「ひとえに」の意味
謝罪や感謝を伝えるシーンでよく耳にする「ひとえに」。皆さんは古文の平家物語にも登場する「ひとえに」の正しい意味や使い方をご存知でしょうか?以下では「ひとえに」の意味や語源、類語や例文を紹介し、気になる英語表現も確認していきます。まずは「ひとえに」の意味や漢字で書くとどんな字なのかをみていきます。
ただそのことだけで他には理由はないさま
「ひとえに」の意味はいくつかありますが、その中の1つに「ただそのことだけで他には理由はないさま」があります。また「ひとえに」には「もっぱら」「一途に」という意味もあります。そのため「ひとえに」は、何かの事柄において理由が他になくそれだけであることを強調したいシーンで使われます。
ただそのことだけするさま
「ひとえに」のもう一つの意味は「ただひたすらにそのことだけを〜する」です。「ひとえに〜する」は古い表現なので、日常的にもビジネスの場面でもほとんど使われることはありませんので、使用することはできます。しかし、相手に堅い印象を抱かれる可能性が高いので使用シーンには注意が必要です。
漢字で書くと「偏に」
「ひとえに」は漢字では「偏に」と書き表されます。ただ、この漢字を「ひとえに」と読めることを知っている人は少数派なので、一般的にはひらがなで「ひとえに」と表記されます。
よくある間違いは、「それだけで他と重ならないこと」を意味する「一重に(ひとえに)」という漢字です。副詞「偏に」と名詞・格助詞で成り立つ「一重に」とでは意味が異なるので、混同しないように注意が必要です。
「ひとえに」の意味【語源】
ここまで「ひとえに」の辞書的な意味や漢字表記を紹介してきました。「ひとえに」は「偏に」と漢字で書き表され、「ただそれだけをする」というような意味があることが分かりました。そんな「ひとえに」は実は、古文にも登場する古い言葉です。ここでは、古文の平家物語に登場する「ひとえに」の一節を紹介し「ひとえに」の語源を探っていきます。
古文表記では「ひとへに」
「ひとえに」は古文表記では「ひとへに」で、現代の「ひとえに」の語源となっています。古文上記「ひとへに」の意味は現代と同じで「それだけで他に理由がない」です。この「ひとへに」は有名な古文「平家物語」の一節にも登場します。次に「平家物語」に登場する「ひとへに」の含まれた一節と意味を紹介していきます。
平家物語りの一節
「平家物語」とは平安時代に滅びた平氏という一族の栄華と滅亡が描かれた軍記物語で、鎌倉時代に作られました。その平家物語の中に「偏に風の前の塵に同じ」という一節があります。
意味は「もっぱら風に飛ばされる塵と同じ」です。平家の栄華が儚く脆いものであった様子が表現されており、平家物語のテーマである諸行無常と盛者必衰がよく表されている一節となっています。
「ひとえに」の意味【類語】
ここまで「ひとえに」の意味や漢字表記を紹介し、漢字で表現すると「偏に」となり読める人が少ないことから現代ではひらがなで表記されていることが分かりました。また「ひとえに」の古文表記や有名な古文「平家物語」の一節から「ひとえに」の語源についても探ってきました。次に「ひとえに」の類語をいくつも紹介していきます。
ただそのことだけをするの意味の場合
「ひとえに」にはどのような類語があるのでしょうか?ここでは「ひとえに」の類語を紹介していきます。まずいくつかの意味を持つ「ひとえに」ですが、その中の1つ「ただそのことだけをする」を意味する場合の類語「ひたすらに」「ただただ」「他でもない」について、それぞれの意味や例文をみていきます。
ひたすらに
「ひとえに」の類語1つ目は「ひたすらに」です。「ひたすらに」は「ひたむき、ただそればかり、すっかり」という意味を持ちます。「ひたすら」の例文を紹介すると次のとおりです。「他に手の打ちようがなかったので、取引先にひたすら謝った」や「問題をひたすら解き続けて、やっと答えを導き出した」という使い方が出来ます。
ただただ
「ひとえに」の類語2つ目は「ただただ」です。「ただただ」は「ただを強調する言葉、ひたすら、それだけで他でないこと」という意味を持ちます。「ただただ」の例文を紹介すると次の通りです。「ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいです」や「彼女はただただ下を向いていた」という使い方が出来ます。
他でもない
「ひとえに」の類語3つ目は「他でもない」です。「他でもない」は内容を強めに言いたい時に「別のことではない、まさにそれである」という意味で使われます。
「他でもない」の例文を紹介すると次のとおりです。「私は他でもないあなたがこの仕事を行うべきだと考えている」や「今日みんなに集まってもらったのは、他でもない例のプロジェクトについて話し合うためだ」という使い方が出来ます。
