戦略と戦術の違い
よくビジネスなどの現場で用いられる「戦略」と「戦術」という言葉ですが、その意味の違いなどが分かりにくく混同されやすいものでもあります。例えば会社の販売方針を検討するための会議では、戦略を話し合うのか戦術を話し合うのか、どちらの言い方であっても良いような印象を抱かれることも多いようです。
しかし、戦略と戦術は言葉が違う以上その意味も異なります。英語に直すとそれぞれstrategyとtacticsと違う英単語が対応しているように、英語においてもその意味は明確に区別されています。
実際、戦略と戦術というものは似て非なるものでその2つを混同して使ってしまうと大きな失敗につながることもしばしばあります。特にビジネスにおいては、戦略と戦術を混同した経営戦略を遂行したがために大きな損益を出してしまう企業も多いようです。
また、個人レベルにおいても、戦略と戦術の意味の違いを理解せずにその二つを混同して使ってしまうことで、自分自身の目的や目標が果たせずに「あれ、なんでこんなことをしていたんだろう」となってしまうケースは後を絶ちません。
そこでこの記事では、戦略と戦術、それぞれの単語についてその意味の違い、さらにはビジネスにおける具体例や英語での意味などを解説していきます。
戦略の意味・運用する技術や理論
「戦略」という言葉の意味は、運用する技術や理論のことです。例えばwikiだと、「特定の目的達成のために、総合的な調整を通じて力と資源を効果的に運用する技術・理論のこと」というように意味が定義されています。
つまり、戦略という言葉は何かこれといった具体的な方法やツール、ビジネスにおける手法などを示すのではなく、その裏にある考え方の部分のことを指すということになります。
そのため、次に説明する「戦術」と比べるとやや柔軟な意味合いがあり、時としてはそこまで具体的な何かを指し示すわけではないといった違いがあります。
戦術の意味・競争における戦い方
戦術は、戦略と違い具体的な戦い方、方法論の意味が強いです。Wikipediaでは「協議や経済・討論・交渉などの競争における戦い方のこと」という風に意味が定義されています。
つまり、戦術は戦略と違い柔軟な意味合いではなく何か具体的な方法論、考え方のフレームワークや使うツールのことを指し示しているのです。
付け加えて言うのであれば、戦術は戦略と違い明確に言語化できるものであって十人中十人が「これ」と明確に指し示せるような具体的なものを指すという点も注意してもらう必要があります。それらのことを踏まえながら、以下でビジネスにおける具体的な例についてお伝えしていきます。
戦略と戦術の違い・経営者の勘違い
戦略と戦術の違いというのはビジネスにおいて最も重要な概念の一つであるにもかかわらず、経営者の中にもその違いを十分に認識しないまま経営を行っているという人は多いです。特に、戦術を戦略だと思いこむケースは非常によくあります。
そうなってしまうとその企業が本来進むべき方向に進むことができず、売り上げが伸びなくて業績が悪化したり最悪の場合倒産することも多いにあります。実際、ビジネスのケーススタディにおいてもそのような間違いは良く取り上げられるものです。
ここでは、その違いについて基本的な考え方と具体例を用いたよくある間違いについて解説していきます。
戦略と戦術の違いは目的と手段
一言で言ってしまうなら、戦略は目的です。そして、戦術はそのための手段なのです。つまり、戦略というのは「その企業がどの方向に進むべきか」「何をすれば儲かってビジネス的にうまく行くのか」といった部分を説明すべきものです。
そして、戦術というのはそのために「具体的に何をすればいいのか」といった部分です。だから戦術をいくら知っていても、「何のためにするのか」といった戦略的な部分が抜けていれば戦術を使いこなすことができずうまくいきません。
ですが、多くの経営者は戦術ばかりに目が行って「その戦術を何のために使うのか」といった観点が抜けているために戦略が不在の経営をしてしまい、判断を誤ることが多いのです。
違いを具体例で解説
より分かりやすく戦略と戦術の違いを具体例を用いて説明していくと、例えば最終目的が「海外に住むこと」だとすれば戦略が「英語を話せるようになること」で戦術が「そのために英会話スクールに通うこと」となります。
