情報格差とは
「情報格差」とは、英語の「デジタル・デバイド(ディジタル・ディバイド)」を日本語に訳したものです。コンピュータやインターネットを使いこなせる人と使えない人との間に生じる格差のことです。主な格差には「労働条件」や「収入」がありますが、「国家」や「地域」などの格差も含まれたりすることがあります。
得られる情報量の違いで生じる格差
「情報格差」が生まれる原因の中で最も大きなものは、情報に触れることのできる環境があるかどうかです。現在、新しい情報は、コンピューターやスマートフォンなどのデジタル機器を介して手に入れることがほとんどです。そういったデジタル機器を「購入」または「使用」できる環境がないことが、「情報格差」が生まれる原因になります。
日本などの先進国では、当たり前のように使用しているスマートフォンでも、途上国ではインフラ整備が整っておらず、電波状況が悪く使用できない場所もあります。そうなると情報を手に入れる場所は、ホテルや空港などに限られるので、情報量が制限されてしまいます。
情報量が少ないと、正確な判断ができずに不利な条件で交渉を運ぶことになったり、しっかりとした対策を取ることもできない原因となったりすることがあります。
情報格差の種類
「情報格差」は、その発生規模や原因などによって種類分けをすることがあります。「国際間情報格差」とは、最も大きな国家間で発生している格差です。「地域間情報格差」とは、特定の地域で発生している格差となります。「個人・集団間情報格差」とは、人と人の間の格差の事ですが、原因によってさらに詳細に分類することもあります。
「世代間情報格差」とは、高齢者と若者による格差です。「貧富間情報格差」とは、富裕層と貧困層との格差となります。
①国際間の情報格差
国家レベルで「情報格差」を見たとき、情報技術の進んでいる国と発展途上国との間には、大きな差が生じています。また、裕福な国では、インフラ整備に巨額の予算を投入することができますが、国民が生きていくのに必死な貧しい国では、そのような予算を捻出することはできません。そのような原因により国際間の「情報格差」が生まれます。
具体例を挙げると、アメリカや日本などの先進国に対して、スーダンやチャド、ニジェールなどの途上国では大きな「情報格差」があると言えます。
②地域間の情報格差
同じ国の中でも「情報格差」が生じることがあります。人口の少ない都市や、交通の不便な場所は、インフラ整備が後回しになり、そこから格差が生じます。さらに、故障した際の対応も人手不足や交通が不便なので対応が難しく、旧型の装置が交換されずにそのまま使用され続けたり、壊れたまま放置されることもあり、格差が大きくなります。
具体例を挙げると、日本では東京や大阪などの大都市とそれ以外の都市では、IT支出傾向に大きな差があります。2020年までの国内市場予測では、大都市圏外でのIT支出はマイナス傾向が続くのに対して、大都市圏のみプラスの予測となっています。原因は大都市圏への人口集中ですが、政府や自治体が対策を取ってもなかなか解決策となりません。
③個人・集団間の情報格差
人間は1人では生きていけませんので、何かしらの集団に属することになります。その集団に、「情報格差」があると、所属している個人にも全て格差が生じることになります。外部とのやり取りの少ない「高齢化した地方都市」や「閉鎖的なコミュニティ」にそういった具体例があります。
さらに追加の具体例を挙げると、個人間では所有するデジタル機器が異なります。PCしか持っていない人と、スマートフォンを持っている人では、入手できる情報には差が有ります。情報には即時性が重要な事がありますので、それも「情報格差」の原因となります。
情報格差によって起こり得る問題の具体例
ここからは実際に「情報格差」によって生じる問題を見ていきましょう。「就職」「収入」「起業」「人材不足」「雇用難」などの経済を中心とした問題。「犯罪」「事件」「高齢者」「少子化」「地域格差」「国際格差」などの社会を中心とした問題の2つに大きく分けられます。
①貧富の差が広がる
就職するのに、WordやExcel、Power Pointを使用できることが当たり前のようになってきました。こうなると、PCを使用できない人は、就ける職業が制限されます。一方で、PCスキルを持っている人は、成長企業に入社できる可能性は高くなり、将来的に大きく収入を得る可能性も上がります。
具体例としては、求人そのものがウェブ上のみでなされ、そこにアクセスできない人は、希望する企業へ就職することすらできないといった状況があります。日本では想像しにくいですが、海外では当たり前のように起きている事態なのです。
②情報格差を利用した事件
情報弱者である高齢者が、事件に巻き込まれるケースが増えています。具体例としては「送り付け詐欺」と呼ばれるものです。通信販売業者から、ある日商品が送りつけられてきます。そして、強引に支払いを請求される詐欺です。高齢者が問い合わせても、業者側は強気で対応します。
