虚礼廃止の意味とは?
今回は「虚礼廃止」をとりあげますが、そもそも「廃止」する「虚礼」とはどのような意味なのでしょうか。「虚」は「中身がない・空っぽ・実を伴わない」の意味ですから、「虚礼」とは「形式だけの心が伴わない儀礼」という意味です。これに「廃止」が付けば、「形式だけの心が伴わない儀礼をやめる」という意味になります。
形だけの心のない意味のない儀礼はやめる
「虚礼廃止」とは「形式だけの心が伴わない儀礼をやめること」だと理解できたところで、では具体的な「虚礼」にはどのようなものがあるのか、幾つか見てみましょう。
「虚礼廃止」といってすぐ思い浮かぶのは「バレンタインデー」の「義理チョコ」ではないでしょうか。日頃思いを打ち明けられない好きな人に、その日だけは告白しても恥ずかしくない日ということで定着した「バレンタインデー」ですが、いつの間にか職場や家庭の人間関係維持のツールになってしまいました。
では、年賀状やクリスマスカードはどうでしょうか。こちらも大多数は単なる習慣として仕方なく出しているのではないでしょうか。その意味ではこれらも「虚礼」として構わないのですが、一方では日頃あまり付き合いのない人の状態を確認する手段としての使い方がある面も否定できません。音信があれば息災(そくさい)なのだと安心するのです。
お中元やお歳暮はどう対応すればよいのでしょうか。別に欲しくもないものをあげたり、もらったりするのは実に不効率で、手間やお金がもったいないと考える人が多いのではないでしょうか。始めたらお互いにやめるのが難しい厄介な習慣で、これも「虚礼」の一種です。
他にも「虚礼」として考えられそうな習慣はありますが、続いてこのような表面的で心がこもっていない「虚礼」を「廃止」する際の通達方法や注意事項、具体的な文例などを見ていきましょう。
虚礼廃止の通達方法
国や自治体などの公的な機関では以前から「虚礼廃止」の動きがありましたが、近年では企業においてもその傾向が強くなっています。「虚礼廃止」の対応にあたっては、相手があることですから一定の注意が必要です。
なんといっても組織と組織は人と人との信頼関係で成り立っていますので、いきなり何の連絡もなく、それまで恒例だった年賀状やお歳暮・お中元が「廃止」されたら、何か意図があるのではないかと勘ぐられてしまいかねません。「虚礼廃止」の使い方と対応が重要なのです。
企業の場合
企業で「虚礼廃止」の対象なるのは基本的に取引先や顧客です。「虚礼廃止」の使い方としてはこれまでのお互いの信頼関係を損なうことがないよう細心の注意を払った対応が必要です。タイミングや手段への配慮が必要です。これまでの恒例を破るのですから、真意が伝わるようにできるだけ事前に、文章で丁寧な使い方が重要です。
自治体の場合
かつて国や自治体はいわゆる「お上」として権力をふるう存在と認識され、お歳暮やお中元などを贈るのは当然という時代がありました。現代ではこの認識は大きく変化しており、「虚礼」はほぼ完全に払拭されています。
ただ、住民の選挙で選ばれる議会議員に関しては、その性格上お付き合いとしての「儀礼」が残っている場合があります。一部自治体の議会ではこれらの「虚礼」を「廃止」するための対応に、ホームページなどでその旨を周知しているものもあります。この場合も「虚礼廃止」の使い方として、抜け駆けにならないように広く合意形成を図ることが必要です。
虚礼廃止にまつわるLINE株式会社の事例
成長企業の一つである「LINE株式会社」は2013年、接待及び贈答品の受け取り「廃止」を発表しました。理由としてあげられたのは、「パートナー企業とのオープンな関係構築」と「役員・社員のおごり・高ぶり防止」の二つでした。あくまでユーザー目線でコンテンツやサービスを提供したいという、明確な会社の方針に沿った使い方と対応でした。
虚礼廃止を伝える方法【注意点】
「虚礼廃止」はそれまでの恒例を「廃止」するのですから、相手に対する一定の配慮を持った使い方と対応が必要です。ただ通達すればそれでよいというものではないのです。「虚礼廃止」は贈る側にも贈られる側にも注意点があります。ここでは贈られる側の立場に立って、「虚礼」を「廃止」する場合の使い方と対応の注意点を見てみましょう。
