嚆矢の意味とは?
「嚆矢」という意味をご存知でしょうか?嚆矢の言葉の存在自体知らず初めて出会った方も多い位に日常生活で見かける頻度が低い言葉です。「そもそも何て読むの?」「どんな場面で使うの?」そんな疑問にお答えしていきます。
まずは、「嚆矢」の読み方は「こうし」になります。意味は「ものごとのはじまり」を指します。その難しい漢字の割には、意味は覚えやすいシンプルなものです。
まずはこの読み方と意味を抑えつつ、「嚆矢」の類語・対義語にはどんな言葉が存在するか?「嚆矢」の使い方・例文、他の言語との違いや「嚆矢」の由来・歴史を紹介していきます。また「嚆矢」の英語、漢字表記についても触れていき、「嚆矢」の全貌に迫っていきます。
嚆矢の対義語・類義語
まずは「嚆矢」の対義語・類語についてご紹介していきます。嚆矢の意味は「ものごとのはじまり」という意味であるのは先述しました。この意味の対を成す対義語にはどんな言葉が存在するのでしょうか?
「嚆矢」の対義語として上げられる言葉は「終幕」「終局」などが挙げられます。多くの対義語の候補から敢えてこの2つの対義語を上げたの理由として「嚆矢」の本来の意味にちなんでいます。
「嚆矢」はもともと戦が会戦された際の「合図」としての言葉でした。この意味では、鏑矢(読み方:かぶらや)とも言います。
「嚆矢」が「鏑矢」の意味を持つ背景は後述の「嚆矢」の由来・歴史に譲りますが、「終幕」「終局」も単なる「おわり」を示している言葉ではなく、それぞれ別の意味が存在します。
「終局」は「終幕」ともに「ものごとのおわり」だけを指している言葉だけはなく、「終局」は「碁・将棋を打ち終わる事」を意味しており、「終幕」は「芝居・映画が終わる事」を意味しています。
上記2つの言葉は、具体的には「嚆矢」の由来・歴史で後述しますが、まずは他の具体的な物事で使われていた経緯があり、転じて「ものごとのおわり」の意味を指すようになりました。「嚆矢」と似た経緯を辿っています。
つぎは「嚆矢」の類語のご紹介です。この類語も「嚆矢」同様に、他の具体的な意味で使われていた過程を経ていることも考慮して「嚆矢」にふさわしい類語を決定することが理に適っています。
上記を鑑みて類語を探してみますと、「濫觴」「水端」という言葉をご紹介することができます。「濫觴」は読み方は「らんしょう」「水端」は読み方は「みずはな」と読みます。
「濫觴」の「觴」は「さかずき」。「大河も水源をさかのぼれば、さかずきを浸せるほどわずかな量」という意味で転じて「ものごとのはじまり」を指す意味を持ちます。例文で後述しますが、よく「嚆矢濫觴」という4文字熟語でも表現される言葉です。
「水端」は「水の出始めの時や部分。水量が増すはじめ」を意味しており、そこから転じて「ものごとのはじまり」という意味も持ちます。
「嚆矢」と同じような他の意味で使われていた経緯を持った言葉として、「嚆矢」の類語は「濫觴」「水端」という言葉を挙げさせていただきます。
嚆矢の使い方・例文
「嚆矢」の対義語・類語を見てきたところで、「嚆矢」が具体的にどのように使う事ができるのか?その使い方をご紹介いたします。
「嚆矢」は日常ではあまり見ない語句ではありますが、書籍・記事などの書き言葉としては多くの資料を確認する事ができます。
「ものごとのはじまり」で9字、「物事の始まり」で6字でありますが、「嚆矢」であれば2字で同じ意味を成す事ができる点では覚えておいて損はない言葉です。
現在でも現役で使われている言葉であるので、この機会で「嚆矢」を使いこなして、日常生活に活かしてもらえれば幸いです。
例文①
1つ目の例文・使い方は「日本その日その日」という書籍から。エドワード・S・モースという動物学者が著作した作品の中で、同じく動物学者の石川千代松が「01 序ーモース先生」という寄稿にて以下の文章が確認されています。
「学会の必要を説かれて、東京生物学会なるものを起されたが、此生物学会が又本邦の学会の嚆矢でもある」この文章の中の「嚆矢」は「はじめて」という意味でも間違い無いですが、「さきがけ」という意味に置き換えることもできるニュアンスです。
この「さきがけ」というニュアンスで表現する場合に、現代では、「この建物はこの地に多くの建造物が作られる嚆矢となった」などの例文・使い方で表現することができます。
例文②
