年収の中央値とは
自分のキャリア形成や給料のことについて考えるとき、転職したら年収がどうなるのか?というのは非常に気になる点です。あなたが女性でも男性でも、30代や50代であってもその際に平均年収ではなく年収の中央値を確認したほうがよいのをご存知でしょうか。「中央値」はちょっと耳慣れない言葉だと思いますので、詳しく解説していきます。
年収順位が真ん中の人
年収の「中央値」とは「年収の調査データを小さい順もしくは大きい順に並べた際に真ん中にくる値」です。その名のとおりちょうど真ん中の値なので、その値より給料が低い人も高い人も同程度存在します。中央値は、平均年収よりも実感に近い数値であると言われています。
平均年収の求めかた
まず平均年収の求めかたを見てみましょう。例えば10名の年収を調査した場合に、1,000万円以上×1名、800万円×2名、700万円×1名、500万円×3名、400万円×2名、300万円1名という結果だったとします。この場合の平均年収は(1,000万+1,600万+700万+1,500万∔800万+300万)÷10=590万です。
中央値の求めかた
一方中央値の求めかたはというと、上からでも下からでも真ん中の値が「中央値」なので、先ほどの例ですと500万円が中央値ということになります。このように、もとになるデータのちょうど真ん中の値が「中央値」なのです。次に、なぜ中央値のほうが実感に近い値になるのか考えてみましょう。
「平均年収」が中央値より高くなりがちなのはなぜか?
平均年収が「中央値」より高くなりがちなのは、平均年収には所得格差が反映されやすいためです。例えば100人の平均年収を求める場合を考えてみましょう。年収300万円の人が99人いるグループに1人だけ年収1億円の人がいると仮定します。
そのグループの平均年収は397万円となり、100人中99人が年収300万円であるにもかかわらず、平均年収は100万円近く実態よりも高くなります。
このように平均年収は少数の例外による影響を受けやすいため、平均年収よりも「中央値」が働く人の実情に即した数値だと考えられているのです。今後のキャリア形成や給料の予測を立てる際は年収の「中央値」を参考にしましょう。
給与所得者全体の年収の中央値
一般的にはキャリアを考える際に平均年収をチェックする場合が多いですが、 先ほどご説明したように実際の感覚に近いのは「中央値」です。
給与所得者全体の中央値、すなわち20代から50代の男性女性の性別を問わずお給料をもらっている人すべての年収の中央値の金額はいくらなのでしょうか。自分の給料が社会全体としてはどの程度のものなのか確かめるには、社会に出て働きお給料をもらっている人全体の年収の中央値と比較するのが妥当です。
年収の中央値350万円~360万円
正社員・非正規労働者や派遣労働者、20代から50代の男性女性を含む給与所得者全体の年収中央値は、約350~360万円です。日本全体の平均年収は約420万円とされていますが、中央値で考えた場合は約60~70万円低めです。年収360万円でボーナスが年間60万円と仮定すると月収約25万円、社会保険や税金を引いた給料の手取りが約19~21万円です。
この年収で結婚するなら夫婦共にずっと働く必要あり
現在の一般的な子供二人の4人家族が生活するために毎月必要な費用は、大体27~30万円とされています。それを考えると、年収の中央値の働き手だけでは4人家族の家計を支えきれません。
3人家族の場合でも大体25万円前後とされていますので、これから社会に出て働き家族を作っていこうと考える人は、女性であってもずっと社会に出て働く必要があると考えた方がよいでしょう。
ちなみに地域によって差がありますが、平均結婚年齢は28.6歳から32.2歳と20代後半から30代前半というのが全国的な傾向で、都市部ほど年齢が高めになっています。のちほどご紹介する年代別の年収の中央値ともほぼ一致する結果となっています。
男性と女性の年収の中央値
今度は男性と女性に分けた場合の年収の中央値を見てみましょう。ご紹介する数値を見ていただくと一目瞭然ですが、男性と女性のの年収の中央値の差は100万円以上あります。女性は20代・30代・40代で出産や育児によるキャリアの中断例が多く、一度仕事から離れると再び以前と同様のキャリアを築き給料を得るのは難しいことが理由として挙げられます。
①男性420万円~520万円
20代から50代の給与所得者の男性の年収中央値は約420~520万円です。給与所得者全体の年収中央値より約70~140万円高くなります。年収が500万円でボーナスが年間80万円と仮定した場合、月収は約35万円。社会保険や税金を除いた手取りの給料が約28~30万円になります。
