「公僕」の意味
「公僕」という言葉を近年ではインターネットをはじめとするメディアで目にする機会が増えてきていますが、そもそも「公僕」はどんな意味を持つ言葉なのか、その使い方をきちんと理解しているかについて自信を持てる人はあまり多くはないのではないでしょうか?以下でまず、「公僕」という言葉の持つ意味や使い方について紹介します。
意味①広く公衆に奉仕する立場の人
公僕とは、「公共の立場に対する奉仕者」、または「全体(すなわち国家)のに対する奉仕者」という意味を持ち、私人ではなく公人に仕える人のことを意味します。サラリーマンが会社の利益を上げるために奉仕して給料をもらうのに対し、この「公僕」は国家や市町村といった地方自治体に対して奉仕して生計を立てている人のことを指します。
サラリーマンに対してこのような「奉仕するもの」に当たる表現がないことから、「公僕」という言葉を使って、「公に奉仕し、その仕事の対価として公から給料をもらう立場」ということを明確に表現しているとも考えられます。
意味②公務員
つまり、具体的には公僕とは「公共の立場に対する奉仕者=すなわち公務員」を指す言葉です。サラリーマンが会社の経済活動に奉仕し、給料も経済活動で得られた利益から支払われるのであくまで私人としての扱いになるのに対し、公務員はその給料も全て国民が納める税金から支払われることから、公人としての取り扱われ方をされることになります。
「公僕」という言葉の由来は、実は英語から来ていて、それが転じて和製英語となっています。英語で「公務員」は「public servant」といいますが、このpublicが「公的なもの」を意味し、servantが「召使い」という意味なのです。
この「public」と「servant」の意味を日本語で考え、その意味を漢字1文字ずつで表現した結果、日本語の「公僕」という言葉が生まれたのです。
「公僕」の読み方
「公僕」という言葉が実は和製英語であることを説明してきました。英語をそのままカタカナにした和製英語は多々ありますが、もともとの英語の意味を漢字で表現して、組み合わされて作られた和製英語もなかなか珍しいです。和製英語というよりも、外来語が日本に入ってきてから、漢字を組み合わせることで表現してできた言葉と言う方がしっくり来ます。
ではこの「公僕」という言葉は日本語でどう読むのでしょうか?人前で話す時や、文書やネット上で書き言葉として表現する際に間違った読み方・書き方をして恥をかかない為にも、きちんと正しい読み方を覚えておきましょう。
読み方・こうぼく
「公僕」は「こうぼく」と読みます。日常生活を送る上では馴染みが少ない言葉だと思いますが、「公僕」には他の読み方はありません。加えて「こうぼく」の同音意義語も数は少ない上、坑木、厚朴など、意味も離れた言葉ばかりなので、いざという時に恥をかかないよう、意味だけではなく読み方もしっかりと身につけましょう。
読み方をきちんと知っておくことに加え、「公僕」という言葉の使い方についても注意が必要です。インターネット上では見かける機会もありますが、「公僕」の持つ意味合いがセンシティブな意味も含むことから、言葉を使う状況次第では相手との関係性にマイナスの影響を及ぼす可能性もあるからです。
「公僕」という言葉の使い方について、具体的にどのような点に注意を払うべきかについては、以降の章で詳しく説明していきます。
「公僕」の類語
「公僕」とは国や地方の市町村と言った公共の団体や機関に奉仕する者、すなわち公務員たる立場にある人を意味する言葉であることを述べてきました。ただ単純に「職業が公務員」の人を指すというだけではなく、その言葉の由来が「公に尽くす、公の為に働く立場であること」であることから、よりその立場を明確に示す言葉であるともいえます。
加えて「公僕」とはまた別の、「公共のために奉仕するもの、働くもの」と言った類語表現や、その使い方についても併せてご紹介していきます。
役人
