「貴社様」の意味とは
仕事中や就職活動中の方はよく「貴社様」という言葉を使用します。この貴社様の「貴」という字には相手を敬う意味があり、相手の会社を指す時に使用します。
ではこの貴社に「様」を付けて「貴社様」と表現するのは正しい言葉なのでしょうか。貴社だけでは使い方としてビジネスの上で間違った表現なのでしょうか。
書き言葉の敬語表現の一つ
貴社様という言葉は書き言葉の敬語表現の一つです。使い方としては、相手の会社へ向けてのビジネス文書やビジネスメール、履歴書等で使います。相手を指す言葉として貴社様以外にも「貴団体」や相手の職員を指す「貴職」という言葉も存在します。又、「貴方」や「貴様」の「貴」もこれらの言葉が敬語表現だった頃の名残です。
「貴社様」と「御社」の違い
では、貴社様と同じようにビジネスの場でよく使われる「御社」と貴社様との使い方や意味の違いはどういったところにあるのでしょうか。混合して使ってしまっている人も多いかもしれませんが、実は使い方、使う場面がそれぞれ違います。間違った使い方をし、ビジネスの場で恥をかいてしまわないように気を付けましょう。
「御社」は話し言葉
御社も貴社様も相手の会社を指す敬語と言うことに変わりはありません。しかし使う場面が御社と貴社様ではそれぞれ異なります。
貴社様は書き言葉で、御社は話し言葉です。従ってそれぞれの使い方は、貴社様は履歴書等の文章で使い、御社は面接等の相手と直接面と向かった場で使用します。
面接時に「貴社様」はだめ?
では、誰もが緊張してしまう面接の場面で間違って「貴社様」と言ってしまった場合、完全にダメだと判断されてしまうのでしょうか。
先述した通り、貴社様も御社も相手の会社を敬って言う敬語になる為、絶対にダメというわけではありません。しかし、話し言葉と書き言葉を区別できていないという点ではあまり良い印象を与えず、自分だけ間違っていると悪い意味で目立ってしまいます。
又「キシャ」と表現する言葉には、貴社様の他にも記者や汽車、帰社等、複数の言葉が存在します。文章で書く場合にはそれぞれ漢字が異なる為問題ありません。しかし、言葉にしてしまうとどの意味で使用しているのか混乱する場合があります。そういった混乱を招かない為にも御社と貴社様の使い方を間違えないように気を付けることが大事です。
「貴社様」は正しい表現?
では、ビジネス文章やビジネスメール等で相手の会社を表す際にそもそも「貴社様」と「様」を付けて表現するのは言葉の使い方として正しいのでしょうか。「様」にも尊敬の意味が込められている為、貴社に「様」を付け加えることで相手のことをより敬っている表現ようにも思えてしまいます。
二重敬語となってしまう
相手のことをより敬う気持ちで「貴社」に「様」を付けて「貴社様」にしたい気持ちは分かりますが、実は二重敬語となり間違った使い方とされています。
二重敬語とはひとつの言葉に対して、敬語を二重に重ねて使うことを言います。例えば、「社長様」や「部長様」、「ご覧になられる」や「お召し上がりになられますか」といった言葉も二重敬語にあたり、使い方としては間違いです。
「貴社様」は「貴社」という言葉そのものにそもそも敬語の意味があり、その上まだ敬語の意味を持つ「様」を乗せているので、二重敬語になると言えます。目上の人だから丁寧に表現しなければと思う気持ちは分かりますが、その丁寧さが逆に仇となり、敬語を分かっていない人と見なされてしまう場合もゼロではありません。
しかし近年ではより一層の敬意を意味するとして「貴社様」を間違いとしない場合もあります。ですから必ずしも間違った表現というわけではなくなってきているのが現状です。しかし、まだそういった表現が浸透しきってはおらず、まだまだ間違いと見られることも多いので、使い方やタイミング等を見極めて「貴社様」という言葉を使うようにしましょう。
ちなみに、話し言葉である「御社」という言葉に「様」を付けた「御社様」も二重敬語です。御社の「御」という字にも貴社様の「貴」と同じく、相手を敬う尊敬の意味があります。ですから貴社様と同じく、御社様という表現にも十分に注意が必要です。相手を思って使った言葉でも結果的にはビジネスの場にふさわしくないとされてしまうこともあります。
「貴社様」正しい使い方
