「もらう」の敬語表現【尊敬語】
「尊敬語」とは、動作をする人を高めて敬意を表す「敬語」表現になります。「もらう」を「尊敬語」にする場合、主体は自分ではなく相手になります。相手がする行動、相手の状態、などに敬意を払う表現です。基本的には「お~になる」となります。ですから、「もらう」は「尊敬語」にすると本来は「おもらいになる」となるはずです。
ところが、「おもらいになる」という言い方はあまり使いません。「おもらい」というのは「乞食」の言い換え表現になるから、「もらう」の「受け身形」の「もらわれる」と間違いやすいからという説もありますが、言い方が複雑になり受け取りて側に伝わりにくいのが一番の理由だと考えられます。
一般的には、「お受け取りになる」「お納めになる」の2つが、「もらう」の「尊敬語」表現となります。「お受け取りになる」、「お納めになる」の具体的な使用法の違いや、ニュアンス、例文などの詳細については後述します。
相手の動作を高める
「尊敬語」は、相手の動作や状態を高めることで敬意を表す表現になります。なので、主語は必ず「相手か相手に関すること」となります。特定の言葉に言い換えが可能な「尊敬語」の表現がある場合には、その言葉が最上級の敬意を表す「敬語」となります。「もらう」にあてはまる言葉は、「尊敬語」にはなく、「謙譲語」に「賜る」があります。
なので他の言葉の例で見ると、「来る」の「尊敬語」は「来られる」、「お来しになる」ですが、言い換えでは「いらっしゃる」という表現になります。「言う」は「おっしゃる」、「読む」は「ご覧になる」が最上級の敬意を表現する「敬語」ということになります。
お受け取りになる
「もらう」の「尊敬語」としては、「お受け取りになる」が正統的な「敬語」表現です。固い表現ですが、丁寧な言葉使いなので、ビジネスでもプライベートでも使用可能です。「もらう」の「尊敬語」には、「お受け取りになる」以外には「お納めになる」があります。「お受け取りになる」が使えれば、まず困ることはありません。
しかし、「お納めになる」も併せて覚えておくことで、「もらう」の「敬語」表現が一段階上級となります。
お納めになる
「お納めになる」は「お受け取りになる」とほぼ同じ意味、同じ使い方になります。使い分ける方法としては、同じ言葉を繰り返し使うと稚拙な印象になるので、それを避けるための使用が多くなります。また、「お納めになる」の方が「お受け取りになる」より品の良い雰囲気があるとされています。そういった意味での使いまわしをすることも可能です。
「もらう」には「与えられる」という意味があります。そして、「納める」には、「受け取って自分のものにする」という意味があります。なので、「謝礼はこのままお納めください」や「必ずや勝利を手中にお納めください」といった例文で、「自分のものにする」という意味を強調する際に使用することもあります。
「もらう」の尊敬語の使い方と例文
ここからは、実際の例文で「もらう」の「敬語」表現を確認していきましょう。「敬語」の表現は、ビジネスの場において重要なものになります。客先や社内において自分がどのような「敬語」を使えばいいのか、相手がどのような立場なのかを把握し、「もらう」の「尊敬語」をしっかりと使用できるようにしておきましょう。
例文:書類をご送付したのでお受取りください
最もよく使用される「もらう」の「尊敬語」としては「お受け取りになる」があります。たとえこちらから書類を送ったとしても、「尊敬語」としての使用方法になるので、主語は相手になります。そして「送る」は「ご送付」に、「もらう」を「尊敬語」に直して文章にすると、「書類をご送付したのでお受け取りください」となります。
例文:荷物が届きましたのでお納めください
同様に「もらう」の「尊敬語」としての「お納めになる」の使用方法です。「もらう」を「尊敬語」に直して「納める」にして文章にします。通常であれば、「荷物が届いたのでおもらいください」となります。これを「おもらい」を「お納め」に変換した文章にして「荷物が届いたのでお納めください」となります。
「納める」に「ください」を付けた言葉は、「もらう」の「尊敬語」+「丁寧語」という区分になりますが、へりくだった表現になります。「お納めください」は「謙譲語」に近い意味合いとなり、ビジネスでも使い勝手がよいため、よく使用されます。
