住宅ローンの繰り上げ返済とは?
住宅を購入する際、住宅ローンを組んで、数年あるいは数十年かけてローンを返済していくことが一般的です。住宅ローンを組む際は、組む時点の収入や家庭状況に見合った資金計画としますが、時間が経つに連れて、昇給や家庭状況の変化によって、余裕資金ができることがあります。この資金によってローンの一部を返済することを、繰り上げ返済と言います。
この記事では、住宅ローンの繰り上げ返済をするメリットとデメリットに加えて、繰り上げ返済を行うのに適したタイミングやコツについて解説します。また、住宅ローン控除と繰り上げ返済の関係についても説明します。
毎月の返済額とは別に返済すること
余裕資金ができた時に、その資金を使って繰り上げ返済を行いますが、繰り上げ返済は、毎月の返済とは別となります。毎月の返済は、ローンの元金に加えてローンの利息を返済しています。これに対して、繰り上げ返済では、当初の計画に無い返済になりますので、ローンの利息を払うことはなく、ローンの元金のみを返済しています。
つまり「毎月の返済+繰り上げ返済」になる
つまり、繰り上げ返済を行う月については、「毎月の返済」に加えて、「繰り上げ返済」で支払う金額を、住宅ローンを借り入れた金融機関に対して支払います。当然、繰り上げ返済を行う月は住宅関係の支払いが大きくなりますので、あくまで余裕資金で繰り上げ返済すべきです。
住宅ローンを繰り上げ返済するメリット
ローンの一部を繰り上げ返済することで、一時的な支出は多くなりますが、そうまでするメリットがあります。住宅ローンの繰り上げ返済については、「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類に分かれます。それぞれどのような特徴があるのかは後述しますので、ここでは住宅ローンを繰り上げ返済することのメリットについて、まず解説します。
メリット①利息を軽減できる
繰り上げ返済を行った場合、本来支払うべきだった利息を軽減することができます。繰り上げ返済をすることで、ローン元金自体が少なくなります。ローン利息は、ローン元金に対するローン金利で支払う金額が決定しますので、ローン元金が少なくなれば、ローン利息も少なくなりますので、利息が軽減できるというわけです。
メリット②金利が高いほど得をする仕組み
繰り上げ返済は、住宅ローンを借りる際に決定した金利が高ければ高いほど、より効果を発揮します。先にの述べたように、ローン利息はローン元金に対するローン金利によって決定します。金利が高ければ高いほど、軽減することのできる利息は大きくなります。
ただし、ローン金利が低ければ効果が無いというわけではありません。たとえローン金利が、現在のような長期固定金利でも1%強、変動金利に至っては0.5%前後であっても、繰り上げ返済するのとしないのとでは、ローンの総支払額に大きな違いが出ます。
メリット③家計が安定しやすい
繰り上げ返済の方法によっては、毎月支払う住宅ローンの金額を下げることができます。「返済額軽減型」と呼ばれる方法です。これによって、毎月の住宅ローン支払いを軽減できますので、経済的に安定します。
住宅を購入するタイミングは結婚や出産などが多いですが、これは教育費や生活費が嵩むタイミングでもあります。そんな中、少し余裕資金ができた時に繰り上げ返済を行うことで、住宅ローンの支払いを軽減でき、家計が安定するというメリットを得られます。
住宅ローンを繰り上げ返済するデメリット
住宅ローンの繰り上げ返済によって得られるメリットについては述べたとおりですが、デメリットも存在します。デメリットについても良く理解した上で、繰り上げ返済を行うかどうかを検討してください。
また、最後で述べますが、住宅ローン控除を受けている方は、住宅ローン控除との兼ね合いで、支払う利息が減っても受けられる控除も減る、といったことが発生します。住宅ローン控除についてわからない方は、章末のリンクについてもご覧ください。
デメリット①手元資金が少なくなる
住宅ローンの繰り上げ返済を行うことのデメリットの1つは、手元の現金が少なくなることです。50万円、100万円といった金額を繰り上げ返済に充てると、その分を現金で支払うことになりますので、手元資金が少なくなります。そのため、繰り上げ返済は当分使う予定の無い、余裕資金で行う必要があります。
住宅を購入したタイミングというのは、結婚や出産など、出費が増えるタイミングでもあります。そういった時期に手元資金が少なくなってしまうのは、大きなデメリットです。
急に病気や収入が減った時に困る
