財形貯蓄制度とは
今回は、財形貯蓄制度について解説していきます。財形貯蓄制度は、企業に勤務する従業員が利用することのできる制度で、少しずつ貯蓄ができるとして内容をよく理解せず利用しているという方も多いのではないでしょうか。
確かに、財形貯蓄制度自体はメリットも多くおすすめの貯蓄方法ではありますが、金利情勢によっては自分で他の商品を利用して運用したほうが利回りの面でメリットがある場合もあります。財形貯蓄制度について深く理解を深め、自分の生活に適した財産形成方法かどうか、一度検討してみることをおすすめします。
勤労者財産形成促進法に基づき企業が導入する福利厚生の一つ
財形貯蓄制度は、勤労者財産形成促進法という法令に基づき、労働者を雇用する側の企業が導入する福利厚生制度の一つです。この法令で財形貯蓄制度についての規定はありますが、企業側の導入は強制ではないため、企業によって財形貯蓄制度を導入していない場合もあります。勤務先に確認して、財形貯蓄制度があるか確認をする必要があります。
要するに、財形貯蓄制度はだれでも利用できるというわけではなく、企業に勤務する従業員であり、なおかつ勤務先企業が財形貯蓄制度を導入しているという条件がそろわないと利用することができません。
財形貯蓄の種類
財形貯蓄制度には、大きく分けて3つの種類があります。一般財形貯蓄、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄の三種類となります。それぞれ貯蓄の目的が異なり、それぞれに特徴とメリットがあります。自分の貯蓄目的が明確に定まっているなら、それぞれの内容を理解して選択することをおすすめします。
①一般財形貯蓄
財形貯蓄制度の第一に、一般財形貯蓄があります。これは、特に使用目的が定められておらず、貯蓄した資金は自由に使うことができます。他の2つの財形貯蓄制度と比較すると、自由度が高いメリットがある反面、金利に対して所得税20%が発生するというデメリットがあります。
はっきりと貯蓄目的が決まってないけれど、給与天引きで自動的に貯蓄できる体制を作りたい、という方におすすめできる財形貯蓄制度です。金利負担があるといっても、そもそも金利自体がそれほど高額にならないので、あまり気になる部分ではないかもしれません。
使用目的は自由
財形貯蓄制度のうち、一般財形貯蓄は使用目的が定められていないので、とりあえず貯蓄をしたいという方にはメリットがあります。こちらを選択しても、後述する財形住宅融資制度の利用はできますし、やはり給与天引きされるという点は大きなメリットです。
他の二つの財形貯蓄制度に比べ、気軽に始められて比較的使う時も自由に扱える商品ですので、まずは気軽に貯蓄を始めたいという方はこちらから導入してみてはいかがでしょうか。
②財形年金貯蓄
財形貯蓄制度の二つ目は、財形年金貯蓄です。これは、老後の生活資金を形成することを目的にした財形貯蓄です。この制度を利用できるのは、制度を適用している企業に勤務する従業員のうち、満年齢が55歳未満の方に限定されます。
財形貯蓄制度のうち、財形年金は最低5年間は積立期間を設定して支払いをしないと制度のメリットを享受することはできません。他の財形貯蓄制度と同様、毎月の積立額は自由に設定することができます。
老後への資金貯蓄
財形貯蓄制度のうち、財形年金は老後の生活資金を賄う目的で利用されます。60歳に達してから、年金の形で積み立てた資金を受領することができます。当初の目的通り、年金の形で受領した場合、積立にかかる金利に対して通常は発生する所得税が非課税扱いとなります。ただ、550万円までの元本部分にかかる金利に限られます。
財形貯蓄制度のうち、財形年金は60歳になってからすぐに受け取る必要はなく、5年間を限度に据え置きとすることもできます。また、年金として受領しなくても、普通に解約などの手続きを取って現金化することもできますが、非課税の優遇は受けられません。
③財形住宅貯蓄
財形貯蓄制度の三つめは、財形住宅貯蓄です。これは、住宅の購入資金やリフォーム用の資金を形成する目的で利用される財形貯蓄です。年金の時と同様、住宅関連の費用に資金を使用した場合、金利にかかる所得税が非課税となるメリットを享受することができます。
不動産関連の費用は高額となるケースが多いため、住宅ローンなどを利用して借り入れを受けるケースも多くみられますが、元本部分の貯蓄目的でこの財形貯蓄制度を利用する方はたくさんいます。給与天引きで自動的に貯めていける点にメリットを感じている方も多いようです。