「もらう」の敬語表現【謙譲語】
「尊敬語」は、相手や相手の状態などを高めるための「敬語」表現なのに対して、「謙譲語」は自分がへりくだることで相手を高める「敬語」表現になります。ですから「謙譲語」での主語は自分になります。自分の行動によって、相手に対する「尊敬」や「敬意」を表現する場合に「謙譲語」を使用します。
「謙譲語」は自分の行為なので、尊敬度によって使用する「敬語」が異なります。「もらう」の最上級の「敬語」は、「賜る」や「拝受する」といった言葉です。その次が、「頂戴する」になり、最も一般的に使用するのが「いただく」といった言葉になります。
自分の動作をへりくだる
「へりくだる」とは、相手に敬意を表現して控えめな態度を示すことです。主に自分より年上の方に対して使用されることが多い行為です。また、立場的に上位となる取引先や上司、顧客などに対しても使用されます。一方で、自分よりも立場が下位になる相手に対しては、不自然な対応になってしまうので使用されないことがほとんどです。
立場に上下のない初対面の場合や、取引先での挨拶など、ビジネス要素のある場合には、「尊敬語」よりも「謙譲語」を使用しておくほうが間違いないでしょう。
いただく
ご存知のように「いただく」は「もらう」の「謙譲語」です。しかし、ビジネスにおいては、「頂戴する」もしくは「拝受する」といった、もう一段階へりくだった「敬語」を使用することが多くなります。その方が相手により丁寧な印象を与えることができ、しっかりとした「敬語」が使用できることのアピールにもなるからです。
通常であれば、「いただく」が最も日常的に使用される「もらう」の「謙譲語」です。なので、日常生活においては「いただく」を、ビジネスにおいては「頂戴する」と使い分けるのがよいでしょう。
「もらう」の謙譲語の使い方と例文
ここからは、実際にビジネスでよく使用される例文で「もらう」の「謙譲語」の使い方を確認していきましょう。自分がへりくだって相手を高める「謙譲語」表現は、ビジネスの場においてよく使用されます。客先や社内においても、正しい「謙譲語」を使いましょう。また、「もらう」の「謙譲語」の「いただく」をしっかりと使用できるようにしましょう。
例文:ご助言いただきありがとうございます
最もよく使用される「もらう」の「謙譲語」としての「いただく」です。上司や年長者から、ビジネス上、何かしらのアドバイスをしてもらった際に、お礼をいう場面が想像されます。「助言」には丁寧に「ご」を付け「ご助言」にして、お礼の「ありがとうございます」を文末につけます。そうすると、「ご助言いただきありがとうございます」となります。
もう一段階丁寧にして、「ご助言いただきましてありがとうございます」としてもよいでしょう。
例文:休暇をいただいてよろしいでしょうか
こちらも同様、「もらう」の「謙譲語」としての「いただく」です。ビジネスにおいて、上司に許可を得る場面が想像できます。許可をとる「もらう」を「いただく」に言い換えて、「よろしいですか」を丁寧に「よろしいでしょうか」としています。そうすると、「休暇をいただいてよろしいでしょうか」となります。
「よろしかったでしょうか」という使い方を聞いたことがあるかもしれませんが、基本的には間違いです。文章からも分かるように、「よろしかった」は過去の事柄を確認しています。ですから、現在や未来の事柄に対して使用することはできません。使用できるのは過去の事柄に関してのみです。
「もらう」の敬語表現【熟語】
「もらう」の「敬語」表現を熟語として使用する場合もあります。よく使用されるのが、「査収(さしゅう)」と「頂戴(ちょうだい)」です。この2つについては、詳細に後述します。「押し頂く」「拝領する」「賜る」「下賜される」など、それ以外に使用される熟語もありますが、全て「もらう」の「謙譲語」となります。
上司や目上の方から何かを「いただいた」際に使う言葉になります。これらの言葉を知っていて使えるだけで、「敬語」に詳しいという評価が得られるでしょう。「もらう」の熟語表現として、使えるようにしておくとよいでしょう。