また、急な病気によって一時的にまとまった現金が必要となったり、病気やケガによって一時的に収入が減ってしまった際にも困ります。余裕資金を使って繰り上げ返済していたとしても、手元資金が少なくなっているため、現金が不足したり、足りないまで行かずとも少なくなることで不安になったりもします。
余裕資金を全て使い切るのではなく、上記のようなケースも想定して、急な出費が発生しても当面は問題ない程度の手元資金を残すよう、繰り上げ返済することがコツです。
デメリット②手数料が発生することもある
最近は少なくなりましたが、繰り上げ返済に手数料が必要な金融機関も存在します。一回あたりの金額はまちまちですが、何度か繰り上げ返済することを考えている場合には、その分だけ手数料が発生してしまうデメリットがあります。
たとえ少ない金額から繰り上げ返済できたとしても、手数料が掛かってしまう場合は、何度も繰り上げ返済してしまうと、せっかくの利息軽減の効果が少なくなってしまいます。繰り上げ返済することを考えている場合には、手数料が掛からない金融機関を選ぶことがコツです。
住宅ローンを繰り上げ返済する2つの方法
続いて、住宅ローンの繰り上げ返済を行う際に選択できる、2つの方法について解説します。それぞれメリットが異なりますので、自分が繰り上げ返済を行う目的と照らし合わせて、適した方法を選ぶようにしてください。
利息軽減を目的とするなら方法①、家計安定を目的とするなら方法②となります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
方法①返済期間短縮型
返済期間短縮型の繰り上げ返済では、名前の通り当初設定した住宅ローンの借り入れ期間を短縮する繰り上げ返済となります。
分かりやすいように単純化すると、毎月10万円の返済をしている人が、120万円を繰り上げ返済すれば、1年分のローン返済を事前に行ったことになりますので、ローン借入期間が1年短縮できます(厳密にはもっと短くなります)。残り期間が25年であれば、繰り上げ返済することで24年に短縮されます。
ローンを借り入れる期間が1年短くなることのメリットは、短くなった期間分の利息を支払わなくて良くなるということです。例えば、当初は35年借りる計画だった場合、借り入れ期間が34年に短縮されれば、短くなった分の利息は支払わなくて良くなります。
返済期間が短くなり返済額は変わらない
この方法は、あくまで返済期間を短縮するための方法ですので、毎月の返済金額には変更がありません。上記のケースでは、繰り上げ返済後も毎月10万円を残りの24年間払う必要があります。その代わり、将来支払う予定だった利息は既に不要となっていますので、繰り上げ返済することで利息分の支払いが軽減されています。
方法②返済額軽減型
返済額軽減型は、毎月のローン支払いを減らすことができる方法です。ローン終了まで支払う予定だった毎月のローン支払いの一部を、繰り上げ返済によって事前に支払ってしまうことで、毎月のローン支払いを減らすことができます。
毎月10万円のローン支払いだった場合、返済額軽減型で繰り上げ返済することで、毎月9万5千円や9万円とすることができます。教育費や生活費の増大によって家計を見直す必要がある場合に、特にメリットが大きい方法です。
返済期間は変わらず返済額が下がる
返済額軽減型では、毎月のローン支払いは減りますが、ローン完了までの期間は短くなりません。事前にローン元金の一部を返済する形になるため、その分の利息は軽減されますが、期間は同じままですので、期間短縮型と利息軽減効果は少なくなります。
とはいえ、余裕がある時に毎月のローン支払いを減らすように繰り上げ返済しておくことで、将来の支出増大に備えることができるメリットがあります。
住宅ローンを繰り上げ返済するコツ
それでは、繰り上げ返済を行う際のコツについて紹介します。繰り上げ返済では、基本的に元金の一部を事前に支払うことで、利息を軽減させる効果があります。ローン借入の際、なるべく頭金を用意できたほうが、ローンの総支払額を頭金の差以上に少なくできるのと同じです。
この仕組みを踏まえて、住宅ローンを繰り上げ返済する場合にはどのようなコツがあるか見ていきましょう。
返済開始日に近いタイミングだと良い
コツは単純で、返済開始日に近いタイミングで繰り上げ返済するほうが、より利息の軽減効果を得ることができます。つまり、ローンを開始して10年後に繰り上げ返済するよりも、5年後に繰り上げ返済するほうが、より利息の軽減効果を高くできるコツです。
また、10年後にまとめて100万円を繰り上げ返済するよりも、5年後と10年後にそれぞれ50万円ずつを繰り上げ返済したほうが、繰り上げ返済で支払う金額は同じでも、利息の軽減効果は後者のほうが大きくなります。