住宅の購入・建設・リフォームの為の資金貯蓄
財形貯蓄制度のうち、財形住宅貯蓄は、マンションの購入費用や一戸建て住宅の建築にかかる費用、あるいはリフォームに要する費用を形成する目的で利用されます。年金貯蓄と同様、満55歳未満の従業員の方だけが利用できます。
非課税枠の範囲は元本部分が550万円までです。住宅関連費用以外に資金を利用した場合、この金利非課税のメリットは受けられなくなるので注意が必要です。ただ、金利そのものの金額が高くないため、それほど気になる規模ではないのが現実的なところです。
財形貯蓄のメリット
財形貯蓄制度には、いくつかのメリットがあります。前述した三種類のうち、住宅貯蓄と年金貯蓄にしか適用されないメリットもあれば、三種類すべてに適用されるメリットもあります。メリットとデメリットなどの特徴を十分に理解し、自分の生活にマッチした制度を利用することをおすすめします。
財形貯蓄制度は、貯蓄と名の付く割には利回りはあまりよくなく、デメリットの一つでもあります。ただ、他の付属してくる優遇制度の効果が大きいので、利用のメリットは十分にあります。
メリット①財形住宅融資制度を利用できる
財形貯蓄制度を利用するメリットの第一としては、財形住宅融資制度を利用することができる点です。これは、一般財形貯蓄でも年金の制度でも、どれでも適用されます。住宅など不動産を購入する際には高額の資金が必要になるため、多くの方が金融機関から資金を融通してもらうことになります。
その際の金融機関の選択をしないといけないのですが、その選択肢の一つとしてこの財形住宅融資制度を考えることができます。他の金融機関から借入を受ける場合の金利など諸条件を比較して、希望にかなうような内容なら、利用してみましょう。
住宅金融支援機構から融資を受けることができる制度
財形住宅融資制度とは、住宅購入を目的にした資金融資制度です。住宅金融支援機構や共済組合などが出資元です。財形貯蓄利用が1年以上で、積立残高が50万円以上あることが利用の条件となっています。残高の10倍までの融資を受けることができます。
金額の上限は4,000万円、購入価額の80%までを限度として融資申請をすることができます。通常、金融機関から住宅ローンの融資を受ける際には審査が必要になりますが、この財形住宅融資制度は条件さえそろっていれば間違いなく利用ができるという点は見逃せません。頭金を貯めながら融資申請もできるという、二重のメリットを享受できます。
メリット② 税制面でお得
財形貯蓄制度の第二のメリットとしては、税制面での優遇が受けられるという点にあります。通常、金利収入には税金が源泉徴収されます。たとえば、銀行に資金を預けているともらえる金利利息には、およそ20%の諸税金がかかります。100円の金利利息が発生しても、実質80円程度しか受領することができません。
財形貯蓄制度で積み立てている資金にも金利利息が発生しますが、通常だと財形貯蓄で発生した金利利息にも税金負担はかかってしまいます。しかし、条件を満たすことで税金負担を非課税扱いにでき、全額の金利を受領することができます。
元本550万円までにかかる利子が非課税になる
財形貯蓄制度の種類のうち、住宅貯蓄と年金貯蓄の場合のみに適用されるメリットですが、それぞれの目的に応じた一部解約や全額解約などを行なった場合に限り、金利にかかる税金が非課税となります。約20%の税金負担を非課税の扱いにて、全額金利を受け取った状態で解約などにより現金が手元に入ることになります。
この財形貯蓄制度における金利にかかる税額負担の非課税は、元本が550万円までにかかる金利のみに適用されます。したがって、もっと高額の積み立てをしてからは、金利利息にかかる税金を非課税にすることはできませんので注意が必要です。
メリット③給与天引きで貯蓄可能
財形貯蓄制度の第三のメリットとしては、給料天引きで貯蓄していけるという点です。給料をもらって自分の手元にお金があると、どうしても使ってしまうという方もいると思いますが、給料天引きなら自動的に貯蓄をしていけるので、管理面ではとても便利です。
給料天引きと同じ感覚で貯蓄していける金融商品に銀行の定期預金がありますが、これに比べると財形貯蓄制度の金利は高く設定されていることが多いので、貯蓄目的という面でもメリットがあります。財形貯蓄を利用していて、いつの間にか貯蓄がたくさんたまっているという方も多いのではないでしょうか。
財形貯蓄のデメリット
