花金の意味とは
日本で週休2日制度が広まったのは、1980年代後半以降です。それまでは、社会人も学生も、土曜日も普通に会社・学校がありました。週休2日が一般企業にも定着して、翌日が休日である金曜日のことを「花の金曜日」略して「花金」と呼ぶようになりました。この「花金」ですが、使われだしたのは1990年頃だと言われています。
現在では「花金」は死語とされていますが、最近また注目されてきているそうです。いったいどんな理由で「花金」が再注目されているのでしょう。
この「花金」に対して「半ドン」という言葉もありました。これは土曜日の会社や学校が半日で終わって、午後が休みのことです。週休2日制が導入されてから「花金」が生まれましたが、「半ドン」は逆に死語となりました。この「ドン」の由来はオランダ語で「休日」や「安息」を意味する「Zondag」からきています。
「Zondag」を日本語読みして「ドンタク」。そして、土曜日は午後が休みなので、半日の休みです。半分の「ドンタク」ということで「半ドン」になります。福岡に「博多どんたく」というお祭りがありますが、その「ドンタク」も同じ由来です。なので、「博多の休日」という意味になるのでしょうか。
しかし、開催日はゴールデンウィーク中の5月3日と4日なので、「花金」に固定されている訳ではありません。祭り自体は、国内でも動員数が200万人を超える祭りは3つしかなく、そのうちの1つです。
花の金曜日
当時の社会人にとって、「花金」とはどんな意味をもっていたのでしょうか。週休2日ではなかった時代、1日休める日は、休養や溜まった家事を処理することが第一になっていました。それが週休2日となり、休養や家事をするのを「日曜日」とすれば、「土曜日」は何をしてもいい日です。朝寝坊だってできます。
そこで「金曜日」は遅くまで遊んでも次の日に影響のない日、つまり「花金」となっていきました。当時、週休2日制は、大企業や外資系企業、公務員などから採用されていきました。中小企業や建設業、農林水産業などでは、まだ土曜日も仕事をしていました。
そのため、「花金」という言葉は、裕福な都会の生活を示す、社会人にとってからも憧れの言葉でもあったのです。ちなみに国家公務員が完全週休2日になったのは、1992年のことです。今から30年前は、まだ土曜日は「半ドン」だったので、公務員には「花金」はありませんでした。
花金の由来
当時の日本はバブル景気で賑わっており、社会人は競うようにお金を消費し、楽しんでいました。中でも、翌日が休日となる「金曜日」が最も華やかでした。その煌びやかな様子を「花」に例えて、「花」が咲き誇り賑わう「金曜日」ということで「花の金曜日」と例えたのが由来だと言われています。
その「花の金曜日」が長いということで略されて、「花金」と呼ばれるようになりました。現在でもそうですが、日本人は略すことが好きです。英語中心での例になってしまいますが、最近では「パリピ(party people)」や「JK(女子高生)」、「AKB(秋葉原)」、「スマホ(スマートフォン)」などが有名です。
こういった流行り言葉も、そのほとんどは定着せずに死語になっていきます。ダジャレなのかどうか由来はわかりませんが、全国花き振興協議会は「Flower Fridayお花と過ごす幸せな週末を」という「くらしに花を取り入れる新需要創出事業」を展開しています。正に「花金」です。
金曜日の晩に羽目を外す事から
当時の繁華街は、「花金」を楽しむ社会人が町中にあふれており、明け方まで賑やかで、タクシーに乗車することが難しかったと言われています。景気が良かったので、人々は貯蓄よりも消費に熱心で、高額の商品が飛ぶように売れた話も数多く残っています。その最も大きな要因となったのは週休2日制です。
