「固定観念」と「固定概念」の意味とは?
「固定観念」とは凝り固まった考えを意味する言葉です。これは状況の変化や人の意見に影響を受けることなく、自分の中に存在する固定した考えのことを言います。どちらかといえば、相手の意見を受け入れない頑固な考えなどネガティブな場面で使われることの多い言葉です。
今回はこの「固定観念」という言葉に関する正しい意味や使い方、対義語・類語について例文を挙げて解説します。また「既成概念」という言葉の意味、使い方をはじめ、誤用しやすい表現や「固定観念」と「固定概念」の違いについても触れます。
「いつも頭から離れず その人の思考を拘束するような考え」という意味
「固定観念」(こていかんねん)とは、「強く思い込んでいて、簡単には変えられない考え」を意味します。この四字熟語を分解して意味を考えると「固定」は「一定の位置に止まって動かないこと。一定していて変化しないこと。」という意味です。
「観念」は「人が物事に対して抱く主観的な考え」を意味します。つまりは「固定観念」は「自らの価値観や思い込みなどの主観的で固執した考え」のことを言います。
周りに流されることなく自分の考えを持つことは大切なことですが、適宜周りの意見を受け入れ、広い視野で物事を見ることは、適切な判断や柔軟な発想をする上では重要な要素であると言えます。
「固定概念」は誤用?
「固定観念」と類似した意味合いで「固定概念」という言葉が用いられることがあります。「固定観念」よりも「固定概念」の方がむしろ多く用いるという方も決して少なくないことが考えられます。しかし、実はこの「固定概念」という言葉は誤用で、正しくは「固定観念」です。
「固定概念」の「概念」とは「個々の事物から共通する性質を取り出してつくられた表象。」を言います。つまり事物の本質を捉えた思考であり、客観的な視点での物事の見方がされています。
「固定観念」の「固定」とは固着した偏ったものの見方を表現しているのであって、客観的尚且つ一般的な事実を意味する「概念」に「固定」の言葉がつくのは不適切であることは理解できるでしょう。したがって「固定概念」は誤りの言葉であり、「固定観念」が正解となります。
「固定観念」の対義語・類語
前項では「固定観念」の正しい意味と「固定概念」という言葉の誤用表現について解説しました。「固定概念」が誤った表現であるという点に驚かれる方は多かったのではないでしょうか。これらの抽象的でイメージしにくい言葉は各々の漢字の意味を考えると言葉の違いや誤用を判別しやすくなります。
こちらの項目では「固定観念」の対義語と類語についてご紹介します。対義語と類語は様々な言葉がありますが、今回はそれぞれ3つに絞って例文とともに解説していきます。
「固定観念」の対義語
「固定観念」の対義語の1つ目に「融通無碍」(ゆうずうむげ)が挙げられます。これは「何事にも捉われることなく自由であるさま」のことを言います。使い方としては「変化の目まぐるしいこのご時世には融通無碍な発想が生き抜く術となる。」のような表現ができます。
「固定観念」の対義語2つ目に「悠揚自在」(ゆうようじざい)という言葉があります。これは「考え方や行動が特定の物事に囚われることなく自由であるさま」のことを意味します。例文を挙げると「芸術には常識に囚われない悠揚自在なアイデアが必要不可欠である。」といった表現があります。
最後に「固定観念4」の対義語として「臨機応変」(りんきおうへん)が挙げられます。これは「時や場合に応じて適切な判断、手段を取る」という意味の言葉です。使い方としては、「作戦の失敗に頭の中が真っ白になったが、すぐさま臨機応変に次の手段を考える。」のような表現が可能です。
「固定観念」の類語
「固定観念」の類語の1つ目に「先入観」(せんにゅうかん)が挙げられます。これは「ある特定の物事に対してもつ主観的価値判断。思い込み」のことを言います。使い方としては「余計な先入観は状況を見誤ることに繋がり、適切な判断を阻害する。」のような表現に使用できます。
「固定観念」の類語の2つ目に「固着観念」(こちゃくかんねん)があります。この言葉は「固定観念」とほぼ同一の言葉で「いつも頭から離れず、その人の思考するような考え」のことを言います。「知識を増やす程、固着観念に縛られやすくなるとは皮肉なものだ。」のような使い方ができます。
最後に「固定観念」の類語として「既成概念」(きせいがいねん)が挙げられます。これは「一般的に社会で認められて、通用している考え方」のことを言います。「従来の既成概念から一歩も出ずに冒険をしないまま終える人生などつまらない。」のような使い方が可能です。
