「余韻」の意味とは
「余韻(よいん)」の言葉は古く万葉集の時代から使われています。本来「余韻(よいん)」もともと、音の消えたあとまで残る響きのことです。「余音(よいん)」とも書きます。ここから「余韻」は事が過ぎたあとも残る「風情」や「味わい」のことを表すようになりました。
また文学作品で詩や文章にも使われて、言葉に表されていない「趣き」「余情」についても言われます。「感動の余韻にひたる」「余韻を残す」「かすかな余韻」などのような使い方をします。
「余韻」と「名残」の違い
では「余韻」と「名残」にはどのような違いがあるのでしょうか?「名残」は、別れること、別れとなること、ものごとの終わりの後に残る影響のことですが、違いや使い方が知りたいところです。
「余韻」と「名残」の違いは、物事の過ぎ去ったあと同様に気配や影響が残ることです。その違いは「余韻」が、風情や味わいが残り「味わう」という使われ方ですが、「名残」は「名残りを惜しむ」という使われ方をすることです。
2017年にノーベル文学賞を受賞した日系イギリス人作家Kazuo Ishiguro(石黒一雄)に「日の名残り」の小説があります。失われつつある伝統に思いをはせる執事が主人公で、回想と現在が入り混じった物語です。お互いに思いを寄せながらかなわない恋も「名残」としてそれぞれの心に影響を残します。
「名残(なごり)」は、「余波」と同じで風が静まった後もなおしばらく波の立っていることです。またその波のことで、波が退いた後に波打ち際に残る波や残された海藻などについても使われます。転じて「名残」は物事の過ぎ去った後、その気配や影響が残ることで「余韻」と同じ意味で使われます。
「昔の名残をとどめる」の例があります。「名残」は特に人との別れを惜しむ気持ちを言い「名残が尽きない」のような使い方です。「余韻」と「名残」の違いや使い方については「余韻」は事の後に残る風情や味わい、「名残」はことが過ぎ去っ後に気配や影響が残っていることと覚えておきましょう。
「余韻」の使い方・例文
では「余韻」はどのように使われているのか、またどのような使い方が良いのでしょうか?以下例文を3つあげてみました。「余韻」は「名残」の後に使われることもあり、「余韻」とセットにした使い方で自然な意味の流れが作れ、物事が過ぎた後の感動を表現できます。
例文①
「余韻」の例文➀の作り方に「余韻を楽しむ」「余韻に浸る」があります。「勝利の余韻に浸る」「演奏の余韻に浸って動けない」などもあります。以下は例文です。
【プリズン・ブレイク」の連続ドラマを最初から最後まで一気に観ました。展開がスリリングで、次はどうなるのかハラハラしながら観た分、終わってしまうと名残惜しく、映画のさまざまなシーンを思い起こしながら主人公マイケルが残した感動的な結末の「余韻」にしばらく浸ってしまいました。】
例文②
「余韻」の例文➁の作り方に「余韻が残る」があります。これは、終わった後も思い出して反芻(はんすう)して余韻を楽しむことです。
演奏会が終わった後、余韻が残ったまま食事に行くなどと使われます。余韻に浸れる興奮がしばらく継続している、興奮が覚めきらない状態で使われます。以下例文です。
【好きなジャズピアニストのライブに行き、演奏が終わった後スタンディング・オべーションで立ち上がって拍手しました。演奏が素晴らしかったので、ステージからピアニストが去ってからも、「余韻が残り」しばらく席に座っていました。】
例文③
「余韻」の例文➂の作り方に「余韻のある」があり、感慨深い・心にしみ入るの意味で使われています。「余韻を持たせる」にも同じ意味合いがあります。
「にじませる」「行間に込める」「含みをもたせる」「思いを込める」「暗に示す・知らせる」「ほのめかす」など多様な含みがあります。以下例文です。
【宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」は、文章の行間と行間の間に「余韻のある」間があり、想像力を働かせて、その文章の表す場面を思い描かせてくれます。】
「余韻」の類語
「余韻」の類語にはどのような言葉があるでしょうか?余韻の類語・関連語には、「残響」「名残」「余波」「風情」「滋味」などあげられます。「余韻」は音の残響であったり、文芸作品の読後が芸術作品の観賞後に使われる表現です。ここでは良く使われる意味の「余韻」の類語を見てみましょう。