「公僕」の類語として最も馴染みがある類語は「役人」なのではないでしょうか。「役人」にも「国や地方公共団体などの機関に勤めている人、公務員。」という意味です。もっと堅い言い方をすると、「官職に就いている人、公務に従事している人」と表現されます。サラリーマン等私企業に勤務する人と区別する言葉としては一番身近な類語と言えます。
官吏
「官吏」という言葉も「公僕」の類語として用いられ、先ほどご紹介した「役人」と同様に公務員を指す言葉ですが、「官吏」は公務員の中でも特に「国家公務員」のことを指す言葉として使われます。堅く説明すると、公法上における任命行為に基づき任命され、官公庁等の国家機関に勤務する者のことを言います。
公務員の中でも具体的に「国家公務員」の立場にある人を指す言葉ということで、より「国家公務員としての」立場を明確にするための言葉であると言うことができます。
官僚
「官僚」という言葉は「公僕」だけではなく、上で紹介してきた「役人」や「官吏」ともほぼ同様の意味を持つ類語として用いられますが、「官僚」はその中でも特に、国の政策決定に重大な影響力を持つ中級及び上級の公務員を指す言葉として使われます。具体的には事務次官や局長と言った、地位の高い国家公務員を意味する言葉です。
特に日本においては、日常会話で「官僚」と表現される場合、具体的には霞ヶ関の中央官庁で政策の立案や遂行に携わる国家公務員、その中でも国家公務員Ⅰ種試験や総合職試験等に合格して任用をされた、所謂「キャリア組公務員」を指すケースが多いです。
「公僕」の使い方
ここまで「公僕」という言葉の持つ意味やその読み方、更には「役人・官吏・官僚」等の類語について紹介してきました。しかし、「役人・官吏・官僚」に比べて、「公僕」はその使い方について理解している人はそれほど多くなく、どのような使われ方がされているかについて目にする機会は少なかったのではないかと考えられます。
それでは「公僕」という言葉は、具体的にどんな状況下で、どのような使い方をされているのでしょうか?以下で具体例を交えながら紹介していきます。
公務員が自虐的に職務を表す時に使用
公務員は先で挙げた通り、国の国家機関や地方公共団体に奉仕し、その給料も全て国民が納める税金からであることで、納税者から「私達の税金で暮らせて良いご身分ね」のような言葉が投げかけられたり、所謂「公務員批判」に遭うことがあります。そのような背景から、「公僕」は公務員が自虐的に自分の職務を表現する時に使われることがあります。
「公僕」は差別用語?
インターネット上では見かけることのある「公僕」という言葉ですが、一般的にあまり耳慣れない言葉である理由としては、「公僕」は差別用語なのではないか?と考える人もいるからではないかと考えられています。仮に差別用語だとすると、確かに面と向かって「公僕」という言葉を使うことは憚られるのは無理もないでしょう。
それでは「公僕」という言葉はどういう理由で「差別用語」と捉える人もいるのでしょうか?「公僕」という言葉が連想させる意味や、そもそも「公僕」という言葉が、どういう状況で使われることが多いのかといったことも考慮に入れながら説明していきます。
正式には差別用語ではない
結論から言うと、「公僕」という言葉そのものは差別用語には当たりません。「公僕」という言葉が生まれた背景としては、昔、将軍等の権力者の御用をする人間はどうしても権力をかさに民衆に対して威張る傾向があったので、「役人というものは、民衆の僕(しもべ)であらねばならない」と戒める為に「公僕」という表現を使うようになったことがあります。
ここでいう「公僕」という言葉の「僕」という漢字が「下男、召使」という意味を持つので、「公僕」も公務員を見下した表現と捉える人も出てきました。
加えて何かと「税金泥棒」等と公務員批判をしたい人が、公務員を見下して優越感に浸りたい際に「公僕」という言葉を好んで使ったことから、差別用語として捉えられるようになってしまいました。公務員に対する差別用語と考えられるようになったのは、こうした背景があります。
差別用語でなくても「公僕」の安易な多用は危険!
