スラッグ弾ってどんな弾なの?
銃弾にも様々な種類がありますが、その中でもスラッグ弾という名称をご存知でしょうか。あまり聞き慣れない人もいるかもしれませんが、スラッグ弾は意外と身近な場面で活躍している銃弾でもあります。
日本に住んでいると銃には無頓着になりがちですが、スラッグ弾は日本でも目にする機会がある銃弾でもあるので、知識として覚えておいて損はありません。今回はスラッグ弾の特徴や役割の他、細かい種類まで詳しく解説していきます。
目的に応じて使用されるスラッグ弾も変わってくるので、正しい知識を身に着ける事が大切です。スラッグ弾に興味のある人は勿論、使用する機会がありそうな人もぜひ目を通してください。
スラッグ弾とは
スラッグ弾は主に散弾銃、つまりショットガンで使用される銃弾です。ゲームや映画などで知っている人もいるかもしれませんが、ショットガンが散弾銃だからと言って散弾しか撃てないという訳ではありません。
銃弾は目的によって複数使い分けられる事が多く、それはショットガンも例外ではありません。散弾とは別の目的で使われる銃弾がスラッグ弾であり、目標に命中した際の効果も異なるものとなります。
まずは、スラッグ弾の由来や意味から紹介していきます。大本となる言葉の意味を知っていれば、銃弾の特徴もなんとなく見えてくるでしょう。
そもそも「スラッグ」とは?
最初に、スラッグ弾の「スラッグ」とはいう言葉の持つ意味から見ていきましょう。スラッグとは英語で「金属の小さな塊」や「一発弾」などの意味があります。また、ストレートに「銃弾」という意味も含まれています。
他にはナメクジの英語名だったり怠け者といった意味もありますが、今回スラッグ弾で使われる意味合いはおおよそ上記の内容に集約されているので今回は無視して構いません。
今回イメージするスラッグの意味としては、散らばってしまうようなものではなく単一の金属の塊、といったものを思い浮かべてください。それがそのままスラッグ弾のイメージにもなります。
スラッグ弾はボールブリッド(B.B.)を改造したもの
スラッグ弾の歴史は古く、16世紀頃にマスケット銃に使われていたボールブリッド(B.B.)が起源と言われています。当時のボールブリッドとは、丸い鉛の弾をそのまま銃弾として飛ばすというシンプルさが特徴でした。
これは特殊な加工を必要とせず大量生産が可能でしたが、回転がかかってしまい命中精度が悪いという欠点を抱えていました。イメージとしては、野球やサッカーで回転を掛けるとボールが曲がっていくようなものです。
これを解消するために球状の形を変更し、先端に重心が偏るようにしました。そうすることで球状の時よりも主に縦方向の回転を抑える事が可能になり、撃ちだされる銃弾の精度を増すことに成功したのです。これがスラッグ弾の元祖となります。
スラッグ弾の特徴
続いては、スラッグ弾の持つ特徴やメリットについて紹介します。通常のショットガンに使われる散弾とは違い、スラッグ弾にはスラッグ弾にしかない特徴があります。
銃弾は正しい知識を持って扱わなければ危険なものです。その銃弾がどんな特徴を持っていて目標にどんな効果を及ぼすのかは正確に把握しておかなければなりません。
日本人の日常生活ではほぼ使う機会はありませんが、日本にいても使おうと思えば使えるものでもあるので、やはり知識として知っておくことは大切です。スラッグ弾がどんな銃弾で、どんな目的で使用されるのか見ていきましょう。
散弾でありながら弾頭は1つ
スラッグ弾の持つ最大の特徴として、弾頭が1つだけという点が挙げられます。ショットガン、つまり散弾銃でありながら、通所の銃のように単発の銃弾を撃ちだす際に用いられる銃弾という訳です。
分類上はスラッグ弾も散弾に分類されますが、発射された弾丸は散弾のように拡散することはなく、1つの塊として目標に命中します。命中箇所の破壊力は高いですが、単発なのでしっかり命中させなければいけないというデメリットもあります。
その特徴から、散弾では威力不足と判断される際に破壊力を目的として使用される事が多いです。銃弾が拡散しないため散弾よりも目標への命中率は落ちますが、その分近距離での目標への威力を上げた銃弾といえるでしょう。
ライフル弾頭に比べ口径が大きい