2つ目の例文・使い方は「後世への最大遺物」という書籍から。内村鑑三というキリスト教思想家が著作した作品の中で以下の文章が確認されています。
「それでキリスト教の演説会で演説者が腰を掛けて話をするのはたぶんこの講師が嚆矢であるかも知れない(満場大笑)、しかしながらもしこうすることが私の目的に適うことでございますれば、私は先例を破ってここであなたがたとゆっくり腰を掛けてお話を〜」
上記文章の中で、「満場大笑」が起こったのは、内村鑑三が「講師」と「嚆矢」をかけて駄洒落を発したからです。この「はじめて」というニュアンスで表現する場合に、現代では、「この企画の嚆矢となった〇〇の部分を担当することができた」などの例文・使い方で表現することができます。
例文③
3つ目の例文・使い方は「満韓ところどころ」という書籍から。夏目漱石という小説家・英文学者が著作した作品の中で、以下の文章が確認されています。
「草木の風に 靡く様を戦々兢々と真面目に形容したのは是公が嚆矢なので、それから当分の間は是公の事を、みんなが戦々兢々と号していた。」
この作品の中では「嚆矢」の読み方は「はじめ」と読ませています。「嚆矢」を「はじめ」とよませているのは上記だけではなく、明治時代の当時の書籍では多く散見されています。
例えば小説家・俳人の尾崎紅葉の「硯友社の沿革」でも「私の見たのでは言文一致の小説は是が嚆矢(はじめ)でした」と「嚆矢」を「はじめ」と読ませています。このように「嚆矢」を「はじめ」と使い方も存在しています。
例文④
4つ目の例文・使い方は「嚆矢濫觴」という4文字熟語をご紹介します。「嚆矢濫觴」の「濫觴」の説明は類語で先述しました。
この4文字熟語はその書き方の難解さもあり、ビジネスシーンでもあまり使われることのない言葉ですが、スピーチや書面での挨拶状など、厳かなフォーマルな場面では、含蓄の富んだ言い回しが好印象にさせることもあるので、覚えておいて損はありません。
現代でつかえる例文・使い方としては「社長はこの会社の嚆矢濫觴から携わっていた唯一の人物だ」「先生には嚆矢濫觴の頃からお世話になっており、幸甚の至りです」
「嚆矢濫觴の時期から関わっているこの企画の成功に感無量だ」など目上の方や現在進行している仕事の内容まで、応用範囲は広いです。
嚆矢と鏑矢の違い
「嚆矢」が「鏑矢」であることは、意味でちょっと触れましたが、では「嚆矢」と「鏑矢」とはどんな違いがあるのでしょうか?
「嚆矢」の「嚆」は「鳴り響く、さけぶ」という意味があり、「鏑矢」の「鏑」も具体的には後述しますが、「なりひびく装置」としての原義です。一致しているように見えますが、違いを以下にご紹介いたします。
鏑矢は鳴り矢という意味
「鏑矢」は上記のように、放った際鳴り響くような矢である「鳴り矢」としての意味しかなく、「嚆矢」のように、「鏑矢」と同じ原義を持つが、転じて「ものごとのはじまり」という意味をもたない言葉です。「嚆矢」のように現代のいろんなシーンに当てはめる事ができないのでご注意ください。
嚆矢を使う際の注意点
「嚆矢」の意味、類語、対義語、例文、鏑矢との違いを順を追って見てきましたが、「嚆矢」を現代日本で使う際はどんな注意点挙げられるでしょうか?「嚆矢」の元々の意味を振り返り、現代の日本の法制度にも触れつつ言及していきます。
現代では元々の意味では使えない
「いくさ」は現代の言葉に置き換えれば「戦争」ですが我が国日本では、日本国憲法9条で交戦権が否定されており、「いくさ=戦争」自体を行う事ができません。
また、不幸なことに「いくさ=戦争」を行うことが今後現実的になったとしても、自衛の武器自体が飛躍的進歩を遂げた現在、「嚆矢」を「鳴り矢」として会戦のはじまりとして、周知させる機能として働くことはありえない事実です。
以上のことから、「嚆矢」が元々の意味で使われることは我が国日本においては、ありえない事実と言い切る事ができます。
嚆矢の由来・歴史
「嚆矢」の由来・歴史を掘り下げてみます。先述した「嚆矢」の意味において、「嚆矢」は「鏑矢」に因んでいることに触れましたが、具体的にはどのような歴史があるのか?以下から「嚆矢」の「由来」「歴史」を順を追って説明していきます。
由来
具体的には、「嚆矢」は会戦開始時、矢尻(読み方:やじり)に鏑(読み方:かぶら)という中身がえぐりぬかけている武具を装着した矢を放つ事で、大きな音響を出す事ができ、戦が開かれたことを周知させる役割を持ちました。
