憚られる(はばかられる)・意味
普段はあまり使わないけれど、会社など公の場で使うと、コミュニケーションがうまく行くようになる言葉があります。「憚られる(はばかられる)」もそのひとつ。本記事では、「憚られる(はばかられる)」という言葉の意味や使い方、{憚られる(はばかられる)」の類語などを、例文をあげてご紹介します。ぜひビジネス等にお役立てください。
自分の立場を下げて遠慮する
「憚られる(はばかられる)」という言葉は、特にビジネスの場で目上の人にものをいうときに「でしゃばっている」印象を与えないようにしながら、意見を通したい場合などに有効な言葉です。
「憚られる(はばかられる)」は、何かに気をつかって遠慮せざるを得ないように思える、という意味です。この言葉は自分の立場を低くすることで相手を高くするので、「低い立場の私が、意見をいうのは差しさわりがありますが」というニュアンスが出ます。
使い方は、「自分のような者が意見をいうのは憚られる(はばかられる)のですが」というように前置きして意見を述べると、相手も言葉を受け取りやすくなります。
「憚られる(はばかられる)」と「憚る」は、どちらも「差しさわりがあるので遠慮する」という意味ですが、少しニュアンスが違います。「憚られる(はばかられる)」は、自分がそうしようと思わなくても自然に遠慮してしまう、という感じですが、「憚る」だと意識的に遠慮する、ということになります。
憚られる(はばかられる)・類語
「憚られる(はばかられる)」は普段あまり使われない言葉なので、相手に伝わらない可能性もあります。その場合には、類語を用いていい換えてもいいでしょう。そこで「憚られる(はばかられる)」の類語を、例文もあげてご紹介します。この他にも類語はたくさんあるので、いろいろと考えてみてください。
①出過ぎたこと
ビジネスの場では、どの立場でモノを言うのかということが問われます。「憚られる(はばかられる)の類語で「出過ぎたこと」という言葉は、自分の立場を超えて口出しをしたり行動したりしているという意味になります。この言葉を前置きにして使うことで、「憚られる(はばかられる)」と同じような使い方ができます。
例文としては「出過ぎたことをいうようですが、今度の案件は自分がリーダーシップを取ってやってみたいと思っています」。このように、自分の立場を超えて何かを進言するときに使えます。
②躊躇する
「躊躇する(ちゅうちょする)」も「憚られる(はばかられる)」の類語です。「躊躇する(ちゅうちょする)」とは「なにかをするのをためらう」という意味なので、「憚られる(はばかられる)」と同じ使い方ができます。「せざるを得ない」をくっつけて、「どうしてもそうなってしまう」という感じを出すと自然になります。
例えば「こんなことをいうのは躊躇せざるをえないのですが、有給休暇の取得率が、わが社は世間一般に比べて低いように思われます」というような使い方をします。
前置きに使うことで、会社の機構や自分の立場、自分の意見が正しいか正しくないかなど、さまざまに吟味して意見を提出していることを表せます。
③おこがましい
「おこがましい」も「身の程知らずだ、差し出がましい」といった意味があり、「憚られる(はばかられる)」の類語になります。
例文をあげるなら「新入社員の私が、会社の機構についてとやかく申し上げるのもおこがましいのですが、シェアを伸ばすには、意思決定のスピードをあげることが大事かと思われます」。これも自分の立場を超えた物言いで、非常に恐縮しながらもいわずにはおれない、という感じが出ます。
差し出がましい
「差し出がましい」は「出しゃばるような感じを与える」「余計なことをするような感じがする」という意味があり、「憚られる(はばかられる)」の類語です。
例文としては「差し出がましいことをいうようですが、女性社員に年齢を聞くのは控えた方がよろしいかと思います」をあげておきます。下の立場にいる自分が、目上の人に対して一言多いように思える意見をいうときに使います。
憚られる(はばかられる)・ビジネスでの使い方と例文
ここまで解説してきたことでおわかりのことと思いますが、「憚られる(はばかられる)」という言葉は、ビジネスの場でいいにくいことをいう場面で使える言葉として重宝します。この項目では「憚られる(はばかられる)」のさまざまな使い方を例文とともにご紹介いたします。
