クロノグラフとは
「クロノグラフ」とは「時間を記録する機能を持つ装置」全ての種類を指す言葉です。これには「ストップウォッチ」も含まれます。もともと「ストップウォッチ」とは機械式時計から派生した「経過時間のみを記録する装置」です。この機能を腕時計に組み込んだのが、「クロノグラフ」、つまり「ストップウォッチ機能」付きの機械式時計です。
現在、機械式の「ストップウォッチ」はあまり流通していません。なので「クロノグラフ」と言えば、ほぼ「ストップウォッチ機能」付きの腕時計を指す言葉となっています。
ストップウォッチ機能
皆さんも「ストップウォッチ」を使ったことがあるでしょう。「ストップウォッチ」の基本的な使い方とは、「スタート」「ストップ」「リセット」の3つです。現在はデジタル式の「ストップウォッチ」が人気なので、機械式の「ストップウォッチ」はあまり見かけなくなりました。デジタル式の方が、安価で、機能の種類も多いのがその人気の理由です。
機械式の「ストップウォッチ」では、「スプリット(ある地点までの経過時間)」や「ラップ(周回事の経過時間)」を計測することはできませんが、デジタル式では簡単に測定することができます。最近では、100円ショップでもデジタル式の「ストップウォッチ」を見かけるようになり、種類も多数あります。
機械式の「ストップウォッチ」は、精密にできており、落としたり、操作を間違えると直ぐに故障してしまいました。その分、電池は必要なく、精密に測定ができ、耐用性もありました。そしてそれは、そのまま「クロノグラフ」にも当てはまることなのです。
クロノグラフ・由来と歴史とは
この「クロノグラフ(Chronograph)」という言葉は、ギリシャ語の「クロノス(Chronos)」と「グラフォス(graphos)」を合わせた造語です。「クロノス」とは、時間、時間の神のことです。「グラフォス」とは、記録、記す、という意味になります。似たような言葉に「クロノメーター(Chronometer)」があります。
「クロノメーター(Chronometer)」も同じく造語です。ギリシャ語で「メーター(meter)」とは、計測する、計るという意味になります。つまり、「クロノグラフ」とは、「正確に時を記録するための時計」。「クロノメーター」とは「正確に時を刻み続けるための時計」という意味です。
以前は、「時を正確に記録する時計(クロノグラフ)」と「時を正確に刻む時計(クロノメーター)」は別々に存在していました。現在では、「クロノメーター」は、「スイス時計製造業者組合連合会(FH)」が設置した「スイス公認クロノメーター検定協会(COSC)」が定めた「クロノグラフ」の規格になっています。
この「クロノメーター」は非常に厳密な規格のため、認定を取るにはメーカー側の努力が必要になります。その分、認定が得られるとその製品にとっては大きな付加価値となり、人気が出ます。その一方で「クロノグラフ」は、「ストップウォッチ付き腕時計」を指す言葉として定着しました。
インク滴が経過時間を記す
「クロノグラフ」の原型となった時計は、伝説の時計職人「ブレゲ」らによって1800年代に発明されました。回転する文字盤上に、インクの滴を垂らすことで「経過時間を記す」機能がありました。「クロノグラフ」の「グラフ」は、インク滴で経過時間を「記した」ことに由来しています。
クロノグラフ・代表モデルとは
1915年にスイスの「BREITLING(ブライトリング)」が、初めて腕時計に「クロノグラフ」機能を搭載したモデルを販売しました。「CHRONOMAT(クロノマット)」と呼ばれている「ブライトリング」を代表するシリーズの原型となるモデルです。当時は「飛行士のための計器」という位置づけでした。
当時はまだ、「懐中時計」と「腕時計」のシェアが半々程度の時代でした。しかし、「飛行士」は操縦桿を握るので、「腕時計」である必要がありました。この初代「クロノグラフ」は、販売開始と同時に「飛行士」に大人気となりました。
初期のモデルは操作ボタンが1つ
この初代「クロノグラフ」には、「操作ボタン」が1つしかありませんでした。それでも、「操作ボタン」が「リューズ」と切り離されたのは画期的なことでした。使い方は、「操作ボタン」で「スタート」「ストップ」「リセット」を行っていました。その後継続的な改良で、「クロノグラフ」は飛躍的な進化を遂げます。
その後、1923年に「操作ボタン」と「リューズ」を使い分けることで「リセット操作」を「スタート」「ストップ」と切り離すことに成功しました。1934年には「操作ボタン」が2個になり、「リセット専用ボタン」となりました。この機能は、現在販売されている「クロノグラフ」とほとんど変わりません。
