性格と遺伝子・環境の関係とは?
親であれば誰もが立派に育ってほしいと思うものです。そのためには少しでも良い環境を整えるたいと願い、幼少期からお受験に励む親子も増えています。
その反面、自分自身の性格に照らし合わせて「遺伝だから仕方ないか」と遺伝のせいにする親も少なくありません。さらにエスカレートすると「あなたの遺伝子を引き継いだから性格が悪いのよ!」など夫婦喧嘩のネタになることさえあります。
さて、子供の性格や能力は遺伝子によって全てが決まってしまうのでしょうか。永遠のテーマともいえる性格と遺伝子・環境の関係について検証してみましょう。
遺伝と環境が性格に影響する割合
子供の性格に影響するのは「遺伝」か「性格」かといった論議はママ友・パパ友の井戸端会議の中でもよく出てくるテーマです。しかし毎回結論が出ることなく、いつしか話題が変わるのが常ではないでしょうか。
実は性格と遺伝子・環境の関係性については、何の根拠もなく何となく親の性格に照らし合わせて「遺伝だ」「環境だ」と言っているに過ぎないのです。
しかし遺伝子を研究する学者の間では研究・実験が進んでおり、その実態が少しずつ解明されてきました。とりわけ遺伝と環境が性格に影響する割合は概ねの数値が解明されているのが現状です。
遺伝の影響は半分くらい
子供の性格に対する遺伝の影響は概ね半分程度、つまり50%が妥当な数字であるとの研究結果が発表されています。しかし一口に「性格」といっても様々な要素があり単純に数値を割り出すことは困難です。
そこで、「外向性」「神経症傾向」など5つの要素に絞り込んでデータを収集した結果、濃淡はあるものの概ね50%前後であることがわかりました。
つまり昔から言い伝えられている「蛙の子は蛙」や「鳶が鷹を産んだ」は相反することわざですが、どちらも正しいことが立証されたといえるでしょう。そこで性格を分析する上で重要な5つの要素について詳しく説明します。
外向性
外向性が遺伝する割合は約46%です。外向性とは心の奥底から発せえられるエネルギーが外側に向かって働きやすい状況を表します。
性格の特徴としては、活発的で何事に対しても好奇心をもっており積極的に新たなことに関わりを持つことがあげられるでしょう。両親ともに外向性の高い性格であれば、比較的高い割合で遺伝する傾向にあるといえます。
神経症傾向
神経症傾向が遺伝する割合は約46%です。神経症傾向とは生物学的にも証明されている性格の特徴です。基本的にストレスマネジメントを不得意としており、外圧に影響を受けやすくメンタルは強くない傾向にあります。
最近話題になることが多い、メンタル疾患になりやすい性格だといえるでしょう。しかしメンタル疾患だからといって遺伝と決めつけるのは早計です。性格は環境によっても大きく左右させることを踏まえた上で要因を探ることが大切です。
誠実性
誠実性が遺伝する割合は約52%です。誠実性とは私利私欲を持たず、分け隔てなく人や物事に対峙することを意味します。性格の特徴としては「嘘がつけない」「責任感がある」ことがあげられるでしょう。
5つの要素の中でも高い割合で遺伝することが証明されています。つまり多くの人間にはうまれながらに誠実性を兼ね備えており、活かすも殺すも環境次第であるといえるでしょう。
調和性
調和性が遺伝する割合は約36%です。調和性とは自らの不平・不満を抑えて調和を大切にすることを意味します。性格の特徴としては、人と争うことを好まず問題が起きても話し合いで解決しようとすることがあげられるでしょう。
周囲から信頼されやすく、組織ではリーダーとしても力を発揮します。5つの要素の中では遺伝する割合が低く、環境によって形成されやすい性格といえるでしょう。
開放性
開放性が遺伝する割合は約52%です。開放性といえば開けっ広げな性格をイメージする人も少なくありません。しかし正しい認識ではありません。
実際には文化的、知的、美的な経験に対して開放的な性格のことを指します。芸術的な才能に溢れ、常に好奇心が旺盛であるため人付き合いもよく社交的な性格を持ち合わせているともいえるでしょう。
残り半分は環境の影響
