大学院の学費【国立】
大学院は学部で学んだことに加えて更に専門性を高めながら研究を深める場所です。従って、良い環境で納得のいく研究を進めていくためには、納めなければならない学費も必然的に高くなるのではないかと思う人もいるかもしれません。まずは国立の大学院の学費がどのくらいかかるのかを見ていきましょう。
①国立大学院は基本的に学費が低い
大学の学部もそうですが、国立の場合、大学院の学費は国によって「基準額」というものが定められています。各大学院はこの基準に沿って学費を定めているため、この金額を無視して勝手に学費を吊り上げたりすることはできないのです。(「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」というものが文部科学省から出ています。)
純粋にこの「基準額」に従った場合、入学金は282,000円、授業料は535,800円、入学検定料は30,000円となります。入学検定料を含めた初年度納入金は847,800円となります。これは入学検定料を除き、国立大学の学部の学費水準と全く同じです。
②法学大学院の学費は少し高め
国立の大学院でも法科大学院については少し事情が変わってきます。法科大学院は先に述べた、国による「基準額」の数字も他学部の大学院とは異なるからです。法科大学院の「基準額」は入学金が282,000円、授業料が804,000円、入学検定料が30,000円で、初年度納入金は1,116,000円となります。他学部の大学院と比較すると300,000円程高くなります。
国立法科大学院の学費比較
法科大学院に関しては、国による「基準額」の数字も他学部に比べて高めに設定される点を前項で説明してきました。基本的に学校による学費の差はあまりない国立の大学院ですが、中には条件を満たすと入学金が安くなったり、また入学金が全額免除となる法科大学院もあるのです。その内容を具体的に見ていきます。
①首都大学東京法科大学院
入学金は東京都民は141,000円、その他の地域の住民は282,000円で、東京都民にとって入学金の負担が少ない制度です。授業料は年額で663,000円です。他の法科大学院だと国立でも80万円程かかりますので、授業料自体も平均と比較するとリーズナブルですし、特に東京都の住民にとって経済的負担の少ない選択肢のひとつであることは間違いないでしょう。
また私立の法科大学院同様に奨学金制度も用意されています。成績が極めて優秀な学生を対象に年額165,000円が給付(=返還義務はなし)される首都大学東京大学院支援奨学金があり、2017年度には14名に支給実績があるようです。
②大阪市立大学法科大学院
2016年度まで入学金は大阪市の市民は222,000円、その他の地域の出身者は342,000円で、授業料は年額で804,000円でした。これだけでも特に大阪市民にとっては、法科大学院の中ではリーズナブルな部類に入るのは明白です。
しかし、大阪市立大学法科大学院は思い切った改革をしました。2017年度より入学者全員(大阪市民、その他の地域の出身者の両方を含む)の入学金をなんと全額免除にした上で、授業料についても535,800円に引き下げたのです。これは大阪市立大学の他学部の大学院の授業料と同額の水準です。
この思い切った改革の背景は、司法制度改革です。司法試験の受験資格を得るには原則として法科大学院修了者に限定されることとなりましたが、これが法曹界を目指す学生に多大な経済的負担を強いることとなりました。多くの法科大学院で学部や他の大学院に比べて多額の学費を求めてきたためです。
この制度の下では法曹になるのには絶対条件である司法試験受験資格を獲得するのに多大な経済的負担を強いるので、経済的な理由で進学を断念せざるを得ない学生が少なくなく、法曹界としても大きな損失と言えます。
そのため大阪市立大学法科大学院は公立大学のロースクールとしての原点に立ち戻り、入学金の全額免除と学費の減免に踏み切ったのです。また特待生制度も設けており、成績上位優秀者を対象として授業料の全額もしくは半額を免除しています。
大学院の学費【私立】
ここからは私立大学の大学院の学費について見ていきます。一般的に私立は国立や公立の大学院と比較すると平均的な学費が高額というイメージがありますが、実際のところはどうなのでしょうか?その実情を関西の名門私立大学である「同志社大学」の実例を挙げながら探っていきます。
①分野で学費が大きく異なる
私立大学の大学院の学費は国立大学の大学院とは異なり、学費の「標準額」の定めがないので、それぞれの大学院によって学費は変わってきます。しかし、私立の場合は研究の分野によって大きく変わってきます。一般的には文系の大学院よりも、研究や実験等で費用がかかる理系の大学院の方が学費が高くなる傾向があります。