ここまで貴社様は書き言葉、御社は話し言葉の表現であると述べてきました。では実際、貴社様は書き言葉として具体的にどういった使い方をするのでしょうか。履歴書やビジネスメール等、「貴社様」という言葉を用いて何かを書く場面は多くあります。実際に使う具体的な場面を例文を交えながらいくつか紹介しましょう。
①履歴書
社会人になる際に一番始めに貴社様を使う機会と言えば「履歴書」です。手書きであってもパソコンでの記入であっても履歴書で使用する言葉は書き言葉です。
履歴書には志望動機を書く欄が必ず存在します。その会社に入りたいと思った動機やその会社で何をしたいか等、履歴書には相手の会社のことを絡めながら文章を書くことになるでしょう。その際に貴社様を使い文章を構成していきます。
例文は、「私が貴社様に入社したいと思った動機は〜」、「貴社様のこのプロジェクトに感銘を受けて〜」等々。このような文章は貴社様を使用して記載します。面接でも会社への志望動機を述べることが多くありますが、その際は履歴書とは違って話し言葉である御社を使いましょう。「御社に入社したいと思った動機は〜」と言った形で御社を使い表現します。
②就活中メール
次に就活中の相手会社とのメールのやり取りです。丁寧な文章を心がけることはもちろん、ここでも相手の会社を指す時は「貴社様」を使用します。
就活中は相手の会社と連絡を取ることも多くあるでしょう。会社説明会やインターンシップのお礼、会社への質問等。携帯やスマホの機能が発達した現代では、メールやLINEでのやり取りも増えてきています。
メールで会社説明会のお礼をする際の貴社様を使った例文は「本日は貴社様の会社説明会に参加させていただき、誠にありがとうございました。」内定のお礼を述べる例文は内定のお礼を述べた後、「貴社様で仕事ができること、大変嬉しく思います。」といったように「貴社様」を使用します。
③取引先へのメール
次は取引先へのメールでの貴社様の使い方です。打ち合わせの連絡等メールで連絡を取る機会は多く存在します。取引をする相手の会社には敬意を示さなければいけない為、相手の会社を表現する時は「貴社様」を使用します。例文としては「明日15:00に貴社様へお伺い致します。」といった形等です。
④仕事メール・冒頭やしめくくり
取引先との連絡も含め、ビジネスでのメールのやり取りは多く、今では電話と同じくらい常識的な仕事です。その冒頭や文の締めくくりでも「貴社様」を使用します。
メールの冒頭での使い方の例文は「真夏の候、貴社様におかれましてはますますご盛栄のこととお喜び申し上げます。」等といったように、時候の挨拶で使用します。ちなみに冒頭で出てくる時候の挨拶もビジネスで必要な知識ですので、使えるようにしましょう。
文章の終わりでの貴社様の使い方の例文は「貴社様のますますの発展を心よりお祈り申し上げます」や「貴社様のますますのご繁栄を心よりお祈り申し上げます」といったように使います。貴社様の使い方はもちろん、時候の挨拶も文末のこういった挨拶文もビジネスの基本です。仕事の中で普通に使えるようにしておきましょう。
⑤電話で使う
最後は電話での貴社様の使い方です。就活中や取引先とのやり取りは、メールでのやり取りも多いですが、やはりまだまだ電話を使う機会が多いです。
ですが、電話は面と向かってはいないものの、口で話すものです。従って、電話では書き言葉である貴社様を使うのは間違いです。電話では貴社様ではなく、話し言葉の御社を使い話すようにしましょう。
電話での御社の使い方の例文は「先日御社よりご連絡いただいた件でご連絡差し上げました」や「御社の皆様のおかげで素晴らしい商品が完成致しました」等です。メールで送る際は、御社の部分を貴社様に変えるだけです。電話とメールでこんがらがってしまいそうになりますが、貴社様と御社の使い分けは必ず覚えておきましょう。
「貴社様」の例文
前の項でも貴社様を使った例文をいくつか紹介しましたが、今までのものに加え更にあといくつか貴社様の使い方を示す例文を紹介しましょう。
紹介する例文はビジネスでよく遭遇するお礼の際の例文、そして年末年始や年度末、年度始めでの挨拶で登場する貴社様を使った例文です。
①御礼のビジネスメール
まずはビジネスメールのお礼の例文です。ビジネスの上で何か大きなプロジェクトが終了したり、一段落した際に送ります。
