「忌憚のない意見」の意味
「忌憚のない意見」という言葉は会社で仕事をしている人はもちろん、何らかのビジネスに携わっている人であれば、耳慣れた表現の一つです。しかし、この言葉の意味するところを正確に理解できていたり、その使い方についてしっかり把握できている人は意外に少ないのではないでしょうか。
そこでまずは「忌憚のない意見」の意味やその意図するところについて、この表現が使われる具体的なシチュエーションについても触れつつ、例文も用いて説明していきます。
相手に遠慮せずに意見を言う
ビジネスで「忌憚のない意見をお願いします」という言葉は、「どんな意見でも良いので、遠慮なく言って下さい」という意味になります。会社では上司と部下のような上下関係があるのが一般的ですが、上下関係を超えてでも率直な意見が欲しい場合によく使われます。
「忌憚」という言葉は使い方としてはそれ単独で使うことは少なく、忌憚の後に「~のない」と打ち消しの言葉が同時に使われることが一般的です。この「忌憚」という言葉に「~のない」と「意見」という単語が組み合わされ、「忌憚のない意見」となった場合は「目の前の相手に遠慮せずに意見を述べる」という意味になります。
元来「忌憚」という言葉は、「遠慮して避けること」という意味となります。「忌」の漢字が「忌々しい、避ける」という意味で、「憚」が「遠慮する、気兼ねする」という意味があり、そこから「忌憚」という言葉は「遠慮して避けること」という意味となったのです。
「忌憚のない意見」の類語
ビジネスの場面においてこれだけ広く使われている「忌憚のない意見」という表現ですが、同じようなシチュエーションで使うことのできる類語表現もいくつかあります。特に文書等、書き言葉として用いられる際は、同じ表現を何度も繰り返し使うとくどく感じられる場合があるので、言い換え表現として類語表現の使い方も押さえておくと便利です。
ここでは「忌憚のない意見」と同じトーンで使うことのできる類語表現を例文も交えて4つ紹介していきます。
類語 ①気兼ねのない
「気兼ね」という表現が「相手を気遣って遠慮すること」という意味を持っています。これを「ない」という否定表現を付け加えることで、「相手を気遣って遠慮はどうぞしないでくださいね」という意味になります。ビジネスシーンでは「どうか遠慮しないでくださいね」とか、「余計な気を遣わないでくださいね」ということを伝えたい時に使える表現です。
ビジネスシーンだけでなく、普段の生活でも例えば家に友人知人を招く際に「どうぞ気兼ねなくくつろいでくださいね」等と声をかける時にも使うことができるので、類語としては比較的なじみのある表現なのではないでしょうか。
類語②自由闊達な
「何事にも束縛されずに、自由にのびのびしている」様子を表す言葉です。目先の小さいことや、些細なことに捉われずに、広い視点から物事を捉えることができる度量を表現しています。単に「自由である」だけではなく、「何事も受け止められる余裕のある広い器を持ち合わせている」点がこの言葉の重要なポイントです。
類語③胸襟を開く
「思っていることを打ち明けること。自分の心中を隠さず打ち明けること。」を表す言葉です。「胸襟」が胸の内、心の中を表します。この「胸襟」という言葉に「開く」という言葉が加わることで、「心の中を開く、思いのたけを打ち明ける」という意味となります。ビジネスでもプライベートでも、「自分のありのままを打ち明ける」際に使われる表現です。
「思いのたけを、自分の本心を打ち明ける」という意味を持つので、「忌憚のない意見」と意味の上でも最も近い類語の一つです。ただ類語とは言っても日常的には馴染みが少ない表現です。「腹を割って話し合う」等の方が類語としてすぐに思い浮かぶ人も多いでしょう。
類語④腹蔵のない
「心の中に思っていることを包み隠さないさま」という意味です。この「腹蔵のない」という表現は一般的には馴染みがないと感じられることが多いようです。しかしこの言葉は、「忌憚のない」とそのまま入れ替えて使うことが可能ですので、類語表現として覚えておくと便利です。ビジネス上での関連表現と覚えておいて損はないでしょう。
話し言葉というよりは、書き言葉として使う機会の多い類語と言えます。使い方としては上で述べた通り、「忌憚のない」とこの「腹蔵のない」とはそのまま入れ替えて使うことができるので、この類語の実際の活用方法としてはそれほど難しくはないと言えます。
「忌憚のない意見」の使い方と例文
ここまで「忌憚のない意見」という言葉の意味と、そして「忌憚のない意見」の言い換え表現として使うことのできる類語表現について説明してきました。「忌憚のない意見」がどのような場面で、どのように使用されるかについて、ここからは具体的な事例に基づく例文を用いながら説明していきます。
