「モラトリアム」の意味とは?
「モラトリアム」という言葉、あまり聞き馴染みがなく、意味をご存知ない方も多いのではないでしょうか。
「モラトリアム」という言葉を検索してみると、「モラトリアム人間」「結婚モラトリアム」「人生のモラトリアム」といった言葉が予測として出てきます。
これらの言葉、また「モラトリアム」という言葉にはどのような意味があるのでしょうか?この記事では「モラトリアム」の意味、言葉の由来、使い方と例文を紹介していきます。また、言葉の特徴と英語での表現も合わせてご紹介してきますので、是非参考にしてください。
「モラトリアム」は「一時停止」という意味
「モラトリアム」という言葉は、「(ある状態を一時的に保ち続ける)猶予を与えること」「一時停止」「猶予期間」を意味する言葉です。
日本では「モラトリアム」というカタカナ語で用いられることが多くなっていますが、本来の言葉は同じ読み方をする英語「moratorium」です。
簡単には「猶予を与える」「一時停止」「猶予期間」を意味することがわかった「モラトリアム(moratorium)」ですが、使用される場面によってその意味は変化していきます。少し詳しく見ていきましょう。
政治・経済での「モラトリアム」の意味
政治、経済、金融などの分野において「モラトリアム(moratorium)」は、戦争・経済恐慌・自然災害など非常事態の際、社会的混乱を避けるため法令などにより「金銭債務の支払いを一定期間猶予すること」を意味します。
日本では1923年の関東大震災の直後、1927年の金融恐慌の際に「モラトリアム(moratorium)」が実施されたことがあります。海外においても「モラトリアム(moratorium)」が実施された例はいくつかあります。
また、核実験や法案などに関して「モラトリアム」を使用する場合は「一時停止」「一定期間の停止」「凍結」を意味しています。英語の「moratorium」にはこれらの意味が当てはまります。
心理学での「モラトリアム」の意味
一方、心理学において「モラトリアム」は、「支払い期間などを猶予する」という英語本来の意味から転じて「社会的責任を一時的に免除、猶予されている青年期」を意味してします。
また、「社会的責任を免除され続けようとする心理状態に留まっている期間」も合わせて意味しています。この期間は生きがいや働きがいを求めたり、アイデンティティを確立するために重要な期間です。
しかし、現代ではこの猶予期間を引き伸ばして、大人になろうとしない人が増える傾向にあります。英語「モラトリアム(moratorium)」がこのように用いられるようになったのは、精神分析学者であるエリクソンが提案したということが背景にあります。
「モラトリアム」の由来
使用される分野によって「モラトリアム(moratorium)」という言葉の意味合いが変化することが、ここまでの解説でおわかりいただけたのではないでしょうか。
では続いて、この言葉の意味をより深く理解していただくために「モラトリアム(moratorium)」という英語の由来を解説していきます。
「モラトリアム(moratorium)」という言葉の由来は、ラテン語にあります。ラテン語で「遅延」を意味する「mora」から派生して生まれた、「遅延する」という意味の「morari」が由来になっています。
また、現在一般的に知られている心理学での「モラトリアム(moratorium)」の使い方をされるようになった由来には、前述したように精神分析学者のエリクソンが関係しています。
さらに、日本で広く知られるようになった由来には、心理学者・精神科医の小此木啓吾の著書「モラトリアム人間の時代」が関係していると言えるでしょう。ここをきっかけとして、学術用語としてだけでなく一般にも「モラトリアム(moratorium)」が知られるようになりました。
「モラトリアム」の特徴
「モラトリアム(moratorium)」という言葉の意味、「モラトリアム(moratorium)」という言葉の由来を解説してきました。そして現在「モラトリアム(moratorium)」という言葉は、心理学においての意味で用いられていることが多くあります。
心理学での「モラトリアム(moratorium)」は、簡単に説明すると「子供ではなく、大人でもない期間」でした。また、自らそのような心理的状態に留まっていることも指します。
ここでは、このような心理学的「モラトリアム(moratorium)」に意味を絞って、特徴を解説していきます。
「モラトリアム人間」の意味
「モラトリアム(moratorium)」の特徴は、心理学において多く用いられるであろう「モラトリアム人間」という言葉に集約されています。そのため、ここでは「モラトリアム人間」について解説していきます。
「モラトリアム人間」という言葉は、前述のように心理学者・精神科医の小此木啓吾の著書「モラトリアム人間の時代」から広く知られるようになった言葉です。