現在の形の「クロノグラフ」が誕生してから約80年。多くの種類の時計が多くのメーカーから販売されてきましたが、この「スタート」「ストップ」「リセット」の機能と使い方は、どのメーカーのどのモデルの「クロノグラフ」においてもほぼ変わりません。
クロノグラフ・基本的な使い方とは
複雑に見える「クロノグラフ」ですが、使い方はシンプルです。経過時間の計測方法は、「スタート」「ストップ」「リセット」の3段階に分けて後述します。ただし、機械式の時計は精密に作られているので、間違った使い方をすると壊れてしまい、修理に多額の費用と時間がかかることになります。ここに書いてある使い方を守って大切に使用してください。
まずは「ボタンの位置」を確認します。標準的な「クロノグラフ」には、2時と4時の位置に「プッシュボタン」があります。そして3時の位置には「リューズ」があります。それでは「経過時間」の計測方法を説明します。
①2時位置のプッシュボタンを押す
まず、2時位置にある「プッシュボタン」を押すと、計測が「スタート」します。「プッシュボタン」が押されたことで、「クロノグラフ」機構と「ムーブメント」が連結されて、文字盤の中央に固定されていた「クロノグラフ秒針」が動き始めます。秒針が60秒を超えると、文字盤に独立して設置されている「積算計」に「経過分数」が表示されます。
標準的な「クロノグラフ」では、文字盤には「30分積算計」と「12時間積算計」の2つが設置されていますので、最大12時間までの経過時間を測定することができます。
②もう1度プッシュボタンを押すとストップ
もう1度「プッシュボタン」を押すと、計測は「ストップ」します。「プッシュボタン」が再度押されたことで、「クロノグラフ」機構と「ムーブメント」の連結が解除されて、「クロノグラフ秒針」が止まります。ただし、この「ストップ」は中断です。再度「プッシュボタン」を押せば、「ストップ」した位置から再度計測が「スタート」します。
この「スタート」「ストップ」の操作は、「リセット」ボタンによって「リセット」するまで何回でも無制限に行うことができます。
③4時位置のプッシュボタンでリセット
「クロノグラフ秒針」は、盤上に記された目盛りによって1/10秒単位まで精密に経過時間の計測をすることができます。経過時間の測定が終了したら、「リセットボタン」を押します。これによって、「30分積算計」と「12時間積算計」、「クロノグラフ秒針」が全て元の位置に戻ります。
「リセット」ボタンの使い方で注意が必要なのは、押すときには「必ずクロノグラフ秒針がストップした状態で行うこと」です。
クロノグラフ・メーターの種類とは
腕時計の周囲に取り付けられるリング状の部品を「ベゼル」と呼びます。時計が多機能化していく中で様々な種類の「ベゼル」が生まれました。「タキメーターベゼル」は後述する盤面の「タキメーター」と同じ使い方ができます。「逆回転防止ベゼル」はダイビングの際に、経過時間を一目で確認できるようにしたものです。
そして「ベゼル」と同様に、盤面にも「目盛り」が付いているたくさんの種類の「クロノグラフ」があります。見た目がカッコいいからとか、人気があるからという訳でなく、きちんとした機能があります。その代表的な機能と使い方を説明します。
①タキメーター
「タキメーター」とは、平均速度を簡単に計算できる機能です。その使い方は、走り始めと同時に「クロノグラフ」をスタートさせます。そして、1km移動した時点でストップします。そうすると、その時に「クロノグラフ針」が指している「タキメーター」の目盛りが平均速度となります。
「タキメーター」は、「オメガ・スピードマスター」「ロレックス・デイトナ」などの数多くの人気スポーツモデルに採用されている「クロノグラフ」の代表的な機能の1つです。
②テレメーター
「テレメーター」とは、光と音の速度差を利用した距離測定機能です。「テレメーター」は、「タキメーター」に付属していることがほとんどです。その使い方は、光を確認すると同時に「クロノグラフ」をスタートさせて、音が聞こえたらストップします。その時「クロノグラフ針」が指している「テレメーター」の目盛りが音源までの距離を示します。
元々は戦時中に活躍していた機能です。大砲の発砲した光を確認して「クロノグラフ」のスタートボタンを押し、発砲音が聞こえたらストップを押します。そうすれば、大砲までの距離が簡単に分かるということで人気が出ました。しかし厳密には、気温や気圧、湿度などによって補正が必要です。