スラッグ弾はライフル弾と混合されがちですが、大きく違う点が銃弾のサイズです。通常のライフル弾の口径が0.3インチ(約0.76センチ)程に対して、スラッグ弾の口径は大きなもので0.7インチ(約1.85センチ)と倍以上のサイズとなります。
当然サイズの分重量もあるので、着弾地点への破壊力はスラッグ弾が圧倒的に勝ります。ただしサイズが大きい分空気抵抗などの影響も大きいため、射程距離はライフル弾に遠く及びません。
両者を比較すると、スラッグ弾は近距離の目標に対して高い効果が見込めるのに対して、ライフル弾は遠距離の目標を狙うのに効果的です。完全に住み分けができているので、使用の際は目的に応じて使い分けることとなります。
対面距離が近くなる猟場で威力を発揮
前述の通り、スラッグ弾が効果を発揮するのは目標が近距離に存在する場合です。近距離で銃を使うケースとして最も一般的なのは、動物を対象とした見通しの悪い山中での狩猟であり、この場面ではスラッグ弾が大活躍します。
猟場は多くの場合生い茂った山奥であり、不意の遭遇によって近距離で獲物となる動物と対峙するケースも少なくありません。そうした場合に近距離で大きな効果を発揮するスラッグ弾は非常に頼りになる銃弾と言えるでしょう。
山の動物は体も大きく、命中率よりも威力が求められる場合も少なくありません。そうした意味でも、動物相手にスラッグ弾は高い効果を発揮すると言えるのです。
スラッグ弾を使う目的
では続いて、スラッグ弾が実際に用いられる場面を紹介していきます。日本においてもスラッグ弾は様々な場面で用いられますが、特に出番が多いのは主に以下で紹介する二つの場面です。
元々散弾銃は近距離用の銃ですが、スラッグ弾はその中でもさらに近距離用の目的で採用される銃弾です。どちらの場面でも近距離での破壊力という明確な目的を求められており、遠距離を捨ててでも近距離特化されたスラッグ弾の効果が発揮される場面でもあります。
大型動物の狩猟
熊やイノシシをはじめとする大型の動物を相手取る際、小型の拳銃は勿論の事、ショットガンの散弾であっても弾頭が小さいために威力が足りず、命中させても貫通に至らない場面が多々あります。
しかしスラッグ弾であれば、そうした動物相手でも高い破壊力で貫通させることが可能です。体の大きな動物を相手取るには大きな威力を発揮すると言えるでしょう。
貫通力ならライフル弾も同様に高いですが、実は日本では散弾銃よりライフル銃の方が取得が厳しいため、日本で動物相手に銃を使う場合には、スラッグ弾を使った散弾銃を使うのが一般的なのです。
ただし前述の通りスラッグ弾の射程は短く、大型の動物を貫通させるには近距離での射撃が必要になります。動物に接近すれば当然危険も高まるので、その点は留意しておきましょう。
ドアの破壊
ドアを銃で破壊するシーンは映画などでもお馴染みのシーンです。フィクションでは拳銃を使うシーンも多いですが、現実ではスラッグ弾を用いたショットガンを使うのが一般的となります。
理由は単純で、ドアのロック部分を破壊するために最も効率よく威力を伝達させることができるからです。質量の大きい単発の弾頭で狙った位置に威力を集中させることができるため、こうした物の破壊を目的とする際にはもっぱらスラッグ弾が利用されるのです。
また、散弾と違い弾頭が拡散しないため、救出作戦などでドアの向こうの人をむやみに傷つけるリスクが減るというメリットもあります。特定の物のみを破壊するのに優れた銃弾と言えるでしょう。
スラッグ弾の代表的な種類
銃弾の中にスラッグ弾という種類があるように、スラッグ弾の中にもいくつかの種類があります。前述の通りスラッグ弾の歴史は古く、現在に至るまで数多くの種類の弾が生まれては消えていきました。
同じスラッグ弾の中でも撃った際の反動や命中時の効果が少しずつ異なってきます。そのため一口にスラッグ弾と言っても多くの種類があるのですが、今回はその中から一般的に使用されているものを5つ紹介していきます。
今回紹介する5つの種類は、いずれも現在日本で使われているスラッグ弾です。もしかしたら実物を見る事もあるかもしれませんので、目的に応じて使い分けられるよう、それぞれの特徴と効果を頭に入れておきましょう。
黎明期からある「ブリネッキ型」