「花金」で羽目を外すことができるのは、土曜日が休みになったからです。景気がよくて、週休2日制が導入されたために、社会人は繁華街で羽目を外して遊びまわっていたのです。そのせいか、「花金」後の土曜日の繁華街はひっそりとしていたと言われています。
花金・華金の違い
「花金」は「華金」と書かれていることもあります。辞書を引いてみると、「花金」の欄しか掲載されていません。しかし、「華金」が間違いということではなく、「花が咲き誇り賑わう金曜日」に対して「華のような金曜日」「金曜日こそが華」といった意味で「華」という字を当てて「華金」にしたのが由来とされています。
「花」も「華」も由来も意味もほぼ同じです。見た目を重視するのが「華」といった程度の違いという理解で問題ありません。
華金は高級感を出した花金の言い換え
つまりは、「花金」を「華金」と言い換えているだけです。いつもと同じスケジュールでも「花金」を「華金」にするだけで、何かしら豪華で華やかになった気がします。高級店でのディナーや豪華な旅行などの時に「華金」の字を当てて、グレードの高さや高級感をイメージさせるような使い方をします。
日本人はイメージを大切にします。「花」より「華」、「花金」より「華金」が高級なイメージがあるので、そういった使い方になったのでしょう。「華金」は日本特有の言葉遊びの1種と言えます。
大きく意味は変わらない
「花」も「華」も、読みは「はな」となり、意味もほとんど同じです。慣用表現として、「はなやかなもの」という意味では「華」が好まれるとありますが、一般的に使用するのは「花」となります。漢字は異なりますが、意味は大きく異なりません。使用するときには、好きな「華金」「花金」を使えばいいのです。
花金は死語?
現在ではワークスタイルが多様化したため、平日が休みだったり、勤務体系が一定でなかったり、在宅での勤務が認められていたりします。そのため、「花金」という言葉は死語となってしまいました。しかし、「花金」が持つ、「翌日の朝はゆっくりだから、夜は思いっきり楽しむ」という意味は引き継がれています。
現在では死語になった言葉でも、40代や50代のオジサンは「花金」をしつこく使っている姿を見かけます。自分が社会人になりたてで、若くて輝いていたあの時代、お金をたくさん自由に使えたあの時代の「花金」が忘れられずにいるのでしょう。
逆に、10代や20台の若者が、死語だと気が付かずに響きが面白いからと使用するケースもあるようです。「花金」や「コギャル」、などが注目ワードのようです。
現在では人気が再浮上
2017年の2月から、政府や経団連の主導で「プレミアムフライデー」がスタートしました。これが、「花金」の変形と言われています。現在でも終了宣言がされていませんので、未だ継続中です。内容は、その月の最終金曜日の仕事を15時で終了して、食事やレジャーを楽しんだり、早く帰宅して家事や育児を手伝うというものです。
消費拡大による経済効果と時短勤務による働き方改革の2つの側面を目的として導入されました。これが現在の「花金」と言われている「プレミアムフライデー」です。認知度は高いですが、実際に実施しているのは公務員や一部の大企業に限られており、機能不全に陥っていることが問題です。
一時は、「プレ金」などとも呼ばれましたが、「花金」のようには定着しませんでした。どうしても、政府主導でやるには、限界があります。
「花金」という言葉は死語になりましたが、「プレミアムフライデー」と変化しました。ところが、もはや虫の息です。「プレミアムフライデー」が死語になる前に、「花金」の二の舞にならないように、次の展開を考える必要があります。政府はどのように考えているのでしょう?