「査収」は尊敬語として使う
「査収」は「もらう」の「尊敬語」として使用し、「ご査収ください」や「ご査収の程よろしくお願いします」などといった形に変化させて使います。そもそも「査収」には、「よく確認してからお受け取り下さい」といった意味があります。それを「敬語」の形にして「ご査収」となり、さらに丁寧にして「ご査収ください」となります。
例文:会議の資料をご査収いただけますか
ビジネスにおいて、最もよく使用されるケースです。上司や年長者、もしくは会議に参加予定の取引先や顧客に対して資料を送付する場面が想像されます。「査収」には丁寧に「ご」を付けて「ご査収」にして、確認の「いただけますか」を文末につけます。そうすると、「会議の資料をご査収いただけますか」となります。
さらに丁寧にする場合には、「ご査収の程よろしくお願い申し上げます」となります。これはほぼ定型文であり、メールやFAXのフッターに使用されます。意味は変わりません。
「頂戴」は謙譲語として使う
「頂戴」は「もらう」の「謙譲語」として使用します。「いただく」でも「敬語」であり、意味合いは変わりませんが、より丁寧な印象を相手に与えることができます。既に述べましたが、「謙譲」の「敬語」表現は数多くあります。相手に対して、大げさになりすぎない程度に「敬意」を表現するようにしましょう。
その際に使用できる、「もらう」の「謙譲語」は数種類準備しておくことが、スムーズに会話するコツになります。
例文:少しお時間を頂戴できませんでしょうか
こちらもビジネスにおいて、よく使用されるケースです。上司や年長者、もしくは取引先や顧客に対してアポイントを取っている場面が想像されます。「時間」には丁寧に「お」を付けて「お時間」にして、「いただく」を「頂戴」に言い換えています。そして、依頼の「お願いできませんでしょうか」を文末につけます。
そうすると、「少しお時間を頂戴できませんでしょうか」となります。実は、この「できませんでしょうか」は文法的に正しくありません。しかし、文法的に正しい「敬語」の「できますか」ではシンプル過ぎて、ぶっきらぼうで失礼な印象になってしまうため、文法的には間違いとなる「二重敬語」の「できませんでしょうか」がよく使用されます。
「二重敬語」は「おっしゃる」を「おっしゃられる」、「ご覧になる」を「ご覧になられる」などとしてしまう間違いのことです。丁寧な言葉使いのように見えますが、文法上は間違いとなります。
普段から正しい敬語が使えるようにしよう
正しい言葉遣いは、一朝一夕に身に付くものではありません。毎日の生活の中で、自然と身についていくものです。重要な打合せの前日に慌てて練習しても、ふとした拍子にボロが出てしまうでしょう。特にビジネスにおいては、何時、どんなアクシデントが起きるかわかりません。どんな状況にあっても「敬語」がしっかりと使えるようにしておけば安心です。
最近では、「ビジネス丁寧語」という言い方もあるようですが、ビジネス用の言い換え言葉があります。「ちょっと」は「少々」、「さっき」は「先ほど」、「すぐ」は「ただいま」などです。「敬語」は言葉の身だしなみとも言われます。
相手や状況、場所や連絡手段などによって表現方法も変わってきます。誤解を生まずに正しく伝わるよう、しっかりと身だしなみを整えましょう。
「もらう」の敬語表現をビジネスシーンで正しく使い分けよう!
「尊敬語」と「謙譲語」は、どちらも「敬語」表現として一般的に使用されるものです。どちらが敬意が上とか下とかいうことはありません。そのため、状況に応じて正しく「尊敬語」と「謙譲語」を使い分けることができるということが大切になります。言葉の特徴と、誰に対しての「敬意」であるのかをしっかりと理解しましょう。
一般的には「尊敬語」の方が使いやすいと言われていますが、「謙譲語」が使いやすければそれでも問題ありません。ビジネスにおいては、相手が不快に感じないことが重要なので「謙譲語」を多用します。なので、正しく使用できることができれば「謙譲語」が使用できる方が有利と言えるでしょう。
「もらう」も普段から「いただく」や「頂戴する」を使うことで、とっさの際にもスムーズに「敬語」が出てくるようになります。普段から丁寧な言葉使いをするようにしましょう。