毎月の手取り額だけを見て考えると、28~30万円程度あれば妻が専業主婦で子供二人の4人家族を養っていける年収です。その観点からは、給与所得者の男性の半分以上は妻が専業主婦でも家庭を維持できる経済力があると言えます。
雇用形態も年収を左右する重要な要素
実際には女性であれ男性であれ一旦正規雇用でなくなってしまうと年収が大きくダウンします。介護や育児などで非正規雇用や派遣社員として働くことを選ぶ人が増えていますが、年収としては正規雇用者の金額が最も高いことは事実です。現在の日本では正規雇用で働く男性の割合が多いため年収の中央値も男性の値が高くなっています。
②女性280万円~300万円
20代から50代の給与所得者の女性の年収中央値は280~300万円程度です。給与所得者全体の年収中央値より約70~90万円低くなります。年収300万円・ボーナス年間50万円と仮定した場合、月収は約21万円。社会保険や税金を除いた給料の手取りは約15~18万円です。
男性の給与所得者との中央値の差が140~220万円もありますので、男性と女性の間の給料やキャリア形成の格差は大きいと言わざるを得ません。男女共同参画といった言葉が声高に語られるということは、それだけの格差が存在していることの証明でもあります。
特に女性の場合は妊娠・出産の時期にできるだけ正規雇用から離れずにキャリアを形成できるかどうかがポイントです。人口減少と働き手の減少により今以上に女性の社会進出が進むであろうことはほぼ間違いありませんが、男性は家庭でも職場でも働く女性たちを本気で応援できるかどうかを問われる状況になりそうです。
生涯賃金という大きな視点を忘れずに
「生涯賃金」とはその人が一生涯で稼ぐお金の総額のことです。その金額はやはり正規雇用の場合に最も大きくなります。これまでのデータから読み取れるのは、安定した雇用のもとで働く働き方が結局は最も効率よく稼げる働き方だった、ということです。
今後の働き方がどのように変化していくのか予測不可能な部分はありますが、基本的には正規雇用の仕事に就き、収入を増やしたい場合には副業が可能な職場を選ぶなどして本業以外の収入を得るのが最も現実的だといえます。
年齢別の年収の中央値
今度は年代別に年収の中央値を見てみましょう。20代、30代、40代と年齢が進むにつれ年収の中央値は上昇していきますが、40代と50代の年収の中央値の差はそれほどありません。給与収入の伸びが期待できるのは40代後半か50代前半までと考えて間違いないでしょう。
①20代は約300万円
20代(20歳から29歳まで)の年収の中央値は約300万円です。20代前半は学生の割合が多いため賃金の伸びは比較的緩やかですし就職初年度の年収にはそれほど大きな差はありません。しかし時間が経つにつれ従業員5,000人以上の大企業では賃金の上昇率が目立つようになります。
その影響が統計の数字にも表れており、30代へ向かう時期に賃金の伸びが大きくなっていきます。キャリア形成や給料に差がつき始める時期が20代です。
実は年収が300万円台の人は労働人口全体の約20%を占め、年収別統計の中で最も人数が多い層です。国税庁の調査によると1990年代後半から日本国民の平均年収は年々下がり続け、その水準を回復することなく現在に至っています。そのことから「年収300万円時代」が来るのではないかといった予測が語られることも増えています。
②30代は約410万円
30代(30歳から39歳まで)の年収の中央値は約410万円で、20代と比べて約110万円も高くなります。30代は仕事の幅も広がり20代の部下を抱える人も増えます。30代は仕事へのモチベーションが上がっていく時期といえるでしょう。
30代は20代よりも権限や責任のある職務につき、仕事にやりがいを感じる時期でもあります。40代と同様に中間管理職としての活躍を求められる機会も増え、プライベートでは結婚する人も多いでしょう。
年収が約410万円でボーナスが年間50万円だと仮定すると、毎月の給料は約30万円、社会保険料などを除いた手取りの給料額は25万円前後です。結婚した場合、夫婦二人の生活は維持できても子供が生まれると家計運営が厳しくなります。夫婦二人で働き続けることを前提にライフプランを固めていくことが大切です。
③40代は約520万円
40代(40歳から49歳まで)の年収の中央値は約520万円です。30代から40代になると役職に就くなどそれまでのキャリア形成の結果で年収の差が大きく表れてきます。
