アンダーマイニング効果ってどんな心理現象?
私たちが何か行動を起こすとき、そのモチベーションとなるのは、「達成感」や「満足感」を得ることが基本となります。
しかしながら、この行動に対して、報酬を与えられたりすると、これまで自発的に行っていた行動を一切やる気がなくなってしまうということが起こります。心理学では、このような状態のことをアンダーマイニング効果と呼んでいます。
今回は、アンダーマイニングの英語表記や意味、そして、心理学上の定義のほか、アンダーマイニング効果が引き起こすよくない結果と、それを逆利用するためのコツもご紹介。アンダーマイニング効果と対峙するエンハンシング効果についても解説します。
心理学におけるアンダーマイニング効果とは?
恋愛や仕事など、様々なシーンで私たちの行動を動機付けるのは、その行動を成し遂げたときに沸き起こる、心理的な達成感や満足感がベースです。もし、誰かから報酬をもらうために、行動を起こすようになると、人は、自発的なやる気を失ってしまうのです。
心理学では、このような心理現象を「アンダーマイニング効果」と呼んでおり、元々は、内発的な動機づけによって行動していたのに、外発動機を与えることによって、相手が行動を行うモチベーションが低下してしまう効果を表しています。
他者からの動機付けよりも、自発的な動機づけの方が、本人のやる気を高めるため、アンダーマイニング効果は、しばしばネガティブな心理現象として、できるだけ与えない方が良いと考えられています。
英語のアンダーマインの意味
「アンダーマイニング」は、英語の「アンダーマイン」という同士をing系にした単語で、英語ではアンダーマイニング効果のことをundermining effectあるいは、undermaining phenomenonという単語で表現します。
この英語の意味を日本語に直訳すると、「アンダーマイニング効果」、「アンダーマイニング現象」となります。また、心理学の専門用語では、英語の直訳ではなく、「適正当化効果」「抑制効果」のように訳されます。
元々英語の「Undermine」という単語には、以下のような意味があります。1.(名声などを)ひそかに傷つける。2.(健康などを)いつの間にか害する。3.根もと[土台]を削り去る。4.下を掘る,下に坑道を掘るなどです。
この4つの英語の意味の中から、もっともアンダーマイニング効果を表すのに、近い意味は、2つ目と3つ目の意味で、本来あるべきものが阻害されたことなどを表すのに最適です。
英語の例文をあげてみましょう。My father's health was undermined by drink.(父の健康は飲酒によって次第にそこ損なわれて行った)のように表現します。ここから転じてアンダーマイニング効果という言葉も生まれました。
報酬無しではやる気がなくなってしまう心理現象
アンダーマイニング効果の英語の意味をご紹介しました。英語の意味からも分かる通り、アンダーマイニング効果は、(報酬を受け取ることによって)「やる気がなくなってしまう」という心理現象を表しています。
自分から楽しんでやる気を持って行動を起こしている時に比べて、報酬や対価を受けとるようになると、「お金」や「名誉」のために頑張るということになり、かつて感じていた「満足感」や「達成感」を得られなくなるからです。
アンダーマイニング効果とは反対のエンハンシング効果
恋愛や仕事など、様々なシーンで私たちの行動に影響を与えてくる「アンダーマイニング効果」。実は、その対極にある心理現象のことを「エンハンシング効果」と言います。
エンハンシング効果は、例えば、相手を信頼していることや期待していることで、その人のやる気やモチベーションをアップさせることができる心理的効果があります。エンハンシングとは英語でEnhancing(高める、増強させる)という意味があります。
エンハンシング効果は英語ではEnhancing effectと表記し、心理学では行動にポジティブな影響を与える「増強効果」という意味で使用されます。エンハンシング効果の例を少し挙げてみましょう。
エンハンシング効果は、例えば、お母さんが子供に期待することなどが挙げられます。お母さんの期待に応えたくて、勉強やスポーツを頑張ったり、その結果笑顔で感謝されたり喜ばれたりすることがエンハンシング効果の一例です。
