前略の意味とは?
「前略」の読み方は「ぜんりゃく」です。日常生活だけでなくビジネスシーンにおいても使われる言葉になります。その意味は「手紙の前文を略すこと」「手紙で時候の挨拶を省く旨を断ること」です。
一般的に「前略」は手紙の書き出しに用いられる言葉になります。しかし「前略」は単体で用いることはありません。必ず結びの言葉とセットであることを理解しておきましょう。
とりわけビジネスシーンの手紙では、用件を簡潔に伝えることが多くあります。その際「前略」は非常に使いやすい言葉です。ただし、使い方を間違えると相手に失礼にあたります。そこで「前略」の意味や使い方などを例文を交えながら解説します。
前略の由来
「前略」は手紙に使われる言葉です。手紙の構成には決まり事があり前文「頭語+時候のあいさつ」、主文「手紙の用件」、末文「結びの言葉+結語」、後付「日付+署名+宛名+脇付」の構成となります。
しかし、手紙の内容によっては、前文「頭語+時候のあいさつ」を省略して単刀直入に用件を伝えたい場合も少なくありません。ただし、何の断りもなく前文「頭語+時候のあいさつ」を省略するのは大変失礼です。そこで前文の代わりに用いられるようになったのが「前略」の由来になります。
「前略」に使われている漢字
普段は何気なく用いている言葉であっても、漢字の意味から覚えておくと、その意味を理解しやすくなります。「前略」に使われている漢字は「前」と「略」のニ文字です。
「前」は「前文」、「略」は「略すること」に由来します。したがって「前略」と組み合わせることで「手紙の前文を略すこと」「手紙で時候の挨拶を省く旨を断ること」といった意味を持つことになるのがわかります。
前略の特徴
「前略」は手紙において「時候のあいさつ」の代わりに用いられる言葉です。使い方としては手紙に限定され、会話の中で用いられることはありません。また、結びと必ずセットで用いるなど、「前略」ならではの特徴があります。
つまり「前略」の使い方をマスターするには、言葉のもつ意味だけでなく、使い方の特徴を理解することが大切です。
さらに、英語表記に置き換えると「前略」の特徴が浮き彫りになるでしょう。そこで「前略」を正しい使い方をマスターする上で理解しておきたい特徴を解説します。
「前略」が使える相手
「前略」の使い方は「親しい人」もしくは「用件のみ伝える」場合に限られるのが特徴です。「前略」は時候のあいさつを省略する際に使うといった特徴があります。礼儀を重んじる日本の文化において、あいさつを省略することは極めて非礼なことです。
言い換えれば目上の人に「前略」は使えないことになります。しかし、実際には目上の人を含めて「前略」は広く使われているのが実情です。これは書き手と受け手の間に信頼関係が成り立っていること、また用件だけを伝えることが前提となります。
つまり「前略」の使い方は、相手との間に信頼関係があるか、伝える内容は用件のみを伝えるべきかを考慮して判断することが大切です。
文頭で使う
「前略」は「頭語」と呼ばれているように、文頭で使うのが決まり事です。これは「前略」が時候のあいさつの代わりに用いられることに由来します。最近ではメールで物事を伝えることはあっても手紙を使うことは少なくなりました。
「前略」という言葉は知っていても、どこで使うのかわからない人も少なくありません。しかし、手紙は文章の内容だけでなく形式がとても大切です。「前略」をどの位置に書き入れるかはしっかりと理解しておきましょう。
縦書きの場合
手紙の基本は縦書きです。したがって、いくら親しくとも目上の人に対して手紙を書く際には縦書きとするのが正しい書き方になります。縦書きの場合、「前略」は一行目の入り文字目に置きますが、一文字下げる必要はありません。
本文は「前略」から一文字分離した位置から書き始めます。なお「草々」「かしこ」といった結びの言葉は、最後の文節の行の一番下に書き入れるのが基本です。最後の行の一番下に書き入れる空白がない場合は、次の行の一番下に書きます。
横書きの場合
職場の同僚や学生時代の友人など、親密な間柄における手紙のやり取りは横書きでも構いません。この場合、前略の位置は縦書きに準じることから「前略」は一行目の一番左から書き始めます。一文字空ける必要はありません。
本文は「前略」から一文字分右に離した位置から書き始めます。なお「草々」「かしこ」といった結びの言葉は、最後の文節の行の一番右に書き入れるのが基本です。書き入れる空白がない場合は、次の行の一番右に書きます。