子供の性格の半分の割合が遺伝であるとするならば、残り半分の割合は環境に影響されることになるといえるでしょう。例えば一卵性双生児の兄弟の場合だと、子供の頃は性格や行動パターンは非常に似通っています。
ところが学校に通うようになり、それぞれの環境に変化が現れるようになると、徐々に違いが出てくるようになるのは必然です。双子でなくともおとなしく育った子供が突然活発になったり、親に反抗し始めるのはよくあります。
これを単に「反抗期」と捉えるのはいささか乱暴であり、環境の変化について考えてみることも大切です。つまり子供の環境を整えるためにお受験にトライするのは強ち間違いではありません。むしろ積極的に環境を整えることで子供の特徴を引き出し、才能を開花させるといえるでしょう。
性格と遺伝子の関係
性格と遺伝子には密接な関係があることは前項で紹介したとおりです。しかし、単に夫婦の性格を50%の割合で子供が受け継ぐような簡単な話ではありません。
そもそも人間には2万を超える遺伝子があり、様々な配列をもって性格や能力を形成していきます。つまり最初から同じ性格など生まれるはずがありません。
しかしこれまでの研究でどういった遺伝子が性格と関係するのかが解明されてきました。そこで性格と遺伝子の関係をさらに深掘りしてみましょう。
セロトニンが影響する
遺伝子には様々な種類があります。その中でも性格に影響を及ぼすとされているのが「セロトニン」です。ちなみに「セロトニン」は神経伝達物質にカテゴライズされますが、「ドーパミン」も代表的な神経伝達物質の1つです。
「セロトニン」が性格に及ぼす影響としては、強く働く人はネガティブな発想になりやすいことが証明されました。反対に働きが弱い人はポジティブな発想になりがちだといえます。
つまり両親のもつ「セロトニン」の特徴が子供の遺伝子に伝達され性格の形成に影響を及ぼしているといえるでしょう。
親と全く一緒になるわけではない
子供の性格には親の持つ「セロトニン」が大きく影響していることは前項で解説しました。しかし親の持つ「セロトニン」の特徴がストレートに性格に現れるわけではありません。
子供の両親の遺伝子にはそれぞれ「セロトニン」が含まれてますが、その特徴は人それぞれです。また、解明されてなくとも性格に影響する遺伝子は他にもあるかもしれません。
これらの遺伝子がランダムに組み合わさって子供の性格は形成されます。したがって、親子といえども遺伝子の配列が全く一緒になることはあり得ないといえるでしょう。
子供に遺伝しやすい性格の特徴
子供の性格は親の遺伝子によって、その半分の割合が遺伝します。しかし両親の性格がバランスよく遺伝するわけではありません。
実は子供に遺伝しやすい性格が存在するのです。言い換えれば、遺伝子では遺伝しにくい性格の特徴も存在することとなります。遺伝しやすい性格の特徴を理解しておくことは、子供の生活環境を考えるきっかけとなるでしょう。
具体的には子供の能力を伸ばす上で「遺伝」によらない性格は「環境」を整えることで補うことが可能となるのです。そこで子供に遺伝しやすい性格の特徴とはどういったものか検証してみましょう。
誠実性や外向性
前項では性格を5つの要素に分類し、それぞれの特徴や遺伝する割合を説明しました。これは「ビッグ・ファイブ理論」と呼ばれるもので、多くの研究者から注目を集めています。
中でも誠実性や外向性は遺伝する割合が高く、人間の持っている基本的な性格であることがわかるでしょう。よく「生まれながらに悪い人はいない」と言われますが、まんざら嘘ではないことがわかります。
言い換えれば、人格形成には環境が極めて重要であり、子供をのびのびと育てるには両親の責任が大きいといえるでしょう。
知能
子供の「知能」と遺伝の関係についても、これまで多くの研究が重ねられてきました。そこで判明したのは「知能」については性格よりも遺伝子に頼る割合が大きいことです。
具体的には60%の割合が遺伝であることがわかっています。昔は子供が家業を継ぐのは当然のことでした。生まれながらに家業を継ぐ環境が整っていたことが影響していたことは間違いありません。