「テレメーター」は、「ユンハンス・マイスターテレメーター」や「タグ・ホイヤー・カレラ・クロノグラフ・テレメーターグラスボックス」などのモデルに採用されています。
③パルスメーター
「パルスメーター」とは脈拍測定機能です。この「パルスメーター」も単独ではなく「タキメーター」に付属していることがほとんどです。その使い方は、「クロノグラフ」のスタートと同時に脈拍を測り始めて、基準回数(標準は15回)に達した所でストップを押します。メーカーによっては、基準回数は20回、30回のこともあります。
そうすると、その時に「クロノグラフ針」が指している「パルスメーター」の目盛りが、1分間の脈拍数です。かなり特殊な機能になりますが、医療関係者などでは好んで使う方もいます。本来であれば測定に1分間必要になる脈拍測定が、15秒程度で行える(標準的な脈拍数は60/分程度)からです。
「パルスメーター」は、「オメガ・スピードマスター・ムーンウォッチクロノグラフ」や「ブライトリング・モンブリラン」などのモデルに採用されています。
④デシマルメーター
「デシマルメーター」とは、60秒を100DM(デシマル)へと単位変換する機能です。DMとは、1/100分のことで、60進法である「時間」の単位を10進法へ変換する使い方をします。一般的に使用される種類の単位ではありませんが、航空関連、工場での工程管理、作業分析、研究機関などで利用されます。
現在では航空管制がしっかりとしていますが、かつては「飛行士」自身が残り燃料や、対地速度などまでを計算しながら飛行していた時代のなごりです。当時は必要不可欠な機能であったと言えます。
「デシマルメーター」は、「ブライトリング・ナビタイマー」や「ブライトリング・モンブリラン」などのモデルに採用されています。
⑤アズモメーター
「アズモメーター」とは呼吸数測定機能です。この「アズモメーター」は「パルスメーター」とほぼ同じ機能になります。その使い方は、「クロノグラフ」のスタートと同時に呼吸を測り始めて、基準回数(標準は15回)に達した所でストップを押します。その時に「クロノグラフ針」が指している「アズモメーター」の目盛りが、1分間の呼吸数です。
「アズモメーター」搭載モデルは、「パルスメーター」と合わせて、ドクターズモデルとも呼ばれます。「アズモメーター」は、「ロンジン・アズモメーター パルスメータークロノグラフ」や「パテックフィリップ・ワールドタイム」などのモデルに採用されています。
クロノグラフ・人気の時計3選
「クロノグラフ」は、そのメカニカルな見た目のカッコよさと種類の豊富さが人気とされています。なので、機能や使い方で選んでいる人は多くない言われています。しかし、「クロノグラフ」は、その複雑な機構によって維持コストが割高となっている点には注意しておく必要があります。
各メーカーの人気上位の多くは、「クロノグラフ」搭載モデルがずらっと並びます。ここでは、その中で最も人気の高い3種類をご紹介します。
3位:オメガ・スピードマスター
腕時計の代表的なブランドである「オメガ」、その数ある種類の中でも代表的なシリーズが「スピードマスター」です。NASAの有人宇宙飛行計画のすべてにおいて採用されてきた時計として、確固たる地位を築いています。1969年に人類が初めて月に降り立った時にも、その腕には「スピードマスター」がありました。その愛称は「ムーンウォッチ」です。
ブラックの文字盤に、視認しやすいホワイトのインデックスが特徴的です。正確性、耐久性、人気、どれをとっても一流の伝説的なモデルです。「シーマスター」や「コンステレーション」など、「オメガ」には他にも人気の種類の時計がありますが、飛びぬけているのは「スピードマスター」です。
2位:ロレックス・デイトナ
腕時計業界最大のビッグネームである「ロレックス」の、代表的なモデルが「デイトナ」です。そのあまりの人気により、限定モデルなどの種類によっては現在でも入手が困難なほどです。名前の由来は、アメリカ・フロリダ州の「デイトナシティ」でモータースポーツのメッカとして知られています。
この「デイトナ」ですが、正式には「コスモグラフ・デイトナ」と言います。この「Cosmo(コスモ)」「Graph(グラフ)」も造語です。「Cosmo(コスモ)」はラテン語で「宇宙」を意味します。つまり「宇宙を記録する」という意味になります。この時代は「宇宙」が最先端、未知なるもののイメージだったのです。