「固定観念」の使い方・例文
前項では「固定観念」の対義語と類語について解説しました。こちらの項目では「固定観念」の正しい使い方について例文を通じて説明していきます。「固定観念」と相性の良い言葉が多くあるため、個々のコロケーションごとに例文をご紹介します。
例文①
1つ目のコロケーションは「固定観念に囚われる」です。これは、固定した考えや価値観い拘束されている状態を言います。つまり、自分の主観的な視点でしか物事を見たり判断しておらず、他人の意見を聞いたり受け入れていない人を表しています。
「固定観念に囚われることなく、ライフスタイルの変化に合わせた新しい企画を考える。」「失敗するかもしれないという固定観念に囚われるといつまで経っても新しい挑戦はできない。」
「上司が多くの部下から慕われているのは、彼が社内や彼自身の固定観念に囚われることなく、柔軟な思考の持ち主だからである。」以上の例文のような使い方ができます。
例文②
2つ目のコロケーションに「固定観念を捨てる」があります。これは固執した考えや価値観を手放し、放棄する状態を言います。つまり、自身の抱いている固定観念を認識し、新しい考えを受け入れるべく、固着した考えを捨て去ることを表しています。
「女性は結婚をしたら家事に専念すべきという固定観念を捨てる。」「無意識に囚われていた固定観念を捨てたことで、初めて自分の身体が常に力が入っていたことに気づいた。」「スポーツ界に充満する従来からの固定観念を捨て、新しいスタイルを取り入れることで新記録を狙う。」
例文③
3つ目のコロケーションは「固定観念を壊す」です。これは「固定観念を捨てる」と同様ポジティブな意味合いが強く、固執した考えや価値観を役立たなくさせ、機能を失わせることを言います。つまり、自身の抱いている固定観念の形を崩し、考え方の自由を手にすることを表しています。
「性別に関わらず成果主義により社員を昇進させることで、仕事は男がするものだというこれまでの固定観念を壊す。」「悪人と正義のヒーローという二極化した構造の固定観念を壊して、様々なキャラクターを登場させる。」
「背の高く痩せた女性が美しいという固定観念を捨てて、女性各々の美しさに焦点を当てる。」これらの例文のような表現が可能です。
例文④
4つ目のコロケーションとして「固定観念を押し付ける」があります。これは自身が抱く固着した考えや価値観を他人にも強要することを言います。つまり、相手の意見を受け入れないだけでなく、相手の意思に関わらず無理に自分の考えを受け入れさせることを表しています。
「変化の激しい時代にも関わらず、古いしきたりや習慣といった固定観念を押し付ける。」「子どもの幸せを願うつもりが、親の固定観念を押し付けることを無意識にしてしまっていた。」
「いくら互いを理解し合っている間柄であっても、固定観念を押し付けるようなコミュニケーションの仕方ではいつまでも平行線をたどるばかりである。」これらの例文のような表現ができます。
「固定観念」と「固定概念」の違い
こちらの項目では「固定観念」と「固定概念」の違いについて触れていきます。上記の項目で「固定概念」とは誤用表現であることはご説明しました。よって、ここでは主に「観念」と「概念」の違いについて詳しく解説します。
また、この項目の後半では「固定観念」の類語である「既成概念」の誤用表現についてもご説明します。物事を捉えるときの視点や「観念」と「概念」の意味の違いを理解することでこれらの言葉を明確にすることができます。
「固定観念」の「観念」は「人が物事に対して抱く主観的な考え」という意味
「観念」は「人が物事に対して抱く主観的な考え」という意味です。人々が「それぞれ」「主観的に」持っている考えなので、物事の見方は人によって異なり、偏った意見や考えになりやすい傾向にあります。
「固定概念」の「概念」は「客観的に存在している共通意識」という意味
一方で「概念」とは「個々の事物から共通する性質を取り出してつくられた表象。客観的に存在している共通意識」のことを言います。「観念」と違い、人々が「共通」して認識している「客観的」な物事の見方をしています。
つまり「固定観念」と「固定概念」の大きな違いは物事の考える上での視点であり、「観念」は主観的、「概念」は客観的となります。繰り返しになりますが、今回は「固定観念」との比較に用いているのであり、「固定概念」という言葉は本来は誤用の表現となります。
「既成観念」は誤用「既成概念」が正解
