「打診」の意味とは?
「打診」はビジネスシーンで日常的に使われる言葉です。「人事を打診する。」「契約内容を打診しておく。」など、あまり意識しないで普通の使い方をします。じつは「打診」には二つの意味と使い方があります。「医者の診察行為」としての「打診」とビジネスシーンで「相手の意向をあらかじめ調べる行為」としての「打診」です。
医者が患者の背中をたたいて診察する
「打診」のもともとの意味と使い方はこちらです。「打診」とは医者が指や打診器を使って患者の体の一部をたたき、帰ってくる音で体の内部の状態を調べる診断行為です。
いきなり体の中を切り開いて見ることはできませんので、帰ってくる音という間接的な情報で体の状態をある程度事前に判断するのです。もちろん、疑いが生じた場合には、もう少し直接的な方法で精密な検査をすることもあります。
「打診」の「打」は「たたく・うつ」と言う意味で、「診」は「みる・調べる」という意味ですから、「打診」とはこの二つの漢字が合わさって、「医者がたたいて体の状態を調べる」という意味の使い方になるのです。
相談する・話をもちかける
「打診」は医者の診断行為から転じてビジネスシーンなどにおける「相談する」「話を持ちかける」意味の使い方をするようになりました。ビジネスシーン以外のプライベートな交渉などでも使われることが珍しくありません。
医者の診断行為としての「打診」が間接的な事前検査の意味合いを持っていますので、それが転じたビジネスシーンにおける意味においても、「ニュアンスを事前に探る」をいう使い方をします。正式な何かのアクションを起こす前の行為として、「打診」を理解しておきましょう。
「お願い」する意はあまりない
「打診」したり、されたりする場合に気をつける必要があるのは、「打診」は「依頼」や「お願い」の意味を持たないということです。「打診」する方はこれからの自らの行動方針を必ずしも明確に決めていません。「打診」は方針を意思決定するための事前探査としての使い方をします。
これを間違うと「打診」する側とされる側に誤解が生じ、場合によっては大きなトラブルになる可能性すらあります。気をつけましょう。
「打診」の類語とは?
「打診」の基本的な意味がわかったところで、次に「打診」の類語を見てみましょう。ビジネスシーンにおける交渉は微妙なニュアンスのやりとりがポイントになります。探りを入れたり、押したり、引いたりしながら落としどころを探っていくのが一般的です。
そのためには、「打診」や「打診」に関する類語表現をしっかりマスターする必要があります。これらの表現のニュアンスの違いを意識して、日常の交渉などに活用しましょう。
是非を問う
「是非を問う」は「打診」の類語表現の一つですが、「打診」とは少しニュアンスの違いがあります。「是非」は「よいか悪いか」の意味ですから、「是非を問う」はYes/Noの判断を求める直接的なニュアンスが強い表現になります。
Yes/Noの判断を問うためには、問うこちらの方が一定の明確な提案をする必要があります。つまり何らかの意思決定が既になされていて、それに対する判断を求めているのです。こちらのスタンスが未だ流動的で、相手の反応を探っている「打診」とは異なる意味合いがあります。
賛否を問う
「賛否を問う」も「是非を問う」と同様「打診」の類語表現といえます。「賛否」と「是非」の違いはほとんどありませんので、意味もほぼ同じと考えてかまいません。
ただ、使い方としては、「賛否を問う」が個々の案件のYes/Noを問うのに対して、「是非を問う」の方はどちらかといえば、大きなテーマについてのYes/Noを問う場合が多いことに注意が必要です。
意見を求める
「意見を求める」も「打診」の類語表現の一つです。「是非を問う」や「賛否を問う」よりも少し柔らかい表現です。「是非を問う」や「賛否を問う」がどちらかといえば、反応としてYesを期待しているのに対して、「意見を求める」の方は中立的で客観的な反応を探ろうとしています。
「打診」の反対語とは?
「打診」の類語表現を見てきました。では、「打診」の反対語はどうでしょうか。実は「打診」に関する明確な反対語はありません。「打診」とは「意向を伺う」「相談する」といった相手の意思を尊重しようとする意味合いを持ちますので、相手の意思を尊重しない言葉を反対語の意味で使うことは可能です。
例えば、「強要する」や「有無をいわさず」などを「打診」の反対語の意味で使うことができます。
「打診する」のビジネスシーンの意味とは?