「公僕」という言葉は厳密には差別用語ではないと上で述べましたが、それでも「公僕」という言葉を用いることで「差別用語だ」と感じる人がいる以上、目の前にいる人に対して安易に用いることは危険だと言えます。それどころか一歩間違えると「侮辱した表現」とも受け取られかねません。下に例を挙げてみます。
自虐的な表現を他人が使うのは「侮辱した表現」
先の章で、公務員が自虐的に自分の職務を表現する時に「公僕」を使うことがあると述べましたが、これはあくまで当事者が「自身の職務」に対して謙遜したり、へりくだったりする時の話です。従って「公僕」は当事者が「自虐」で使う言葉なので、これを第三者が「君は公僕だから云々」等の使い方をするのは「侮辱した表現」に当たります。
類語として間違えられやすい表現
また上の章で「類語」として紹介してきた表現がありますが、実際には「公僕」とは違う意味であるにも関わらず、類語として間違った使い方をされがちな表現があります。「公僕」という言葉自体が「差別表現ではないか?」とセンシティブな表現であるにも関わらず、違う意味の言葉を類語として用いると、とんでもない誤解を招く危険があります。
以下の項では、「公僕」の間違った類語として用いられがちな言葉について、実例を挙げながら説明していきます。
「社畜」
会社に言われるがままに自分の思考が停止状態で、サービス残業や転勤も厭わずに働いている社員を揶揄した言葉で、近年耳にする機会が増えてきました。読み方は「しゃちく」で、文字通り「会社の家畜」となった状態の人を指します。
かつての日本ではひたすら会社の為に忠誠を尽くして働く人のことを「会社人間」という言葉で表現していたことがありますが、「会社人間」という表現と比較すると、「社畜」には侮蔑が込められています。会社の言われるがままの人を「会社に無限奉仕する人間」と捉え、「公に奉仕する=公僕」の類語であるとと捉えられることもあります。
しかし、この記事の冒頭で述べたように、「公僕」は本来は「公に奉仕する」公務員を指す言葉ですので、ただ会社に言われるままに、自分の意思とは関係なしに動くだけの「社畜」とは、根本的に意味が異なり、類語として扱われると思わぬ誤解を招く危険がありますので、言葉の適切な使い分けに十分な注意を払うことが必要です。
「下僕」
「下僕」と書いて読み方は「げぼく」です。似た意味を持つ言葉として「僕」や「下部」と書いて「しもべ」という読み方をする言葉もあります。これらの言葉の元々の意味は「雇われて雑用をする男性。召使い。」で、「下男」とも表現されます。その他、「下僕」には「下級役人」という意味も持ち合わせています。
「公僕」という言葉が「役人」という意味を持っているため、「下級」という修飾語句が付くにせよ「下僕」という言葉とは「役人を指し示す言葉」としては共通点があるという事はできます。
しかし、「下僕」や「僕」、「下部」という言葉には、その言葉の持つ中心的な意味が「上に仕えて雑用をする召使い」といった意味合いが強いです。これに対して「公僕」はあくまで「公務員や役人」の立場にいる人間を指す意味合いが強く、「雑用をこなす召使い、下働きをする立場の人間」という意味は含みません。
従って、「下僕」「僕」「下部」という言葉を全く同じ意味を表す単語として、「公僕」の類語として扱うのは意味の上ではやや無理があり、同列の言葉として扱うのは乱暴過ぎると言わざるを得ないでしょう。
「公僕」は公務員を表す言葉
今まで「公僕」という言葉の読み方をはじめ、その使い方や言葉の持つもともとの意味合いについて説明しました。「広く公衆に対し奉仕する立場の人」、即ち具体的には公務員を指す言葉であること、また類語として紹介した「役人、官吏、官僚」といった言葉も、職務の違いはあるにせよ、広い意味では「公務員」を指す意味合いがあることも述べました。
しかしながら「公僕」の意味を正しく理解した上で知っていたとしても、自分の語彙力が増えた気になって迂闊に人前で不用意に使ってしまうと、目の前の相手を不快な気分にさせてしまう危険性もあります。
あくまで「公僕」は公務員たる当人が自らのことを称する際に使われる言葉ということを念頭に置き、やみくもな多用は避ける方が無難でしょう。公務員の方は「公僕」という言葉を使う際に、その言葉の持つ元々の意味について改めて考えてみるのも良いでしょう。