「しっかりと注文の履歴が残っている」「支払いがないと訴訟問題になる」「一度開封したものは、再利用できない」「法律上問題ない」などです。これに騙されて、しぶしぶですが支払ってしまうのです。その原因は情報不足です。相手側の言い分が正しいと信じてしまうのです。
情報さえあれば、自分が騙されているということが理解できるのですが、情報がないため、騙されていることに気が付くことが遅れます。場合によっては、気が付かないケースさえあります。
もうひとつ具体例を挙げると、「webオークション詐欺」というものがあります。仲間内で商品価格を吊り上げておき、「落札者が都合によりキャンセルとなったので、次点の方にご連絡させていただきました」といって入札者に個別に連絡して、高額で商品を購入させるものです。対策方法は、個別の連絡には応じないことです。
しかし、知識のない高齢者は自分の欲しいものであれば、個別連絡に応じてしまいます。「情報格差」を利用した事件と言えます。
③高齢者の孤立化
高齢者は、既に仕事を引退しており、行動もあまり活発ではありません。そうすると、次第に孤立化していきます。孤立化していき、認知症や孤独死を引き起こす場合があります。認知症も、孤独死も年々増加傾向にあります。少なくともデジタルツールで近親者と連絡が取れることで、第三者による認知症の判断や孤独死の予防は可能です。
特に過疎化が進んだ地方では、隣の家まで数キロといった場合もあります。そんな時に、デジタルツールがあるとなしで大きな格差となります。具体例として、毎朝、家族とメールをしていた高齢者が、体調不良でメールをできなかった場合、家族は異常に気が付くことができます。そのように、利用できるものは利用することが解決策となります。
④人材や技術の流出
人材を1から育てるのは大変なことです。そんな人材を、高い給料だけでスカウトする企業が数多くあります。自社で苦労して育てるよりも、既に育った即戦力の人材を採用した方が効率がよいからです。人材や技術が他国へ流出すると、今まで他国から購入していた製品やサービスの購入をしなくてすむようになります。
そうなると、流出した国は「優秀な人材の不足」「高度な技術の漏出」「輸出の減少」といった大きな国力低下になります。
具体例として、中国企業はアメリカや日本などから多くのIT技術者を採用しています。日本の優秀な人材や高度な技術などが中国に流出しています。日本で開発された技術なのに、いつの間にか中国の方が進んでいたという事態にもなりかねません。
情報格差が起こる原因
「情報格差」が起こる原因は様々ですが、大きく2つの問題に行き着きます。1つは、高齢化の問題です。高齢者は、新しいデジタル機器を積極的に使用しませんし、積極的に情報収集を行いません。もう1つは貧富の差の拡大です。金銭的にデジタル機器を購入できない人は、さらに「情報格差」が拡大していきます。
①IT系の人材不足
webを利用したサービスの増加に伴い、IT技術者を必要とする業種業界が増加したのが原因です。さらに、webサービスは技術の進化が早く、必要なスキルを持つ人材が足りずに、企業が求める人材と実際の人材との間にギャップも生まれています。しかし、最大の理由は悪いイメージが強く、若者がIT技術者を目指さないことです。
具体的には、納品前の土曜日曜、深夜にも渡って拘束されるイメージが根強く残っています。現在の労働環境は、以前より大幅に改善されていますが、悪いイメージはなかなか払拭されていません。解決策は、IT技術者を増やして、良いイメージを定着させることです。
②地方部の少子高齢化
少子高齢化も「情報格差」の原因となります。子供は成長すると、地方から都会へと移住してしまいます。何故なら、地方には仕事がないからです。そうすると、地方には高齢者にか残らなくなり、デジタル機器を使用する率も低くなり、そういったエリアには、関連するサービスも提供されなくなります。
そうして、地方の高齢者はどんどん孤立していきます。孤立していくと、その声が届きにくくなり、さらに孤立化します。
③学歴や所得
学歴と所得の問題も深刻です。一般的に、高学歴であるほど大手企業や有名企業に就職することができ、高収入を得ることが可能となります。逆に学歴が低いと、肉体労働を中心とした仕事に就く率が高くなり、仕事でデジタル機器を使用する率が低くなります。こうして「情報格差」は拡大していきます。
収入が高いと、デジタル機器の購入は容易ですが、収入が低いと難しくなります。所得の差によっても「情報格差」が生じてきます。
④年齢による情報格差
年齢による「情報格差」が最も顕著です。年齢が高くなるにつれて、デジタル機器の所有率や使用率が低くなります。2018年の内閣府の消費動向調査によれば、29歳以下のPC普及率は79.4%、これが30~59歳以下になると81.6%となります。そして高齢者にあたる、60歳以上では61.2%となっています。