30代で家庭を構えていれば子供の教育費にお金がかかる時期が40代です。そのため必死で働くことを自ら求める人も多く、周囲からも求められます。また、自らの老後について考え始めたり両親の介護などにも向き合わなくてはなりません。公私共に人生で最も多くのものを背負わなくてはいけない期間だといえるでしょう。
④50代は約530万円
50代(50歳から59歳まで)の年収の中央値は約530万円です。年収の中央値そのものは20代からの全年代を通じて50代が最も高いのですが、40代から50代への年収の上昇率は20代から30代、40代までの上昇率にはほど遠いのが実情です。給料の上昇は40代までで頭打ちと言っていい状況です。
実は50代後半になると早期退職者の増加などで年収の中央値が下がってしまいます。仕事のピークは40代で、第2のキャリアを模索し始めるのも50代の特徴です。
しかし20代から50代までの年収中央値を年齢別にみてみると、やはり年齢が上昇するにつれて所得が高くなり、40代後半から50代前半が年収が最も高くなる時期で、そこに年収のピークがあるわけです。20代はひたすら学び、30代にキャリアを積み40代で花を咲かせて50代で有終の美を迎え次のキャリアに転じる、といった流れが理想かもしれません。
雇用形態別の年収の中央値
次に雇用形態別の年収の中央値を正規雇用、非正規雇用、派遣社員の順に見ていきましょう。年収の中央値には雇用形態によりかなりの差があることがよくわかります。年収の中央値を比較するとキャリア形成や働き方を考えるうえでは、やはり正規雇用を目指すことが給料を増やすことにつながります。
①正規雇用は430万円~440万円
正規雇用とは期間を定めずに契約している雇用形態のことで、いわゆる「正社員」です。年収の中央値は430~440万円程度で、年収440万円・ボーナス年間80万円と仮定すると、月収は約30万円、社会保険や税金を引いた給料の手取り約24~25万円です。
給与所得者全体の年収中央値が350~360万円なので、今は正規雇用以外の働き方で働く人の割合が高いことがわかります。主体的に働き方を選ぶ自由があることは良いことですが、非正規雇用が増えることは社会全体の所得が低くなることでもあります。
可処分所得が減ると経済が活力を失い社会全体の低迷にもつながりかねません。社会保障費が増大するリスクも大きくなりますから、できる限り正規雇用が維持され可能な限り拡大されること、雇用者側も企業側に正規雇用の維持・拡大を求めていくことには意味があるのです。
②非正規雇用は150万円~160万円
非正規雇用とは期間を定めて契約している雇用形態のことです。「アルバイト」「パート」「派遣社員」「契約社員」などが非正規雇用に含まれます。非正規雇用の年収中央値は約150~160万円です。年収150万円ボーナスなしと仮定した場合、月収は約13万円。社会保険や税金を引いた給料の手取りが約10~11万円です。
「週3パート主婦」や「1日6時間だけ働く学生」なども含むデータなので、非正規雇用全体の年収の中央値が低くなっています。
この年収では独立して生計を営むことは難しいかもしれません。160万円程度前後の収入であれば家族の扶養に入れる可能性は充分にあります。扶養に入ることでかなりの節約効果があるので、一度きちんと計算して検討してみてはいかがでしょうか。
③派遣社員は280万円~300万円
非正規雇用のうち派遣社員に限定すると年収の中央値は280~300万円程度です。非正規雇用全体の年収の中央値よりも約130万円高くなります。年収280万円でボーナスなしと仮定した場合、月収は約23万円、社会保険や税金を引いた給料の手取りは約17~19万円です。
ボーナスはなく昇給も見込めない立場なのが派遣社員の辛いところです。年収の中央値はちょうど非正規雇用と正規雇用の中間ですが、仕事の内容は正社員並みという会社も少なくありません。キャリアや収入のことを考えると、正規雇用にシフトしていく方が将来の給料が増える可能性があります。
職業別の年収の中央値
職業別に見ても年収の中央値には明らかな差があります。職業別といってもすべて給与所得者なので全員が「サラリーマン」ではあるのですが、民間企業のサラリーマンと公務員、専門職としての医師の間に年収の中央値の差があるのでしょうか。順に確認していきましょう。
①男性サラリーマン470万円~480万円