そしてこれが本当の理由と言われていますが、上述の「スピードマスター」とNASAでの採用を争っていた際に名前を付けたために、「コスモグラフ」になったとも言われています。そしてNASAでの採用競争に敗北した後、今度は「カーレース」に注目します。その時代に盛り上がっていたのが「デイトナシティ」でした。
「ロレックス」は、「宇宙」での競争に失敗した後で「カーレース」で巻き返しを図り、見事に成功し大人気を得ることに成功しました。
1991年から「デイトナ24時間耐久レース」のスポンサーを続け、2013年からはF1のスポンサーも務めています。宇宙向けの「コスモグラフ」とカーレース向けの「デイトナ」の2つの名前を冠しているのが、「コスモグラフ・デイトナ」なのです。
1位:ブライトリング・クロノマット
「クロノグラフ」と言えば「ブライトリング」と言われるほどの信頼と人気を確立しているブランドです。「ロレックス・デイトナ」は高価なため、宝飾品としての扱いが多いのに対して、真の時計好きは「ブライトリング」を選択すると言われます。その代表的なモデルが「クロノマット」です。
名前の由来は「Chronos(クロノス)」と「Mathematics(数学)」の造語です。「計算のための時計」とでもいう意味合いでしょうか。それにしても各社それぞれの種類の造語を投入しており、言葉も上手に使われています。
「クロノマット」のこだわりは、「視認性」「操作性」「耐久性」の3点です。これは、イタリア空軍のアクロバット飛行チーム「フィレッチェ・トリコローリ」が公式時計を公募していた際に、数多くのパイロット達の意見を集約して絞り込んだそうです。この「フィレッチェ・トリコローリ」に採用されたモデルに初めて採用されたのが「ライダータブ」です。
「視認性」、数字が大きく印字され見やすくなっています。「操作性」、パイロットがグローブをはめた状態でも容易に操作することが可能です。「耐久性」、突起があることでガラスに直接強い衝撃が加わらないので、割れたりひびが入ったりしないようになっています。この「ライダータブ」の付いているモデルには根強い人気があります。
「ラーダータブ」は「ブライトリング」独自のベゼルで、0分・15分・30分・45分が視認しやすく、触感でもわかるように突起も付けられています。この「ライダータブ」は、「クロノマット」のそして「ブライトリング」のこだわりの象徴と言えるでしょう。
クロノグラフ・2つの機能とは
「クロノグラフ」は、通常の「時計」としての機能と「ストップウォッチ」機能という2つの種類の機能を並行して動かし続ける必要があります。「ストップウォッチ」機能を使用している間も、「時計」機能では、時刻を表示し続ける必要があります。また、使用者の使い方によっては、何年間も「時計」機能のみしか使用しないこともあります。
しかし、いったんボタンを押されたら「ストップウォッチ」機能を開始して、2つの機能を同時に、しっかりと精密に機能させる必要があります。
時計・クロノグラフの一人二役
使用者がボタンを押すと、「カップリング・クラッチ」という動力伝達スイッチが入り、「恒常的に動き続ける秒針用の歯車」と「クロノグラフ用の秒針の歯車」がカップリング(連結)されます。カップリングされると、「秒針用の歯車」から動力をもらって「クロノグラフ用の秒針の歯車」が動きだします。
再度ボタンを押すと、「カップリング」が解除され、「ストップ」の状態となります。リセットボタンが押されるまで、何度でもこの「スタート」「ストップ」を繰り返すことができます。
クロノグラフ・秒針が持つ仕組みとは
「クロノグラフ用の秒針」は普段は動いていません。時計に興味のない方は、このことを知らないでしょう。この「クロノグラフ針」を通常の秒針にしようとすると、パーツの使い方がより複雑になり、動力も多用し、実用的な腕時計でなくなってしまいます。なので普段は動かずに中央でじっとしています。
普段は動かず、必要な時に「秒針用の歯車」から動力をもらい、精密に時を刻むことが「クロノグラフ用の秒針」の役割なのです。
精巧な針の動きがかっこいい
この精工な「クロノグラフ針」の動きを支えている、動作制御の要となる部品が「コラムホイール」です。「コラムホイール」の代わりに「カム」が使われる事もあります。時計は、大小様々な種類の歯車や細かなパーツが組み合わさった精密な製品です。その動作制御の要となる「コラムホイール」や「カム」は、「クロノグラフの司令塔」と呼ばれます。
精密に時刻を記録するために進化したのが「クロノグラフ」です。でも、その精工な針の動きが人気となり、独自に進化し続けています。機械内部の動きを見ることのできる「スケルトンモデル」も各社から販売されており、人気となっています。