この「モラトリアム人間」は、大人になるための準備期間をすぎているのにも関わらず、いつまでも「モラトリアム」の状態にあり続けようとする人を指します。「モラトリアム人間」という言葉は、否定的な使い方をされることがほとんどです。
「モラトリアム人間」の特徴
では、ここからは「モラトリアム人間」の特徴を説明していきます。否定的な使い方をされる「モラトリアム人間」には、一般的にどのような人が当てはまるのか。使い方と特徴を知ることで、自分が当てはまらないようにすることができます。
また、もし自分が「モラトリアム人間だ」と人から言われてしまったときに、客観的には自分がこのような人間に見えているのだ、と省みることができます。しっかりと理解しておきましょう。
大学卒業後も定職につかない
「モラトリアム人間」一つ目の特徴は「大学卒業後も定職につかない」という点です。心理学分野において、「モラトリアム」の意味は「社会的責任を一時的に猶予されている期間」でした。
また、生きがいや働きがい、アイデンティティーを見つけるのが本来の「モラトリアム」期間です。しかし、それを過ぎても社会的責任や自立することを避け、「自分探し」を続けたいために、モラトリアム期間を先延ばしにして定職につかない人が多いと言われています。
そのような人は「モラトリアム人間」に当てはまる場合が多く、就職した場合でも早期に退職してしまう傾向があるようです。
社会的な自己が認められていない
「モラトリアム人間」二つ目の特徴は「社会的な自己が認められていない」という点です。これがどのようなことを意味するのか、詳しく解説します。
人には誰しも、自分が理想とする「自己」を持っています。ですが、社会的・客観的に自分を見られた際の「自己」と自分が理想とする「自己」は必ずしも一致するとは限りません。このギャップを受け入れられない人が「モラトリアム人間」には多いのです。
「本当の自分はこんなはずではない」「自分はもっとこうあるべきだ」と現状の社会的に見た自己を認められないため、社会に溶け込めず、また社会に溶け込む努力を避ける傾向が多くあります。
決断力が低い
「モラトリアム人間」特徴の三つ目は「決断力が低い」という点です。前述した「理想とする自己」に対して、具体的な目標と決断・決定力で進んでいくことができれば良いのですが、それをすることができないのが「モラトリアム人間」の特徴です。
「理想とする自己」を追い求めるあまりに、あれもこれもと選択肢を欲張って、結果的にどれか一つに選択することができない状態に陥ります。それを繰り返していくうちに決断する力がどんどんと低くなっていくのです。
また、決断する力が低くなっていくのに伴って自分の目標を定めることもできなくなり、人生において無気力な状態になりがちだと言われています。
「モラトリアム」の使い方
さて、ここまで「モラトリアム」の意味・由来、現在多く知られている「モラトリアム人間」の意味・特徴を説明してきました。現状の自分を認められず、社会的責任から逃れ続けようとする人のことを意味しているのが「モラトリアム人間」です。
ここからは「モラトリアム」の意味や特徴を踏まえた上での使い方を、例文と一緒に説明していきます。
例文①
例文・使い方の一つ目は「モラトリアム人間」です。この言葉は「モラトリアム人間」の特徴の部分でも解説してきましたが、もう一度解説していきます。
「モラトリアム人間」というのは日本独自の使い方であり、「義務・責任の先延ばし」という意味合いがあります。この言葉を、この意味合いの使い方をした例文は以下のようになります。
「彼は根っからのモラトリアム人間だ。」良い意味で用いられることはないので、皮肉った言い方として用いられるでしょう。「定職につかず、どっちつかずな人間だ」と表す時に使える例文です。
例文②
例文・使い方の二つ目は「モラトリアム症候群」です。これは「アイデンティティ拡散症候群」とも呼ばれ、精神的な障害による症状に当たると言われています。
具体的な症状は「自分は〇〇である、という選択や決着を際限なく回避してしまう。」「完全な自己を夢見てしまい、現実をふさわしくないと思ってしまう」「社会や組織に組み込まれることを恐れ、不安に思う」といったものです。
このような症状に陥る原因には幼少期の経験が深く関わっており、親からの過保護、いじめや虐待などが原因にあると言われています。
「モラトリアム」とは「猶予期間」という意味
いかがでしたでしょうか?この記事では「モラトリアム」の意味、言葉の由来をご紹介してきました。また「モラトリアム人間」という言葉についても意味を解説しました。
本来の英語「moratorium」の意味は「一時停止」というニュアンスが強かったですが、現在では「猶予期間」特に「大人までの猶予期間」という心理学的意味合いで用いられていることが多いです。
これらの使い方・意味を把握して、「モラトリアム(moratorium)」という言葉を日常生活で見かけた時にしっかり理解できるようにしましょう。