元金にかかる利息を減らせる
なぜそうなるかと言いますと、繰り上げ返済では、元金の一部を事前に支払うことになるからです。元金が減るということは、減った分の利息を支払わなくて良くなることを意味します。
住宅ローンでは、借り入れ期間に応じた利息を事前に計算して、その分を毎月の支払いに平準化していますので、後からその利息の一部を支払わなくて良くなると、当初支払うべきだったローンの返済総額よりも少なくなります。
理由が分かってしまえば単純な話ですが、繰り上げ返済の効果をより高めるコツは、借り入れ開始からなるべく早くに行うことであると覚えておいてください。
繰り上げ返済した場合の利息をタイミングごとに解説
ここからは、具体的な借り入れ例から、繰り上げ返済のタイミングによって、どの程度利息が軽減されるかを見ていきます。繰り上げ返済の効果を確認する場合は、「総返済額」がどの程度かわるかを見ることが一般的です。
総返済額とは、金利と借入期間に応じた利息分を、元金と合わせた金額です。つまり、住宅ローンを当初の予定通りの期間で返済した場合に、金融機関に対して支払う金額となります。元金は借り入れ時点から変化しませんので、繰り上げ返済によって利息分がどのように変化するかで、総返済額も変わります。
借り入れの条件を指定して計算する
繰り上げ返済のシミュレーションをする場合は、まず借り入れの条件を指定します。当初借り入れた金額、金利、借り入れ期間が必須です。ボーナス加算を併用している場合は、それも指定します。もし当初借り入れた金額や金利が分からない場合は、金融機関から提供される償還予定表を見れば、必要な情報は載っています。
借入3000万・金利1.5%・ボーナス加算なし・返済期間35年の期間短縮型の場合
ここでは、3000万円を金利1.5%、ボーナス加算無し、返済期間35年で借り入れた場合で、繰り上げ返済を行うタイミングによって利息がどれだけ軽減されるかを見ていきます。繰り上げ返済を行わなかった場合、10年後に200万円を繰り上げ返済した場合、20年後に200万円を繰り上げ返済した場合の3パターンを解説します。
また、繰り上げ返済は期間短縮型とし、利息軽減の効果を最大限受けられるようにします。利息軽減に加え、繰り上げ返済を行うタイミングによって、返済期間がどれだけ短縮されるかも説明します。
【繰り上げ返済なしの場合】
まずは繰り上げ返済を行わなかった場合です。今回のシミュレーションでは、ボーナス加算がありませんので、毎月約9万円を、35年かけて返済することになります。この場合の総返済額は約3858万円となり、借り入れ金3000万円に対して、35年分の利息が約858万円となります。
軽減利息は0円
繰り上げ返済を行わないため、当たり前ですが軽減される利息は0円で、返済期間もまったく短縮されません。何らかの事情によって返済遅滞が無い限り、住宅ローンを組む際に金融機関から渡された、償還予定表通りに返済することになります。これに関しては何も問題はなく、住宅ローンを組む際の資金計画が非常に正確であったということになります。
【10年後に繰り上げ返済を約200万円した場合】
では、10年後に200万円を繰り上げ返済した場合はどうなるでしょうか。なお繰り上げ返済では、期間短縮型、返済額軽減型ともに、繰り上げ返済の原資を綺麗に使い切るようにするため、200万円を繰り上げ返済するつもりであっても、それより少ない金額の返済となります。今回の場合は、199.5万円を繰り上げ返済で使うことになります。
軽減利息は約85万円
10年後に約200万円を繰り上げ返済した場合、軽減される利息は約85万円となります。当初払う予定だった35年間の利息が約858万円だったことを考えると、およそ10%の利息が軽減されることになります。
また、返済期間は32年5ヶ月となり、2年7ヶ月も返済期間が短縮されることになります。200万円という金額を繰り上げ返済することは大変ですが、その労力に見合うだけの利息軽減と返済期間の短縮であると言えます。
【20年後に繰り上げ返済を約200万円する場合】
続いて、1つ目の例から更に10年経った、20年後に繰り上げ返済をする場合はどうなるでしょうか。繰り上げ返済では、繰り上げ返済した元金にかかる利息を軽減させるため、1つ目の例よりも利息の軽減度合いが少なくなります。
ちなみに、20年後に約200万円を繰り上げ返済しようとすると、201.4万円を繰り上げ返済することになります。
軽減利息は約46万円
20年後に約200万円を繰り上げ返済すると、軽減される利息は約46万円となります。10年後に約200万円を繰り上げ返済した場合は約85万円が軽減されるため、およそ半分の利息軽減にとどまってしまいます。