「打診」はビジネスシーンで日常的に使われる言葉です。「打診」の一般的な意味や類語表現が理解できたところで、次に実際にビジネスシーンで使われる場合の意味合いを見ていきましょう。「打診する」場合も、「打診される」場合も、その意味合いを正しく理解しておかないと、お互いの意思疎通がうまくいかない可能性がありますので、注意しましょう。
相談の要素が強い
「打診」を実際に使う場合に注意したのは、「打診」はあくまで「事前の相談」「意向確認」をする行為だということです。中立的なスタンスで相手の反応を見ようとする行為です。反応が前向きのこともありますし、否定的なこともあります。
「打診」は複数の案を持っていたり、必ずしも明確な意思決定がなされていない状態で行われます。「打診」を受ける方はそれを意識してどのような対応をするか検討する必要があります。あたかも何かを依頼されたと受け止めるのは間違いです。
正式な依頼ではない
「打診」は正式な「依頼」や「お願い」ではありません。「依頼」や「お願い」の場合はこちらの意向が決まっており、それに対してYesの反応を期待する行為です。「打診」の方は相手の反応を探る行為ですから、Yes/No両方の可能性が念頭にあります。
「打診」される方もニュートラルな姿勢で対応を検討する必要があります。相手の提案に沿えない可能性があるのであれば、率直に相手に伝える方がよいでしょう。相手はその反応を考慮して代替案を示してくる可能性があります。
拒否される可能性を考慮
「打診」は中立的に相手の反応を探る行為ですから、相手から否定的な反応が返ってくることを当然想定する必要があります。別の見方をすれば、相手から肯定的な反応が帰ってくることがほぼ予想されるのであれば、「打診」する必要はありません。
したがって、「打診」する場合は相手から否定的な反応があることを想定して、代替案や別の選択肢を必ず準備しておく必要があります。そうすれば、これからの正式な交渉の場において、双方がスムースに折り合えるベストな案を提示することが可能になります。
「打診」という行為はビジネスシーンにおいて、正式な交渉をスムースに進めるための必要不可欠な準備行為と理解することができます。
「打診する」のビジネスシーンでの使い方
「打診」のビジネスシーンにおける意味まで見てきました。ここからは応用編です。ビジネスシーンで起こる様々なケースで、どのように「打診」していけばよいのか、例文をまじえて実践的に解説していきます。別なシーンへの応用も可能ですから日常の活動にご活用ください。
例文:人事について異動の打診をする
人事異動はビジネスマンにとって一大事です。勿論組織にとっても組織全体のパフォーマンスに影響する重要事項です。したがって人事異動が行われる場合、いきなり辞令が出るということもありえますが、スムースに人事異動が行われるように、通常は何らかの形で「打診」が行われます。
「営業部の底上げを図る必要があるので、今度の人事異動で企画部で実績をあげた君に営業部の方に移ってもらうことになると思うので、そのつもりで。」
人事異動は必ずしも本人の了解をえて行われるものではなく、組織の方針や計画に基づいて行われるものです。したがって、人事を「打診」する場合は、相手に了解を求めるような表現にならないように気をつけます。例文では、方針を伝えつつ、それとなく本人の反応を見ようとしています。
例文:会議の日程を打診する
会議やミーティングはビジネスシーンでは毎日のように行われます。会議やミーティングを開催するにあたっては、時間と人数を事前に把握して、会場を抑えたり資料の準備をする必要があります。そのため、参加予定メンバーに参加の可否を事前に「打診」しておく必要があるのです。
会議などへの参加の可否を「打診」するにあたっては、メールによる方法と電話による方法があります。一斉メールの方が便利ですが、より丁寧なのは個別に電話で都合を「打診」します。以下に例文を示します。
「この度懸案のA社との業務委託契約の詳細について、関係者で会議を開きたいと考えています。○○日、△△日、□□日を候補として想定しているのですが、ご都合は如何でしょうか。」
例文:転勤について打診された
サラリーマンであれば、転勤を命じられることは希(まれ)ではありません。グローバル企業の場合は海外への転勤もあります。転勤は本人だけでなくその家族にとっても一大事です。引っ越しを伴いますし、奥さんのパートの問題や子供の学校の問題もあります。
このため、転勤の場合は通常の人事異動よりもかなり前に本人に「打診」が行われるの一般的です。この場合の「打診」は本人の意向をさりげなく探るのと同時に、様々な準備期間を与えるために行われます。以下は転勤の「打診」を受けた場合に返す返事の例文です。
「そういうことであれば喜んで行かせて頂きたいと思いますが、一度家族とも相談させてください。」どうしても転勤できない特別な理由が発生する可能性もありますので、返事にワンクッションおくのがベターです。
「打診する」のメールでの使い方
会議の日程を調整する場合、個別に電話で日程を「打診」するのがより丁寧ですが、少し面倒です。スピィーディに調整を進めるためには、一斉メールで参加メンバーに「打診」するのが一般的です。メールの場合には相手に失礼にあたらないように表現に留意するとともに、BCCを使って個々のメールアドレスが漏れないような注意も必要です。