ここまで、財形貯蓄のメリットについて説明してきましたが、逆にデメリットの面もあるので注意する必要があります。解約の手続きが面倒などがデメリットに当たりますが、逆の見方をすれば自由度が低いというのは貯蓄という側面からはメリットともいえるので、メリットとデメリットは表裏一体といえます。
財形貯蓄制度を利用する前に、メリットとデメリットを十分に理解し、財形貯蓄制度の利用を検討してみましょう。現在はいろんな金融商品が利用可能なので、財形貯蓄制度にこだわる必要はありません。
デメリット①利率が低い
財形貯蓄制度のデメリットの第一としては、金利の利率が低い点が挙げられます。銀行預金に比べると金利における利回りは高いといえますが、他の金融商品と比べるとそれほど高くはありません。金利の非課税枠が利用できるといっても、非課税となるのはもともと大きくない金額である利息部分にかかる税金なので、非課税効果はあまり高くありません。
資産の増額を目指すなら、財形貯蓄の低い金利を求めるのではなく、他の種類の金融商品を選択する方が賢いです。もちろん財形貯蓄には元本割れリスクがないことは大きな安心要素ですが、貯蓄性という面ではあまりメリットはありません。
デメリット②契約変更に手間がかかる
財形貯蓄制度のデメリットの第二としては、各種契約変更などの手続きが面倒になる点です。全額解約あるいは一部解約など、貯蓄した資金を現金化したい場合はもちろんのこと、積立金額を変更するなどといった簡易な変更においても、会社宛に所定の用紙を記入して提出しないといけません。
一部解約あるいは全額解約などをする際には、すぐに現金が必要になるケースが多いかもしれませんが、社内手続きを経る必要があるため、タイムリーな現金化を受けることは難しいのが現状です。数日の処理日数がかかると考えておいた方がいいです。
お金の出し入れを簡単にできない
財形貯蓄で積み立てた資金を引き出すには、解約手続きとして所定の用紙を勤務先に提出する必要がありますし、積立金額を増額するだけでも所定用紙を勤務先に提出する必要があります。気軽に現金を入れたり出したりすることはできません。
従って、財形貯蓄制度を利用する際には、毎月の給料金額と支出のバランスを考えて、無理のない金額で設定することが肝要です。無理に高額の積立金を設定して、お金が足らなくなったら毎回面倒な解約手続きを取っていたのでは、本末転倒といえます。最初の契約時点で、ある程度の計画性を持って設定することをおすすめします。
デメリット③利用目的が限られる
財形貯蓄制度のデメリットの第三としては、最初に想定した目的以外の利用をすることができないという点が挙げられます。財形貯蓄の種類は、前述のように一般と住宅と年金の三種類になります。しかしこのうち住宅と年金の場合は、資金の使用目的がそれぞれあらかじめ決まっています。
他の事柄に資金を使えない
財形貯蓄の種類のうち、住宅貯蓄と年金貯蓄を選択する時には、他の目的で使用できないことをあらかじめ理解したうえで開始するようにしましょう。他の目的で使用したい場合は、解約をしてしまうことになります。しかもこの時には金利利息に対しての非課税優遇はもちろん受けられませんので、メリットを失ってしまうことになります。
財形貯蓄制度は自由に資金を出し入れすることを想定していないので、資金使用の自由度はとても低くなっています。ただ、逆にこの点がメリットとも言えなくはないので、あらかじめ計画性を持って利用をしましょう。
デメリット④自営業の方は利用できない
財形貯蓄制度のデメリットの第三として、財形貯蓄制度を導入している企業の従業員しか利用することができないという点が挙げられます。すなわち、自営業の方は利用することができません。自営業の方にとっては不公平感を感じるかもしれませんが、法律上仕方のない部分といえます。
ただ、自営業者の方にはイデコなどこれに代わる制度もいくつか用意されています。効率よく貯蓄ができる商品も結構あるので、財形貯蓄にこだわることなく、いろんな種類の商品を比較検討してみてはいかがでしょうか。
財形貯蓄制度の注意点
財形貯蓄制度はたくさんのメリットもありますがデメリットもあります。上手に使うことで資産形成を効率よく行えるので、十分に計画性を持って利用すればよい商品といえます。ただ、デメリット以外に注意するべきポイントはいくつかあります。
十分に知っておかないと、思わぬ不利益をこうむり、貯蓄商品であるはずなのに元本割れをしてしまうことも考えられます。積立期間や選んだ財形貯蓄の種類を考慮し、もったいない取り扱いをしないよう注意して臨みましょう。
貯蓄の積立期間