また、返済期間は32年9ヶ月となり、先程の32年5ヶ月からは4ヶ月長くなります。これは、軽減される利息分が少なくなっているため、短縮できる期間も少なくなっていることが原因です。
デメリットを抑えつつメリットを享受するコツ
住宅ローンの繰り上げ返済のデメリットは、一時的に手元資金が少なくなることでした。たとえ10年後に余裕資金が200万円用意できたとしても、それを全て繰り上げ返済に使うと、予想外に現金が必要になった場合に困ってしまいます。
そこで、10年後に200万円の余裕資金を用意できた場合に、上記の例よりもデメリットを抑えつつ、繰り上げ返済のメリットを享受することができる、繰り上げ返済のコツを解説します。
【10年後と20年後に繰り上げ返済をそれぞれ約100万円ずつする場合】
そのコツとは、200万円を2回に分けて繰り上げ返済する方法です。ここでは、10年後と20年後のタイミングで、それぞれ約100万円を繰り上げ返済する場合をシミュレーションします。
なお、この方法では、繰り上げ返済に手数料が掛からないものとして計算しています。もし借り入れた金融機関で繰り上げ返済に手数料がかかる場合は、その分を軽減利息から差し引いて比較してください。
軽減利息は約68万円
10年後と20年後にそれぞれ約100万円ずつを繰り上げ返済すると、軽減される利息は約68万円となります。10年後に約200万円を繰り上げ返済する場合と、20年後に約200万円を繰り上げ返済する場合の、ちょうど中間ぐらいになります。
また、返済期間は32年6ヶ月となり、10年後に約200万円を繰り上げ返済する場合とほとんど変わりません。20年後に約200万円を一括で繰り上げ返済するよりも、2回のタイミングに分けて繰り上げ返済したほうが、有利であることが分かります。
この例のように、10年後に200万円の余裕資金があっても、その半分だけを繰り上げ返済に充て、残りは手元に置くことが、デメリットを抑えつつ、利息軽減のメリットを享受するコツとなります。15年後や20年後に、余裕資金が増えたタイミングで再度繰り上げ返済を行えば、より安全にメリットを享受できます。
住宅ローン控除が繰り上げ返済よりもお得?
住宅ローンを組む上で忘れてはいけないのが、住宅ローン控除の存在です。実は住宅ローンの条件によっては、早い時期から頑張って繰り上げ返済するよりも、住宅ローン控除を活用したほうが得になるケースもあります。
住宅ローン控除を受けている方は、繰り上げ返済による利息軽減だけにとらわれず、繰り上げ返済による控除額の変化についても気を配りましょう。
住宅ローン控除とは?
そもそも住宅ローン控除とは、新たに住宅ローンを借り入れる場合、いくつかの条件を満たすことで受けられる住宅借入金等特別控除のことです。通称「住宅ローン控除」と呼ばれています。
住宅ローン控除を受ける条件を満たしている物件であれば、新築である必要はありません。初年度の申請には確定申告が必要ですが、その労力に見合うだけの控除が受けられます。住宅ローン控除の申請については、以下のリンクもご覧ください。
年末のローン残高の1%が控除額
住宅ローン控除では、年末時点のローン残高の1%が、所得税や住民税から控除されます。もし年末時点で3000万円の残高があれば、控除額は30万円となります。控除される期間は10年間(消費税10%増税後は13年間)です。
もし、先程の繰り上げ返済シミュレーションの住宅ローン(借り入れ3000万円、金利1.5%、ボーナス加算なし、返済期間35年)ですと、10年間の合計控除額は262万円にもなります。
金利が低い場合は住宅ローン控除を使うと良い
もし、1%未満の変動金利で10年程度の短い期間の住宅ローンを組んでいる場合、1年目から繰り上げ返済したことによる利息軽減よりも、繰り上げ返済せずに受ける住宅ローン控除の合計額のほうが、大きくなる場合もあります。
10年間で受けられる住宅ローン控除の合計額は、償還予定表の年末残高から簡単に計算できますので、繰り上げ返済をした場合の住宅ローン控除で受けられる控除額の変化をしっかり確認して、より効果のある方法を選択するようにしてください。
住宅ローンの繰り上げ返済を賢く使えばとてもお得!
以上が、住宅ローンの繰り上げ返済のメリットとデメリット、及び効果的な繰り上げ返済のコツとなります。繰り上げ返済は、住宅ローンの条件と繰り上げ返済のタイミングによっては利息軽減が多くなりメリットのある方法となりますが、手元資金が減るなどのデメリットもあります。
また、最後に紹介したような住宅ローン控除との兼ね合いもありますので、しっかりシミュレーションをして、賢く繰り上げ返済を活用しましょう。