この時には、よりかしこまった表現を心がける為、貴社のみよりも「貴社様」と「様」を付けた表現を敢えて使う方が良いです。又、次に紹介する例文はちょっとしたお礼の際ではなく、より大事な節目でのお礼の例文として捉えてください。
例文は次の通りです。「この度のプロジェクトの完遂は、貴社様のご尽力の賜物でございます」、「貴社様の日頃のご愛顧のおかげで、弊社は当初の目標額を無事達成致しました」といった形です。お礼を述べる機会はビジネスの中で多く存在します。例文を元に自分の於かれた場面によって使い方を変えながら気持ちよくお礼を述べられるようにしましょう。
②年度・年末年始の挨拶
次に年度末や年度始め、年末年始での貴社様を使った例文です。年末年始はビジネス以外でも挨拶をしますが、ビジネス上での挨拶はどのように違うのでしょうか。
年度末や年度始め、年末年始の季節を問わず使用できる例文は「貴社様の益々のご健勝のこと何よりに存じます」といった文章です。相手のこと、相手の健康を思ったビジネスの素敵な言葉です。
その他に使える例文は次の通りです。「今年もまた、貴社様には大変お世話になりました」、「旧年は、貴社様に多大なるご支援を賜りましたこと、深く感謝申し上げます」、「来年もまた、貴社様に微力ながらお力添えできればと存じております」等です。これらの書き言葉はメールだけではなく、手紙やハガキでもそのまま使える例文です。
「貴社様」の注意点
貴社様という言葉の使い方や例文を見てきましたが、貴社に様を付けるこの「貴社様」という表現は使い方にまだまだ注意が必要です。同じビジネスの場でも使っても問題のないタイミングを理解していないとただ敬語を間違っている人と認識される可能性も大いにあります。ではどの点に注意すれば良いのか改めて振り返っておきましょう。
①過剰な敬語は失礼
先述した通り、「貴社様」という表現は二重敬語であり現在でも敬語としてあまり良くない表現として認識されがちです。
何度も使用してしまうと書き間違いかと認識されたり、馬鹿にされていると感じてしまう人もいるかもしれません。又、使うタイミングも重要です。タイミングを間違えてしまうとこの人は敬語を間違って覚えているのではと思われかねません。
ですから、普段の業務の時は「貴社」と様を抜いた表現を使用し、年末年始、年度末や年度始め、何かプロジェクトが終了した際の大きな節目にあたる時はよりかしこまった表現として「貴社様」を使用するようにしましょう。どちらも敬語とは言えど、ちょっとした心配りで良い印象にも悪い印象にも変化します。
②誤用と思われないように
何度も言いますが、「貴社様」という表現は昔は誤用とされており、今でもその風潮は消えていません。特に年配の方はその意識がまだまだ根強いです。
ですが、貴社でも貴社様でも使うタイミングはいつでも目上の方に対してです。だからこそ、まだまだ誤用と認識されているということを理解した上で、貴社様を使用する場面は限定的なものとし、相手に対し特別に高い尊敬の念があるということを示しましょう。
又、貴社様という言葉を受け取った相手が、貴社様という表現をあまり良くないと感じていると察した場合は直ちに貴社様という表現を取りやめましょう。このことに気付けるか気付けないかは人それぞれですが、使用するタイミングのことも含め少しの心配りが自分の社会人としての評価や会社の評価にも繋がりかねないのです。
敬語の種類と見分け方
貴社様や御社のように敬語には様々な表現や意味が存在します。普段友達や家族との会話の中では使う機会が少ない分、苦手意識を持っている人も多いです。しかし、社会人になる際に苦手だからと放置できないのも敬語です。貴社様という言葉の使い方、使用するタイミングを理解するとともに今一度敬語の種類等についてもおさらいしておきましょう。
そもそも敬語という表現そのものが日本特有の表現であり、海外にはあまり存在しない表現です。敬語には聞き手や話題の中の人物に敬意を表すという意味があります。敬語を使うことで相手に敬意を示すということになり、目上の人や尊敬する人との会話で必須の言葉です。その敬語には尊敬語、謙譲語、丁寧語の3つ種類があります。
尊敬語とは
まず尊敬語には、動作主を敬う気持ちを表す表現の敬語です。「いらっしゃる」や「お話くださる」、「○○様」等が尊敬語の意味を持つ敬語です。