財形貯蓄制度では、一般的な積立期間というものが設定されています。財形貯蓄の種類によって設定は異なります。その期間内で解約をしたりすることは不可能ではありませんが、元本割れの可能性があったり、住宅貯蓄と年金貯蓄においては金利利息の非課税措置を逃してしまうことになるので、注意が必要です。
一般的に、住宅貯蓄や年金貯蓄の方が、使用目的が明確に定められているため、積立期間は長く設定されています。一般貯蓄の方は、少し積立期間は短く設定されています。この期間内では無理に積立金の取り崩しを行なうことなく貯蓄を継続したほうが賢明です。
一般財形貯蓄の場合
財形貯蓄の種類のうち、一般財形の場合は、要件として3年間の積立期間が定められています。規則上は、3年以上積立をしないと現金引き出しをすることができないということになっています。しかし実際のところは、3年以内でも現金を受領することはできます。
ただ、その場合に気をつけるべきことは、積立開始間際のころに現金引き出しや解約をすると、元本割れした金額が返ってくることがあり得ます。積立開始当初は返戻率が悪くなるので、財形貯蓄を始める際は、長い目で見て積立が可能な金額を設定するようにしましょう。
財形住宅貯蓄・財形年金貯蓄の場合
財形貯蓄の種類のうち、住宅貯蓄と年金貯蓄の積立期間は、最低5年という規定が一応あります。ただ、これも一般貯蓄と同様、5年未満でも解約あるいは一部引き出しの対応も可能です。しかし、タイミングによっては積立金よりも少ない金額しか返ってこない元本割れの状態にあってしまうケースもあるので注意が必要です。
解約の場合
自分の判断で、あるいは会社を退職するなどの理由で財形貯蓄を継続しなくなった時には解約の手続きを取ることになります。それまでに積立してきた資金を現金で受領することになります。所定の用紙を会社に提出することで手続きは完了します。
もし年金貯蓄や住宅貯蓄で積み立ててきた資金で、解約してしまった場合、非課税のメリットを享受することはできません。利息部分に対して税金が課せられることになります。
転職・退職の場合
会社を転職した場合、積立していた財形貯蓄はどうなるかというと、新しい職場で財形貯蓄制度が導入されているなら、継続をすることができます。その際には、同じ金融機関を利用するなら「勤務先異動申告書」、異なる金融機関を利用するなら「転職等による財形貯蓄継続適用申告書」を勤務先に提出することになります。
財形貯蓄の金利について
財形貯蓄を利用して得られる金利はどれくらいの設定がされているでしょうか。実際のところは、資金の最終的な保有場所としては、銀行の定期口座と同様の扱いになるので、金利も同様に銀行の定期預金の利率が適用されるケースが多くなっています。現在は低金利時代ですので、金利部分に関して期待することは現実的には不可能といえます。
主要銀行の金利の比率
例えば、大手金融機関である三菱UFJ銀行とみずほ銀行は、いづれも0.01%という金利設定になっています。中央労働金庫の場合は0.015%と他行と比べて若干金利は高めに設定されていますが、それでもまさにすずめの涙と言えます。高い利回りを目指したいなら、財形貯蓄以外の金融商品の利用を検討してみてください。
財形住宅融資制度と民間住宅ローンの比較
財形貯蓄を利用するメリットの一つに、財形住宅融資制度が利用可能であると紹介してきました。この財形住宅融資制度を利用して住宅購入資金を融通してもらった場合と、民間の住宅ローンを利用した場合の借入金利やその他手数料負担の比較をしてみます。ローンは筧に大きな影響を及ぼすため、十分下調べをして利用する商品を選択しましょう。
借入金利の面では民間ローンの方が有利
財形住宅融資制度で資金を融通してもらった場合、返済利息の利率は0.71%となっています。これは、民間の住宅ローンで最も低金利の0.4~0.5%などと比べると負担感があります。ただ、審査を経ずに借り入れが可能になる点は財形住宅融資制度の魅力ですので、年収の要件などで民間住宅ローンの審査が厳しい方は、財形貯蓄の融資制度を利用しましょう。
財形貯蓄制度を利用して半強制的に貯蓄を成功させよう!
ここまで、財形貯蓄の性質とメリットおよびデメリット、種類ごとの特徴、解約などの注意点などについて紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。財形貯蓄の魅力は、やはり給料から天引きされるという点です。給料支給時点で別の管理口座に資金が移管されるので、半ば強制的に貯金がたまっていく点が一番の魅力でしょう。