原状回復費用として敷金から引かれるもの
敷引き・償却金は、敷金から差し引かれて返金がありませんが、これらの費用は原状回復費用として充てられることになります。
修繕にかかった費用は、経過年数や過失に関係なく、またかかった金額が敷引き額以上の場合でも敷引き以下の場合でも、借主は、あらかじめ決められていた敷引き・償却金の金額を支払うだけでよく、それ以上の金額を追加請求されることはありません。
また、退却時に借りた部屋の状態が、綺麗であっても汚かったとしても、敷引き・償却金の範囲の中で、貸主がクリーニングする必要があるので、別途クリーニング費用を請求されないように、前もって契約書を確認しておきましょう。
賃貸借契約をする場合には、初期費用にはどのようなものがあり、退去時に返金があるのかないかを契約前に確認しておく必要があります。東日本と西日本とでは、契約に必要な初期費用の内容が異なったりするので、契約する地域の不動産屋できちんと説明を受けるようにするのがいいでしょう。
関西や九州などでは、敷引き・償却金などの商慣習が今も残っているので、これらは敷金や保証金から差し引かれて返金がないことを知っておくことが必要です。また、その他の地域でも、その場所特有の賃貸事情等がある場合があるので注意が必要です。
とにかく、どのような場合でも、賃貸借の契約の前には契約書をしっかりと確認して理解し、退去時にトラブルに巻き込まれることのないように、納得できる契約をするようにしましょう。
最後に、借主として契約内容を遵守し、集合住宅での騒音、ゴミ、ペットなどのマナーを守ることも大切です。不明な点があれば貸主に相談したり希望を伝え、気持ちよく生活できるようにしましょう。