他に理由がないの意味の場合
ここまで「ひとえに」の「ただそのことだけをする」という意味を持つ場合のいくつか類語を紹介し、それぞれの意味や例文をみてきました。次に「ひとえに」のもう1つの意味である「他に理由がない」の意味を持つ場合の類語「専ら」「一途に」について、それぞれの意味や例文を紹介していきます。
専ら
「ひとえに」の類語4つ目は「専ら(もっぱら)」です。「専ら」は「それを主として、そのことばかり」という意味を持ちます。「専ら」の例文を紹介すると次の通りです。「今日の日中は専ら研究ばかりに費やした」「昨夜の飲み会はもっぱら部長の独演会だった」という使い方が出来ます。
一途に
「ひとえに」の類語5つ目は「一途に」です。「一途に」は「一筋に、他を省みることなくひとつのことだけ」という意味を持ちます。「一途に」の例文を紹介すると次の通りです。「彼は一途に彼女を思い続けている」「彼は一途に仕事に励んできたせいか、一気に疲れが出たようだ」という使い方が出来ます。
「ひとえに」の使い方①
ここまで「ひとえに」の意味や語源を紹介し、類語の意味や例文を紹介してきました。ここで「ひとえに」はどのような使われ方をするのが良いのでしょうか?「ひとえに」といえば、感謝の気持ちを述べるシーンや謝罪の場面で使われているイメージがあります。次に「ひとえに」の使い方について、例文とともに紹介ししていきます。
感謝の気持ちの例文
まず紹介するのが感謝の気持ちを使えるときに使われる「ひとえに」です。感謝の気持ちを伝えるシーンで「ひとえに」という言葉は「ただただひたすらに感謝している」という意味で使わます。次に、感謝の気持ちを伝えるシーンで使われることが想定される「ひとえに(偏に)」を使った例文を紹介していきます。
偏に皆様方のお力添えがあったからです
こちらは「ひとえに(偏に)」を使った例文1つ目です。例えば、プロジェクトの成功を記念したパーティーのスピーチなどで想定される例文となっています。この場合「皆様方のおかげで」という部分よりも、皆様方に「感謝している」ということを強調して伝えている表現となっています。
成功したのは偏に先生のご指導のおかげです
こちらは「ひとえに(偏に)」を使った例文2つ目です。お世話になった恩師に感謝の気持ちを伝えたいときに使われることが想定される例文となっています。社会人になってからしばらく会っていなかった恩師に、このように述べて感謝の気持ちを伝えれば、きっとあなたの感謝の想いが恩師にも伝わることでしょう。
謝罪の気持ちの例文
「ひとえに」という言葉は感謝の気持ちを伝えるシーンだけでなく、謝罪する場面でも使用されます。謝罪する場面で使われる「ひとえに」は、謝罪したいことを述べるときに「理由が他になくそれだけである」ことが表現されます。次に、ビジネスシーンなどで使われることが想定される「ひとえに(偏に)」の例文を紹介していきます。
偏に私の不徳の致すところです
こちらは「ひとえに(偏に)」を使った例文3つ目です。ビジネスシーンで自分がミスした時に使われることが想定される例文となっています。「私」の間違いに「他ならない」という、全面的に自分が悪いという意味になります。仕事で失敗してしまったとき、自分の全責任を認めて謝罪を述べたい時には「ひとえに」を使うのが最適でしょう。
弊社の力不足で偏に不徳の致すところです
こちらは「ひとえに(偏に)」を使った例文4つ目です。こちらはビジネスシーンで自分の会社の力不足を認めて、取引先や顧客に謝罪するときに使われることが想定される例文です。この例文のように「ひとえに」という言葉は「他に理由がなくそれだけ」という意味なので、全面的に自分の企業に非があるときに使うようにしましょう。
「ひとえに」の使い方②
「ひとえに」の使い方①で、感謝の気持ちを伝えるときや謝罪するときの「ひとえに」の使い方について、例文や意味、使用が想定されるシーンを紹介していきました。実は、感謝の気持ちを伝えるシーンや謝罪シーン以外にも「ひとえに」という言葉が使われるシーンがあると言われています。
その他の「ひとえに」の使用シーン
「ひとえに」のその他の使い方についてみていくと、否定的な意味で使用する「偏に〜と言っても」と、お願いするときに使う「ひとえによろしくお願いします」です。ここでは、この感謝の気持ちを伝えるシーンや謝罪シーン以外に使用されるその他の使い方の「ひとえに」の例文や意味などを紹介していきます。
ひとえに〜と言っても
「ひとえに」のその他の使い方1つ目「ひとえに〜と言っても」の意味は、「〜とばかり言っても異なるものもあるかもね」です。想定される使用シーンは、相手がある事柄に関して、すべてを同一視して言い表した時、その発言を否定する意味で使用されます。