平成30年度の総務省の情報通信白書によれば、20~30歳代のスマートフォン所有率は90%以上、13~19歳と40歳代がだいたい同じで80%程度です。ここから年齢が上がるにつれて、所有率に明確な差がでてきます。50歳代で70%程度、60歳代で40%程度、70歳代で20%程度、80歳代では10%以下となります。
デジタル機器を所有していなければ、当然使用もしないので、新しい情報を得る機会も減ります。家族で暮らしていればコミュニケーションもあるかもしれませんが、孤立化していれば、それも望めません。
⑤インターネットの利用目的
インターネットのほとんどは、「メールの送受信」「ホームページやブログ、SNSの閲覧や書き込み」「商品やサービスの購入、取引」に利用されています。それだけでもかなり便利なのですが、この「便利なツール」を、「新たなビジネス」や「新規顧客開拓」などに活用することを考えている人と、何も考えていない人との間に差がでてきます。
情報格差の解決策
こういった「情報格差」を解決するべく、IT業界や政府などが主導して様々な対策がなされています。しかし、早期に劇的に改善するという訳ではありません。世界的に見れば最大の原因は貧困であり、貧困によりデジタル機器を購入できず、デジタル機器を使用できないので貧困に陥るという悪循環になっています。
国連も、世界各国も貧困対策を行っていますが、この「貧困問題」は「情報格差」よりも深刻な問題です。
①IT人材の育成
最も重要な解決策として「IT人材の育成」があります。IT人材が育成されることで、インフラ整備が進み、地域間格差も縮小します。また、地方での職も増加し、地域の活性化にもつながります。具体例としては、過疎地域にIT人材育成のための「プログラミングスクール」などを設立し、若者の都会への流出を食い止めることから始めるべきです。
しかし、現実はなかなか上手く機能していません。日本国内でも上手くいっていないのですから、世界的に見ても上手くいっていないのでしょう。早急に何か対策する必要があります。
②インターネットコミュニケーションの普及
これについては、既に進んでいます。既にLINE上でやり取りすることを、若い世代では「話す」と言います。ビデオ通話もかなり一般的になってきました。後は、高齢者でも使いやすいハードウェアとソフトウェアが開発されれば、一気に普及する可能性があります。インターネットに常時接続するタイプの家電も普及してきました。
洗濯機や電子レンジ、冷蔵庫などがインターネット接続することでPCを持っていない高齢者でも、家電を使用するタイミングでメールをしたり、情報検索したりすることができるようになる可能性があります。
③在宅勤務による求人を増やす
IT人材不足の解決策にも繋がりますが、産休・育休などによる離職、病気やケガによる離職、などの人材を有効活用するために在宅勤務を促進することです。もともと、プログラマーはPC環境さえあればどこでも仕事をすることが可能です。自由な労働環境を整備することで、雇用の促進にもつながります。
もともと日本は、在宅勤務の割合が他国に比べて少ないと言われています。もっと思い切った対策を取り、IT人材不足解消を目指す必要があります。
④インターネットの利用目的の見直し
現在インターネットは、トラフィックの問題が切迫しています。「トラフィック」とは、通信回線において一定時間にやり取りできるデータ量のことです。この「トラフィック」が年々増加しており、回線業者の設備投資費用では追い付かなくなりつつあります。原因としては、web上でやり取りできるデータ量が増加していることです。
つまり、web上で閲覧する動画が高画質化したり、windowsやappleのOSが高性能化し、大型updateなどによって、インターネット上を大量のデータがやり取りされており、それも回線業者を圧迫しています。
現状リソースは限られているので、解決策としては、娯楽よりもビジネスや勉強を優先しようという風潮があります。それについては個人個人の考えがあると思いますが、今一度自分のインターネットの利用目的、利用方法、利用時間などを見直してもいいいのではないでしょうか。
日本社会の情報格差対策
日本独自の地理的要因として、ブロードバンド対応が遅れているエリアや、携帯電話不感地帯の解消については、2010年度でほぼ解消されました。ところが、2018年の「西日本豪雨」や2011年の「東日本大震災」をはじめ、各地で散発する各種大型災害による被害などもあり、そのような地域における早期復旧対策が求められています。
金銭的な原因でPCなどのツールを購入できない人への対応策として、図書館や公民館、役所などへの誰でも使用できるPCの普及促進事業も展開されています。利用方法を知らない人への対応策として、各種講習会の開催や学生ボランティアなどの活用などが行われています。