SNSで若い世代にウケている
現在の若者は、直ぐに新しい言葉や流行を作り出します。そんな若者が使用するSNSの中でも人気の高い、「Instagram」で2018年の流行語大賞にノミネートされた20ワードの中に「花金」の現代版ともいうべき言葉がノミネートされていました。それは「金晩」というワードです。
当時の若者は、金曜日になると「花金」といって朝から盛り上がっていました。しかし、現代の若者にとっては、金曜日が望ましいものではなく、仕事や授業が終わって自由になる「金曜日の晩」からが自分の本当の時間ということなんでしょう。「花金」よりも「金晩」のほうが、現代的です。
もうひとつの意味は、「金晩(きんばん)」が「今晩(こんばん)」とかかっていることです。本来であれば「今晩は(こんばんは)」とするところをあえて「金晩は」とするような、言葉遊びの意味合いもあるようです。これは文字でしか表現ができないので、SNS特有の言葉遊びになります。
「花金」を「華金」と表したのと同じ、言葉遊びです。お風呂に入るために、SNSを離れることを「お風呂のために離脱」から「フロリダ」なども同じ言葉遊びの1つです。
花金・社会人の習慣
「花金」が隆盛だったころの社会人は、金曜日にいったいどんな生活をしていたのでしょうか?現在のスタイルと当時のスタイルを比較してみましょう。「花金」から、何か見えてくるものはあるのでしょうか?時代の変化とともに、同じ「会」でも、意味合いが変わってきました。
①女子会
男性のいない場所で、本音や秘密トークを中心としたランチや飲み会のことです。2010年の流行語大賞で賞を取得しているので、その2,3年前くらいから流行しだしたのではないかと言われています。現在では当たり前のように使用しますが、その前には該当するワードはありませんでした。
では、「花金」の時代はどうだったのでしょう?男性がいれば男性が支払いをしてくれるので、女性だけで集まるよりも、支払要員として何人か男性を呼んでおくのが当たり前でした。よっぽど話したい事がない限り、女性同士で集まることは多くなかったようです。
②合コン
「合同コンパ」の略称で、「合コン」です。由来は英語の「company」独語「kompanie」仏語「compagnie」と言われています。「合同」の意味は、2組以上の団体が集まる集会、つまり飲み会ということです。バブル当時は、毎週のように行われていた「花金」の定番でした。社会人同士や社会人と学生でも行われていたようです。
基本的には男女の出会いが目的ですが、女性は会費を払わなくてもよいという習慣があったため、毎日「合コン」で食費がかからない、といった強者もいたそうです。「合コン」も現在では死語となり、普通に「飲み会」と呼ぶことがほとんどです。
③会社の飲み会
会社の飲み会も「花金」に開催されていました。当時は豪勢なもので、上司と飲みに行けば、全て払ってもらえることが普通でした。忘年会や暑気払いなどの定例会は、ホテルの宴会場などで開催されたり、ビンゴの景品で、海外旅行や現金10万などが用意されて話題になったりしました。現在の社会人の飲み会とは全く様相が異なります。
現在の会社での飲み会は、「花金」に開催される訳でもなく必要最低限で、参加も自由となり、ささやかに開催されるのが普通となりました。部署での飲み会も、上司から強く誘うと「パワハラ」になるとのことで、飲み会自体が激減しています。若者のアルコール離れも、それに拍車をかけているようです。
仲間同士が自宅で飲む、「宅飲み」が当たり前になってきていることも影響しているかもしれません。
④映画やゲーム
「花金」には、ビリヤード、ボーリングを楽しむことが大人気でした。現在では、ダーツやカート、その他いろいろなゲームが簡単に楽しむことができます。当時は、ボーリング場でのボーリングか、ビリヤード場かプールバー(こちらも死語)でビリヤードくらいしかありませんでした。
映画も、現在みたいにシネコン主体ではありませんでした。独立系の映画館が多くあり、配給系列に関係なく、その映画館独自のセンスで上映する映画を決めていました。現在では数が減り、「ミニシアター」と呼ばれるようになっています。
「花金」には、オールナイト上映会や字幕版と吹き替え版の同時上映会など、各種イベントが開催されて盛り上がっていました。
花金は英語にも!
