コグニティブコンピューティングとは?
IoTサービスに対する注目度が上がると同時に重要視され始めているのがそれを支えるIT技術です。中でもIBMが開発したWatsonなどで知られる「コグニティブコンピューティング」という技術は既に幅広い業界で活用されています。そこでこの記事ではコグニティブコンピューティングの意味や応用例、その可能性についてお伝えしていきます。
コンピュータが自ら答えを導き出すシステム
コグニティブコンピューティングは、一言で言うと「コンピューターが自分で考えて学習し、答えを導き出すシステム」のことです。
コグニティブコンピューティングは単純な数式やテキストだけではなく、自然言語や画像、音声といった複雑で構造化されていないようなものでも大量のデータを理解し処理することができる力を持っています。
そのため、これまではコンピューターに任せられずに人間が行っていた答えが一つとは限らなかったり曖昧な問いかけに対しても、コグニティブコンピューティングによって対応することが可能になるのです。
コグニティブで有名なのが「Watson」
コグニティブコンピューティングの分野で有名なのが、IBMが開発した「Watson(ワトソン)」というシステムです。
Watson(ワトソン)は2011年にアメリカの人気クイズ番組「ジェパディ!」に参加して話題になって以来、医療研究から金融まで幅広い分野で大企業のITプラットフォームとして活用されてきました。
2016年にはスポーツウェアメーカーのUNDER ARMOUR(アンダーアーマー)やSoftbank(ソフトバンク)のPepperなどにもWatsonのコグニティブコンピューティングが応用されるなど、IoTサービスの世界において大きな存在感を示しています。
コグニティブコンピューティングのIoTサービス
ここからは、コグニティブコンピューティングがどのようなIoTサービスに応用できるかということについて具体例を交えながら解説していきます。
コグニティブコンピューティングは主に、①傾向分析を行う、②自然言語を認識する、③学習能力や意思決定を行う、といった3つ側面を生かしてIoTサービスにおいて応用されています。
IoTサービス①傾向分析を行う
コグニティブコンピューティングは、例えば検索履歴やSNSへの投稿、購入履歴などのユーザー個人についての情報からその人の嗜好、行動の傾向といったこれまで中々正確なデータが得られなかった事象を分析することができます。
そのため、コグニティブコンピューティングをIoTプラットフォームとして導入することによってよりユーザー視点に沿ったサービスを提供している企業が増えています。
IoTサービス②自然言語を認識する
自然言語というのは、日本語や英語、中国語などといったいわゆる人間が日常の中で話す言語のことです。逆に「自然でない」言語としては、一般的なコンピューターの中で使われるプログラミング言語などが挙げられます。
コグニティブコンピューティングは従来のコンピューターには難しかった自然言語の理解ができるので、例えば人間の手で行っていたメールの返信やコールセンターでの受け答えなどの業務にも応用され始めています。
IoTサービス③学習能力や意思決定を行う
コグニティブコンピューティングは事例を通じてまるで人間のように学習することができ、それに即して意思決定を行う機能もあります。
そのため、例えば後述する医療のような大量の症例(事例)がある業界では、その分析から適切な治療法(解決策)をコグニティブコンピューティングが提案する、といったIoTサービスとしての使い方もされ始めています。
コグニティブコンピューティングとAIの違い
ここまで説明してきたコグニティブコンピューティングの特徴やイメージがAI(人工知能)に近いことから、コグニティブコンピューティングとAIは混同されることも多いですが、厳密には両者は異なるものです。そこで、AIとコグニティブコンピューティングの目的やその意味からその違いを紐解いていきます。
AI(人工知能)の目的
AI(人工知能)は、「人工」という言葉の通り人間の脳、知能を模倣したものになっています。そのため、基本的な目的としては「現在人間が行っている作業をコンピューターができるようにする」ことです。