他にも、恋愛での例を挙げてみましょう。例えば、好きな男性ができて、彼に素敵だと思われたいと思ってダイエットを頑張るといった行動も、エンハンシング効果の一つです。ダイエットを頑張るモチベーションが恋愛によって上がるというわけです。
エンハンシング効果は、アンダーマイニング効果と反対の効果があります。私たちの行動を司る、もう一つの心理現象の一つです。
人間が行動を起こす意欲について
続いては、私たち人間が、何か行動を起こす際の意欲がどのように発生するのか?その動機づけやモチベーションの理由について、見ていきましょう。
アンダーマイニング効果とエンハンシング効果の例でも分かる通り、私たちが行動を起こす時には、必ずその行動の動機となる原因や理由があります。
心理学では、この動機を2つに分類しています。一つは「内発的動機づけ」、そしてもう一つ「外発的動機づけ」があります。それぞれどんな違いがあるのか、具体例も交えつつ見ていきましょう。
心理行動に基づく「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」
人の行動意欲の原因となる動機づけ、一つ目は、「外発的動機づけ」についてです。心理学では、自分以外の人から影響を与えられて、何か行動やアクションを起こすことを「外発的動機づけ」と言います。
先ほど、アンダーマイニング効果の説明の項で、少し例をご紹介しましたが、「物質的な報酬」や「名誉、利益」あるいは「評価」といった、第三者からの影響によって、行動を促されるケースです。
能動的ではなく、受動的な動機づけのことを「外発的動機づけ」と定義します。また、外発的動機づけには、ポジティブな動機だけでなくネガティブな動機も含まれます。例えば、罰則を与えるというのも外発的動機づけの一例です。
例えば、勉強を頑張らなかったら、ゲームを没収するとか、テストの点数が悪かったら、お小遣いを減らすといった、そういったことも外発的動機づけということになります。
ご褒美か罰を与えられることによって、行動を促すことから、心理学ではこの動機づけのことを「アメとムチによる動機づけ」とも表現します。
能動的な内発的動機づけ
続いては、アンダーマイニング効果と対極にある「内発的動機づけ」について見てみましょう。内発的動機づけとは、自分がやりたいから、あるいは、充足感や楽しさを感じるために行動を起こすことを内発的動機づけといいます。
自分の好きな仕事をやってみたい、得意なスポーツがあるから、練習を頑張りたい、こういったことが、内発的動機づけの一例です。
内発的動機づけは、第三者から何か行動を強制されるのではなく、能動的に自分から行う意欲が生まれるという点が違っています。
内発的動機づけは、外発的動機づけに比べて、本人の達成感が意欲の源ですので、長期的に集中して物事に取り組むことができるようになります。
アンダーマイニング効果は、内発的な動機づけができている人に対して、外発的な動機を与えてしまうことによって意欲をそいでしまうという状態を指します。
受動的な外発動機づけ
仕事や恋愛でアンダーマイニング効果が働くと、人は、頑張ろうという自然な意欲を失くします。例えば、趣味で始めたことを仕事にしたりすると、給与や報酬をもらうために頑張るということに結果としてなってしまいます。
そうなってくると、これまで楽しくやっていたはずの仕事が苦痛に思えたり、頑張ろうという意欲が沸いてこなくなってしまうのが、アンダーマイニング効果の一例です。
外部からの受動的な動機づけは、人の行動意欲を薄れさせてしまい、結果として、相手の興味をなくさせてしまうことが多いようです。アンダーマイニング効果は、年齢が若いほど、その影響を深く受けやすいのだそう。
アンダーマイニング効果の心理実験
英語圏では、アンダーマイニング効果の実験なども、多数行われています。日本とはまったく違った文化の中ではありますが、人の行動心理については、多少の国民性の差はあるものの、比較対象として十分参考にすることができるデータと言えます。
そこで、ここからは、英語圏で過去に行われたアンダーマイニング効果の実験の中から、いくつかの実験例と実験結果をご紹介してみます。エンハンシング効果と対極にあるアンダーマイニング効果、果たしてどんな実験結果が出たのでしょうか?