しかし、環境だけではなく家業に必要な「知能」を遺伝子によって引き継いでいたことが大きく影響していたといえるでしょう。
ただし、プロ野球の世界でもわかるように、必ずしも2世選手が活躍するとは限りません。このことからも親の知能が100%の割合で遺伝されないことがわかります。
芸術面
芸術面における特徴や優劣は数値で測れるものではありません。したがって芸術面における遺伝の影響については、サンプルデータが少なく非常に難しいのが実情です。
音楽の分野に例えると、才能を発揮できるか否かは「聞く」能力が最重要であることは間違いありません。音楽の世界で重要視される絶対音感を持つ人は遺伝によるところが大きく、その割合は50%程度だと考えられています。
少し乱暴な考え方にはなりますが、芸術面全般においても遺伝子の影響は音楽と同様に50%程度の割合と考えられているのが現状です。
性格と遺伝に関する実験・研究
子供の性格と遺伝に関する実験や研究は古くから行われてきました。しかし人間の体内には2万を超える遺伝子が存在します。さらに遺伝子は単体ではなく複雑に絡み合い配列されるため無数のパターンが存在するといえるでしょう。
そのため研究が前に進まず、敬遠する学者も少なくありませんでした。ところが1996年の画期的な発見によって性格と遺伝子の関係にかかる実験・研究は大きく前進しました。
この発見をきっかけに、現在も様々な切り口で性格と遺伝の関係に関する実験・研究が展開されています。それでは具体的にはどういった研究や実験が行われているのでしょうか。
DRD4遺伝子
性格と遺伝に関する研究において画期的な発見となったのが「DRD4」と呼ばれる遺伝子です。「DRD4」はドーパミンを受け入れる遺伝子であることは以前から明らかでした。
ドーパミンは神経伝達物質にカテゴライズされ一般的にもよく知られています。「DRD4」は単なるドーパミンの受け皿と考えられていました。ところが「好奇心」の形成に影響することが判明したのです。
「DRD4」が性格と関係することは1996年に発見されましたが、それまでは性格と遺伝子の関係についてはあまり注目されていません。しかしこの発見をきっかけに、それまで否定的であった研究者も遺伝子と性格には関係性があることを認めざるを得なくなりました。
ミツバチの実験
環境が遺伝子に影響を与えるか否かといった実験も続けられています。私たちの身体は遺伝子の命令により、タンパク質で形成されているといえるでしょう。この仕組みはミツバチも同様です。
ミツバチには温厚なイタリアミツバチと獰猛なアフリカナイズドミツバチといった種類があります。そこで、それぞれの幼虫を交換して成虫になるまで観察するといった実験を行いました。
すると温厚なイタリアミツバチに育てられたアフリカナイズドミツバチから獰猛性は消え去っていたのです。また、アフリカナイズドミツバチに育てられたイタリアミツバチが獰猛性がみられました。
つまり育成環境において環境にマッチした遺伝子を作り出すことが証明されたわかったのです。このことから人の性格も生活する環境によって大きく変化することが、科学的にも証明されたといえるでしょう。
性格は遺伝と環境どちらの影響も受ける
子供の性格が親の遺伝子を引き継ぐのか否かは永遠の課題だったといえるでしょう。しかし1996年に発見された「DRD4遺伝子」は性格が遺伝子によって遺伝することを裏付けました。
またミツバチによる実験では、生活環境によって遺伝子が影響を受けることもわかっています。つまり性格は遺伝と環境の両方に影響を受けることが証明されたのです。
ただし、その割合は概ね50%である上、両親の遺伝子からランダムに抽出され組み合されることもわかりました。人体には2万を超える遺伝子が存在し、その組合せは無数に存在します。したがって、遺伝子によって影響は受けるものの親と同じ性格になることはあり得ません。
これらのことから、子供の性格は遺伝子の影響は受けるものの、環境によって大きく変化することがわかります。つまり子供の才能を伸ばし、すくすくと育てるには親の環境づくりが重要であるといえるでしょう。