「前略」の英語表記
「前略」を英語表記に訳そうとすると、完全に当てはまる単語が見つかりません。英語で置き換えることが非常に難しいことがわかります。つまり、「前略」は日本語独特の言い回しであり、英語ではあまり使われないことの証です。
言い換えれば「前略」に代わる英語表記を考えることで、より深く「前略」を理解することにつながるります。そこで、英語で手紙を書く際の書き出しについて考えてみましょう。
手紙の文頭に使う英単語
英語の手紙において「前略」に代わる「頭語」は存在しません。敢えて英語で言い換えるなら「dear」が適当です。「dear」は「名前」の前に置いて「親愛なる○○さんへ」といった意味になります。
カジュアルな英語表現では「Hello again」もよく使われる言葉です。英語の手紙では文頭に置くことが多く「またこんにちは」という意味になります。
英語における手紙の書き出し例文
「前略」は相手に対して近況を訪ねたり、こちらの近況を伝える際に使います。英語で同等な書き出しは、英語例文「How have you been doing?」が適当です。これは「いかがお過ごしですか?」の英語表現です。
また、英語例文「How is your family?」は「ご家族は元気ですか?」の英語表現になります。「前略」の英語表現とはいえませんが、「前略」に続く文章としては適当な英語表現です。
さらに英語例文「I hope you are doing fine.」は「お元気でお過ごしのことと思います」の英語表現になります。この英語表現も「前略」に続く文章としては適当だといえるでしょう。
前略の結び
「前略」の使い方で気を付けたいのが結びの言葉です。「前略」は文法上「頭語」に属します。「頭語」を用いる場合、文章の最後に必ず結びの言葉を付けなければなりません。
結びの言葉を「結語」といいます。「結語」にはさまざまな言葉がありますが、「前略」を「頭語」とする場合の「結語」は「早々」もしくは「かしこ」です。
つまり結びの言葉として「早々」もしくは「かしこ」以外の結語を用いると相手に失礼にあたります。また、同じ結びの言葉であっても「早々」と「かしこ」では使い方が異なりますから注意しましょう。
前略と早々
「草々」の読み方は「そうそう」です。「前略」とセットで用いる結びの言葉であり、「草々」は「手紙が簡素であることを詫びる」といった意味で使われます。
「前略」は時候のあいさつを省く代わりに用いられる「頭語」です。そこで結びの言葉に「草々」を用いることで、「挨拶を省いた簡素な手紙で申し訳ありません。」と文章を結ぶことができます。
このように「前略」で前もって非礼を詫びておいて、さらに結びで詫びるといった丁寧な言葉遣いは日本語固有のものです。
前略とかしこ
「かしこ」は「前略」とセットで用いる結びの言葉であり「畏し」を語源とします。ちなみに「畏し」の読み方は「かしこし」です。「かしこ」は「畏れ多いこと」を表し「これで失礼いたします」といった意味で使われます。
「前略」は時候のあいさつを省くといった「畏れ多い事」を意味する「頭語」です。そこで結びの言葉である「かしこ」を用いることで、「これで失礼いたします」と文章を結ぶことができます。
「草々」と同様に「かしこ」も「前略」で詫びた非礼を結びで詫びる言葉です。まさに日本人の気質が現れている表現だといえるでしょう。
「草々」と「かしこ」の違い
「草々」「かしこ」ともに「前略」の結語として文章の結びに使われます。また、「草々」「かしこ」も時候の挨拶を省略した非礼を詫びる意味で使われることから類語同士だといえるでしょう。
しかし、「草々」と「かしこ」には決定的な違いがあります。「草々」は男性でも女性でも使うことができますが「かしこ」は男性は使えません。
男性が「かしこ」の代わりに使う言葉は最大限の謙譲語である「恐惶謹言」です。ちなみに「恐惶謹言」の読み方は「きょうこうきんげん」です。ただし一般的に使われる言葉ではないので注意しましょう。
「かしこ」は格式高い表現
「かしこ」は女性にしか使えない結びの言葉であることは前項で説明したとおりです。ただし、女性であれば誰にでも使えるものではありません。
「かしこ」は女性らしい表現であるとともに、相手に最大限の敬意を表す言葉です。つまり目上の人に限った使い方が適当だといえるでしょう。親しい友人や後輩など目下の人だと少しぎこちない表現となりますので使い方として好ましくありません。
前略の使い方