①実力以上の要求を引き受ける
上司から新たなプロジェクトなどを任されたり、重要な仕事を依頼されたりすると、自分の実力が認められたような気がしてうれしいものですが、いかにも自信ありげな口調は反発を招くことになりかねません。そんなときにも「憚られる(はばかられる)」という言葉が有効です。
上司から自分の実力以上の要求をされてそれに応えるときにの「憚られる(はばかられる)」の使い方は、「憚られる(はばかられる)」を「憚りながら(はばかりながら)」と、少し言葉尻を変えて使います。
例えば「身にあまる光栄です。憚りながら(はばかりながら)全力を尽くして事に当たる所存です」という例文が考えられます。このような言い方をすると、恐縮しながらも意気込みが感じられる言葉になります。
また「私の実力からして、憚りながら(はばかりながら)私の力不足の感は否めませんが、皆さんの胸を借りるつもりで全力を尽くしたいと思います」という例文も考えられます。このような言い方をすると、上司からの要求は、自分にはハードルが高いと感じながらも、なんとかやり遂げようという姿勢がみえる言葉になります。
②目上の人への反対意見を伝える
目上の人の意見に対し、自分が異なる意見あるいは反対の意見をもったとき、面と向かって意見をいうことは、なかなかできないものです。そんなときも「憚られる(はばかられる)」という言葉が使えます。
例えば「私などが意見を申し上げるのは、大変憚られる(はばかられる)ことなのですが」という例文が考えられます。このように前置きして意見を述べると、しっかりと立場を考えた上での発言という印象を与えますし、あらかじめ非礼をおわびすることにもなります。
③相手にお願いをする
人に何かをお願いするということも、恐縮してしまうことのひとつです。ビジネスの場では、目上の人に対してだけでなく、取引先の人との会話でも使われます。
例えば「いつもお願いするばかりですのに、また今度もお願いするのは大変憚られる(はばかられる)のですが」という例文が考えられます。
この例文のようにいうと、相手に負担感を与えずにお願いすることができます。もちろん、この言葉を使うには相手に信頼されていることが前提で、そうでない場合はやぶ蛇になります。
④目下の者を叱る
「憚られる(はばかられる)」を「憚る(はばかる)」として、部下や目下の者を叱るときの使い方もあります。
「憚り(はばかり)なさい」といういい方がそれで、「自分の立場をわきまえて、口を慎みなさい」というときに使います。
憚られる(はばかられる)・英語
最近は会社の公用語を英語にするなど、英語を使うシーンも多くなりました。英語は、フランクに話せる言語という印象が強いと思いますが、ビジネスの場などでは、やはり礼儀と節度をもった言葉づかいをしなければなりません。そこで「憚られる(はばかられる)」に対応する英語訳を類語をあげてご紹介いたします。
ためらうことと同じ使い方
英語圏の人々には東洋の儒教思想に基づく上下関係の思想はありません。相手が目上の人だから「遠慮する」という感覚は薄いのです。ですから、「憚られる(はばかられる)」という言葉に当たる英語訳は、上下関係に基づくものではなく、客観的に見てためらわれる状況のときに使う言葉になります。
日本語の「〜するのは憚られる(はばかられる)のですが〜」という意味に近い英語訳は、“I should not to say this, but~”といういい方です。つまり「私がいうべきことではないのですが、」と断りながら、意見をいう感じなります。
また、「憚られる(はばかられる)」を英語に訳すと“hesitate”、つまり「躊躇する(ちゅうちょする)」とあります。そこで「私が反対意見を申し上げるのも憚られるのですが」を英語に訳すと、“I hesitate to say my opinion against yours, but ~.” となり、「ためらいながらも反対意見を述べる」という気持ちを表せます。
ただ英語圏では、“I hesitate to ~”という言葉はあまり使われないようです。hesitateが使われるのは、“Please don't hesitate to ~.”というように、否定命令の形を使って、「どうぞ遠慮しないで〜してください」と、相手に行動を促すときに使うことが多いようです。