コラムホイール式とカム式について
「クロノグラフ」には、「ストップウォッチ」機能を制御するためのシステムが2種類あります。採用している動作制御方式が「コラムホイール式」なのか「カム式」なのかです。一般的に、「コラムホイール式」は高級品、「カム式」は廉価品とされています。しかし、「価格」や「性能」、「使い方」には直接の関係はありません。
2種類どちらの方式にも、メリットとデメリットが存在します。メーカーやデザインだけでなく、制御方式に注目してみても面白いでしょう。
コラムホイール式
「コラムホイール式」は「高級クロノグラフ」の代名詞ともいえる制御方式です。多くのメーカーが自社製「ムーブメント」を製造していますが、高級モデルには「コラムホイール式」という図式が出来上がっています。「コラムホイール式」は精密な制御が可能であることが最大のメリットとなります。
「コラムホイール式」は、その名の通り、ボタンが押されると回転動作により様々な制御を行います。機構に無駄な負荷がかからないので、「ボタンを押す感触が柔らかい」「なめらかで動作が安定している」「耐久性が高い」点がメリットとなります。デメリットは、製造コストが高いことです。
構造が複雑なので大量生産に向かず、1点づつ「削りだし加工」して製造します。精密に加工することはできますが、コストは高くなります。
カム式
「カム式」は、「コラムホイール式」の機能を簡略化したものです。簡易的な構造になっているので、「プレス加工」などで大量生産することが可能です。繊細な「コラムホイール」と比較すると、少し雑な作りであると言えます。また、「カム式」はカップリングの際に内部構造を大きく動作させる必要があるため、作動に強い力が必要になります。
この作動にかかる強い力を、バネで動かすことによって様々な制御を行います。機構を動かすためには、ある程度の強さを持ったバネが必要となるので、「ボタンを押す感触が固い」という評価になります。現在では改善されていますが、1960年代頃では「コラムホイール」よりも大幅に精密性に劣る部品を使用していました。
それゆえに「誤作動が多い」「壊れやすい」という評判が定着してしまいました。現在では改良が進んで、「誤作動防止機能」も「耐久性」も大幅に向上しています。そして一番のメリットは、「安価である」ことにつきます。オーバーホールも修理も「安価」で、構造も簡単なので修理やメンテナンスで預ける期間も「コラムホイール式」よりも短くなります。
最新型の「カム式」の時刻の正確性は、「コラムホイール式」よりも高いと言われています。もはや性能面では大きな差はないと言えるでしょう。
結局どっちがいいの?
現在は、「カム式」の誤作動防止のための「ブレーキレバー」が標準的に装備されるようになり、「カム式」と「コラムホイール式」の性能面の差はほとんどありません。操作面で明らかな違いと言えるのは、「ボタンを押す感覚が柔らかいか固いかどうか」と、「価格」だけであると言えます。
「カム式」の「ボタンを押す感覚の固さ」が好きだという方も多くいます。安価だから機能が劣るということはありませんので、好みの問題です。
機械式時計を製造するメーカーが、「カム」と「コラムホイール」をどのような使い方をしているかを確認することにより、そのメーカーの姿勢を確認できます。「良いものを安価で」を目指しているのであれば「カム式」で安価のはずです。「高価でも伝統的なもの」を目指しているのであれば「コラムホイール式」が採用されているでしょう。
メーカーの姿勢や製品コンセプトを確認して、「目指しているもの」を納得してから購入するようにしましょう。
「カム式」が、安いからといって「コラムホイール式」よりも劣っている訳ではありません。大量生産が可能なので、安価で提供できるというだけです。「カム式」か「コラムホイール式」かどうかで購入を判断するというのは間違いなのです。自分が納得した、気に入った時計の購入をおすすめします。
クロノグラフ・注意点とは
何度も述べていますが、「クロノグラフ」は精密で高価な製品です。精密な製品ほど、いざという時に性能を発揮させるためには、定期的なメンテナンスを欠かすことはできません。しかし、普段から使い方に気を付けて大切にすれば50年、100年と同じ「クロノグラフ」を使用し続けることも可能になります。
また、間違った使い方や過度の操作によって故障を引き起こすと、「クロノグラフ」は高額な修理費用がかかります。ここでは、気を付けるべき「クロノグラフ」の使い方を確認します。