「前略」は手紙の冒頭で時候のあいさつを省略することを意味する言葉になります。使い方としては、結びの言葉である「草々」もしくは「かしこ」とセットで使われるのが決まり事です。
しかし、一口に手紙といっても様々な内容があり、実際に書こうとすると「前略」の正しい使い方を見失うこともあります。いくら言葉の意味や読み方を理解しても、実践できなければ意味がありません。そこで「前略」の正しい使い方をパターン別に紹介します。
例文①
自らの近況を家族や友人に知らせるには、メールではなく手紙が良いでしょう。その際には親しい間柄であっても「前略」を用いることで、格式が高く品のある文章に仕上げることが可能です。
例文「前略 家族のみんなは、元気で過ごしていますか?私は相変わらず忙しい日々を送っています。最近では…。 早々」は家族に宛てたオーソドックスなパターンとなります。
家族に宛てた手紙に「前略」を用いると少し堅い表現に感じるかもしれません。しかし、「前略」を用いた正しい手紙とすることでメールとは読み方が異なり、一字一句を大切にしてもらえるといったメリットがあります。
例文②
急いで大切な用件を知らせる場合にはメールが長保します。しかし、案内状など手紙でなくてはならない場合には「前略」を用いることが適当です。
例文「前略 この度は〇〇会議のご連絡が遅れてしまい大変申し訳ございません。ようやく諸準備も整い日程を決めさせていただくことができました…。 早々」は会議出席者に緊急の連絡を行うパターンとなります。
会議の日程や場所をメールで通知しても意味を伝えることはできます。しかし招集が遅れたことに対する謝罪の気持ちを伝えることができません。そこで「前略」を用いることで相手に礼を尽くし謝罪の意を伝えることが可能となります。
例文③
謝罪を内容とする手紙では時候のあいさつよりも謝罪を優先します。手紙のメリットは相手に誠意を伝えることができる点です。受け取った側もメールと手紙では読み方が異なり、より真剣に内容を理解しようとします。
例文「前略 この度は、当方に不手際により皆様に多大なるご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ありませんでした。 草々」はビジネスシーンでもよくある使い方です。
社外の相手に対して謝罪する場合は礼を尽くすことが大切です。普段はメールのやり取りでも構いませんが、謝罪の場合には出来る限り手紙を用いましょう。その際「前略」の使い方を間違えると大きな失敗になりますので注意が必要です。
例文④
ビジネスシーンにおいて、取引先に対する入金確認などは、メールでなく手紙を使いたいものです。この場合、事務的な内容であっても重要事項を伝えるからには「前略」を用いましょう。
例文「前略 先日納品させていただいた〇〇について、〇月〇日現在入金が確認できておりません。つきましては…。 草々」とすると、入金の有無について丁寧に督促できます。
事務的なビジネスシーンで「前略」はあまり使いません。しかし、例文のようにお金の入金を督促する場合などは敢えて「前略」を用いることがあります。メールよりも手紙の方が重みが増し、受け取った側の読み方が変わるのが狙いです。
例文⑤
相手の体調や安否を気遣う場合、メールではなく手紙を使います。その際、時候のあいさつよりも相手の安否を気遣う方が先ですから「前略」の使い方としては適当です。
例文「前略 先日貴社へ伺いました際に、〇〇様が体調不良で休まれていると承りました。その後お身体の具合はいかがでしょうか。まずは、取り急ぎお見舞い申し上げます。 草々」として相手の具合を第一に考えます。
「前略」の使い方は時候のあいさつを省略することを承知してもらうための頭語です。しかし、相手の安否を気遣う場合、時候のあいさつを述べると失礼にあたります。この場合は「前略」を用いて相手の安否を気遣うのが正しい使い方です。
例文⑥
企業の人事を担当する部署においては、対外的な接点が多いことから、「前略」を用いる手紙を書く場面が増えてきます。とりわけ、人材確保は多くの企業における喫緊の課題であり、採用通知などでは「前略」を用いるのが正しい使い方です。
例文「前略 この度は当社の求人にご応募いただきありがとうございます。面接の日程につきましては…。 草々」は求人に対する応募者への通知文書となります。
この時点で応募者は社員ではありませんから、面接の通知文書といえどもより丁寧な対応をすべきです。複数の会社に応募していることも考えられ、ちょっとした気遣いの有無で他社に優秀な人材が流れてしまうことも少なくありません。