つまり、まず海外移住をするにあたって「英語を話せるようになる」という具体的な目標があって、その上で「英会話スクールに通う」という行動計画が出てくるということなのです。この目標を理解せずに英会話スクールに通っても海外移住には役に立たないのです。
それにもかかわらず単に英会話スクールに通うことが目標、目的となってしまうと海外移住に必要な英会話の力もつかずにただ単に講師の人とおしゃべりをするだけになります。
このように手段と目標や目的を混同する、つまり戦略と戦術の違いが分からない状態になると本来やりたいことが達成できずに終わってしまうことが多いのですが、そのようなことは実際のビジネスのシーンにおいて非常によくある出来事でもあります。
戦略と戦術の違い・ビジネスの例
先ほどは戦略と戦術の違いを英会話の例で説明しましたが、ここではもう少しビジネスの現場に近い具体例を出していきます。一般に戦略というのはビジネスにおける企画構想のことで戦術というのはその戦略を履行するための打ち手です。
ビジネスにおける企画構想というのはラーメン屋でいうところの秘伝のたれのようなもので、それが具体的に何で出来ていてどのように作るかということは中々外部の人は知ることができません。最終形のラーメンの味から推測するしかないからです。
戦略・企画構想
ビジネスにおける戦略にあたる企画構想では、例えば「どの事業に注力していくか」「どのような顧客をターゲットにしていくか」などの目的の部分がそれにあたります。つまり、ビジネスをこれから伸ばしていく上でどの方向に進んでいけばいいかということを指し示すのが企画構想の部分です。
この企画構想の部分がしっかりしていないと、儲かりもしない方向に資金や労力を費やしてしまったりその先のアクションに一貫性が無くなって利益を生まない行動ばかりをしてしまいます。
ビジネスとして成功している企業、個人とそうでない人たちの違いはその企画構想、戦略にあたる部分が具体的なアクションの裏に担保されているかどうかが大きいのです。
戦術・戦略を履行する打ち手
そして、あくまでその企画構想に基づいて戦略を履行する打ち手であるのが戦術にあたる部分です。個々の部分だけみるとどの会社や個人もそれほど大きな違いが見えないということも多いのが特徴です。
しかし、その裏にしっかりとした企画構想、コンセプトとなる戦略が裏付けられているかがビジネスをしていく上で大きな違いになるのです。そこはラーメンで言うところの秘伝のたれに近い部分でもあるので中々簡単には知ることはできませんが、ビジネスにおいて大きな違いを生み出したいのであればその戦略を何とかして見つけ出すことも重要なのです。
戦略と戦術の違い・普段のコミュニケーション
戦略と戦術の違いはビジネスにおいてのみならず、日常のコミュニケーションにおいても重要なものでもあります。
これはなぜかというと、お互いがコミュニケーションの中で戦略と戦術の違いを明確に区別してコミュニケーションをしないとすれ違いが生じてしまう恐れがあるからです。それが原因で仲違いしてしまうというケースも多々あると考えられます。
戦略は「何のためにそれをするか」
よく、夫婦やカップル・友達同士のコミュニケーションの中で「これをやっておいて」という発言をしたにもかかわらずその目的が伝わっていなかったためにすれ違いが生じてしまうということはあります。
これは、戦略・目的にあたる「何のためにそれをやるのか」という部分を伝えていないために起こってしまうミスコミュニケーションなのです。したがって、人に何かを頼むときは単に何をするかだけでなく、何のためにそれをやるのかという戦略の部分も伝えることですれ違いを起こさずに済みます。
戦術は「具体的に何をするか」
ただ、上で挙げた例とは逆に「具体的に何をするのか」という戦術の部分が伝わっていないために細かい部分で自分が思ったのと相手が思っていることに違いが生じることがあります。
当たり前ではありますが、いくら「何のためにそれをするのか」という戦略の部分を伝えたとしても「具体的に何をするのか」という戦術の部分が伝わっていないと具体的なアクションに違いは出てきかねません。
