国民年金・追納とは
国民年金は20歳以上60歳未満の国民が必ず加入する年金で、日本の年金制度では「基礎年金」とも呼ばれています。この年金制度は満20歳から満60歳になるまでの国民が納める年金保険料によって支えられていますが、経済的事情や学生という事情で保険料納付の免除や猶予を受けていて、保険料の未払い期間があるという人もいるのではないでしょうか?
年金保険料の支払い期間内に保険料の未払い期間があると、その分将来受け取れる年金額が減ってしまいます。しかし、納期限通りに保険料を納めることができなくても、一定の条件を満たすことで保険料を「追納」し、保険料の未払い期間を解消することができるのです。
支払わなかった保険料を後払いする事
追納とはその字が示すが如く「追加で納付すること」、つまり経済的事情による保険料の支払い免除を受けていたり、学生で収入が少ないため納付特例制度を使って納付猶予を受けているために未払いとなっている保険料を後払いする方法です。これにより保険料の「未払い」状態が解消され、将来受け取れる基礎年金額を増やせることがメリットです。
経済的事情で保険料納付免除申請をして納付免除が認められた場合、免除を受けた期間に関しては、例え保険料の納付がなくても、国民年金の受給資格期間には参入されますが、免除の期間や種類(全額免除、半額免除等)に応じて受け取れる年金額が減額されてしまいます。
年金保険料免除期間のあった人も、後から免除期間の保険料を納めることで将来受け取れる年金額の減額を避けることができて、通常通り保険料を納めた際と同じ水準に年金額を増やせるのがこの追納制度のメリットと言えます。
国民年金・追納メリット
収入が少なかったり、学生で収入が限られていたりという理由で保険料の納付を免除を受けていたり、猶予してもらっていたりという理由で保険料を納めていない場合でも、後払いができるということそのものも被保険者にとっては嬉しい制度です。では保険料を追納することで得られるメリットは、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか?
追納をすることによって得られるメリットは、将来受け取れる年金額を増やすことができるのは勿論ですが、実はそれ以外にも、追納した保険料が社会保険料控除の対象となることで保険料の納付者の「現在」の税金が、軽減できるメリットもあるのです。
①年末調整で所得の控除を受けられる
国民年金の追納保険料は、社会保険料控除の対象となり、所得控除を受けることができます。ただし確定申告もしくは年末調整で別途手続きの必要があります。国民年金保険料を追納すると、社会保険料控除の対象となるので所得税・住民税を軽減させることができ、税金対策としても大きなメリットです。
所得税・住民税を軽減できることは、現在の自分の生活にとっても大いに助けとなるのではないでしょうか。将来の年金額を増やせるだけではなく、同時に保険料控除の制度を活用できるのは納付者にとっては嬉しいポイントです。
年末調整や確定申告の際に「生命保険料控除」があることはよく知られていますが(生命保険に加入している人は毎年保険会社から控除証明書が送られてきます)、公的年金の保険料も所得控除の対象になり、税負担の軽減に繋がるのは、納付者にとって何かと助かる制度ではないでしょうか。
②国民年金受給額が増える
保険料を追納することで得られるもう一つのメリットは、将来受け取れる老齢基礎年金の受給額が増えることが挙げられます。仮に1年分の保険料を追納する場合、いつの年度分を納めるかによりますが、およそ18~20万円が必要となります。それに対し、保険料の1年分を追納した場合には、将来受け取れる年金額を年間で約2万円増やすことができます。
確かに一時的には追納による経済的負担は小さくはないですが、追納することによる保険料の負担額と、追納によって増える毎月の年金額とを天秤にかけた場合、65歳の受給開始から約10年で受け取れる年金額の方が上回る計算となります。