例えば同じ大学の大学院でも文学研究科や商学研究科といった文系の場合、学費は平均で70万円から90万円前後、理工学研究科のような理系の場合は平均で120万円から140万円程度かかります。理系の方が1.5倍~2倍の学費がかかることが多いようです。
また私立の大学院の場合は学費(=授業料)に加えて施設設備費もかかってきます。私立の大学院への進学を検討している場合には、この点も資金計画に含めておく必要があります。
②同志社大学大学院の学費例
ここで具体例として関西の名門私立大学である同志社大学大学院の学費を取り上げてみます。入学金は200,000円でこれは全ての研究科で同じ金額ですが、授業料は文学研究科、社会学研究科、経済学研究科、商学研究科といった文系の研究科では年間598,000円、これに教育充実費(=施設設備費とほぼ同じ意味と考えられます)の109,000円がかかってきます。
一方、理工学研究科、生命医化学研究科といった理系の研究科では授業料は年間815,000円と文系の研究科と同様に教育充実費の109,000円、更に実験実習料として年間112,000円がかかってきます。
入学金、授業料など全てを足した場合の学費は文系で907,000円、理系で1,236,000円となり、文系と理系とでは年間で平均300,000円程の差額があることになります。やはり理系の方が学費がかかってくるのが読み取れます。
私立法科大学院の学費
ここまでに法科大学院は国立も含め、全般的に学費が高額となる旨を述べてきました。しかも就業年限も他学部の大学院の修士課程が2年が標準であるのに対し、法学未修者の場合3年かかり、余計に学費が嵩みます。では私立の法科大学院の学費はどのくらいの水準にあるのでしょうか?
①全体的に高額になる
私立大学の法科大学院の学費は各大学により幅はありますが、入学金が平均で10万円から30万円、授業料が半期で50万円から150万円と他学部と比較すると非常に高額な水準です。また法科大学院の修業年限は3年が一般的ということもあり、3年間トータルでかかる学費という観点で考えると、およそ160万円から480万円かかる計算となります。
ちなみに入学金はその大学の学部卒業生に関しては、半額に減免、もしくは免除という措置を取っている大学もあります。このことを勘案しても法科大学院にかかる学費は高額な水準にあることは間違いないようです。
②奨励金・学費免除制度のある学校も
法科大学院は学習環境を整え、少人数教育を充実させるべく教員・スタッフを多く抱えているため、前項で述べた通り他学部の大学院に加えて学費が高額です。この高額な学費の負担を軽減して経済的事情を抱えている学生にも門戸を開くべく、法科大学院独自の奨学金制度もしくは学費減免制度を揃えている法科大学院が多くなっています。
独自の奨学金制度には給付型と貸与型があり、また成績上位者を対象とした授業料の全額免除制度や半額免除制度などがあります。それに加え、奨学金制度対象者の選抜と連動させた入試を実施している法科大学院もあります。
各法科大学院が採用している、学費の負担を軽減させることのできる制度について事前にリサーチを行い、上手に活用していくことが賢い選択と言えます。
大学院の学部の平均学費を比較
大学院の学費は総じて国立・公立の大学院の方が私立の大学院より安く、また国公立でも私立でも法科大学院は他の学部と比較すると学費が高額になる傾向があることを述べてきました。以下では「国立・私立」「理系・文系」という観点から平均的な学費がどのくらいとなるのかを説明していきます。
①国立・理系
国立の大学院の学費は国によって「基準額」が定められており、この基準に沿って学費を納入することになります。従って、医学部、工学部、薬学部、理学部などの専攻によって学費が変わることはなく、全ての大学院の学費が同じ金額です。入学金が282,000円、授業料が535,800円(年額)、受験料が30,000円です。これは国立大学の学部と同じ金額です。
②国立・文系
国立の大学院の理系と同様、国による「基準額」があり、2019年現在は標準額で設定されているケースが殆どです。従って文学部・経済学部・商学部等の専攻の違いには関係なく同じ金額です。入学金が282,000円、授業料が535,800円(年額)、受験料が30,000円です。よって理系文系問わず国立の場合は大学・学部間での学費の差はそれほどないと言えます。
③私立・理系
学費を設定するにあたり国による「基準額」が関わってくる国立の大学院に対し、私立はこの基準による影響を受けないのに加えて、国立では徴収されることの少ない教育充実費、更に理系の場合には実験実習料もかかるケースが多いです。