尊敬語は、尊敬の意味を含む体言と尊敬の意味を表す接頭語や接尾語、そして尊敬の意味を含む尊敬動詞という3種類が存在します。尊敬の意味を含む体言の表現には「先生」や「あなた」等があります。
尊敬の意味を表す接頭語や接尾語は、「御○○」と言った表現や、「さん」、「様」等です。尊敬の意味を含む尊敬動詞は、「いらっしゃる」、「おっしゃる」、「召し上がる」、「くださる」等があります。先生やあなた、○○さんや様等、普段の生活でもよく出てくるような表現ばかりです。
謙譲語とは
謙譲語はへりくだった言い方で相手への敬意を表す敬語表現です。「申す」、「参る」、「拝見する」等といった目上の人へ向けた自分の動作に使う表現です。
謙譲語にも謙譲の意味を含む体言と謙譲の意味を表す接頭語や接尾語、謙譲の意味を含む動詞があります。謙譲の意味を含む体言には、「わたくし」、「家内」、「せがれ」等があります。
謙譲の意味を表す接頭語や接尾語には、「小」、「愚」、「拙」、「ども」、「め」等があり、謙譲語の意味を含む動詞には、「申す」や「いたす」、「差し上げる」、「伺う」といった言葉があります。接頭語や接尾語の言葉はあまり使い慣れない言葉ばかりかもしれませんが、申すや伺うといった言葉は使用頻度の高い言葉です。
尊敬語と謙譲語の見分け方
尊敬語と謙譲語の違いが分からずこんがらがる方も多いでしょう。ですがこれを機にそれぞれの違いをしっかり学び、使い分けられるようにしましょう。
尊敬語と謙譲語の使い方の一番の違いは動作主が自分以外の相手なのか、自分なのかという点です。自分以外の相手への言葉であるならば尊敬語。自分自身の動作に対する言葉であるならば謙譲語となります。
例えば、社長が話す場合は自分以外の相手である為、「社長がお話しになる」という文章になります。逆に自分が目上の方に話をする際は、「ご報告申し上げます」と自分の行動をへりくだって表現します。その動作をする人間が自分なのか自分じゃないのか、そのポイントだけ押さえておけば混乱する心配はありません。
丁寧語とは
丁寧語は、丁寧な表現を使って相手に敬意を表す敬語表現です。この丁寧語が一番日常生活でも使用する頻度が高い言葉です。
丁寧語には「です」、「ます」、「ございます」等があり、目上の人に限らず、普段の会話でも多く登場する言葉です。「です」、「ます」は丁寧な表現を表す助動詞で、「ございます」は丁寧な意味を含む動詞になります。
「その絵は彼女が描いた絵です」という文章の最後の「です」は、丁寧語ではない表現にすると「描いた絵だ」という文章になります。その他にも、「あの家は向こうにある」を丁寧語の表現にすると、「あの家は向こうにございます」と表現されます。丁寧語という言葉を聞くと難しく感じますが、どれも普段の会話で当然のように出てくる表現です。
又、丁寧語と同じように丁寧な表現を表す「美化語」という言葉もあります。これは言葉の初めに「お」や「ご」を付ける表現です。例えば、「お茶」や「お料理」、「ご本」や「ご心配」等が美化語にあたります。普段から使用している人もいれば、あまり使わない人もいる表現です。ただ多用すると変な表現になる為気を付けましょう。
間違えやすい敬語表現
貴社様の使い方に加え、敬語についても話してきましたが、普段敬語だと使っているあの言葉が実は敬語になっていないという言葉も多く存在します。
「どちら様でしょうか」、「了解しました」、「しばらくお待ちください」、「田中に伝えておきます」、「ご苦労様です」といったこれらの言葉は実は目上の方へ向けた敬語の表現として間違っている言葉達なのです。
正しくは、「どちら様でしょうか」は「お名前を伺っても宜しいでしょうか」、「了解しました」は「承知致しました・かしこまりました」、「しばらくお待ちください」は「少々お待ちください」、「田中に伝えます」は「田中に申し伝えます」、「ご苦労様です」は「お疲れ様です」となります。「ご苦労様です」は目上の人が目下の人へ使う言葉です。
「貴社様」は二重敬語となる為「様」は省いて使おう
貴社様は昔は誤用とされており、今では特に敬意を示すような場面では使用することも間違いではないとその考え方は寛容なものになってきました。しかし、まだまだ貴社様という言葉は使い方やタイミングに注意が必要な敬語です。ですから、よほどの場面でない限りまだまだ貴社様よりも「貴社」のみで文章を書くことが望ましいでしょう。