風情
「余韻」の類語に「風情(ふぜい)」があります。「風情」は、日本の美意識の一つです。日本の四季が織りなす儚(はかな)いもの、質素なもの、空虚なものの中に美しさや趣きを見つけて心で感じることでもあります。
「風情」のある浮世絵がヨーロッパでは「ジャポニズム」として日本人の美意識が認知されています。「余韻」の類語に、この「風情」があるのは、日本人の美意識と関連しているからです。また「風情」の英語表現は、「taste」「elegance」です。
趣
「余韻」の類語に「趣」があります。「趣」とは、そのものが感じさせる風情やしみじみとした味わいのことです。「冬枯れの景色も趣がある」などの例が見られます。また、全体から感じられるようすやありさまについて言われ、「異国的な趣のある街」などの例があります。
「余韻」の類語に「趣」があげられるのは、「風情」や「味わい」の意味合いに共通した美意識からきているからです。「趣」の英語表現には、「風情」の英語表現と同じ「taste」「meaning」などがあります。
わびさび
「余韻」の類語に「わびさび」があげられます。「わびさび」とは「詫び・寂び」のことで、日本の美意識の一つです。一般的に陰性、質素で静かなものをベースにしています。本来は詫(わび)と寂(さび)は別の意味ですが、現代ではひとまとめの言葉として表されます。
人の世の儚(はかな)さ、無常であることに美を感じる美意識でです。「悟り」の概念に近く、日本文化の中心思想であるとも言われています。「わびさび」の英語表現は、「Wabisabi」で日本人の美意識として世界に認知され紹介者は陶芸家のバーナード・リーチです。
味わい
「余韻」の類語に「味わい」があります。英語表現にした場合、この意味合いが一番英語の言葉にしやすいようです。例えば「aftertaste(後味)」などです。「味わい」は文字通り、美味しいものを食べた後、舌に残る味わいであったり、事が過ぎた後、人の五感に心地良く残る後味です。
「余韻」の英語表現
「余韻」の英語表現を見てみましょう。ちなみに「名残」の英語表現は、「remains」「memory」があります。カズオ・イシグロの「日の名残り」の原題は「The Remains of the Day」です。「余韻」は日本人の美意識がベースの言葉で、英語圏の文化との違いから英語表現とは微妙な違いが出ます。
Reverberation
「余韻」の英語表現としては、「Reverbration」があります。「Reverbration」反響、残響という意味です。また「勝利の余韻に浸っている」は、「be basking in the afterglow of winning」と表せますが、「余韻」は日本人の美意識がベースになった独得の言葉です。
日本画の美しさは空間と余白の美しさなのですが、この「余白」に近いイメージが「余韻」にはあります。そのため「余韻」の英語表現とは微妙な違いがあり、「余韻」について、英語圏の人と話す時は、日本の文化についても話せると、楽しい展開になります。
英語圏の人にとって「余韻」は、興味深い日本語ですが、英語に訳すには難しい言葉だと言われます。「余韻」は「aftertaste(あと味)」に近く、「afterimage(残像)」も使われるとの事です。
例文に「The audience was immersed in an aftertaste of the concert.(観客はコンサートの余韻に浸っていた)」があります。「If there's a nice concert maybe you will feel good even after it's over.(素晴らしいコンサートなら、演奏が終わった後も余韻が残るでしょう)」という意味になります。
「余韻」の意味を覚えて正しく使おう!
「余韻」は美しい日本語の一つです。日本人の感性の「機微(きび)」を表現できる言葉で、「余韻」の意味を分かって正しく使えれば、あなたの人となりも美しく見えます。「余韻の残る」文章やシーンに触れれば、あなたの心磨きにもなります。「余韻」を楽しむ出会いをたくさん作って下さい。