ここでは数ある私立大学の中でも特に人気の高い、「早稲田大学」の大学院を例にとることにします。理系の大学院の中でも「先進理工学研究科」の学費を調べてみたところ、入学金が200,000円(ただし早稲田大学の学部卒業者は免除)、授業料が1,071,000円(年額)、実験演習料が90,000円、入学検定料が30,000円です。
入学検定料や実験演習料も含めると、初年度納入金が1,391,000円となります。国立と比較するとやはり理系では高額となる場合が多いようです。
④私立・文系
私立文系の大学院の学費も「早稲田大学」の大学院を例にとり、その中でも「文学研究科」の学費を調べてみたところ、入学金が200,000円、授業料が624,000円(年額)、入学検定料が30,000円です。初年度納入金は854,000円となります。国立の文系大学院の初年度納入金が847,800円と比較してもそれほど変わらない水準です。
ただし、国立の大学院が理系文系問わず、国の「基準額」に沿って学費が決まるのに対し、私立の大学院の場合は(理系も文系も)学校により学費の決められ方はまちまちです。私立の大学院進学を検討している人は、希望する大学院の学費を調べておくことが必要です。
博士課程へ進学した場合の学費
ここまで述べてきた大学院の学費については主に「修士課程」の学費について想定しています。大学院の修士課程を修了した際、主に民間企業に就職したりあるいは公務員になる、もしくは更に研究を深めるべく「博士課程」に進む等の様々な選択肢があります。では「博士課程」に進学した場合の学費はどのくらいかかるのでしょうか?
①国立の大学院博士課程の学費
博士課程では更に高度な研究に取り組みますが、国立の大学院の学費はあくまで「基準額」で決まるため、修士課程の学費と変わりません。ただし博士課程は一般的には修了に最短で3年かかり、それ以上かけて修了する人も多いので(休学期間を除いて最長で5年まで在籍が認められています)、結果的に修士課程より学費が嵩むケースが多いと言えそうです。
②私立の大学院博士課程の学費
私立の大学院博士課程の場合、修士課程と同様に個々の学校や専攻する分野によって学費も変わってきます。修士課程と博士課程では年間の授業料に関して同じケースもあれば異なるケースもあります。
更に他大学から博士課程に入学する場合には、授業料に加えて入学金が200,000円から300,000円程度必要となります。(その大学の卒業生の場合は入学金が半額、もしくは免除となるケースがあります。)加えて修士課程と同様、施設設備費や実験実習費もかかってきます。
いずれにせよ纏まった金額のお金が必要となりますので、大学院進学を考えている場合は学部の学生のうちに計画的にお金を貯めておくことが必要です。
③学費・生活費を賄える給付型奨学金
博士課程は特殊なケースを除くと修了に最低でも3年はかかるので、当然それだけ学費も嵩みます。また研究で多忙を極める生活となるので、生活のためにアルバイトに時間を費やすのは困難な場合が多いです。
そこで検討したいのが「給付型奨学金」の活用です。奨学金というと昨今、奨学金の返済に行き詰まる人が増えていることもあり、「貸与型」の方を思い浮かべる人が多いと思いますが、「給付型奨学金」であれば、所定の成績を収めて修了すれば、返済の義務はありません。ただし、当然給付型奨学金採用のハードルは高く、採用条件も厳しいです。
給付型奨学金は大学院で独自の給付型奨学金制度を備えていたり、都道府県の奨学金制度や、民間企業、財団法人等で奨学金プログラムを提供していることもあります。こうした団体の募集情報をチェックし、研究計画や経済状況を鑑みて検討するのが賢い選択です。
大学院の国立と私立の平均学費は大きく変わらない
ここまで大学院の学費を国立・私立の別に、理系・文系の場合と、法科大学院の場合とに分けて、平均的な金額を説明しました。法科大学院は全体的に他の学部と比較して学費が高額、また理系で私立の大学院も平均すると学費が高額となるケースが多いです。
しかし、大学院で成績優秀者となることで学費の減免もしくは免除を受けたり、自治体や財団法人といった団体が提供する奨学金に採用されて経済的負担を減らすことができれば、必ずしも全て自分で学費を工面する必要がなく、私立の大学院や法科大学院に進学した場合にも結果的に経済的負担は国立の大学院に進学した場合とあまり変わらないこともあります。
大学院進学は経済的負担が大きいですが、成績優秀者となり学費の免除を受けたり、給付型奨学金に採用されることで、負担を減らすという選択肢もあります。経済的理由で諦めてしまう前に、気になる大学院や奨学金に関する情報は自分で調べてみることをお勧めします。