したがって、「ここは絶対にこの方法でやってほしい」というものがある場合はきちんと細部の戦術までそれを伝えるということも忘れてはいけないことになります。
戦略の無い戦術は意味をなさない
くどいようですが、戦略に裏打ちされていない戦術ばかりをいくら知って実行しても意味を成しません。表面だけ見れば同じようなことをやっている企業でも、その戦略があるかないかが大きな違いになっていることは多いようです。
似たような業界、ビジネスの競合他社であっても、厳密にはそれぞれの企業やプレイヤーによっておかれている状況は違います。だから、先ほどの具体例で挙げた「どの事業に注力していくか」「どのような顧客をターゲットにしていくか」などの戦略も違いが出てきて当然なのです。
周りでビジネスがうまく行っている企業や個人事業主がいるという場合はその戦術を見ているだけでは意味がありません。どのような戦略がその違いの裏にあるのかを着目する必要があるのです。
戦い方を知っても戦うノウハウを知らない
「どの事業に注力していくか」「どのような顧客をターゲットにしていくか」といったノウハウは、これまでの具体例で挙げてきたような数々の戦術をまるでセンターピンのように貫いている概念でもあります。それこそがビジネスの場面において違いをもたらしてくれる戦い方のノウハウです。
したがって、戦い方を知らずに戦術に溺れてしまうということのないように戦い方の裏にあるノウハウというものは常にアンテナを張って知るようにしておくことで、自分自身のビジネスにおいても他者との違いを生み出す原動力になります。
戦略と戦術の違いの英語表現
ここまでは戦略と戦術の違いをビジネスなどの場面における具体例を使って説明してきましたが、次により戦略と戦術の違いを理解するために、英語の表現における戦略と戦術の違いについても解説していきます。
この記事の冒頭でも説明したように、戦略と戦術の英語表記はそれぞれstrategyとtacticsで英語の中であっても違いがあります。当然ではありますが、言葉が違うということはその意味も違います。
それでは、戦略と戦術のそれぞれの英語での意味やニュアンス、使われ方における違いについてより詳しくお伝えしていきます。
①戦略
戦略は英語で一般的に「strategy(ストラテジー)」というふうに表現されます。戦争や戦いにおいては「plan of attack(プランオブアタック)」や「battle plan(バトルプラン)」などという単語で表されることもあります。
「Plan(プラン)」は日本語に直すと「計画」という意味になりますが、こちらは「strategy」と違い具体的な方法論に寄った表現であるという違いはあります。
ただ、いずれにしても先ほどの戦略の具体例で説明したような「どのような方向性に向かっていくか」というニュアンスはいずれの英語表現においても含まれています。そこが戦術レベルの英語表現との違いでもあります。
➁戦術
戦術は基本的には英語で「tactics(タクティクス)」と訳されることが多いです。ただし、より長期レベルな戦術の場合は戦略の英語表現として出てきた「strategy(ストラテジー)」が使われることもあります。
英語においては日本語と一対一対応で訳そうとすると意味に違いが出てくることもあります。具体例を挙げると、例えば戦術家に対応する英単語は「tactician」「strategist」の二種類があります。このどちらかが対応するかはケースバイケースですので、状況に応じて使い分けると良いと考えられます。
戦略と戦術の違いは目的と手段
今回の記事では、戦略と戦術の違いについてその意味やビジネスにおける具体例、対応する英単語などの側面から説明してきました。そして、最も大きな違いは戦略が目的にあたる部分であるのに対して戦術がその手段にあたるものであるということです。
ビジネスに限らず、日常生活においても戦略と戦術の違いを理解せずにその二つを使用してしまうとミスコミュニケーションが生じてしまったりそれによって思うような結果が出ないことがあります。
他の人たちと何か大きな違いを生み出したいと考えているのであれば戦略と戦術の違いを理解して目的と手段を明確に区別し、どのようなアクションを何のためにやるのかということをはっきりとさせる必要があるのです。