おもてなしの意味とは?
東京オリンピック招致の時に、滝川クリステルさんのスピーチで話題になった「おもてなし」。この言葉が招致が決定した大きな要因になったという人もいます。さらにその年の流行語大賞にもなるほどみんなが使っていた言葉です。
では、「おもてなしの意味は?」と尋ねられると、何となくは知っていても正確には答えられない人が多いのではないでしょうか。それは、おもてなしという言葉自体の語源や由来が明確になっていないことが原因ではないかと考えられます。
そこでここではおもてなしの意味や語源、英語ではこれに該当するものがないことなども紹介します。正しい意味を理解すると、自然とおもてなしができるようになる上、日本独自の文化の素晴らしさもわかってくるのではないでしょうか。
おもてなしの語源
そもそも「おもてなし」というのはどういう意味なのでしょうか。それを知るためには、おもてなしの由来や語源を知ることから始める方が分かりやすいため、まずは由来や語源について説明します。
ただ、おもてなしの語源にはいくつかの説があるようで、「もてなし」を丁寧に表したという説や、「表裏がない」という意味からきたという説などいろいろ違いがあります。
「おもてなし」が「もてなし」の丁寧語とすると、もてなすは「もて」という接頭語と「成す」が一緒になった、「意識して物事を成し遂げる」という意味で、平安時代には用いられていました。
どちらの語源にしても、心からもてなすというところに違いはないので、単におもてなしの意味を知ろうとするのであれば、どの説が正しいのかはあまり問題にしなくても良いのかもしれません。
つまり、おもてなしは相手の身になって考え、相手にただ喜んでもらえることを目的とした行いであると言えます。
おもてなしの特徴
おもてなしとは日本独自の文化と言いましたが、他の国にはない、おもてなしの文化にはどのような特徴があるのでしょうか。
「おもてなし」はよく英語の「サービス(service)」と比較されます。しかし、おもてなしに対応する英語は“service”ではありません。
そこで、おもてなしとサービスの違いや特徴について説明し、そこからおもてなしという意味をさらに深く理解していただければ幸いです。
おもてなしとサービスの違いは語源にもある
おもてなしの語源については前に説明した通り諸説ありますが、いずれも相手に対しての気遣いを表す言葉で、対価を期待しないで行うものです。
これに対して英語の"service”の語源は、動詞“serve”の名詞形です。この“serve”はラテン語からきていて、ラテン語の意味は「奴隷」です。そのため、日本語では「奉仕」や「用役」などと訳され、「おもてなし」とは意味に違いがあるためこのように翻訳されません。
サービスとはこのように自発的に相手を満足させるというよりも、何かの代償を目的にした意味を持ちます。アメリカなどではサービスは販促を目的にした手段のことを示すのが一般的になっています。
おもてなしの意味はサービスの意味と違う
「サービス」という英語はいろいろな場所で目にします。例えば「タイムサービス」はある時間帯にのみ普段の値段と違う、安い値段で何かを販売することを言います。また、「期間限定サービス」も同じようにある期間だけ普段と違う特典がつくことを指します。
このように英語のサービスとは、ある特定の人にだけでなく、大勢の人に同じ対応をして満足してもらうことも意味していますが、それはあくまで販促を目的としています。
これに対しておもてなしとは、その個人一人一人に対しての気遣いや対応を、サービスを提供する側が行う事を意味します。この場合、特に見返りを求めるという目的はありません。
「おもてなし」という言葉は表に出ない言葉
英語の「サービス」というのは、ホテル業や金融業、情報サービスなどさまざまな業種で使われる言葉ですが、おもてなしという言葉はこのように表立った言葉として使われていません。
サービスはお客様に満足していただくという点では大切ですが、これはあくまで販促が目的の場合が多く、見返りを求めないおもてなしとは意味合いの違いがあるのです。
最近のホテルでは、「ウェルカムドリンク」が増えてきましたが、これはいわゆる「サービス」です。おもてなしはこのサービスにさらにお客様に「長旅でお疲れになったでしょう」などのねぎらいの言葉をかけることです。