品物の「受取」を断ることが前提
受け取る立場に立って「虚礼」を「廃止」したい場合には、「今回を含めて受け取らないケース」と「今回は受け取るが次回からは受け取らないケース」の対応があります。いずれにしても「受け取らない」という対応姿勢が前提です。ここで重要なのは、受け取らないのは「品物」であって、相手の気持ちや関係性ではないということです。
相手の気持ちや関係性は維持
「虚礼廃止」の通達をする場合、贈る側の立場に立って使い方を考えることが重要です。これまで恒例で受け取ってもらっていたものが急に拒否されたらどう考えるでしょうか。自分との関係性を弱めたいのではないかと勘ぐられる可能性があります。
そうではなく、気持ちはありがたく頂き、これまでの関係性も引き続き維持したいのだという意向を、くどいくらい丁寧に伝えることが大変重要です。「虚礼廃止」が難しいのは最初のハードルだけです。定着すればお互いにこれまで以上にフランクでビジネスライクな関係を築くことが可能になります。
はっきりと意思は伝える
相手に遠慮するあまり、言葉を濁して「虚礼廃止」の意志が相手に明確に伝わらないと意味がありません。なぜ「虚礼」を「廃止」したいのか、その理由を明確にしたうえで「虚礼廃止」の意志をハッキリと伝えましょう。取引先や顧客に伝える際は、「廃止」は個人的な考えに基づくものではなく、会社全体の方針であることを必ず盛り込むようにしましょう。
相手の好意を尊重し表現は柔らかく
「虚礼廃止」でやめたいのはお互いの「関係」ではなく「品物」の受け渡しなのですから、受け取りを断る場合でも、まずは相手に感謝の意を示すことを忘れてはいけません。そのうえで、丁重に断るのです。
伝える表現はできるだけ柔らかくしましょう。贈った相手の気持ちに寄り添うことが何より重要です。「虚礼廃止」という方向性が間違っていなくても、相手との関係性を壊してしまっては何の意味もありません。
虚礼廃止の使い方【文例】
「虚礼廃止」の注意点まで見ていきました。ここからは応用編です。具体的な文例を見ていきます。「虚礼廃止」の対象になる代表的な習慣の一つにお歳暮があります。お歳暮の起源は江戸時代に遡ります。長屋の大家さんや取引先に店子や商人が一年の締めくくりとして、「これからもよろしくお願いします。」の意味を込めて贈り物を持参したのが始まりです。
現代においてはお歳暮の多くは形骸化しており、これまでの恒例だからとか、昨年頂いたからとかが主な動機になっています。欲しくもないものをお互いに贈り・贈られるのは不効率だとは感じつつも、「廃止」するきっかけが掴めないのが大方ではないでしょうか。
「虚礼廃止」のために、頂いたお歳暮を返送する場合と今回は頂くが次回からは遠慮したい場合に分けて具体的な文例を見てみましょう。
文例:いただいたお歳暮を返送する
個人対個人の場合は頂いたお歳暮を返送することはまずありませんが、企業が取引先から慣例的に頂いていたお歳暮を本年から「廃止」しようとすることは一般的にあります。その際お歳暮をそのまま送り返すような非礼なことはせず、文例のような丁寧な文書を沿えます。
「この度は誠に結構な品を頂戴し、大変ありがとうございます。ご厚意はありがたく頂戴したいと存じますが、弊社では本年から取引先からの贈答品は全て辞退させて頂くこととしております。誠に失礼とは存じますが、ここに頂きました品を返送させて頂きます。大変堅苦しい対応になり恐縮ですが、ご理解の程よろしくお願い申し上げます。
文例のようにまずはお礼を述べてから、返送する理由も明確にします。全社的な方針である部分がポイントです。
文例:お歳暮はいただいたが今後ご辞退したい
次はお歳暮のような「虚礼」は「廃止」したいものの、いきなり頂いたお歳暮を返送するのは差し支えがある場合の文例です。このような場合は、今回のお歳暮は受け取るが、次回からは遠慮したい旨の文書を発信します。以下は文例です。
「この度は大変素晴らしいお歳暮の品を頂戴し誠にありがとうございます。これまでお伝えするのを失念しておりましたが、弊社では全社的な方針として、取引先からの贈答品は一切辞退させて頂くこととしております。折角ですので、今回はありがたく頂戴いたしますが、今後はこのようなお心遣いはなされないようお願い申し上げます。」