つまり、AIは人間の代わりになりうるものであり、ときには「現在ある職業はAIに取って代わられる」といった議論にもつながる性質のものなのです。
コグニティブコンピューティングの目的
一方でコグニティブコンピューティングは「人間をサポートする」ことが共通の目的である、という点がAIとの大きな違いです。
コグニティブコンピューティングは人に対して、自身の学習・意思決定に基づいたアドバイスをしたり人間の能力を補強する役割がありますが、AIと違い人間の仕事を奪うことは本来の目的ではありません。
つまり、AIとコグニティブコンピューティングとでは使っている技術は近いものがあっても「コンピューターの立ち位置」において違いがあるということです。
コグニティブの英語表記の意味
コグニティブの英語表記”Cognitive”には、「経験的知識に基づく」という意味があります。つまり人間と同じように、あらかじめプログラミングされた内容だけでなく自ら考え学習した内容をもとに意思決定を下すというニュアンスがあります。
コグニティブコンピューティングはAIと違い、人の代わりとなる存在ではなく「重要な意思決定のサポーター、相談相手」になるものであるという意味合いが「Cognitive(コグニティブ)」という単語に入っているのです。
コグニティブコンピューティングの活用方法
例えばコグニティブコンピューティングの代表ともいえるIBMのWatsonは2011年のデビュー以来、様々な分野で既に「人間のサポート役」として活用されています。そんな人間のよき相談相手でありパートナーになりうるコグニティブコンピューティングが実際にどうやって活用されているのかを紹介していきます。
ビジネスのためのAIを標榜
Watsonは「ビジネスのためのAI」を標榜しています。実際、IBMが世界を代表するBtoB型のビジネスを展開しているだけあって、WatsonもBtoBの業界で存在感を示しています。
Watsonは2018年7月時点で既に日本国内の200社以上に導入されています。事例としてはソフトバンクや日本航空(JAL)、パナソニックにネスレ日本、金沢工業大学など幅広い業界の名だたる企業、機関が公表されています。
医療現場でも採用
コグニティブコンピューティングは実際に医療現場でも採用され、医療従事者にとって非常に強力なサポーターとしてのポテンシャルを示し始めています。
IBMのWatsonは2016年に東京医科学研究所で実際に白血病の治療現場に導入され、膨大な医学論文で学習した内容をもとに適切な治療法のアドバイスを実施、患者の回復に貢献しています。
どの業界にもコグニティブコンピューティングは使える
ここまで様々な活用例を紹介してきたように、コグニティブコンピューティングというものはほとんどすべての業界・ビジネスにおいて活用可能な技術です。なぜなら、顧客やデータの分析、日々の意思決定などは業界・業種にかかわらずすべてのビジネスにおいて行われている行為だからです。
意思決定がビジネスに大きな違いを生む
そして、インターネットやSNSが普及し膨大な量の情報で溢れかえっている現代は日々の意思決定を行うのも大変です。だからこそ、そこで正確かつ迅速に自分たちに適した意思決定を行えるかどうかは時代にキャッチアップしビジネスを優位に進めるという観点で大きな違いを生むのです。
言うまでもなく、そこで強力なパートナーとなりうるのがコグニティブコンピューティングです。普通の人間では処理しきれない量の情報を適切に取捨選択しあなたにアドバイスをくれるパートナーの有無が必要になってくると言えます。
ネットやスマホのような必需品に
今の時代において、ネットやスマホは企業にとっても個人にとっても必需品になっています。それと同じように、コグニティブコンピューティングがビジネス、さらには個人の生活においても今のネットやスマホのようになくてはならないインフラのような存在になる日もそう遠くはないと考えられます。
コグニティブコンピューティングは今後ビジネスで期待できる!
今回の記事では、コグニティブコンピューティングの意味やAIとの違い、IoTサービスへの応用例、そして将来への可能性についてお伝えしてきました。これからさらに発展していくコグニティブコンピューティングの技術をうまく取り入れ生かすことで、あなた自身のビジネスもより一層期待が膨らむものになるはずです。