幼稚園児を対象にした心理実験
英語圏で実施されたアンダーマイニング効果の実験例、一つ目は、幼稚園児に対して実施された心理実験です。まず、幼稚園児を3つのグループに分け、それぞれのグループに絵を描かせます。
1つめのグループは、絵が上手に描けたら賞状がもらえるグループ。(実験後に実際に賞状を渡す)2つ目のグループは、賞状をあげる約束をせず、絵を描いた後に賞状がもらえるグループ。3つめは何ももらえないグループです。
一定期間を開けて、繰り返しこの心理実験を行ったところ、2と3のグループでは、意欲低下が見られなかったのに対し、1つめのグループはアンダーマイニング効果の影響を受けるという結果が出ました。
大学生を対象にした心理実験
もう一つ英語圏で行われたアンダーマイニング効果の実験例を見てみましょう。こちらは、1971年にある心理学者によって行われた立体パズルの実験です。この実験では、大学生を2つのグループに分けました。
1つめはパズルを解くと1ドル報酬がもらえるグループ、そしてもう1つは、パズルを解いても報酬がもらえないグループです。1回めは、パズルを解いた後、報酬を与えますが、2回目、3回目は報酬がもらえないようにしました。
すると、実験の回を重ねるごとに、報酬がもらえるグループの意欲は低下し、パズルを解こうとしなくなるという結果がでました。これが、アンダーマイニング効果の影響です。
アンダーマイニング効果の具体例
恋愛や仕事など、私たちの日常生活の行動には、必ず動機づけが必要です。その動機づけが外発的なものになると、人の行動意欲が減退するというのが、アンダーマイニング効果の定義でした。
先述の心理実験の結果を踏まえて、続いては、私たちの日常生活のワンシーンの中から、どんなときに、アンダーマイニング効果の影響が出るのか?例を交えてご紹介していきます。
具体例①勉強
まずは、アンダーマイニング効果が勉強に与える例についてです。子供が、自発的に勉強をしている姿を母親が見つけました。成績もそこそこ良いので、さらに伸ばそうと、子供に「頑張ったらご褒美を挙げる」と約束します。
すると、子供は、ご褒美欲しさに、しばらくは勉強を頑張りますが、テストの結果が悪く、ご褒美がもらえないと、元々あった勉強への意欲が下がってしまうというのが、アンダーマイニング効果です。
反対に、子供が勉強を頑張った結果を、褒めてあげたり、喜んであげたりするのは、エンハンシング効果となります。子供の意欲が自発的に継続し、勉強を頑張ろうという意欲を増やすことができます。
具体例②ブログの運営
もう一つ、アンダーマイニング効果の例を見てみましょう。ある人が、趣味でブログを書いていました。コンテンツは、恋愛に関するブログでアクセス数も非常によく、たくさんの人が訪れる人気ブログとなっていました。
そこに目を付けた恋愛事業を展開する会社が、執筆料や広告費を支払うから、自分たちの会社のために、有償でブログの執筆をして欲しいと依頼してきたとします。
これまで楽しんでブログを執筆していた筆者は、やがて、お金をもらうために、ブログを書き続けなければならないという状態に陥り、当初のように楽しくブログを書くことができなくなりました。こういった行動意欲の変化をアンダーマイニング効果と呼びます。
アンダーマイニング効果の原因
ここまで、アンダーマイニング効果の具体例をご紹介致しました。恋愛や仕事など、私たちの行動にネガティブな行動を引き起こすアンダーマイニング効果。
対極にあるエンハンシング効果と異なり、これまでとは悪い結果につながってしまうことが多いようです。続いては、なぜ、アンダーマイニング効果が起こるのかという、原因について見ていきましょう。
「自己原因性」の概念
アンダーマイニング効果には「自己原因性」が強く影響しています。例えば、外部から動機を与えられると、これまでは、自発的に行っていた行動が、「他者から強制されて行っている」という風に認識されてしまいます。
この「やらされている感」というのが、自分で行動を決定できていないという気持ちにつながり、行動を起こす意欲が減退する原因と考えられています。
やる気を生む「自己決定感」と「有能感」
アンダーマイニング効果のもう一つの原因として考えられるのが、本来その人が持つ「有能感」や「自己決定感」を阻害してしまうからです。
恋愛でも仕事でもそうですが「自分でやると決めたから頑張る」「自分はやればできる人間だ」と思うことは、行動を促す意欲につながります。これを阻害してしまうのがアンダーマイニング効果の原因です。
やる気が変わる「目的」と「手段」
最後に、アンダーマイニング効果の原因として考えられるのが、行動を起こす際の理由が「目的」から「手段」に変わってしまうということが挙げられます。