スラッグ弾としては歴史が古く、スラッグ弾黎明期に初めて成功を収めたのがこのブリネッキ型です。スラッグ弾のベースになった型と言っていいでしょう。
弾頭部分にフェルトやプラスチックなどを固めたものを装着させることで、先頭に重心をもたせて安定した弾道を実現させています。原理としては、バドミントンのシャトルが飛んでいくものをイメージすると分かりやすいでしょう。
ブリネッキ型は優れた直進性で使いやすい反面、弾頭に重量が集中するために発射した際の反動が強いという欠点もあります。そのため反動を抑え込めるようなある程度重量のあるショットガンでの使用が推奨されます。
近距離射撃に向いている「フォスター型」
フォスター型はブリネッキ型と同様弾頭を重くすることで安定した弾道を獲得できます。弾頭が全体的に丸いフォルムをしているのが大きな見た目の特徴で、回転を抑える事で安定した弾道を獲得しています。
フォスター型の最大の特徴は、命中時に弾頭が潰れる事で目標に大きなダメージを与えられる事です。そのため元々近距離で威力を発揮するスラッグ弾の中でも、特に近距離特化のタイプと言えます。
ブリネッキ型と合わせて日本でもとても人気が高い種類のスラッグ弾です。狩猟環境や目標、使用するショットガンの種類に応じて使い分けるとよいでしょう。
致命的なダメージを与える「リーサル型」
リーサルとは「決定的」や「致命的」を表す単語です。その名を冠するこのスラッグ弾も例外ではなく、命中対象に致命的な損傷を与えるために生み出された銃弾と言えます。
このスラッグ弾には弾頭に金属片が仕込まれており、命中時にそれらが飛び散っていきます。フォスター型のような単純な威力ではなく、飛び散る金属片によって内臓をズタズタにして、対象に致命的な一撃を与えるための弾という訳です。
当然目標に与えるダメージは他のスラッグ弾を上回りますが、金属片が目標の奥まで潜り込むために目標の損傷も激しくなります。駆除目的の狩猟では効果的ですが、はく製や食用に狩猟を行うのには不向きな弾と言えるでしょう。
ライフルドショットガン専用「サボット型」
カップの中に弾頭を詰めた見た目をしているのがサボット型です。このタイプのコンセプトは言ってしまえばショットガンでライフル弾のような弾丸を撃ちだすというものです。
カップの中にライフルのような弾頭を入れて一緒に発射することで、銃弾にライフルのような回転を加える事ができます。発射後はカップが分離し、ライフルのような弾頭だけが飛んでくるという訳です。
ライフルのような回転を加えるためにはどの銃でもいいという訳ではないため、このタイプは使える銃の種類が限られています。重心にライフリングが施されたものでないと回転が加えられず威力を発揮できないため注意しましょう。
反動が少ない「ワッズ型」
原理はブリネッキ型と同様ながら、ブリネッキ型の欠点である反動を抑えたのがこのワッズ型です。非常に扱いやすいため、最近特に人気が出ている種類でもあります。
弾頭にワッズと呼ばれるクッションの役割を果たすものを付けたスラッグ弾であり、発射の際にはこのワッズが衝撃を受け止める事で反動を軽減します。軽い散弾銃でも反動を抑えられるので散弾銃初心者にもお勧めと言えます。
ブリネッキ型との違いは、ワッズ部分が発射後に弾頭と分離する点です。分離すればその分サイズも小さくなるため、ワッズ型はショットガンの口径よりも小さいものであっても使用できるというメリットもあります。
スラッグ弾は日本の里山で活躍!
日本は銃とは無縁だと思う人もいるかもしれませんが、実は散弾銃は日本でも頻繁に使われています。なぜなら日本には里山が多く、野生動物の駆除や狩猟目的にスラッグ弾を使った散弾銃が大活躍しているからです。
日本にいても狩猟に使うという名目でショットガンを使用することができるため、興味のある人は狩猟と銃所持の免許を取ってみましょう。適切な知識があれば、海外に行かなくてもスラッグ弾を使用した射撃を行う事ができます。
そして銃弾を選ぶ際には、ぜひ今回紹介した内容を参考にしてみてください。銃弾とはいえ正しい知識があれば過度に恐れる必要はありません。スラッグ弾の正しい効果と特徴を覚えて、効果的かつ安全に使用できるようにしましょう。