新たな試みとして、国を中心として2014年に「まち・ひと・しごと創生法」を交付・施行して、東京や大都市圏の人口の一極集中を是正するべく対策が動き出しました。地方に仕事を創生し、人を呼び込み、少子高齢化に歯止めをかけて、時代に合った住みよい地域を作るというものです。
日本でも、少子高齢化対策は待ったなしの状況です。地域が活性化させる解決策を講じることが、日本全体も活性化する近道になると言えるでしょう。
パソコンの苦手な人のトレーニング
高齢者や情報弱者に向けたPC講習会が、自治体や商工会議所などで開催されています。PCの利用方法を理解することで、自宅にいながら様々なことを行うことが可能になります。メールやSkypeなどによる他者とのコミュニケーション、インターネットへの接続による情報検索などが出来ると、「情報格差」は格段に小さくなります。
他の解決策として、ボランティア講師の活用もあります。PCに明るい学生などが、老人ホームやデイケア施設などに出向いて講義を行うものです。具体例も上がってきており、今後の展開が期待されています。
障害の有無による情報格差
障害者も「情報格差」にさらされています。視覚や聴覚に障害があると取得できる情報に限りがあります。また、知的障害や精神的な障害のある方では、なおさら取得できる情報は少なくなります。このような情報弱者を助ける仕組みもありますが、まだまだ整備されていないのが現実です。
障害者への対応とは
視覚障害の方向けの読み上げツールは良く知られています。聴覚障害の方向けには、色や表示で対策が取られています。これから課題になってくるのは、知的障害や精神障害の方でしょう。福祉の分野でこそ、「情報格差」が起こらないように、訓練や教育などの対策をしっかりとしていく必要があります。
具体例を挙げると、障害者へのアンケートで多かった回答は、一般のユーザーとほぼ変わりません。上位は、「悪徳商法や情報流出が怖い」、「費用が高い」「使いづらい」などです。障害のある方特有の回答は少ないです。メーカー側は、基本的な対応をしっかりしていくことによって、障害者への対応にもなります。
情報格差を起こさない為に
「情報格差」を生じさせないためには、しっかりとした対策が必要です。最も有効な対策は、他者と積極的に「コミュニケーション」を取る事です。若者と高齢者、最先端の技術を持つ者と通常の技術者、先進国と途上国などが積極的に交流することによって、「情報格差」は少しづつ解消されていきます。
具体例として挙げられているのは、都市部の若者と過疎地域の高齢者、先進国の技術者と途上国の技術者の交換留学などです。これらの事業は、「情報格差」の解決策として注目されています。
学ぶことが解決策になる
人間は何歳になっても学ぶことができます。高齢者だから、今までやったことがないから、といって避けるのではなく、積極的にIT技術を学びましょう。そうすることで新たなビジネスが生まれたり、雇用が生まれたり、地域が活性化する可能性があります。地域が活性化することも「情報格差」の対策です。
具体例としては、ひょんなきっかけで観光客が急増して宿泊施設が追い付かない観光地の観光協会が、「Airbnb」のような自宅を宿泊室として貸し出すサービスを知りませんでした。web宣伝なども積極的に展開しているような観光地だったのに、このことは知らなかったせいで、多くの宿泊希望者が他のエリアへと流れてしまい、せっかくの商機を失いました。
この例からわかることは、人は「興味のない情報は忘れてしまう」「自分に関係ないと思う情報は記憶しない」ということです。重要だと思った情報は、意識してしっかりと記憶又はメモするようにしましょう。
日頃から情報を意識して取り入れる
人間とは、自分が見たいものにしか目がいかずに、聞きたいものしか聞こえません。これは心理学用語で、視覚については「カラーバス効果」、聴覚については「カクテルパーティ効果」と呼ばれています。つまり、自分が興味のない情報は入りにくくなっています。なので、意識して情報が偏らないようにしましょう。
具体例を挙げると、美辞麗句ばかりの広告などがあった場合に、本当にそうなのかどうか調べる習慣をつけるようにしましょう。そうすることが情報を意識して取り入れる対策になります。
情報格差を無くす為に日頃からインターネットに触れよう!
「情報格差」の解決策として有効なのは、最新情報に触れる事です。最新情報は、インターネットを介して簡単に入手することができます。PCやスマートフォンなどのツールを持っていなくても、図書館や公共施設を利用することで、最新情報は入手可能です。重要なのは、「自らが動いて情報を入手する」ということです。
年齢を言い訳にせずに、どんどんインターネットに接して、どんどん情報に触れるようにしましょう。そうすることで解決策が見えてきます。