例文⑦
先に相手の体調や安否を気遣う例文を紹介しました。反対に自身の体調を周囲に連絡する場面もあります。このときも「前略」を用いて丁寧にお知らせするのが正しい使い方です。
例文「前略 この度は私の急病でご心配をおかけしております。幸い大事に至らず、体調も徐々に回復しております。 草々」は心配していただいた方々への感謝の意を込めた例文になります。
体調が回復傾向であることをお知らせする場合、まずは相手に安心してもらうことを優先しますから、時候のあいさつを省略しましょう。その上で現在の様子や感謝の意を伝える構成とするのが「前略」の正しい使い方です。
前略の注意点
前略は手紙の冒頭で、時候の挨拶を省略することを詫びる意味で使われます。昔ながらの表現であることから、使い方を誤ると思わぬ誤解を生んでしまうことがありますから注意しましょう。
こういった誤りを防ぐには「前略」の真の意味を理解するとともに、あらかじめ注意点をまとめておくことが大切です。そこで「前略」の使い方における注意点やポイントなどを紹介します。
メールでは「前略」は使わない
手紙ではなくメールで先方に用件を伝える際も「前略」に対して「草々」「かしこ」といった形式で文章を組み立てることは可能です。しかし、現実的にはあまり使いません。
先方に用件を伝える手段とは手紙ではなくメールが主流です。とりわけ、ビジネスメールにおいては、取引先や上司など目上の人にメールを送ることは頻繁にあります。
つまり「前略」に対して「草々」「かしこ」といった形式で文章を作成した方が礼儀正しく丁寧であることは間違いありません。ただし、堅苦しく感じるのも事実です。メールと手紙では読み方が異なりますから「前略」は使わないのが一般的です。
メールで「前略」の代わりとなる言葉
前項で解説したとおり、メールと手紙では読み方が異なりますから「前略」はあまり使いません。しかし、いきなり用件だけを伝えるのも気が引けます。
先方にメールで用件を伝える際の導入は例文「いつも大変お世話になっております」が堅苦しくなく適当です。また、営業職では「日頃よりお引き立ていただきありがとうございます」も前略の代わりとなるでしょう。
「草々」「かしこ」では例文「今後ともよろしくお願いいたします」となります。ここで紹介した例文であれば、カジュアルな読み方ができますからメールには適当です。
お礼状には使えない
お礼状を書くときに「前略」を使うのは大変失礼な行為です。「前略」は時候のあいさつを省略して本題に入ることを意味します。言い換えれば、あらかじめ非礼を詫びる言葉だといえるでしょう。
ただし「前略」をつければ、どのような内容であっても時候のあいさつを省略できるわけではありません。緊急時や謝罪を行うなど時候のあいさつを省略する理由が必要となります。
その観点からすれば、お礼状に時候のあいさつを省略する理由がありません。したがって「前略」ではなく、その季節に合った時候のあいさつを書くことが必要になります。
お礼状に使える頭語
「前略」は時候のあいさつを省いて用件に入ることを意味する頭語です。お礼状に用いると、大変失礼にあたります。お礼状に用いるなら「拝啓」もしくは「謹啓」が適当です。
「拝啓」の読み方は「はいけい」です。「謹んで申し上げます」といった意味となり、「前略」同様に手紙の冒頭に用いられます。なお、結びの言葉は「敬具」を用いるのが一般的です。ちなみに「敬具」の読み方は「けいぐ」となります。
「謹啓」の読み方は「きんけい」です。「拝啓」と同様に「謹んで申し上げます」といった意味となり、「前略」同様に手紙の冒頭に用いられます。なお、結びの言葉も「敬具」を用いるのが一般的です。
前略は「あいさつを省略します」という意味
「前略」の読み方は「ぜんりゃく」となり、使い方としては手紙の冒頭に置かれます。時候のあいさつを省略するといった意味があるため、親しい相手に用件だけを伝える手紙に用いられるのが特徴です。
「前略」は本文と切り離して、文頭に置かれる「頭語」ですが、必ず結びの言葉とセットで用いられます。このとき結びの言葉は「草々」もしくは「かしこ」となりますが、「かしこ」は女性しか使えない「結語」ですから注意しましょう。
「前略」は日本語固有の言い回しであり、英語で該当する表現はありません。敢えて英語で表現するなら「dear」が近い言葉です。日本語本来の良さを後世に伝えるためにも「前略」の読み方は当然として、その意味を正しく理解して使うことが大切です。