強制的にならない内容にする
「打診」はあくまで「依頼」ではなく「事前の意向伺い」です。決して強制的になってはいけません。「いついつ会議を開催することになったので、参加できるかどうか連絡してください。」というような伝え方は「打診」ではなく「依頼」と見なされ、勝手なセッティングに対して相手に不快な思いをさせることがありますので気をつけましょう。
会議の日程を打診するメールの例
次に実際に会議の日程調整するため、社外のメンバーにメールで「打診」する場合の例文を見てみましょう。
「御社との業務委託契約に関する打ち合わせの日程に関しまして、ご相談いたしたく連絡させて頂きました。誠に勝手ではありますが、弊社の都合が付く日時を以下のとおり記載いたしました。御手数をおかけしますが、ご都合のよい日時を教えて頂ければ幸いでございます。会議は1時間程度を予定しております。会議の詳細については別紙のとおりです。」
会議内容・日時の記載だけでは強制的
会議の日程の「打診」であっても、会議内容と日時だけ連絡するのはぶしつけで強制的になる可能性があります。文章はできるだけ丁寧さを心がけましょう。上の例文では省略していますが、文頭に時候の挨拶や日頃お世話になっていることなども付け加えると丁寧です。
また、文末にはいつ頃までに返事をもらいたいのかや、どの候補日も都合が悪い場合は、その旨知らせてくださいなどの文言も付け加えましょう。
日時は複数提示する
「打診」は「依頼」ではありませんので、一方的に特定の日時をこちらで指定して参加の可否を問う形は避けるべきです。できるだけ複数の日時を提示して相手側の選択の余地を残しましょう。もし、いずれの候補日も好ましくなければその旨連絡をもらって、また改めて別の候補日を提示するようにしましょう。
会議内容の詳細も記しておく
電話と違ってメールで会議日程を「打診」する場合は、疑問点についてお互いにキャッチボールすることができませんので、会議の内容に関してもできるだけ詳しく説明しておく必要があります。会議の名称だけでは十分に内容がわからない場合が多いものです。メールを受け取る側の立場になって考えましょう。
「打診される」のビジネスシーンの意味とは?
これまで主に「打診する」側に立って見てきましたが、次に「打診される」側に立った場合に、「打診」をどのように受け止める必要があるのか見てみましょう。受け取ったメールが「単に意見を聞かれているのか」それとも「何らかのお願いをされているのか」によって、とるべき対応が変わってくるのはいうまでもありません。
意向を聞かれている
「打診される」ということは、既にその内容が決定的になっているのではなく、その提案に対して何らかの反応を探られていると考えるべきです。言い換えれば意向を聞かれているのです。可否の返事だけなく、自分としてはこのように考えていると率直に反応するのが適当です。
相談されている
相手側に迷いがある場合に、「打診」を受けるケースがあります。相手側が複数のオプションを持っていてどちらにするか迷っているような場合です。これらの場合の「打診」は「相談されている」と理解すべきです。正式なオファーの前の事前相談なのです。あくまでも相談ですから、こちらも決定的な返事をする必要はなく、感触を伝えるようにします。
できるだけ早く返答する
「意向を聞かれている」にしろ「相談されている」にしろ、「打診」を受けるということは、相手側は何らかの反応を期待しています。その反応によって相手側は次のアクションを起こそうとしているのです。したがって、「打診」を受けたらできるだけ早く反応を相手に返してあげるように心がけましょう。その後の交渉やセッティングがスムースになります。
「打診」の英語表現とは?
「打診」という行為はビジネスシーンでもプラベートでも英語圏を含めて万国共通ですから、当然英語にも同様な意味の表現があります。ここでは「sound」と「offer」という英語表現を取り上げます。どちらも「サウンド」「オファー」として、既に日本語化している英語表現です。日本のビジネスシーンで普通に日本語として使われます。
sound
「sound」は英語で相手に「打診」するときの最も一般的な表現です。「sound」には「音」そのものの意味のほかに、「どのような音がするかか試してみる」という意味があります。この意味が一般化して「相手の意向を確認する」「話を持ちかけてみる」という「打診」の意味で一般的に使われている英語表現です。
offer
「offer」も「打診」の意味で使われる英語表現です。「offer」の方は「申し出る」「提案する」といったニュアンスが強い英語表現で、「sound」よりもこちらの意向が明確な場合に使われます。「offer」は日本語で「オファーする」といった形で、英語と同じ意味の使われ方をします。
「打診する」とは相談を意味する言葉
「打診」の正しい意味やビジネスシーンでの使い方を例文もまじえて解説しました。「打診」は「依頼」ではなく、事前に「相談する」場面で使う表現です。英語表現にも似た意味の言葉が複数ありました。
「打診」する場合には、相手の立場に立ってできるだけ丁寧に、また相手が的確な対応ができるよう必要な情報を詳しく伝えることがポイントです。「打診」を正しく理解して、スムースなビジネスに活用しましょう。