この出迎えの言葉一つで、宿泊のお客様が「ああ、ここでゆっくりと休養できる」と、安ど感を得ることができるような、すなわち、さらにお客様に満足していただけるものがいわゆる「おもてなし」であり、従って表に出ることのないことばです。
おもてなしは日本の文化を意味する
おもてなしに当てはまる英語はないと言いましたが、それはおもてなしそのものが日本特有の文化で、英語圏にはその文化が見当たらないからと説明してきました。
ホテルでの例を挙げると、海外ではホテルでサービスを受けるとチップを渡すのが普通であるように、一般的に何か対価があるのが普通です。すなわちホテルマンはチップをもらうことが目的で労働力を提供しているのです。
しかし日本の場合、おもてなしそれ自体は見返りとしての対価を期待しない、あるいは必要としないので、チップのようなものはあり得ないのです。
外国人から見れば、チップをもらわなければ、決まった業務をこなしていればいいと思うかもしれません。しかし、そこが日本独特の文化の特徴でもあります。
おもてなしの心が大切
ここまでの説明で、おもてなしの意味については理解していただけたでしょう。しかし、いざおもてなしをしようとしたとき、どのようなことを考えればよいでしょうか。
はっきり言って、おもてなしをするのにこれといった方法が決まっている訳ではありません。おもてなしを実践するために必要な心掛けだけを常に持っていれば自然とおもてなしはできるようになります。
では「必要な心掛け」とはどのようなことでしょう。それはおもてなしの「心」ではないでしょうか。とはいうものの、「心」とは具体的に何を指すのでしょう。
具体的には相手の身になって考え、それを行動にうつすことです。つまり、相手がどのような人か、どのような状況にあるのか、その場合、どのように対応すればよいのか、おもてなしとはこのような心(気持ち)を常に持つことです。
おもてなしの注意点
おもてなしの心は日本人特有のものですが、おもてなしの習慣がない国の人たちも、おもてなしを受けることには大変喜びます。
日本に来た外国人の多くがこのおもてなしを受けて、日本という国は素晴らしいという印象を持つようです。それは美味しい料理や美しい四季の景色などもありますが、日本人のおもてなしに感動したことが、一番の理由だと考えられます。
ただし、注意しなければならないのは、このようなおもてなしを受けることに慣れていない外国人や、日本人でも必要以上に親切にされると「何かあるのではないか?」と不信感を持たれることもあるため、注意が必要です。
このような不信感などを持たれずに、相手が自然に受け入れてくれなければ真のおもてなしとは言えません。相手の身になって接することが必要です。
おもてなしの作法
おもてなしは相手を「もてなす」ことなので、当然、おもてなしを受けた方には、もてなされた満足感を持っていただければなりませんが、ホテルや旅館におけるおもてなしには注意しなければならないことがいくつかあります。これを誤ると、せっかくのおもてなしが逆効果となってしまいます。
ひとつ例を挙げると、おもてなしのための話題作りにプライバシーに踏み込むことです。お客様の中には人に構われないで過ごしたいという人もいるかもしれません。
最低限、予約時に分かっている範囲での話題にとどめることが必要です。「今日はどのような目的でお見えになったのでしょうか」ではなく、「もしも観光されるなら、近くに○○があるので行って見られてはいかがでしょう」などのように。
ただし、ホテルや旅館などのようなビジネスにおけるおもてなしと、私達の普段のおもてなしとは多少、違いがあります。それは上で述べたような「作法」にとらわれないことです。
おもてなしは「日本人の心」という意味
皆さんにはもう分かっていただけたことでしょうが、「おもてなし」という言葉の意味は、ただ単に人を招き入れることや、何かの見返りを期待して人に接することとは違い、本当にもてなす人に喜んでもらいたいという、いわば、「無償のやさしさ」だと考えられます。
もちろん海外の人にも優しい人はたくさんいますが、「おもてなし」という言葉に対する英語などの表現がないということは、元来、日本人なら誰もが持っている心、独特の文化といえるのではないでしょうか。
「おもてなし」のような素晴らしい日本の文化、私達はその心をなくさないように、大切に受け継いで行って欲しいものです。