2019年現在の日本人の平均寿命は男性で81.09歳、女性で87.26歳で、平均寿命通りの寿命を全うすると仮定した場合には、男女とも年金受給開始から15年から20年は年金で生活していくことになります。そう考えた時に、追納することで少しでも年金受給額を増やせるなら、増やすに越したことはないでしょう。
国民年金・追納の加算額
国民年金保険料について、定められた納付期限に間に合わなくとも、追納することが可能であることと、追納で得られるメリットについて述べてきましたが、一般的には期限に間に合わなかった支払いや納付に関しては利息がついたり、延滞損害金を別途請求されたり、支払遅延とも言えるペナルティが付くケースが殆どです。
では国民年金保険料に関しては追納した場合に追加で徴収されたりする金額はあるのでしょうか?保険料納付の際に追加で納める金額を加算額と呼びますが、ここでは保険料を追納した場合にこの加算額が追加されてしまうケースについて述べていきます。
経過期間に応じて加算額の上乗せ
追納する日が、本来の対象月の翌々年度以内(つまり免除や猶予を受けた期間の翌年から2年以内)の場合は加算額はありません。しかし本来の納付対象月の翌年から3年目以降の場合は保険料額に加え、経過期間に応じた加算額を支払わなくてはいけません。
2019年現在追納を検討しているケースで考えてみましょう。例えば本来の納付対象月が2017年、2018年に属していた場合では、この当時支払うべき保険料は16,490円で、追納を行う場合にも2019年度内であれば、本来の納付対象月の翌々年度なので追納に伴う加算額なしで保険料を納めることができます。
しかし対象月がこれ以前の場合、加算額がかかります。対象月が2016年の場合、保険料が16,260円に対して、追納時の保険料は16,280円、対象月が2015年の場合、保険料が15,590円に対して、追納時の保険料は15,620円と加算額が含まれた金額となります。
逆に国民年金保険料を前納した際のメリットは?
国民年金保険料を追納する際には納付対象月の属する年度から2年を超えてしまうと、加算額が上乗せされることを述べました。実は保険料は追納できるのもそうですが、前倒しで納付する「前納」という方法もあることはご存知でしょうか?以下、国民年金保険料の前納の方法と、前納することによるメリットをお伝えしていきます。
①年金保険料の「早割」を受ける方法とは?
国民年金保険料の納付期限は翌月末ですが、これを前倒しして当月末に口座振替で納付した場合には「早割」を受けることができます。「早割」で受けられる割引金額は1ヶ月あたり50円です。なお「早割」を受けられるのは口座振替で納付した場合のみで、現金で納付した場合は「早割」を受けることができません。
「早割」を受けるには、口座振替の申込み手続きが必要です。預貯金口座のある金融機関、又は年金事務所へ「国民年金保険料口座振替納付(変更)申立書」を提出します。また申込み時は基礎年金番号と金融機関届出印の押印が必要なので、忘れないよう注意しましょう。
②保険料のまとめ払いは更にお得
早割に比べて更に保険料がお得になる方法が、保険料を6ヶ月、1年、2年分まとめて前納する方法です。例えば2年分を口座振替で納めた場合、保険料が約1ヶ月分お得になるのです。早割とは違い、現金で納付した場合も前納による割引を受けることはできますが、口座振替での納付の方が割引額も多くなります。
前納を口座振替で行うには、「早割」の申込みと同様口座振替の申込み手続きが必要です。預貯金口座のある金融機関、又は年金事務所へ「国民年金保険料口座振替納付(変更)申立書」を提出します。また金融機関や年金事務所の窓口提出の他、郵送での受付も可能です。
またクレジットカードで納付する方法もあります(ただし、保険料の割引率は納付書での前納と同じとなります)。クレジットカード納付の申込は「国民年金保険料クレジットカード納付(変更)申出書」を提出します。この書類は日本年金機構のホームページからダウンロード可能ですし、年金事務所の窓口でも入手可能です。
③クレジットカード納付は普段の生活にも生かせる!