例文①ビジネスの打ち合わせ
社内で打ち合わせをする際の使用例文です。 課長「この度のセキュリティ事故についての再発防止の具体策を考え直す必要があります。是非皆さんから忌憚のない意見をもらって、二度と同じ事故を起こさないために再発防止策を纏めていく所存です。」 社員「承知しました。」ビジネス上で気兼ねや遠慮をせずに率直な意見が必要な際にこのように使われます。
例文 ②お客様アンケート
飲食店のテーブルでよく見かけるお客様アンケートにも「忌憚のない意見」という表現が使われています。「本日はご来店誠にありがとうございます。更なるサービス向上に役立てさせていただくため、お客様の忌憚のないご意見・ご感想を頂けると幸いです。」企業のサービス向上・業務改善に役立てるためのヒアリングにもよく使われている表現と言えます。
この例文のような文章は飲食店で良く見かけますが、その他にもWebで配信されるお客様アンケートや、サービスや商品を購入した後のアフターフォローのアンケート等でも見かける機会が多くなりました。
例文③取引先との条件交渉
取引先と関わる案件について作成される資料にも「忌憚のない意見」の表現は使われます。「先日頂いた新たな提案に関しまして、弊社側で議論を重ねて修正致しました。もしもお気づきの点がありましたら、是非忌憚のないご意見を頂ければと思います。」取引相手側の率直な意見が欲しい際に、ビジネス文書上でこの表現がよく使われると言えそうです。
例文④友達に相談する
「ここのところ会社での営業成績もうなぎ上りで、堅調な結果を残せている。得意先も増えてきて将来の事業の基盤もできてきたから、時期尚早という気もするけど、独立を考え始めた。それで起業の先輩の君の忌憚のない意見を聞かせて欲しい。」というように、友達だからこその率直な意見が欲しい時にも「忌憚のない」という言葉が使われることがあります。
更に知っておくべき「忌憚のない」ビジネス例文
ここまで説明してきた通りビジネスの現場では、自分の見解を問われる機会が頻繁にあります。しかし、意見を求められる人達の胸中には「こんな赤裸々な意見を言っても大丈夫だろうか?」「上司に向かって失礼ではないか?」等様々な疑問があるのではないでしょうか。そんな時非常に良く使われる表現が「忌憚のない意見交換」「忌憚なき意見」です。
以下では具体的なシチュエーションに即した例文を扱い、実際のビジネスで使うにはどのような表現が最適かについてご紹介していきます。
ビジネス例文①「忌憚のない意見交換」ビジネスの決まり文句
「今日の会議は、今月発売の新製品の売上向上に役立つアイデアを募る為のものです。些細な事や思いつきの意見でも構いません。この会議を忌憚のない意見交換の場としましょう」この例文からは、新製品の売上を伸ばす為のアイデアが必要で、その糸口となるべく些細な意見や一見取るに足らないような意見も集めたいという発信者の真意が読み取れます。
ビジネス例文②「忌憚なく言う」でより率直な意見を募れる
「本日は本プロジェクトの今後の方針についての方向性を決めたいと考えています。是非皆さん忌憚なき意見をお願いします」この例文からは、プロジェクトの方向性決定という重要な決断をする為には、「建て前や遠慮の入った意見ではなく、本音の率直なざっくばらんな意見が必要だ」という発信者の強い意向をくみ取ることができます。
「忌憚のない意見」の注意点
ビジネスを行う上では耳障りの良い言葉や、賛同意見だけではうまく交渉事を纏めることができず、時には耳の痛い意見や苦言に近いことを呈する必要がある場面も起こり得ます。そのような時に自分の率直な考えを述べることに役立つ、「忌憚のない意見」という表現はとても便利なものです。
しかし、いくら必要なことを伝える必要があるからとは言っても、伝える相手によっては「忌憚のない意見」という意味を使う際にも使い方に注意を払う必要があります。
目上の人に使う場合に注意
「忌憚のない意見」という表現は通常、自分から言い出すものではありません。その理由はこの表現は相手から「どうぞ、遠慮のない意見をお願いします」という促しの表現だからです。つまり、自分からこの表現を使うと、「これから遠慮のない意見を言いますよ。」というような意味にも受け取れます。
従って、目上の人に「忌憚のない意見を述べます」という使い方をすると、「遠慮なく意見させて頂きます」という意味になってしまい、大変失礼な言い方になってしまいます。では、目上の人に失礼にならない言い方にするにはどのような表現が良いのでしょうか?