例えば、行動することそのものが「目的」であるうちは、人はその行動を行いたいという欲求に促されて動きますが、その行動が例えば報酬をもらう「手段」に変わってしまうと、意欲が薄れてしまうということになります。
アンダーマイニング効果を応用
ここまで、アンダーマイニング効果の具体例や、心理的な要因について詳しくご紹介してきました。アンダーマイニング効果は、ネガティブな影響を与えるわけですが、実は、うまく利用すると、良いことにも使えるのです。
続いて、アンダーマイニング効果をうまく利用して、人の行動を誘導した事例をいくつかご紹介していきます。目からウロコの利用方法がありますので、ぜひ、実生活で活用してみてください。
相手のやる気を奪う誘導術
アンダーマイニング効果をうまく使って、公園で遊ぶうるさい子供たちを追い払った事例をご紹介しましょう。公園で野球をしている子供の声がうるさいと感じた近隣住民が、ある時、子供たちに、公園で野球をして遊んだら1ドルあげると言いました。
子供たちは、喜んでお金をもらい野球を続けました。その後、週を追うごとに、渡すお金が50セント、30セントと減っていき、最後にはお金がなくなったので1セントも渡せないと近隣住民は子供たちに伝えます。
子供たちは、お金がもらえないなら、ここで野球はやってやらないと言い出し、公園は静かになりました。この例では、アンダーマイニング効果をうまく利用して、うるさい子供たちを追い払うことに成功しています。
アンダーマイニング効果にまつわる有名な逸話
アンダーマイニング効果では、この逸話のように、相手の意欲を報酬を与えることでうまくそぎ落として誘導するという方法もあります。
例えば、いつまでもゲームをやめない子供に、ゲームを頑張って続けろと伝えて、ゲームで勝ったりレベルを上げるたびにお小遣いをあげると約束したとしましょう。
最初は、楽しくゲームに没頭していますが、やがて難しくなって勝てなくなるとお小遣いがもらえなくなってきます。
「どうしてクリアできないの?」「もっとうまくやれないわけ?」と言うような声かけをし、相手が「内発的動機」で始めたはずのゲームをさも「親のためにやっている」(外発的動機)に変えるように仕向けるのです。
こういった状況が続くと、子供はアンダーマイニング効果の影響を受けて、次第にゲームに取り組むことが嫌になってきます。結果として子供がゲームを止めてくれることになり、親は、子供の誘導に成功したということになります。
相手の行動意欲を奪うアンダーマイニング効果は、エンハンシング効果と対極にあり、あまりポジティブなイメージがありません。しかし、上手に使えばアンダーマイニング効果によって、相手にとって良くない行動をやめさせることもできるのです。
アンダーマイニング効果が仕事や恋愛に与える影響
ここまで、アンダーマイニング効果が与えるネガティブな影響や、それを利用した心理誘導術などをご紹介致しました。
最後に、アンダーマイニング効果が仕事や恋愛に与える永享と、その反対になるエンハンシング効果や類似するピグマリオン効果についてご紹介します。
アンダーマイニング効果による仕事への影響
アンダーマイニング効果は、仕事の場面では、あまりポジティブな結果につながりません。過度な報酬を期待するようになると、もらえない時にモチベーションがグッと下がります。
こういった現象を防ぐためには、社会貢献や仕事ができるという有能感をうまく引き出すことが重要です。
アンダーマイニング効果による恋愛への影響
アンダーマイニング効果の恋愛における影響はどうでしょうか?彼女に認められたいから仕事を頑張る、彼に好きになってもらいたいからおしゃれを頑張る、ポジティブな行動に出る原動力になる場合もあるようです。
ただし、アンダーマイニング効果は、相手からの見返りが得られないと、途端にモチベーションが下がります。恋愛がうまくいかなかったら、ダイエットもおしゃれも頑張れなくなる可能性があります。
アンダーマイニング効果に似たピグマリオン効果とは?
アンダーマイニング効果には、対峙する心理現象として「ピグマリオン効果」という効果があることはご存知でしょうか?
ピグマリオン効果は、エンハンシング効果と同じく、相手に期待をかけることで、相手の意欲を増やす効果のことを指します。
アンダーマイニング効果を理解して有効活用しよう!
アンダーマイニングの英語表記や意味、そして、心理学上の定義のほか、アンダーマイニング効果が引き起こすよくない結果と、それを逆利用するためのコツをご紹介しました。
アンダーマイニング効果と対峙するエンハンシング効果やピグマリオン効果、この3つの動機づけをうまく使いこなして、仕事や恋愛をうまく進められるようになりますように!