①ストップウォッチは必要な時のみ
機械式時計の「ストップウォッチ機能」は、時計の通常動作と同じゼンマイの動力を利用しています。よって、「ストップウォッチ機能」を多用すると、ゼンマイを巻き上げる頻度が増えるため、部品の消耗が早くなります。ですから、必要がないのに「ストップウォッチ機能」を多用する使い方はやめた方がよいでしょう。
また、ボタンを押す際の指に水分が付着していると、そこから「クロノグラフ」内部に浸水して内部の機構が錆びてしまうこともあります。不必要にボタンを押すことはやめましょう。
②ボタンは正しい順番で押す
「クロノグラフ」は精密に作られているので、間違った使い方を嫌います。故障を防ぐために、必ず「スタート」「ストップ」「リセット」の順番で押すようにしましょう。この順番を守っていれば、「クロノグラフ」が故障することはほぼありません。数度の間違った操作であれば問題ありませんが、毎回の間違った操作は確実に故障の原因となります。
③落下・磁気帯びに注意
時計は金属でできているので、磁気の影響を受けます。一般的に、60ガウス=6ミリテスラ(現在は磁界強度を表すSI単位系としてはテスラに統一されました)以上の磁気で時計に影響が出てくると言われています。では、6ミリテスラ以上の磁気を発する家庭用電化製品には、どのような種類があるのでしょう。
全て発生源から50cm以内での数値となりますが、PC(ノート)、TV(ブラウン管のみ、液晶やプラズマは基準値以下)、電子レンジ、エアコン、コタツ、ホットカーペット、電気毛布、埋め込み型ダウンライト、蛍光灯、洗濯機、冷蔵庫などが時計に影響がありと言える数値です。
時計が磁気を浴びると、誤作動を起こしたり、帯電したりして様々な種類の異常を引き起こします。これは「クロノグラフ」に限らず、クォーツでも同じです。
また、「クロノグラフ」は精密機器なので衝撃にも弱いです。落下や加速度にも注意が必要です。なので、スポーツをする際には外すようにしましょう。「クロノグラフ」を振って巻き上げる際には、強く振りすぎないようにしましょう。優しく振ってあげるだけでも、しっかりと巻き上げることができます。
停止してしまった「クロノグラフ」を起動させる際には、振るのではなく、手で巻き上げるのが時計を傷めないのでお勧めの方法です。
④定期的に点検・修理
「クロノグラフ」の内部機構は精密で複雑なので、定期的にメンテナンスをすることが必要になります。正式な頻度は、各メーカーの推奨するタイミングになりますが、だいたい3~5年となります。最も分かりやすいメンテナンスの目安となるのは、「時刻のズレ」です。「時刻のズレ」は、オイル切れによって発生する最も可能性の高い異常です。
「時刻のズレ」は故障ではありません。故障ではない「クロノグラフ」をメンテナンスする際には、「オーバーホール」という言葉が使用されます。「オーバーホール」では、部品の「分解」「洗浄」「点検」「注油」が行われます。必要に応じて、摩耗したパーツの交換も行われますが、基本的には「分解」「洗浄」「点検」「注油」という作業になります。
摩耗する部品の種類は限られていますので、「点検」の際に「交換」してもらうのがよいのですが、事前に見積もりをもらわないで依頼すると思ったよりも高額になることもあるので注意が必要です。
「修理」とは、故障個所のみを修正して元通りにする作業の事です。「オーバーホール」のように、全体を点検することは基本的に行われません。ですから、「クロノグラフ」は故障したら修理すればずっと使用し続けることが可能という訳ではありません。定期的な「オーバーホール」が必ず必要になります。
定期的に「オ-バーホール」することで、大きな故障を防ぐことができます。大きな故障が防げれば「クロノグラフ」の寿命は長くなるし、修理費用もかからず、結果的にお得になります。
クロノグラフとは様々な機能に溢れたかっこいい時計
「クロノグラフ」は、必要な機能を腕時計に搭載するところから始まりました。その後数多くの種類が生まれ、精巧な技術や様々な機能が盛り込まれたモデルが登場しました。見た目のカッコよさだけが人気な訳ではなく、「クロノグラフ」がしっかりと機能することも重要な要素です。
「ストップウォッチ」が必要なら、100円で買える時代です。お金を払ってでも買いたいと思わせる人気の理由が、「クロノグラフ」にはあるのです。
「クロノグラフ」は、種類も機能も豊富にそろっています。まずは、1本購入してみてはいかがでしょうか。きっとその人気の理由を身をもって体感できることでしょう。