憚られる(はばかられる)・注意点
「憚られる(はばかられる)」という言葉は、ビジネスの場で相手を立てて意見をいったり、自分は控えめにしているという姿勢を見せることのできる便利な言葉ですが、時と場所を間違えると「憚られる(はばかられる)」という言葉が、相手との関係をギクシャクしたものにしてしまうこともあります。意味が同じで柔らかい類語でいい換えましょう。
言葉にあった状況で使う
「憚られる(はばかられる)」という言葉をビジネスの場面で使うと、まじめな感じを表せていいのですが、普段から親しくしている方に、日常の場面で「憚られる(はばかられる)」を使うと、冷たい印象を与えてしまうかもしれません。
そんなときに「憚られる(はばかられる)」の類語を使って、少し柔らかな言葉にして声をかけたいものです。例えば「差し出がましいようですが〜」、「生意気なようですが〜」などの言葉が考えられます。
憚られる(はばかられる)・その他の使い方
ここまで「憚られる(はばかられる)」を、おもにビジネスシーンで使えるよう、「遠慮する」「二の足を踏む」という意味に注目して、いいにくいことを出しゃばらないように進言するいい方を解説してきました。他にも「憚られる(はばかられる)」には、いろいろな意味・使い方がありますのでご紹介しておきます。
口にするのも憚られる(はばかられる)
「口にするのも憚られる(はばかられる)」というときの「憚られる(はばかられる)」は、人に知られたくない、口にするのも恥ずかしいという意味になります。
例えば、「あの人が他人の悪口をいう時のことばは、口にするのも憚られる(はばかられる)」というときには、悪口がひどすぎて、口にするのも恥ずかしいという気持ちを表します。
〜することが憚られる(はばかられる)雰囲気
言いにくいことをいうための前置きでなくても、雰囲気に圧倒されて行動が抑制されるような場合も、「憚られる(憚られる)」が使えます。
例えば「会議の席上に社長をはじめ上位の役職の方々が居並ぶなか、まだ若い自分が何か意見をいうのも憚られた(はばかられた)」というように、状況を説明するときにも使えます。
人目を憚る(はばかる)
この場合の「憚る(はばかる)」は、何か後ろめたいことがあって人の目にさらされたくないという意味になります。逆に、「人目も憚らず(はばからず)」となると、人目も気にせず何かをする、という様をあらわします。
例文をあげてみます。「課長は、人目を憚って(はばかって)女子社員の机をチェックしていたのがバレて、左遷されたらしい」。これは後ろめたい気持ちが出ています。
「人目も憚らず(はばからず)」の例文としては、「自分の立ち上げたプロジェクトが突然中止になり、私は人目も憚らず泣いた」といった例文が考えられます。悔しさのあまり、人のことなどかまっていられないほどの激情が感じられます。
世に憚る(はばかる)
「憎まれっ子世に憚る(はばかる)」という言葉があります。この場合の「憚る(はばかる)」は、これまでみてきたような「遠慮する」というような意味ではありません。
この場合の「憚かる(はばかる)」は、「幅をきかせる」「のさばる」という意味になります。つまり「憎まれっ子世に憚る(はばかる)」は、人に憎まれるような人間ほど、かえって世の中でのさばっているものだ」という意味になります。
「遠慮する」という意味に取り違えてしまうと、「人に憎まれるような人間は、他人に遠慮して生きている」となって、全く反対の意味になってしまうので、注意したいものです。
憚られる(はばかられる)とは自分の立場を下げて遠慮すること
「憚られる(はばかられる)」ということばは、自分を下げて遠慮する気持ちを表せます。いいにくいことも「憚られる(はばかられる)」を使って非礼を詫びることができます。
ただ使うべき時と場所を間違えて「憚られる(はばかられる)」を使うと、その場にそぐわない雰囲気を出してしまうことがあります。「憚られる(はばかられる)」という言葉は固い言葉ですから、普段から親しくしている上司に対して、ごく私的な状況の中で「憚られる(はばかられる)」を使うと、非常に冷たい感じを出してしまいます。
「憚られる(はばかられる)」という言葉の意味を正しく知り、適切に使って、円滑な意思疎通をめざしましょう。