例文を紹介すると「ひとえに新しい製品を導入しようと言っても、使い勝手の良くないものもあるよ」という使い方ができます。新しい製品の導入を進める話し相手に対して、新しい製品の中には使い勝手の悪いものもあるかもしれないと、相手の意見を否定する意味で使用されています。
ひとえにお願いします
「ひとえに」のその他の使い方2つ目は「ひとえにお願いします」で、ただそのことだけをする様子を意味しています。想定される使用シーンは、相手にお願いすることが他にないほど、そのことだけを切にお願いする場合です。
例文を紹介すると「今後ともぜひご贔屓のほど、ひとえにお願いします」という使い方ができます。「お願いする」ということを強調した表現となっています。
「偏に」と同じ読み「単に(ひとえに)」の違い
ここまで「偏に(ひとえに)」の意味や類語を紹介し、古文から語源をみてきました。さらに「ひとえに」の使い方や例文なども紹介してきました。
実は「偏に」「一重に」以外にも「ひとえに」と読む単語があります。それは普段目にすることが多い漢字である「単に」です。ここでは「単に(ひとえに)」の意味や例文を紹介し「偏に」との違いをみていきます。
「単に(ひとえに)」の意味と例文
「単に」は通常「たんに」と読みますが、実は「ひとえに」と読むこともあります。「ひとえに」と読んだときの「単に」の意味は「とりたてて言及の必要もない、単純に、ただ」です。このように「単に(ひとえに)」と「ただそのことだけ」を意味する「偏に(ひとえに)」とでは、同じ読み方をしてもそれぞれの意味は全く違うものとなっています。
「単に(ひとえに)」の例文を紹介すると「単にそのように述べただけで、全く深い意味などありません」という使い方ができ、意味は「ただそのように言ってみただけで、とりたてて言及するほどの深い意味などない」となります。
「ひとえに」の英語表現
ここまで「偏に(ひとえに)」という言葉の意味や類語を紹介し、古文から語彙を考察したり、使い方や例文などを紹介してきました。そして、同じ読みをする「単に(ひとえに)」との違いを紹介してきました。最後に「偏に(ひとえに)」は英語でどのように表現するのでしょうか?次に「ひとえに」の英語表現を紹介していきます。
all thanks to
英語「all」の意味は「すべて、全部の、全体の、あらゆる」です。英語「thanks to」の意味は「〜のおかげで、〜のために」です。「thanks to」は何か良い状態になったことに対して、そのきっかけを与えてくれた人やものに、感謝の気持ちを述べるときに使用されることが多く「to」の後には名詞か代名詞が置かれます。
合わせて「all thanks to」は「すべて〜のおかげで」となり、感謝の気持ちを伝えたい時に使用される「偏に(ひとえに)」と同じ意味になります。
entirely due to
英語「entirely」の意味は「完全に、まったく、全体的に、完全に、ひたすら、専ら」です。英語「due to」は「〜のために、〜の結果、〜が原因で」です。いくつかの意味を持つ「due to」ですが、理由や原因を表現する「due to」は失敗や事故、怪我や事件など予期していなかった事態やネガティブな理由を述べたいときに使用されます。
また「due to」はビジネスシーンや論文に適したフォーマルな表現とされています。合わせると「entirely due to」は「完全に〜が原因で」となり、「all thanks to」と違ってネガティブな理由を述べたい時に使用されます。
totally because of
英語「totally」の意味は「全く、すっかり、何から何まで、完全に、全体的に」で「because of」の意味は「〜のために、〜のせいで」です。英語「because of」の後ろには必ず名詞が続くので注意が必要です。
また「because of」はポジティブな理由を述べたいときでもネガティブな理由を述べたいときでも両方使用することが出来ますが、学校などでは「thanks to」と比べてネガティブな内容の例文で習うことの方が多いです。合わせると「totally because of」は「何から何まで〜のために」となり「all thanks to」と同じような意味で使うことができます。
「ひとえに」は一つのことに没頭するという意味
今回は「ひとえに(偏に)」の意味についてみてきました。語源をみていくと古くは古文の「平家物語」の一節にも登場し「ただそれだけのこと」という意味があることが分かりました。また「ひとえに」の類語や使い方、例文なども紹介し、英語ではどのように表現するのかもみてきました。
感謝の気持ちを伝えたい時や謝罪シーンで使用されることの多い「ひとえに」という言葉。ぜひその意味や使い方を理解し、実際に使ってみて下さい!