上記の『「固定観念」の対義語・類語』の項目でも触れましたが、「固定観念」の類語の一つに「既成概念」があります。「固定観念」の誤用で「固定概念」が使われるのと同様、「既成概念」の同一の意味合いとして「既成観念」が使われることがあります。
「既成概念」とは「一般的に社会で認められて、通用している考え方」のことを言います。上記で「固定観念」と「固定概念」の違いについて解説しましたが、「観念」とはあくまで個人的主観的な視点でのものの見方を表していて、社会に通用している客観的なものの見方とは正反対の意味となります。
「固定概念」にしても「既成観念」にしても「観念」と「概念」の言葉の意味の違いを理解することで誤用を回避できます。
「固定観念」を使う際の注意点
前項では「固定観念」と「固定概念」の違い、また「既成概念」の誤用表現についてご説明しました。こちらでは「固定観念」を使用する上で注意しなければならない点について解説します。これまで「固定観念」「固定概念」「既成概念」などの言葉についてご説明してきました。
正しい意味や使い方を踏まえて、どのようなシチュエーションで言葉を用いることが相応しいのかを考えてみましょう。
誉め言葉では使えない
「固定観念」という言葉は他人の考えを認めず、自身の考えに拘束されている状態を言うため、決してポジティブな言葉とは言えません。そのため実際に「固定観念」を日常やビジネスシーンで使う際、言葉にマイナスのイメージが伴うことを踏まえて用いることが重要です。
相手を賞讃したり、相手の考えを尊重したりするような場面に相応しい言葉とは言えません。強いて言えば、「固定観念を捨てる」「固定観念を壊す」などの言葉は少し他人の考えに向き合おうとする姿勢が表れている言葉です。しかし、いずれの言葉も誉め言葉として使用することは難しいでしょう。
「固定観念」と「固定概念」の英語表記
こちらの項目では「固定観念」と「固定概念」の英語表現についてご説明します。ここでもカギとなるのは「観念」と「概念」という言葉です。実際にどのような使い方ができるか、それぞれ例文と併せて解説しています。
「固定観念」の英語表記
「固定観念」を英語で言い換えると “stereotype” や “a fixed idea” と表現することができます。例文を挙げると “You had better do away with outdated stereotype.” 「時代遅れの固定観念は捨てた方が良い。」、“She wants to change such a fixed idea”「彼女はそのような固定観念を変えたい。」
“stereotype”とは他にも「(独創性を欠いた)典型、決まり文句」といった意味があります。“a fixed idea”は「固着観念、定着観念」という意味があります。ちなみに「観念」を英語では “idea” や “sense”という言葉で表現ができます。
「固定概念」の英語表記
一方で「固定概念」の「概念」は “concept” や “general idea” のような言葉で表現ができます。使い方としては “I’d like to share with you the concept of universe.” 「宇宙という概念について共有させてください。」
“I think you got the general idea of this project.” 「このプロジェクトの概要(概念)を理解できたと思います。」のような表現があります。
“concept”とは他にも「(独創性を欠いた)典型、決まり文句」といった意味があります。“general idea”は「一般概念、要項、大意」という意味があります。ちなみに「既成概念」は英語で “stereotype” “preconceived idea”のような言い回しが可能です。
「固定観念」は「強く思い込んでいて簡単には変えられない考え」という意味
今回は「固定観念」という言葉に関する正しい意味や使い方、対義語・類語、また「既成概念」という言葉の意味、使い方をはじめ、誤用しやすい表現や「固定観念」と「固定概念」の違いについて解説してきました。
堅苦しいイメージの強い言葉が多く出来てなかなか飲み込むのが難しいところもありましたが、「観念」と「概念」の言葉の意味が特に重要なキーワードとなりました。「固定概念」や「既成観念」のような誤用は、漢字や言葉の意味を十分に理解していないが故に起こります。
言葉の意味が混同しそうになった際は言葉を分けて意味合を考えてみると判別しやすくなります。日頃のこのようなちょっとした努力の積み重ねこそが正しく美しい日本語を習得する一番の近道なのではないでしょうか。