目上の人に意見を伝える際には、「忌憚のない意見」という表現の前に、前置きとして「恐縮ですが」や「ご気分を害されるでしょうが」という言葉を付け加えてへりくだる表現とすることで、目上の人に対しても失礼のない言い方にすることができます。
「忌憚のない意見」の英語表現
ビジネスを円滑に進めていく上ではなかなか便利な表現である「忌憚のない意見」ですが、これを英語で表現するのはできるのでしょうか?グローバル化が進むビジネスの場面では、英語使用の頻度も徐々に高まってきています。英語使用の場面でもビジネスをスムーズに進めるために、英語での表現方法もしっかり押さえておくのが安心です。
表現を英語なりに置き換える
英語を少しでも学習したことのある人であればわかると思いますが、日本語を英語に訳そうとしても、日本語と英語は一対一で対応している訳ではないので、単に単語単位で置き換えれば良いというものではありません。従って、日本語の持つ意味を本筋を外さないように捉えた上で、英語として不自然にならない意味に置き換えて考えることが必要です。
以下で具体的な例文を使って、「忌憚のない」を英語で言うにはどのように表現すれば良いか説明していきます。
①考えている事を
「忌憚のない意見を言う」→「自分が考えている事を言う」というように考えて英語で表現することが可能です。「大変恐れ入りますが、忌憚のない意見を述べさせて頂きます」と言いたい場合は、”I'm sorry but I would like to say whatever is on my mind”のように表現することができます。
②遠慮なく
「忌憚のない意見を言う」→「遠慮なく意見を述べさせて頂きます」というように考えて英語で意味することが可能です。「大変恐れ入りますが、遠慮なく意見を述べさせて頂きます」と言いたい場合は、”I'm sorry but I would like to say my point of view without reserve”のように表現することができます。
③フランクに・気軽に
「忌憚のない意見を言う」→「ここはフランクに意見を述べさせて頂きます」というように考えて英語で表現することが可能です。「大変恐れ入りますが、フランクに私見を述べさせて頂きます」と言いたい場合は、”I'm sorry but I would like to say my opinion frankly”のように表現することができます。
「忌憚のない意見」は相手に遠慮なく意見を言うという意味
ビジネスにおいては忖度したり、お世辞を言ったりするだけではうまく事を進めることはできません。意見交換をしたり、時には厳しいことを言わなければいけない場面もあります。そのような「耳の痛い」「少し言いづらい」意見を伝える上で「忌憚のない意見」という表現はとても便利で、ビジネスを円滑に進める上で役に立ちます。
一方で「忌憚のない意見」は使い方に注意が必要で、相手が目上の人の場合は、へりくだる表現を付け加えないと、失礼な意味になってしまいます。また英語で表現する際には、日本語と英語の置き換えでは通用せず、あくまで英語なりの表現に近づける必要があります。
「忌憚のない意見」をうまく引き出して、社内で意見を纏めたり取引先との交渉に役立てることができれば、ビジネスを円滑に進められることにも繋がります。使い方や意味に気を付け、うまく活用して日頃のビジネスに活かしていきましょう。