保険料の前納は口座振替や納付書による納付の他に、クレジットカードによる納付も選択できます。クレジットカードによる納付は前納の割引がきくことも勿論ですが、年金保険料の納付によりクレジットカードのポイントやマイルが貯まるメリットがあります。
ポイントが貯まりやすくなる他にも、自宅に居ながら納付できるため金融機関に出かける手間が省けたり、更にクレジットカードは最初にカード会社が国民年金保険料を立て替えて、それからカード会社の引き落とし日に請求されるシステムなので、実際の年金保険料の支払期日よりも延長されるというメリットもあります。
国民年金・追納可能期間
国民年金保険料の追納は可能ですが、本来の保険料納付対象月が属する年度の翌々年度以降となってしまった場合、加算額がかかってきます。そして保険料の追納には期限がなく、自分の状況やタイミングでいつでも追納を行うことができるのでしょうか?「今は毎日の生活でカツカツだから、貯金ができて余裕が出てから支払いたい」という人もいそうです。
追納承認された月から過去10年間
結論から言うと国民年金保険料の追納は、追納が承認された月から過去10年間以内の納付免除、もしくは納付猶予期間についてまでとなっています。例えば学生時代に納付猶予となっていた分の保険料を40歳を超えてから支払いたいと考えても、追納することはできません。
また、保険料の追納は年金保険料の納付免除もしくは納付猶予の承認を受けた期間のうち、原則として古い期間の保険料から支払を行います。例えば2016年7月~2018年3月分の未払い期間がある際、2016年7月分の保険料から順に支払を行います。
また「追納のメリット」の項でも述べましたが、国民年金は社会保険料に該当するため、追納分についても支払った額に応じた社会保険料の控除の対象となるので所得控除を受けることができ、所得税や住民税が軽減されます。会社員等で給与から税金が源泉徴収されている場合は、翌年の確定申告で過払い分の還付を受けることができます。
国民年金・追納方法
納付免除や納付猶予を受けていた分の保険料を追納することのメリットをここまで述べてきましたが、ではいざ追納を行おうと考えた際に、具体的にどのような手続きを行えば良いのでしょうか?ただでさえ年金や税金関係の手続きは煩雑なことが多く、素人には理解しづらいものが多いので尻込みしたくなる気持ちはあります。
しかし保険料の追納を行うと行わないとでは、今まで述べてきたように将来受け取れる年金額にも差が生じてきたり、社会保険料控除によって払い過ぎた税金が還付されたりとメリットも大きいので、手続き上のポイントをしっかり押さえて追納を行いましょう。
①市役所の年金コーナー
いざ「追納手続きに行こう!」の前に、まずは自分の住んでいる市町村の役所に問い合わせるか、もしくはホームページにアクセスし、役所の年金課で追納手続きの取り扱いをしているかどうかを確認します。年金に関する手続きは市町村の役所で取り扱いのあるものと、年金事務所の管轄とに分かれているケースもあるので、事前に確認する方がスムーズです。
市町村の役所でも年金事務所でも手続きの際には年金手帳とマイナンバーカード又は通知カード(通知カードの場合は、顔写真付きの身分証明書)が必要になりますので、持参するのを忘れないようにしましょう。
②年金事務所に電話
居住している市町村の役所で窓口を用意しているところもありますが、最も確実な方法は年金事務所に直接電話をして問い合わせることです。具体的な手続き方法について説明してくれます。その後直接年金事務所に出向いて手続きを行います。本人による手続きの他、委任状が必要となりますが代理人による手続きも可能です。
追納手続きの具体的な内容ですが、追納の際は国民年金保険料追納申込書の提出が必要となります。(この用紙は最寄りの年金事務所に用意してあります。)追納申込書の他に必要なものは年金手帳で、代理人手続きの場合にはこれに加えて認印と委任状が必要となります。
手続き後、日本年金機構より追納用納付書が郵送されるので、銀行や郵便局等の金融機関窓口や、コンビニエンスストアから納付を行います。追納用納付書は一括払い、又は月別払い発行の指定ができます。なおクレジットカードによる追納はできないので注意が必要です。
国民年金の追納は余裕のある時に支払いをしよう
今まで国民年金の追納について述べてきました。今現在のことだけを考えた時は、保険料納付に伴う経済的負担が大変という現実はありますが、人生100年という言葉が出現し始めた現代では、将来の「長生きリスク」に備える必要が出ています。その対策として一生涯受け取れる公的年金の将来の支給額を少しでも増やすことは大きなリスクヘッジとなります。
また保険料の追納で将来の年金額を増やせて、社会保険料控除で所得税や住民税を軽減させることができるので、今の自分の生活にとってもメリットは大きいと言えます。
保険料を追納できる期間は10年と限りがあり、本来の納付月から2年を超えてしまうと加算額もかかってしまいます。追納できる期間と自分の経済状況とを勘案しながら、できる時に追納を進めていくのが賢い選択です。保険料の追納で年金額を増やして、来たる超高齢化社会に備えましょう。