実は、英語にも「花金」に当たる言葉があります。金曜日を表す「Friday」を使用した「Friday is here!」や「It's finally Friday today.」「Happy Frayday!」は、ほぼ同じで「やっと金曜日だ」という意味になります。でも英語で最も有名な「花金」にあたるフレーズは、「TGIF(Thank God It's Friday)」です。
TGIF(Thank God It's Friday)
このTGIFですが、キリスト教に由来する言葉で、過去には宗教的なニュアンスもあったようですが、現在ではそのような意味合いはかなり薄れています。「ありがたい、やっと金曜日だ」くらいのイメージです。英語的に、あまりフォーマルな言い方ではないようです。日本語の「花金」と同じ砕けたイメージです。
「TGIF!」の逆の言葉として、「OGIM(Oh God It's Monday)」があります。意味としては、「なんてことだ、今日は月曜日だ」という感じです。これに対応する日本語はありません。
現在では「TGIF!」と口語でも使用するようになりましたが、当時は文字表記のみで、口語では「Thank God It's Friday.」ときちんと発声していました。日本語でもそうですが、英語でもブログやSNSの普及などによって、文語表記をそのまま口語でも使用するという流れは同じようです。
感謝が込められている
「TGIF!」には感謝を表す「Thank」が入っています。これは、この言葉が生まれた当時の英語圏では、安息日(休息日)は土曜日でした。なので、金曜日に使う言葉として「1週間無事に働くことができたことを神に感謝する」といった意味が重要だったのです。この神への感謝というのは、キリスト教では当たり前に行うことです。
クリスチャンの少ない日本では、「Thank」を正確に理解することは、なかなか理解が難しいかもしれません。
「TGIF!」の「God」を「Goodness」に変えるバージョンもあるようです。そうすると、「Thank Goodness It's Friday!」となりますが、意味ほぼ変わりません。「Thank Goodness!」で「よかった」程度の意味です。「Goodness」にするのは、「God」を安易に使用すると、神への尊敬がないと怒る人がいるためだそうです。
「God」を「Goodness」に変えても、「花金」は「花金」です。日本語としての意味は変わりません。
英語と日本語から見る「花金」文化の違い
英語は直接的、日本語は間接的な表現だと言われます。「TGIF!」では、金曜日であるうれしさを直接表現しているのに対して、「花金」は間接的に、金曜日はいい日なんだということを示しています。ここで比較文化論をするつもりはありませんが、「花金」よりも「TGIF!」が、わかりやすい表現の違いと言えます。
英語の笑い話で、「TGIF!」の派生語がいくつかあります。「Thank God I'm Fabulous」は「私が私であることは素晴らしい、私が私でよかった」は、略は同じ「TGIF」ですが意味を変えてあります。「HSIW」は、「Holy shit It's only Wednesday!」となり、訳は「なんてことだ、まだ水曜日だ」です。
「SHIT」は「Sorry Honey It's Thursday!」、訳は「残念だけどまだ木曜日だよ」となります。いずれも曜日にからめてありますが、非常にユーモアが感じられます。日本語では、「花金」に関連した派生語は、「花木」「花土」など、曜日を変えただけの独創性のないものだけです。
英語にはない「花金」の余白
日本が未曽有の好景気に沸いていた時代の言葉だからなのでしょう。死語ではありますが、「花金」には、魅力的な響きがあります。ですから名前を変えて「金晩」として、生まれ変わりました。そして、「金晩」が由来になった新しい言葉も生まれるかもしれません。ただ、そのオリジナル、由来が「花金」であるということは知っておくべきです。
「花の金曜日」「花金」の余白には、「今週も1週間頑張った」「土曜日は朝ゆっくりできる」、「日曜日も休み」、などが隠れています。そこには「TGIF!」とは異なる、日本独自の文化を見ることができます。
花金の意味とは羽目を外せる花の金曜日!
現在の「花金」を翻訳するなら、「次の日の朝を気にせずに楽しめる日」となります。お酒を飲むのも良し、ゲームをするのも良し、スポーツをするのも良し、といった自由な日になっているようです。とにかく次の日の朝を気にせずに、一人でも、仲間とでも、自分のための時間をゆっくりと過ごすことが最上の価値となります。
つまり、「花金」じゃなくても「花木」でも「花土」でもいいんです。英語でも日本語でも、何でも構わないんです。しっかりと気分転換し、翌週からまた頑張りましょう。