文例は企業対企業のものですが、少し表現を変えれば個人から頂いたお歳暮を次回から辞退したい場合にも応用できます。
虚礼廃止の具体例
「虚礼」として「廃止」を考える習慣にはどのようなものがあるでしょうか。人は人との関係の中で生きています。長年生きていると自ずと人との関係ネットワークは広がっていきます。企業においてもそれは同様で、徐々に取引先との関係は広く・深くなっていきます。
そのうちいつの間にか当初の思いは薄れ、「虚礼化」していく慣例も増えることになり、やめることを考える必要が生じてきます。このような「虚礼廃止」の対象となるものを幾つか見てみましょう。
年賀状
年賀状は「虚礼」でしょうか。年賀状の歴史は古く我が国では平安時代から直接年始の挨拶ができない人に対して文書で年始の挨拶が行われるようになりました。確かに年始に直接会って挨拶できる人や単なる習慣としてやりとりするだけの人への年賀状は「虚礼」の一つといえ、やめることも考える必要があります。
一方遠方の知人などで、年に一回年賀状でその人の動向を知るような場合があります。このような場合年賀状を「虚礼」と割り切るのは不適切で、そこには温かい心の通い合いがあるといえます。もちろん、日頃から連絡を取り合えばそれに越したことはありません。
お中元・お歳暮
お中元とお歳暮の違いをご存じでしょうか。ひとことでいえば、お中元は半年間の感謝と健康を祈る気持ちを形にしたもので、お歳暮は一年の締めくくりとしての感謝を伝える意味があります。したがって、お中元とお歳暮を両方贈る必要性は必ずしもなく、お歳暮だけでも失礼にはあたりません。
現代においては、お中元もお歳暮も形骸化しており、単なる面倒な作業と化しているともいえます。誰に何を贈るのか、対象が多いと考えるだけでも大変です。しかも贈った品物が必ずしも相手に喜んでもらえるかどうかの確証もありません。
このようなことから、企業においてはお中元・お歳暮を「虚礼廃止」の対象とするケースが増えつつあります。もちろん理由としては手間を省くだけでなく、経費削減という側面も否定できません。
バレンタインデー
今年もバレンタインデーが来たかとため息をつくのは女性だけはないでしょう。職場の男性への「義理チョコ」配りが中々なくなりません。もらった男性にはホワイトデーというイベントが待ち構えています。まさにバレンタインデーの「義理チョコ」配りは「虚礼」の代表的なものといえます。
職場の女性を華やかさのシンボルと捉える旧態依然とした習慣から抜け出すことが重要です。女性職員を対等なビジネスパートナーとして考える男性が増えてくることこそが、「虚礼」としての「バレンタインデー」変える特効薬ではないでしょうか。
通夜・葬儀の参列
「結婚式には招待がなければ行けないが、葬式には勝手に行ける」と言った政治家がいました。彼にとって通夜・葬儀は選挙運動の一手段なのです。通夜・葬儀は本来故人や遺族のために行われるものであって、ビジネス上の付き合いや売名行為の手段として使われるのはいかがなものでしょう。
かつては会社関係者の通夜・葬儀があれば、強制的に動員がかけられることが一般的でした。現在でもそのような慣習が残っている場合があります。このような表面だけの「虚礼」は「廃止」される方向にあります。故人や遺族にとっても、その方が望ましいといえます。
「虚礼廃止」は形だけの儀式をやめる対応をすること
表面的で心がこもっていない「虚礼」の「廃止」について、文例も含めて見てきました。礼儀を尊重する日本人にとっては、表面的なものであっても一定の儀礼はある程度残したいと考えることは自然です。ただ、あまりに負担が大きく手間やコストの面で「廃止」した方が望ましい「虚礼」も多くあることも事実です。
相手とのこれまで・今後の関係や社会的な共感などに配慮しつつ、これまで深く考えることなく習慣的に実施してきた様々な「虚礼」について、あらためてその意味を考え「廃止」することも視野において見直しを行ってみてはいかがでしょうか。