「嚆矢」の元々の意味が「いくさの合図」としての「鏑矢」としての意味を持っており、転んじて先述した「ものごとのはじまり」を表す意味となりました。
歴史
「嚆矢」の記述については、古くは中国の戦国時代に遡ります。中国の戦国時代は紀元前403年の魏(読み方:ぎ)・呉(読み方:ご)・蜀(読み方:しょく)の三国時代に始まり、紀元前221年の秦魏(読み方:しん)による三国統一までの時代になります。
その時代の書物で、諸子百家の一つである道家(読み方:どうか)の「荘子」在宥(読み方:ざいゆう)篇に次の一文を確認できます。「焉(な)んぞ曾・史の桀・跖の嚆矢たらざることを知らん。」
上記の意味は、四人の人物が出てきます。曾は曾参(読み方:そうしん)。曾子(読み方:そうし)とも。孔子の弟子で、儒教黎明期の重要人物です。
史は史鰌(読み方:しゆう)春秋時代の衛の人で、自分の息子に遺言で自分の死後の喪を禁ずることを伝え、王を諫めました。先見の明があり、衛の治世に貢献した人物です。
桀(読み方:けつ)は夏(読み方:か)の王。武力で諸侯や民衆を押さえつけたので、諸侯や民衆から憎まれていた悪名高い人物です。
跖は盗跖(読み方:とうせき)で魯(読み方:ろ)の盗賊団の親分。九千人の配下を従えて、強奪行為を繰り返し、現代でも「盗賊」の代名詞としてもしばしば用いられます。
上記4人の人物で曾参・史鰌はいい見本の例え、桀・盗跖は悪い見本の例えとして使われています。つまり、「どうして曾参・史鰌の善行が桀・盗跖の悪事のさきがけになっていないとどうしていえようか?」と訳すことができます。
「善行が悪行のさきがけになることがある」という道家の思想の一つとして、今から二千年以上も昔に存在していた書籍の中に「嚆矢」という言葉の存在を確認することができます。
日本には「保元物語」で「鏑矢」の言葉を見つける事ができますが、それ以前は名称も定まっていないこともあり、いつから中国から伝わったのかははっきりわかっていません。「保元物語」は鎌倉時代の保元の乱を描いた軍記物語で、成立年が不詳の作品です。
嚆矢の英語表記
「嚆矢」は鏑矢である元来の意味から、「ものごとのはじまり」「さきがけ」である意味であることは確認できました。では「嚆矢」を英語で表現する場合はどのように表現をすることが可能でしょうか?
「嚆矢」中国、日本独自の言葉なので、元々の意味を指し示す場合は「kousi」と英語で表現することができますが、「ものごとのはじまり」「さきがけ」という意味になると英語圏にも同じ意味の言葉が存在します。
「嚆矢」は、はじまりという意味では「begining」さきがけという意味では「pioneer」という英語がそれぞれ当てはまります。
「begining」をつかった英語構文としては、「This was the begining of the world.」和訳してみると、あたかも天地開闢のシーンのように「これが世界のはじまりでした」と英語構文を訳す事ができます。
次に「pioneer」をつかった英語構文としては、「He was the pioneer in this field. 」和訳してみると、「彼はこの分野の先駆者でした」と人物に当てはめられる事が多いケースとしての英語構文になります。
嚆矢の漢字
「嚆矢」は「ものごとのはじまり。さきがけ」という意味で日常生活、特にビジネスシーンにおいても使用することができる言葉です。ですが「嚆矢」を漢字表記する場合は「嚆」が結構難解で、一旦覚えても、書き間違えたり、忘れてしまったりする可能性は大いにあります。
そこで、「さきがけ」という意味であれば「魁(読み方:さきがけ)」という漢字一字を代用することが可能です。「嚆」よりは、比較的出回っている漢字でもあり、一文字で訓読みとしても意味を成す言葉です。上記意味で使う場合は、「魁」を使用してみてください。
嚆矢はものごとのはじまりという意味
「嚆矢」の意味、類語、対義語、例文、英語としての使い方、注意点について順を追って触れてきました。
「嚆矢」は元々の鏑矢としての意味から、「ものごとのはじまり」という意味を持ち、そのために多くの書籍、記事として使われ現在に至る経緯を辿った言葉です。
「嚆矢」は現在でもビジネスシーンなどでも、フォーマルな場などで、使用することを良しとする格式高いニュアンスを含んだ言葉です。本記事をきっかけに、今後時と場面に応じて「嚆矢」を使用する機会ができれば幸いです。