正規雇用の会社員で男性のサラリーマンの年収中央値は約470~480万円です。年収480万円・ボーナス年間90万円と仮定した場合の収は約32万円。社会保険や税金を引いた給料の手取りは、24~25万円ほどです。男性の給与所得者の年収の中央値とほぼ同じ水準と考えてよいでしょう。
②公務員560万円~600万円
国家公務員の年収中央値は約590~600万円程度です。年収600万円でボーナスが150万円と仮定した場合に月収は約38万円。社会保険や税金を引いた給料の手取りは約30~32万円です。普通に働いていれば失業の心配はないのが公務員です。男性・女性の区別なくキャリア形成ができるのも魅力で、最近は30代でも応募可能な仕事があります。
地方公務員の年収の中央値は国家公務員の場合より若干低めで約570~590万円です。年収580万円でボーナス140万円と仮定した場合の月収は約37万円。社会保険や税金を引いた給料の手取りは約28~30万円です。
こうしてみると、民間企業のサラリーマンより年収の中央値が高いようですが、これが従業員5000人以上の企業に勤めるサラリーマンの数値と比べると、ほぼ同水準ながら少し低くなっています。
③医師1000万円~1100万円
医師全体の年収中央値は1,000~1,100万円程度です。年収1,100万円でボーナスが年間200万円と仮定すると月収は約75万円。社会保険や税金を引いた手取りは約56~59万円になります。あらゆる勤務先を含めた数値になっていますので、民間で華やかなキャリアを積んだ医師の給料が平均値を引き上げている可能性はありそうです。
日本では年収の中央値が下がり続けている
日本では、この10年間で年収500万円の人の手取りは30万円も減ってしまいました。年収500万円の人の手取り推移をみると、2011年には手取り435万円だったのが、その後の児童手当の縮小や14年連続で引き上げられた社会保険料の負担、消費増税などによりこの10年で405万円になってしまったのです。
企業は内部留保として資金を会社に溜めこみ、従業員に還元しようとしません。そのため現在の日本はかつてないほどに企業から労働者に払われる賃金が減少しています。
40代で年収400万円代は低所得なのか?
これまでの項目で40代の年収の中央値は520万円とお伝えしましたが、現在40代になっているいわゆる「ロスジェネ世代」「就職氷河期世代」と言われる人たちには、全体的な賃金自体が低く40代で年収400万円代の人たちが数多くいます。新卒採用で正社員になれなかった人が多くいるためです。
大学を卒業して就職する最初の段階でつまずき、30代でもそのつまずきを修正できずにずっと引きずって生きてくるしかなかった人たちが40代にさしかかっているのです。
また、最近は正社員待遇とはいってもボーナスも年功賃金も福利厚生もなく年収が400万円に達しない例が増えてきています。そのような状況では貯蓄もままならず、正社員とはいえ苦しい生活を強いられている人が増加しています。
低所得者層増加の何が問題なのか
40代で年収400万円が低所得者ではない、という意見も見かけます。しかし例えば年収440万円・ボーナス年間80万円の場合、月収は約30万円、社会保険や税金を引いた給料の手取り約24~25万円です。毎月25万円では、夫婦二人の生活は何とか維持できても結婚して子どもを育てていくのは難しいでしょう。
子供が増えなければこれまでと同じような年金制度は維持できません。しかし経済的に余裕がなく結婚から遠ざかる人たちが増えているのが現実で、出生数は減少が続いています。
まして最近は正社員待遇とはいってもボーナスも年功賃金も福利厚生もない例が増えていることから、今後の賃金の上昇を期待できず、老後への備えが充分にできない働き方の人も多くいるはずです。キャリアのスタート時に正規雇用の仕事に就くことは、その後の人生に大きく影響する要素なのです。
自分の年収を当てはめてみよう!
新たな仕事や別の働き方を考える際に平均年収をチェックすることが多いのですが、 実は働く人の実感に近いのは「中央値」だ、ということがお分かりいただけたと思います。「中央値」は平均年収とは違い、計算の必要がなくグラフなどのデータから簡単に読み取れるので便利な指標でもあります。
転職や収入アップを考える際などに「中央値」でデータを比較することを知っておくと、実際に生活を変えた後も収入イメージとのギャップなく生活の移行が可能になります。
自分のキャリアをどう作っていくか、本記事を参考に色々なパターンの年収予測に自分の年収を当てはめてみましょう。さまざまなキャリア形成の可能性を比較検討し、最良の選択のために役立てていただければ幸いです。